平成30年度介護報酬改定に向けて7項目を要望 ── 8月10日の定例会見

会長メッセージ 協会の活動等 役員メッセージ

武久洋三会長20170810

 日本慢性期医療協会は8月10日の定例記者会見で、平成30年度介護報酬改定に向けて「重介護で重症な患者・利用者の評価」など7項目の要望を発表しました。会見で安藤高朗副会長は「多くの介護施設を持っている方々が日ごろ努力されているが、制度的に報われない」との認識を表明。「6年に1回の同時改定であり、今までの介護保険におけるさまざまな矛盾点を追及する」との意向を示しました。要望書は同日、厚生労働省に提出されました。

 要望書は冒頭で、会員病院の多くが早期の回復や在宅復帰に向けた努力を続けている現状を指摘。そのうえで「行き場のない重度長期療養患者にも丁寧な医療を提供することにより、その生活を支えるという大切な役割も果たしている」と訴え、「超高齢社会において、良質な慢性期医療がなければ日本の医療は成り立たないことは明白であり、日本慢性期医療協会として平成30年度介護報酬改定に向け提言したい」としています。

 ※ 要望書はこちら → 平成30年度介護報酬改定に向けて(厚労省提出冊子版).pdf

 会見で武久洋三会長は「介護保険関係での医療は90数%が慢性期医療に関係しており、日本慢性期医療協会としても非常に重要な部分だと考えている」と強い関心を示したうえで、近年の医療費抑制策に言及。「高齢者が多い部分を節約し、なんとかして医療費の増大を防ごうとしている。もっともであるところは厚労省にも協力するが、診療報酬を無駄に使っているところは反省し、われわれ現場の者も対応しなければならないことがある」と述べました。

 要望事項は主に7項目。同日の会見では、日本慢性期医療協会の政策提言委員会委員長である安藤副会長が説明。特養における医療の制限などについて、武久会長が補足説明をしました。

 以下、会見の要旨をお伝えいたします。会見資料は、日本慢性期医療協会のホームページ(http://jamcf.jp/chairman/2017/chairman170810.html)に掲載されておりますので、ご参照ください。

武久洋三会長と安藤高朗副会長20170810


■ あまりにも理不尽な対策はよくないが、反省すべき点は対応

[武久洋三会長]
 来年度の同時改定も佳境に入ってきたが、当協会ではお盆過ぎからいろいろな委員会が始まる。われわれは7月13日に、平成30年度の診療報酬改定に対する要望書を厚生労働省に提出した。今回は介護報酬改定に対する要望書を出す。介護保険関係での医療は90数%が慢性期医療に関係しており、日本慢性期医療協会としても非常に重要な部分だと考えている。

 近年、病院の病床を介護施設のベッドに変えて、医療費を削減しようとする傾向が見られる。高齢者が多い部分を節約し、なんとかして医療費の増大を防ごうとしている。これに対し、日本慢性期医療協会は「あまりにも理不尽な対策はよくない」という立場から是々非々で、もっともであるところは厚労省にも協力する。一方、診療報酬を無駄に使っているところは反省し、われわれ現場の者も対応しなければならないことがあると思う。

 介護保険に関しては、多くの病院や診療所が関係している。特に、慢性期医療の病院のほとんどが介護関係の施設を併設している。在宅についても、介護保険事業を行っている。そういう意味でも、今回、全般的な分野において要望を出したいと思う。加えて、現在、介護医療院に関しては、厚労省の別研究会で鋭意審議中である。既に2回終わったが、この研究会の審議は9月ごろまでかかると思う。そのこともあり、介護医療院に対する要望等については、次回の記者会見で説明する。

 では、平成30年度の介護報酬改定に向けた要望について、当協会の政策提言委員会委員長・安藤副会長から発表する。

■ 今までの介護保険におけるさまざまな矛盾点を追及する

[安藤高朗副会長]
安藤高朗副会長20170810
 多くの介護施設を持っている方々が日ごろ努力されているが、制度的に報われない現状もある。今回は6年に1回の同時改定であり、今までの介護保険におけるさまざまな矛盾点を追及するため、今回の要望事項を作った。

 全部で7つの項目立てになっており、全体を通して、訪問系、通所系、施設、地域密着型、居宅の各サービスになっている。その中で、あるべき姿に向けて、当たり前のことをやっていくこと、少しでも利用者の方々のためになるような視点で考えている。

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【平成30年度介護報酬改定に向けて】

 1. 全体を通して
 2. 訪問サービス(訪問介護・訪問リハビリテーション・訪問看護)
 3. 通所サービス(デイサービス、デイケア)
 4. 施設サービス(介護老人福祉施設、介護老人保健施設、介護医療院)
 5. 地域密着型サービス
 6. 居宅介護支援
 7. その他

