「平成29年度第3回 診療報酬調査専門組織 入院医療等の調査・評価分科会」 出席のご報告

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「平成29年度第3回 診療報酬調査専門組織 入院医療等の調査・評価分科会」 出席のご報告

 平成29年6月21日、「平成29年度第3回入院医療等の調査・評価分科会」が開催され、当協会から池端幸彦副会長が出席いたしました。今回の分科会の議題は、「一般病棟入院基本料」と「入退院支援」についてです。

 委員による意見交換の中でとくに議論が集まったのは、▽現行の「重症度、医療・看護必要度」の評価指標としての妥当性、▽入院時から退院時までの切れ目のない入退院支援の実現に向けた医療と介護の連携、▽家族の希望に適わないために退院が困難となっている患者への急性期病院における対応、の3つの論点でした。
 池端幸彦副会長は、慢性期医療の立場から、地域における在宅医療の自身の取り組みも踏まえ、次の意見を述べています。
 

〔池端幸彦副会長の発言〕

池端幸彦副会長平成29年6月21日◇ 「重症度、医療・看護必要度」は患者の重症度を判断する評価指標であり、療養病棟でいえば、医療区分2・3の患者割合にあたる。ご存じのとおり、医療区分2・3の患者の割合が療養病棟入院基本料1では8割、療養病棟入院基本料2では5割を超えることが算定要件になっているが、ともすると、医療区分2・3に該当しない患者は入院の必要性はほとんどなく、すぐにでも在宅に復帰できるような患者なのではないか、と憶測されることがしばしばある。ましてや一般病棟入院基本料7対1において、「重症度、医療・看護必要度」の基準に該当しない75%の患者は元気に病棟を走り回っているのではないか、という見方があるとすれば、それは邪推以外の何ものでもない。このような邪推が働かないようにするために、基準に該当しない患者の状態像を数値化しておくような評価指標の工夫が必要である。

◇ 現行制度上、要介護高齢者が入院すると、それまで担当していた居宅ケアマネジャーとの関係が途切れることになるので、「入退院支援を進めるにあたって、医療と介護の整合性がとれた連携と合理的な報酬設定が不可欠である」との筒井孝子委員(兵庫県立大学大学院経営研究科教授)のご指摘は、まったくそのとおりである。当院のある福井県では、県と県医師会が「退院支援ルール」をとりまとめ、昨年4月から運用を開始した。すでに何度かご紹介していると思うが、このルールは、高齢者が入退院する際に、情報共有シートを用いて病院とケアマネジャー間のスムーズな引継ぎを目指すもので、県全域を適用範囲としているのが特徴である。アンケートをとって検証したところ、ルールの運用開始前は5割程度だった情報提供率が8割近くまで上昇していることがわかった。福井県のこの取り組みが全国的に広まることによって、まず入院時から退院支援を見とおす風土ができ、将来的に介護保険の「入院時情報連携加算」や「退院・退所加算」と組み合わせられれば、入退院支援に大きな流れができるのではないかと期待している。退院前カンファレンスは退院の直前に行われるだけでは不十分なので、患者が入院中の早い段階から病院とケアマネジャーが情報を共有することになれば、とても有意義である。

◇ 平成28年度入院医療等の調査結果では、外来・在宅で管理が可能ではあるが、患者が退院できない理由として、一般病棟についても、「家族の希望に適わないため」という理由が挙がっている。しかし本来、このような患者の家族との退院調整は、急性期病院ではなく療養病棟や地域包括ケア病棟が担うべきであろう。急性期病院は、集中的な治療によって外来に通院できるまでに回復した患者を在宅に復帰させ、回復しているにもかかわらず家族の事情等で退院できない患者は療養病棟や地域包括ケア病棟に移していく。ここまでが急性期病棟の役割であるといってよい。ただし、療養病棟や地域包括ケア病棟には、施設基準として在宅復帰率を充たさなければならないというハードルがあるので、退院が困難な患者のすべてを引き受けるかどうかは非常に悩ましい問題でもある。病床の機能分化のさらなる推進を考えれば、家族との退院調整に時間を要するような患者については、一定期間、在宅復帰率の対象患者から除外するなどの措置も考えられる。

 他の委員からの主な意見としては、「急性期が慢性期と異なるのは、患者に状態の変化が多く見られる点である。『重症度、医療・看護必要度』によってこの違いを把握できないだろうか」(神野正博委員・社会医療法人財団董仙会理事長)、「看護管理者の立場からすると、『重症度、医療・看護必要度』は退院支援やベッドコントロール、チーム医療の基盤になっており、診療科別の該当患者割合によって、看護師や看護補助者の適正な配置を考慮することもできるのではないか」(武井純子委員・社会医療法人財団慈泉会相澤東病院看護部長)、「看護師は医師の指示に基づいて処置等を行っているので、『重症度、医療・看護必要度』が看護の必要量のみで医療必要度を評価しているというのは誤解である」(筒井孝子委員)、「2030年の生涯未婚率は男性で約30%、女性で約23%に達すると予測されており、もはや家族はいないと認識しなければならず、入退院を支援するセルフマネジメントの仕組みを考えなければならない」(同委員)、などがありました。

 最後に、今回の議論の厚生労働省側の受けとめとして、迫井正深・厚生労働省保険局医療課課長は、以下の3つの見解を述べています。

・様々な要因によって地域差が生じていることは承知しているが、地域の病床のマネジメントをどのように行うかは、医政局が中心となって、医療需要を将来推計するという方法で分析を進めているところである。当分科会における地域差の議論は、必要な範囲内に留めたい。

・「重症度、医療・看護必要度」については、ご指摘にもあったとおり、マネジメントツールとしての活用、病院の経営に及ぼす影響、情報を収集する際の現場の労力(ワークロード)の3つの視点から、議論を整理していきたい。

・平成30年度同時改定が迫ってきている中で、現場に及ぼす影響や経過措置等については中央社会保険医療協議会総会においてもご検討いただくことになるが、診療報酬体系の見直しに係る技術的な課題、手法のあり方などについては、当分科会で引き続きしっかりとご議論いただきたい。

〇平成29年度第3回入院医療等の調査・評価分科会の資料は、厚生労働省のホームページに掲載されています。
 ⇒ http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000167766.html
 

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