「日本介護医療院協会」の設立準備委員会を発足 ── 6月22日の定例会見

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武久洋三会長_20170622

 日本慢性期医療協会は6月22日の定例記者会見で、「日本介護医療院協会」の設立準備委員会を発足したと発表しました。武久洋三会長は、同日開催された理事会で決定したことを伝えたうえで、「介護医療院に関する要望をきちんと出していき、運営しながら育てていく。こういう姿勢で厚労省と共に良い施設をつくっていきたい」と抱負を述べました。武久会長は「介護療養病床約6万床のうち4万床は移行するのではないか」と見通しています。

 この日の会見のテーマは主に3点で、①「治療しない肺炎」の概念について、②看護師の他職種との協働に関するアンケート結果報告、③「日本介護医療院協会」設立準備委員会開設──について武久会長が説明しました。

 このうち①については、日本呼吸器学会が4月に発表した「成人肺炎診療ガイドライン2017」に対して意見を表明しました。会見で武久会長は、「日本呼吸器学会のご高名な先生方から『高齢者の嚥下性肺炎は治すことが難しいから、治療をするかどうかよく考えることが必要だ』などという、耳を疑う発表があった」と疑問を呈し、栄養と水分を適切に管理しながら抗生物質等を投与した症例が改善しているデータを示しました。

 ②については、前回(5月11日)の記者会見に引き続き、入院基本料の基準となる考え方を見直す必要性について病棟看護師のアンケート結果を踏まえて説明しました。武久会長は、ベテラン看護師の多くが介護福祉士や薬剤師ら他職種の専従配置を望んでいるとの調査結果を報告したうえで、「コメディカルが病棟に専従で配置されることを評価してほしい」との考えを改めて示しました。

 以下、会見の要旨をお伝えいたします。会見資料は、日本慢性期医療協会のホームページ(http://jamcf.jp/chairman/2017/chairman170622.html)に掲載されておりますので、ご参照ください。

【6月22日の定例記者会見の内容】

 1. 「治療しない肺炎」の概念について

 2. 看護師の他職種との協働に関するアンケート結果報告

 3.「日本介護医療院協会」設立準備委員会開設

 

■「厳しい改定にはなるとは思うが、 歓迎すべき改革になる」
 
[武久洋三会長]
 先ほど、当協会の「第42回通常総会(平成28年度事業報告、会計報告)」が無事に終了し、総会記念講演として厚生労働省保険局医療課企画官の眞鍋馨先生からお話を頂戴した。厳しい改定にはなるとは思うが、誠実に良い医療をコツコツとやっていれば評価されると認識している。

 慢性期病院のうち、一部の病床については介護医療院にシフトしてほしいということかなとも思う。急性期病院については、「急性期指標」というもので急性期病院のレベルを指標で測っていくような時代になってくる。急性期病院にとっても慢性期病院にとっても、今までとは違う医療制度になっていく。こうした傾向は、日本慢性期医療協会としては非常にありがたい。まじめにコツコツやってきたことを評価してくれるのであれば、歓迎すべき改革になるのではないかと期待している。
 

■ 日本呼吸器学会の「成人肺炎診療ガイドライン2017」

 本日は、大きく分けて3つのことについて話をさせていただく。1番目は、「治療しない肺炎」の概念についてご説明したい。呼吸器科の先生は、「高齢者の肺炎に抗生物質など、いろいろ治療しても治らない」ということをおっしゃっているが、われわれ慢性期医療の現場では、「感染症で治らないという病気はない」「がんなら治らないのも仕方ないが、肺炎はわれわれがきちんと治す」と言っている。

 資料をご覧いただきたい。

03_2017.6.22記者会見

 今年4月21日、日本呼吸器学会が「成人肺炎診療ガイドライン2017」を発表した。「高齢者肺炎を『治療しない』選択肢に踏む」という見出しで、5月31日付の日経メディカルが伝えている。
(日経メディカルの記事はこちら
http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/report/201605/546975.html
 