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1. 全体を通して

[安藤副会長]
重介護で重症な患者・利用者の評価
 これから高齢者が増える中で、重介護度の方、重症の方が増えていく。そういう方々の定義を考える必要がある。一方で、訪問系、通所系、施設サービス系がそれぞれ走っているので、標準的なアセスメントを考え、評価し、アウトカムを考えていく必要もある。サービス形態を越え一元的に対応していくことが前提となる。
 

2.訪問サービスについて

[安藤副会長]
訪問に要した移動時間を考慮した「アクセス加算(仮称)」の仕組みの構築
 訪問系サービスについては、訪問に要した移動時間を考慮した「アクセス加算(仮称)」をつくってはどうか。地方では、サービス提供に時間がかかり、泊りがけのエリアもある。それも評価するべきだと考えている。

訪問介護の自助・共助の考え方
 訪問介護の自助・共助の考え方について、訪問介護において、一方的に介護職からサービスを受けるだけではなく、本人と介護職の共助があれば、さらに評価していく姿勢が大事である。

訪問介護における生活援助中心型と身体介護に引き続き生活援助を行った場合との統一的な評価
 訪問介護における生活援助中心型と、身体介護に引き続き生活援助を行った場合との統一的な評価も共通化することを考える。生活援助中心型は「20分から45分」「45分以上」の2パターンのみである。一方,身体介護中心型では、さらに「70分以上」の3パターンで行っている。生活援助中心型に関しても、必要に応じて「70分以上」をつくって統一化すべきである。

[武久会長]
 今までは生活援助中心型が7割だった。前回の改定で身体介護の割合が増えてきたが、それでも生活援助中心型は4割以上ある。生活支援を充実させるべきという意見があるが、われわれは、生活支援は要介護者とヘルパーが共働して自立に向けた努力をしていかなければならないと考える。
 ヘルパーが働いているのに要介護者は座っている状況をよく見かけるが、要介護者がヘルパーと一緒に取り組むことにより、ヘルパーが不在時も要介護者が自立できるようになることを評価すべきだというのが共助の場合である。

[安藤副会長]
訪問リハビリテーションへの医師の関与
 次に、訪問リハビリテーションへの医師の関与について。訪問リハビリに関しては、医師も関与しなければならないという前提だが、手薄な部分があった。これから訪問リハビリテーションを進めていくため、医師が医学的な管理も含めてやっていくべきであり、管理をした場合に評価をする仕組みをつくりたい。

訪問看護の提供主体に応じた評価
 また、訪問看護の提供主体に応じた評価も必要である。国も病院からの訪問看護を進めている。訪問看護も増えてきたが足りない。病院にはスタッフがおり、情報の連携、多職種の力を借りることができる。急変時の後方フォローベッドの機能もある。それらをさらに評価していくことが重要である。

3. 通所サービスについて

[安藤副会長]
デイケアの更なる評価
 通所サービス、デイサービス、デイケアについては、介護給付費分科会で大きな山になっている。リハビリテーションは利用者のADL向上に寄与し、自宅での生活において非常に重要である。有効率はデイサービスで約10%、デイケアでは約30%となっており、デイケアの有効性が示されている。
 あるデイケアの広報誌によると、デイケアによって7割の利用者の要介護度が良くなったとのことで、画期的である。デイケアによって良いアウトカムがありそうだ。

短期と早朝と夜間のデイサービス・デイケアの評価
 現在、デイケアは短期集中リハビリテーションとその後の維持期リハビリテーションから構成され、出来高による評価が行われている。3カ月の短期集中リハの後は減算されるが、回復の見込みがあり医師が必要と認めた場合には、減算を弱める仕組みがあってもよいのではないか。
 今後、リハビリテーションの完全包括性が進むと思われるが、アウトカム評価と組み合わせた評価が大事であり、そのような仕組みが必要であると考える。

 短期と早朝・夜間のデイサービス、デイケアの評価について。デイサービスとデイケアは超高齢化の波を受けて、多様なニーズが生じている。昨今の介護人材不足においては、家族介護のため現職を退職または休職することとなった国民も少なくない。
 このような現状を受けて、国も介護離職をゼロにしようと言っている。働きながら介護をする場合、早朝・夜間のデイケア、デイサービスがあると、仕事ができる。そういう仕組みづくりが大事である。

4. 施設サービスについて

[安藤副会長]
介護施設利用者の医療ニーズと報酬体系の考え方
 施設サービスについて、特に特別養護老人ホームは改善点が多い。特養利用者が急病の際、病院に転院する。退院に備えて3カ月間ベッドを確保するのは不合理ではないかと考え、規則の緩和を求めるとともに、特養に新しい利用者を入れ、在宅に帰す、ショートステイ利用に切り替える仕組みが必要と訴えたい。

