「地域包括ケアの実現には慢性期リハビリテーションの継続が不可欠」── 第4回慢性期リハ学会・シンポ6
日本慢性期医療協会が3月18、19日の両日に開催した「第4回慢性期リハビリテーション学会」では6つのシンポジウムが開催され、本学会を締めくくるシンポジウム6は「地域包括ケアの実現には慢性期リハビリテーションの継続が不可欠」と題して開かれました。座長は、東京・八王子にある永生病院院長の飯田達能氏が務めました。
3人の発表に先立ち、飯田座長がシンポジウムの趣旨を説明。「本学会のシンポジウム1では、急性期から慢性期につながる入口の回復期を中心に、シンポジウム2では在宅復帰に向けたリハビリテーションの在り方を考えた」と振り返り、「このシンポジウム6では、いよいよ自宅に帰った後の慢性期リハビリテーションについて考えたい」と述べました。
そのうえで飯田座長は「自宅に帰った後もリハビリテーションを継続するにはどうしたらいいか。情報が不足して分からないケースも多いかもしれない」との課題を提示。「どういう情報が必要なのか、どのような対応が求められているのか、皆さんと共に考えたい。そして、全国各地の病院や施設でご検討いただくきっかけになればいい」と本シンポジウムでの議論に期待を寄せました。
シンポジストは、大屋由枝氏(看護師)、上野ゆん子氏(管理栄養士)、友清直樹氏(理学療法士)──の3人です。東京・大田区の地域包括支援センター管理者の大屋氏は、「地域包括支援センターの立場から」と題して、今後展開していく総合事業に向けた取り組みなどを中心に、在宅でのリハビリテーションや、これからの介護予防の考え方などを示しました。
続いて、大田区・糀谷羽田地域福祉課の介護認定調査員を務める介護支援専門員の上野氏は、「介護認定調査員が見た在宅高齢者リハビリの現状」と題して、一人ひとりの状態に合わせたリハビリメニューの必要性などを伝えました。
大田区理学療法士会会長で、「山王リハビリ・クリニック」の渉外・システム部長を務める友清氏は、「大田区理学療法士会の活動報告及びこれからの地域リハビリテーションについて」と題して講演。大田区理学療法士会が発足した経緯を振り返りながら、これからの地域リハビリテーションの在り方について見解を述べました。
■「集団を底上げし、引き続き地域で元気な状態に」── 大屋氏
大屋氏は、大田区の現状や包括支援センターの業務などを紹介したうえで、介護予防の重要性を指摘。「慢性期のリハビリを考えるとき、介護予防の部分を外して在宅はなかなか語れない」との認識を示し、「大田区も介護予防に力を入れてきている。最近力を入れ出したのは、元気な高齢者に対し、シニアステーションというものをつくって就労支援や老人クラブの活性化などを行っている」と伝えました。
介護予防に関して大屋氏は「介護予防・日常生活支援総合事業」(新しい総合事業)の取り組みを紹介。要支援の方のヘルパーとデイサービスの経費負担が介護保険から各自治体に移ることにより、大屋氏は「一緒に買い物に行くなど、今まで訪問型サービスではあまりできなかった居宅外支援ができるようになる」と見直し後の状況を示しました。これまで以上に、一人ひとりの状態に合わせた適切なサービスを提供できるようになったことを紹介し、「改善が見込まれる人に対し、3カ月限定で機能訓練指導員を派遣する『短期集中予防』というサービスは大田区が全国で初めて行う試み。柔道整復師会大田支部に依頼し、直接対象者を訪問して機能訓練を実施してもらう」と、緊密な連携の状況も伝えました。
こうした現在の取り組みなどを踏まえ大屋氏は介護予防のリハビリの問題点に言及。「これまでは、改善を目的とした機能訓練に偏りがちであったこと、訓練終了後の通いの場を創造することができなかったこと、また提供者も活動や参加に焦点を当ててこなかったことなどが挙げられる」と指摘し、これからの介護予防の考え方を提示。中華料理店を経営していた人がリタイアした後に、要支援者として介護予防教室やデイサービスに通っていたが、元気になってサロンで中華料理をふるまえるようになった事例を挙げ、「これはまさに、予防して担い手になった好事例である。役割があると、いきがいにもなる」と語りました。
そのうえで、リハ職の関わりについて「本人の活動性を高め、いきがいが持てるというところまで考える。単なる機能訓練にとどまらず生活行為の改善の見直しを立てることが大事ではないか」との考えを提示。「複数の高齢者が集まる場所に出向き、その集団に対していろいろな助言を行うことによって集団を底上げし、引き続き地域で元気な状態に保ってもらうことが大切だ」と述べました。
■「希望するリハビリが制限なく受けられることが理想」── 上野氏
上野氏は、エレベーターのない4階建ての老朽化した都営住宅などを回っている現況を伝えたうえで、「経済的に恵まれた高齢者が有料施設に入居する一方で、生活保護受給者も多いのが現状。要介護3以上の施設入所者は、衣食住、医療、リハビリと行き届いたサービスを受けているが、独居の在宅高齢者は身の回りのことから介護サービスをお願いする傾向にある」と指摘。「リハビリを受けたい、いろいろなことをしたいと思っても、まずは食べること、掃除、洗濯といったことが一番先に思い付くようである」と現状を語りました。