 今回のガイドラインでは、「治療しない肺炎」の概念が示された。すなわち、記事では「終末期や老衰に定まった定義がない現時点では、どんな状態の患者に『個人の意思尊重、QOL優先』に基づいた医療を提供するかをガイドラインで明示することは難しい」としながらも、「一歩踏み込んでいかないと、患者や家族のためにならないし、医療現場も疲弊する」との発言を紹介している。

 また、ガイドライン作成委員の1人である佐賀大学の感染症の教授は週に1度、長期療養型病床を兼ねた施設で診療しているが、様々な疾患を原因として寝たきりになっている患者が多く、こうした患者では肺炎は必発であるという。抗菌薬治療を行っても、いったんは改善するものの中止すれば再燃する患者も多いとして、このように述べている。「肺炎が治っていくという手応えを感じることは難しいと日々感じている。痰の吸引などのケアは絶対に必要だが、抗菌薬を本当に投与すべきか、よく考えていくことも必要だろう」と語っている。しかし、感染症なのであるから、抗菌剤を投与しなければ確実に死亡するのではなかろうか。
 

■ 治るべき病気は治して差し上げるのが当然の務め

 高齢者の誤嚥性肺炎の病態についてご説明する。4ページをご覧いただきたい。

04_2017.6.22記者会見

 高齢者の肺炎というのは、前から私が主張しているように、跳び箱の一番上の台が誤嚥性肺炎であり、一番下の原因としては低栄養、それから脱水、電解質異常、貧血、耐糖能異常、そこに小梗塞が見つかり、仮性球麻痺となり、誤嚥性肺炎に至る。こういうことは慢性期の医師であれば当然に分かっていることであるが、これを治療するときにはどうするかというと、跳び箱の一番上だけを治療しても治らない。下のいろいろな条件を同時に治療しないといけない。

 すなわち、水分を投与し、栄養を投与し、電解質を補正し、貧血を補正し、血糖値をコントロールして、嚥下機能の訓練をしながらやらないといけない。誤嚥の状態だけを見て、どんどん抗生物質を投与しても治らない。嚥下機能を回復させるリハビリも同時にしなければいけない。

 残念ながら、大学病院などの大きな病院、臓器別専門医である呼吸器の先生方がいる病院にはそういう機能がない。そのため、抗生物質等を時間おきに投与する以外に方法がない。しかし、それでは患者の状態はよくならない。では、最初からあきらめて治療をしないでおこうというのか。これはあまりにも乱暴な論法である。われわれ日慢協としては、「治るべき病気は治して差し上げる」。これが医師としての当然の務めであると思っているので、そういう患者は、われわれの現場にぜひ送ってほしい。
 

■ 抗生物質等を投与した症例は改善、「その証拠を示す」

 日本慢性期医療協会では、感染症は治療可能な疾患と考えている。栄養と水分を適切に管理しながら抗生物質等を投与した症例は改善している。その根拠として、肺炎発症前後の平均ALB値の経過について、7ページをご覧いただきたい。

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 今年1月から4月までの肺炎治療を行った入院患者124人中、良くなった人と、入院中の方と、そして亡くなった方がおられる。このうち、良くなった方のアルブミンは高いレベルで維持されているが、入院中のアルブミンの濃度はあまり大きな変化がない。ところが、亡くなった方のアルブミンはやはりどんどん下がっていっている。要するに、アルブミン補正を十分にしなかった患者さんは確実に亡くなっていることが分かる。

 肺炎発症前後の平均BUN値の経過について、8ページをご覧いただきたい。

08_2017.6.22記者会見

 尿素窒素(BUN)は、脱水の指標である。尿素窒素はあまり高くなるといけないのだが、良くなった方または入院中の方の尿素窒素は正常域に保たれる。ただ、入院中の方はまだ少し高めである。尿素窒素は20までが正常値であるので、少し高めである。亡くなった方はブルーのライン。尿素窒素が非常に多くなれば、結果的に亡くなっている。

 すなわち、電解質や尿素窒素の補正をきちんとしなかった場合に亡くなっているということがはっきり分かる。だから、抗生物質を投与するのと同時に低栄養や脱水を治療しないといけない。これは慢性期医療の立場からいえば当たり前のことなのだが、後期高齢者の治療に習熟していない臓器別専門医の先生方の治療によると、「なかなか厳しいからもうあきらめよう」ということだろうか。そのようになっているのだとしたら、あまりにも残念だ。