 特養内に医務室があるが、実質的に強化し、配置医が特養全体のかかりつけ医としての機能を発揮するとともに、外付けサービスも、もう少し入れるべきだと考えている。

介護施設内におけるリハビリテーションの実施体制
介護施設からの在宅復帰に向けた取組の検討

 特養の場合、リハビリテーション機能が薄い。特養においてもリハビリテーション機能を高め、外からのサービスを導入していくことが利用者の帰宅促進、ADLの向上につながるのではないか。

[武久会長]
 特養における医療は制限されている。「特養で看取りを」と言いながら、利用者100人に看護師が3人で、医師はほとんどいないため、現実は厳しい。

 特養における医療提供について非常に多くの制限があり、病院や診療所から特養に行けない。薬の実費のみで、医療費の保険請求が制限されている。

 特養内の医務室を診療所とし、診療所長を管理医師として届けることが求められるが、医師が保険診療をすることはほとんどなく、外の医療機関から嘱託医が週に1、2回来て、指示を出す状況。特養に医療を入れずに看取りを進めろというのは二律背反である。特養で亡くなる場合も、治る病気は治し、QOLを保ちながら診察が受けられる体制が必要である。
 
 法律も古く、制限も多いので、抜本的な改革を求める。特養での看取りを進めるのであれば、サポートを促進するシステムを考えていただきたい。

[安藤副会長]
 3カ月間も空いているベッドについては、先ほどの理事会でも「レスパイト機能を持たせてはどうか」という意見が出た。

[武久会長]
 多くの特養待機者がいる。3カ月間ベッドを空けているよりも次々に入れるべきであり、退院後はショートステイで受け、入所できるシステムにするべきである。出たら入れない、3カ月間も多くのベッドが空いている状況では、特養は運営できない。

 要介護3以上でなければ特養に入れず、重症化していく。病院も病床を減らし、介護施設に行く。介護や在宅への重症化が増える状態に、医療の援助なくして対応できない。

 日本慢性期医療協会としては、単に予算を減らすのではなく医療提供ができるよう、強く申し入れる。

[安藤副会長]
介護施設における医療ニーズと画像検査の取扱い
 次に、老健について述べたい。全老健(全国老人保健施設協会)は、在宅支援や医療・ケアの質の向上、リハビリテーションを含めた多職種協働などを同時改定に向けて発信している。

 日慢協も老健については、さらに医療機能を高めることを考えている。高齢者には誤嚥性肺炎や大腿骨骨折などのリスクが高いことを考えると、介護施設内における迅速な検査や医療的処置について、さらなる検討が求められる。

 厚労省は老健での検査の必要性を認めず、連携施設での検査を求めており、職員の付き添いが必要になるため、手間暇がかかる。施設内で迅速な検査、処置ができることが望ましい。

 老健内での意識障害や肺炎、尿路感染症などに関して、期限付きである程度の評価はしているが、良質の医療を行うには低額になっているため、改革の必要性があると求めている。老健施設から他科受診をする場合、老健施設の持ち出しになっている。他科受診ができる体制が必要であると再度訴える。

[武久会長]
 医師のいない柔道整復師の接骨院でレントゲンを撮るというニュースが流れたが、老健施設には医師がいる。肺炎かどうかは聴診器だけでは診断できない。老健にレントゲンがないのはおかしい。

 他科受診が老健の持ち出しになるのであれば、老健内でレントゲン管理をすればいいのではないかと、医学的な目から要望したい。

[安藤副会長]
摂食嚥下のリハビリテーションと誤嚥性肺炎の予防と治療
 施設サービスについてはこのほか、摂食嚥下のリハビリテーションと誤嚥性肺炎の・治療について述べたい。摂食嚥下は利用者の楽しみであり、回復につながる。誤嚥性肺炎の予防にもなる。どの介護施設においても、栄養ケアによるフレイル予防を評価するよう求めたい。

5. 地域密着型サービスについて

[安藤副会長]
グループホームをはじめとした地域密着型サービスにおける多職種協働への評価
 グループホームをはじめとした地域密着サービスにおける多職種協働への評価、あるいは併設している医療機関の医療チームが行ったサービスに対しての評価が必要だと考える。
 小規模多機能等、小規模なところに関しては、外部あるいは多職種連携のサービスが進んでおらず、利用者にとっては非常に重要なところである。

6. 居宅介護支援について

[安藤副会長]
居宅介護支援事業所における医療系職種専従の評価
 居宅介護支援については、医療系ケアマネジャーの評価を求めたい。居宅介護支援事業所では、介護福祉士や社会福祉士はとても重要である。一方で、医療系資格(医師、看護師、リハビリ職など)を持つケアマネジャーも配置され、ケアプランの作成に従事している実態がある。
 医療と介護の連携はますます重要になってきており、医療系資格者のケアマネジャーがいる場合は、医療との連携がさらに充実する。その場合、専従の医療系職種に対する評価を検討することが必要である。