大田区には、田園調布のような高級住宅地がある一方で庶民的な地域も多くあり、上野氏の担当地域は庶民的な地域です。上野氏は、「部屋が汚い。物があふれているお宅が多い」と明かし、数十年にわたる病院勤務の時には気づかなかった“生活背景”に言及。「病院では患者さんの生活が見えないので、部屋が汚いならヘルパーさんに片付けてもらえばいいと簡単に思っていた。しかしヘルパーさんは本人が捨ててくださいと言わない限り、勝手に捨てることができない。そのためずっと積み重なって荷物がどんどん増えている」と切実な事情を説明しました。
そうした背景を踏まえ、上野氏は5つの具体的な事例を紹介し、現在の問題点と解決策に迫りました。上野氏は「在宅高齢者の必要介護サービスは介護保険の理念では、自立支援や利用者本位のサービスを掲げてはいるが、日常の生活に最低限必要なサービスを受けている傾向にあり、リハビリまでなかなかサービスが行き届かないのが現状」との認識を示しました。そのうえで、今後のリハビリについて「本気でリハビリによる機能回復を求めている高齢者も少なくないので、今後は高齢者個々が求めるリハビリの提供が必要不可欠」との考えを提示。具体的には、「質の高いリハビリサービスを提供できる施設の中から、自分に合った施設を選べるようになれたらいい。お仕着せのリハビリではなく、選べるリハビリがあったらいい」と述べました。
最後に上野氏は「高齢者がこうなりたいと思う自己実現に向けたサービスが必要だ」と指摘。「そのためには、人として最低の生活基盤が整うこと、つまり衣食住が満足にできて、希望するリハビリが制限なく受けられることが理想だと思う」と結びました。飯田座長は「現場の切実な事情を具体的にお話しいただいた」と感想を述べました。
■「地域の中でリハビリ専門職が関わっていく」── 友清氏
理学療法士になって16年目となる友清氏は、介護保険がスタートして1年目の年に入職したことを振り返り、「時代の流れを受けて、急性期は急性期らしく、回復期は回復期らしく、そして慢性期、生活期は、生活期、慢性期らしいリハを提供していくという役割分担がなされてきた」と指摘。そのうえで、「われわれも、いろいろ制度的な流れを受けて、生活を支えていくリハビリをどう提供し続けられるかということに挑戦しながら取り組んできた」と自己紹介しました。
この16年間の変遷について友清氏は、「クリニックができた当初はリハビリの専門医が1人いるだけで理学療法士もいなかったが、徐々に診療所の中だけではリハビリは完結しないということもあり、デイサービスや訪問リハビリ、そして最近はメディカルフィットネスという予防のほうにまで取り組みを広げている」と語りました。
同クリニックは現在、リハビリ専門医を3人配置。在宅療養支援診療所として、24時間体制で看取りにも対応しています。友清氏は、平均在院日数の短縮化が進む近年の状況に触れ、「脳卒中による高次脳機能障害のような重度の患者さんは介護保険のリハビリテーションだけでは対応しづらくなっているケースがある。デイサービスや通所リハビリなどでは、残念ながら入院時と同様の集中的なリハの介入がちょっと難しいというようなところもある」と現在の問題点を挙げ、「外来リハビリのニーズはわりと高まっている」と指摘しました。
友清氏は、外来リハを中心にした地域リハビリテーションの取り組みを紹介したうえで、「シームレスにリハの連携が取れないケースが多い」との課題を提示。「やはり介護保険や医療保険だけではリハビリは完結しない。地域の中で、しっかり完結していくためには一医療機関だけの努力では難しいので、地域住民や行政の協力、場合によっては民間企業の協力などを得ながら、地域のリハビリテーションを実践していかなければ難しいだろう」との認識を示しました。
現在、「運動指導の専門家」として、民間主導の体操教室にも参加している友清氏。今後については、「地域の中で理学療法士、リハビリ専門職が関わっていく。理学療法士は病院の中にはいるが、地域の中にあまり出てきてくれないとの声もあるので、その体制を見直していきたい」と意欲を示しました。
■「生きがいのある人生につながることがよく分かった」── 飯田座長
3人の講演を受け飯田座長は、「生活の中での慢性期のリハビリについて、まだまだ進めていかなければいけない部分があることが見えてきた」と評価。「地域包括ケアにリハビリスタッフが関わっていくことによって、地域の方々が住み慣れた場所で生活を継続していける。生きがいのある人生につながることがよく分かった」と感想を述べ、質疑に移りました。
飯田座長は、病院や施設などのリハビリスタッフが地域包括支援センターになかなか参加できない原因について質問。大屋氏は「機能訓練の先にある生活について、つまり地域でどう暮らしていけばいいかという視点がない」と指摘。「生活とは、トイレとお風呂に入れればいいということではないので、地域にどう参加していけるかという視点を持つ必要があるが、リハ職だけではなく在宅医も含めて全体的にその辺の視点を持つことがまだ難しいのではないか」と悩みを見せました。
また、リハビリのスタッフが地域で積極的に活動していくための方策については、友清氏が「コストと効果の関係をもっと『見える化』していかないと、行政側もなかなか動きづらいので、そうした点に関する話し合いを積極的にしていく必要がある」との考えを述べました。
質疑を終え、飯田座長は「これから在宅で生きがいを持って生活をしていくという観点は素晴らしいことだと思う」との考えを示し、「リハビリの方々にはやりがいがまだまだある。ぜひ今後も皆さんのそれぞれの地域でご活躍いただきたい」と呼びかけました。
(取材・執筆=新井裕充)
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2017年3月20日