 栄養と水分を適切に管理しながら、抗生物質等を投与した症例は改善している。低栄養や脱水、電解質異常、高血糖、貧血などの状態を考慮せずに抗生物質の投与をした例は、残念な結果となっている。

 ということで、4月21日に日本呼吸器学会の先生方から「高齢者の嚥下性肺炎は治すことが難しいから、治療するかどうか考えた方がよい」などという、耳を疑う発表があったので、日本慢性期医療協会としては「決してそんなことはない」という反論を、症例を付けてご説明を申し上げた次第である。
 

■ コメディカルが病棟に専従で配置されたら評価してほしい

 本日の2番目のテーマ「看護師の他職種との協働に関するアンケート結果報告」についてご説明したい。前回(5月11日)の記者会見(http://manseiki.net/?p=4643)では、入院基本料の見直しについてご説明した。病院の入院医療費は、病棟に、看護師が患者さん何人に対して1人配置されているかによってほとんど決定されており、これを「基準看護」というが、医者と看護師の数によって入院医療費が決まっているというのが現状である。これはまずいのではないかということをお話しした。

 病院はいまや医師と看護師のみならず、多職種によるチーム医療によって患者の治療を行っているのが現状である。薬剤師、管理栄養士、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、歯科衛生士、社会福祉士、介護福祉士、介護支援専門員、MSW、介護職、診療情報管理士、臨床検査技師、診療放射線技師、事務等の職種が入院患者の治療に関わっている。これらのコメディカルが病棟に専従で配置されたら評価してほしいということを前回の記者会見でお話しした。
 

■ 病棟に専従で勤務してほしいトップは介護福祉士84%

 今回は、前回の記者会見後すぐに実施したアンケート調査の結果を示す。会員病院の病棟看護師に、「病棟にいて一緒に仕事をしてほしいのはどういう職種の人達ですか」というアンケートを実施した。20年前後の経験があるベテラン看護師に答えていただいた。その結果は18ページ。

18_2017.6.22記者会見

 
 病棟に専従で勤務してほしいトップは介護福祉士で84%。次いで薬剤師が79.8%、理学療法士79.3%と約8割である。作業療法士は76.7%、歯科衛生士は74.1%。社会福祉士にもいてほしいし、管理栄養士にもいてほしいという結果になっている。臨床検査技師でも60%近い。こういうコメディカルの人たちと看護師さんが協働してチーム医療に取り組んでいるのだから、常に病棟内にいてくれると大変助かるというのが看護師さんの意見である。
 

■ 現場で働く看護師さんの意識を評価したい

 今回のアンケートには、一般病棟7対1や10対1の看護師さんにも答えていただいているが、ほとんど同じ割合になっている。特に、一般病棟や地域包括ケア病棟については、薬剤師さんにいてほしいという回答が87%、85%と高くなる傾向がある。一方で、歯科衛生士は医療療養で80%と非常に高くなっており、これは切実な思いである。

 このように、現場の看護師さんはコメディカルの人たちにチーム医療の一員として病棟に専従で来ていただけることを非常に熱望している。だから、この「基準看護」という言い方を変えて、病棟基準には、看護師も当然であるが、薬剤師や介護福祉士が勤務すれば人数にカウントするべきではないか。

 いまだに「基準看護」という考え方では、介護福祉士は「看護補助者」や「看護助手」という名前で、残念ながら看護師に隷属するような職種としか評価されていない。しかし、現場の看護師としては介護の専門家としてぜひ一緒に仕事をしたいという要望が強いことが分かる。

 今回、現場の看護師さんたちの意見を聴いて私も驚いた結果となった。「病棟には看護師だけいたらいい」という看護師さんが多いかと思っていたら、とんでもない間違いである。私は、現場で働く看護師さんの意識を評価したいと思っている。
 