ケアマネジャーの早期介入と入退院支援の評価
 ケアマネジャーの早期介入と入退院支援の評価も必要である。 国は退院支援を進めているが、これからの地域包括ケアの時代においては「入退院支援」ということで、「入院支援」も重要。入院・入所前のケアマネジャーによる評価と、入院・入所後の評価が重要になる。医療、介護も含め、共通のアセスメントツールを早急に作るべきであり、評価すべきである。
また、医療施設から介護施設、医療機関から在宅への移行は、ケアマネジャーの介入時期と方法によって大きく異なってくる。ケアマネジャーが医療機関での入院中より積極的な介入を行うことで、在宅移行が促進し、介護サービス利用者の安心にもつながる。このような取組に対する評価が求められる。

要介護度の改善における初回加算の見直しと更なる評価
 要介護度の改善における初回加算の見直しと、さらなる評価も必要である。現在、要介護度の状況が2区分以上変化した場合、ケアマネジャーは初期加算を算定できる。一方で、状態が悪化しても改善しても同じ単位数である。しかし、改善した場合においては、すなわち、ケアプランがより評価されれば、ケアマネジャーのモチベーションが上がると考えられる。

特定事業所集中減算の見直し
 特定事業所集中減算の見直しについても述べたい。訪問看護や訪問リハビリは、医療の一環として主治医の指示により開始されるため、本人の意向やケアマネジャーの働きかけにより事業所を選定するサービスとは導入時の流れに違いがある。

 現在、訪問看護や訪問リハビリが特定事業所1カ所に集中した場合、ケアプランを作ったケアマネジャーの事業所の評価が下がる状況がある。しかし、事業所の問題ではなく質の問題であり、質を考えると、これはおかしいのではないか。利用者本人の希望、あるいは医療機関の希望を組み入れる姿勢が必要ではないか。主治医が連携しやすい同一法人のサービス事業所へ指示されるケースが散見される。一方で、本人や家族の意向としても、同一法人のサービス事業者に対する希望が多いという実態があり、制度と実態のミスマッチが生じている。これについてさらなる検討が望まれる。
 これに関しては、介護給付費分科会などでもそのような方向性で議論がなされている。

7. その他
[安藤副会長]
介護職員への処遇改善と負担軽減策への評価
 このほか、介護職員への処遇改善と負担軽減策への評価も求めたい。介護医療院においては、その類型にかかわらず多くの介護職員が従事することとなる。25対1の医療療養病床からの介護医療院への転換も含め、きちんとした介護報酬上の処遇改善加算による評価が求められる。

 現在、多くの介護施設で介護職が中心となって頑張っている。医療保険の25対1の療養病床が介護医療院に転換した場合、介護職の処遇改善加算を付けるべきである。介護保険の療養病床の介護職員には処遇改善加算が付くのに、仕事内容が同じである医療保険の療養病床には付かない。アンフェアである。

 加えて、介護に伴う負担軽減を目的とした介護支援用ロボットなど、福祉用具の充実と整備補助の仕組みが求められる。未来に向けて、介護の負担軽減のために、ロボットや福祉用具の充実に対して評価をすることや、そのスキームをつくることが大事である。

介護保険サービスの開始時期の検討と要介護度認定の簡素化
 介護保険サービスの開始時期の検討と要介護度認定の簡素化についても意見を述べたい。現在、要介護度認定の取得のタイミングにより、効率的な介護保険サービスが受けられないケースがある。特に、病院退院後にリハビリテーションを継続利用する場合や訪問看護の利用の際など、大きな課題となっている。

 病院から退院する、病院から介護施設へ行く、介護施設から在宅に行く場合などにおいて、介護認定審査会を開く必要がある。この時間を短くすることが利用者にとって重要である。認定審査会については、コンピューターによる1次判定、会議体による2次判定があるが、一般的なものに関しては1次判定のみとし、問題が生じる可能性が大きい場合のみを2次判定にすることにより、スムーズに進むのではないか。また、認定の更新に際しては、前回認定時と変化がない場合等の一定条件を置き、1次判定のみで可能とするなどの簡素化が望まれる。

施設間連携を目指したICTシステムの充実
 最後に、施設間連携を目指すICTシステムの充実について述べたい。今後、ICTの仕組みが急速に導入されるのは当然の流れである。医療施設と介護施設、医療施設と在宅、介護施設と在宅などでの連携は、今後ますます重要となってくる。

 このため、看護職や介護職をはじめとした医療・介護従事者の慢性期的な人員不足という視点からも、ICTシステムを活用した効率化が求められ、その整備に対する事業所への評価が求められる。それが地域包括ケアをよりよいものにすると考える。
 

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