■ 介護医療院はどういう施設を目指すのか

 最後に、「日本介護医療院協会」の設立についてご説明する。5月に成立した改正介護保険法によって、介護医療院が来年の4月に発足することが決まった。そこで、日本慢性期医療協会では「日本介護医療院協会」を来年4月に立ち上げる。介護医療院にシフトしていく病棟はほとんどが慢性期の病院であるので、そのために本日の理事会において、「日本介護医療院協会」の設立準備委員会の発足が正式に決まった。これから半年以上かけて、より良い介護医療院になることを目指して勉強していきたいと思う。

 昨日の介護保険部会でも介護医療院に関する質問があり、私も質問をしたが、担当課は介護医療院というものがどういうふうになるのか、まだはっきりしたスペキュレーションがないというか、どうしたらいいか迷っているところがあると思う。われわれが「日本介護医療院協会」の準備委員会として一緒に勉強して、より良いものをつくっていきたいと思っている。

 では、介護医療院はどういう施設を目指すのか。老健は在宅復帰施設として、36~37万ある老健すべてを、いわゆる在宅復帰施設にする。54~55万ある特養はすべてを、とにかくずっと居られる施設ということですすめようとしている。実際、そういう方向性でよいのかどうかはさておき、この介護医療院の1―1というのは、今の介護療養型医療施設をそのままシフトした形である。介護医療院の1―2は今の老健と同じといわれている。看護師の配置基準は決まっており、6.4平米の4人部屋でよいということになっている。

 では、病院内の介護医療院の1―2はどういう機能か。すなわち、全部を在宅復帰の施設にするのか、終の棲家はどうするのか、という疑問がある。私は、介護医療院の1―2は在宅復帰施設として位置付けるべきであると考えている。
 

■ 介護医療院、「厚労省と共に良い施設をつくっていきたい」

 介護医療院にどのぐらいの病床が移行するのか。われわれとしては、介護療養病床約6万床のうち4万床は移行するのではないかと予想している。25対1は、まだ6~7万床が残っているが、このうち約半分くらいが移行するのではないかと思うので、7~8万ベッドの介護医療院が誕生すると想定している。

 そのため、われわれ日本慢性期医療協会としては、その病床移行する病院に対して十分な支援をしていきたいと思っている。設立準備会をつくり、これから約半年間、みっちり検討して、この介護医療院に関する要望をきちんと出していき、育てていきたい。こういう姿勢で厚労省と共に良い施設をつくっていきたいと思っている。

 老健の35万床全部を在宅復帰施設とすると、例えば1つの小さな市町村で、病院、特養がなく、老健も1つしかない場合を想定すると、その市町村の中で終の棲家としての機能を要望する人が3割、在宅復帰施設の機能も3割必要。そして、医療機関がないので、医療機関として必要な人も3割いる。といったときに、老健すべてを在宅復帰施設にしなければ点数を下げるとなると、老健の地域の中での存在は一体どうしたらいいのか。

 「多様な老健」、「多様な特養」が求められているわけで、「特養も終の棲家」と言いながらも、良くなればまた地域に帰ればいいと思う。また悪くなったときにはいつでも入れるという約束の上で地域に帰るということも、私は1つの方法だと思う。特養は終の棲家であって、1回入ったら絶対に出なくていいという考え方は、今後はしないほうがいいだろう。

 それから、皆さんもお分かりだろうと思うが、老健や特養を運営するにはものすごくお金が掛かる。特に、特養は補助金を沢山用意し、これから年に何十、何百と開設していかなければならない。都会ではまだまだ特養は不足している。しかし、介護医療院は病床転換であるから、4月1日にいきなり何万床もできる。特養などが不足している地域で、いきなり何百床という病床ができるのである。お金もほとんど要らない。介護医療院に移行するために基金が使えると聞いている。

 病院のベッドの一部が介護施設であれば、病院内にはお医者さんがいるし、レントゲンもある、検査機器もある、リハビリの能力もある。このように、素晴らしい医療機能を伴った院内施設というのは、単独施設に比べると、その利用者にとっては非常に魅力的な施設になるのでないかと日本慢性期医療協会では思っている。今後、「日本介護医療院協会」を強力なものとして育てていく方針である。本日の説明は以上である。

                           (取材・執筆=新井裕充)

 

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