「医療と介護の連携に関する意見交換(第1回)」 出席のご報告
平成29年3月22日、「医療と介護の連携に関する意見交換(第1回)」が開催され、武久洋三会長が出席いたしました。同会議は、厚生労働省老健局と保険局の共同による会議で、平成30年度の同時改定に向けて、中央社会保険医療協議会総会(中医協)および社会保障審議会・介護給付費分科会が具体的な検討に入る前に、それぞれを代表した委員が医療と介護の現状や課題について意見交換することを目的としております。
社会保障審議会・介護給付費分科会の委員として出席した武久洋三会長は、臨床医としての立場から次のように発言し、今回のテーマである「看取り」と「訪問看護」について持論を展開しました。
(武久洋三会長の発言)
◇ 現場に携わる臨床医としては、自分が診て治ると判断した患者についてはきちんと治療する、というのが何より最大の責務であろう。多死社会を迎えるにあたって、特養や在宅などでも看取りができる体制を整えていくべきだということは一定程度理解できる。しかし、適切な治療とリハビリによって元の生活に戻ることができる高齢者もいるので、はじめから看取りありきの論調は甚だ疑問である。
当院に急性期病院から移ってくる入院患者のうち、その多くが低栄養と脱水の状態にある。おそらく、在宅で看取りの状況にあるといわれる患者も、同様の状態であろう。患者本人が食事をしなくなった場合、いかに対処していくべきか。風邪薬の飲みすぎや転倒など、食事をしなくなった原因がはっきりしているのであれば、まず、カロリーと水分の補給を行うべきである。「誤嚥性肺炎」などの感染症の症状はいわば氷山の一角なので、隠れている「低栄養」「脱水」「電解質異常」などを補正することによって治癒し、その後数年間、元の生活に戻ることができる高齢者も現にいる。
このような背景の中で、一体誰がターミナルを判定し、目の前の患者に治療が必要かどうかを判断していくのか。それはやはり、現場の臨床医であろう。そうであるとすれば、看取りやターミナルについてコンセンサスを見出し、どのような状態の患者に治療をし、どのような患者に看取り対応を行うのかについて、目安となる判断基準を設定する必要がある。判断基準が定まっていないと、例えば、90歳を超えた高齢者がほんの少しでも長生きをすることに意義を見出すか見出さないかという臨床医のフィーリングによって、患者が助かったり助からなかったりすることになりかねない。たとえ6か月でも長生きすればお孫さんの成人式を迎えることができるではないかと考え、わずかな期間でも元の生活に戻ることができるよう治療するのか、あるいは、逼迫した医療保険財政を慮って過度の治療はせず、そのまま看取っていくことにするのか。医療のあり方として、果たしてどちらの考え方が社会的に評価されるのだろうか。
平成27年の75歳以上人口は1,641万人で、そのうち約4.2パーセントの約70万人が入院しており、また、全入院患者のほとんどを75歳以上の後期高齢者が占めているというこの時代は、他に例を見ないかなり特別な時代である。さらに、日本の健康寿命と平均寿命を見ると、その差が、男性で約9年、女性で約12年もある。つまり、女性が86歳まで生きても、74歳からは何らかの病気に罹患し、12年間生きながらえているというのが実状である。そして何よりも、日本の高齢者医療の深刻な点は、寝たきり率がアメリカの5倍もあるということである。寝たきりになると、食事もあまり摂らず、消費カロリーが減り、心肺機能も落ちてくる。患者が食事をしなくなった原因がコンテンポラリーなものであっても、その状態がなし崩しになればパーマネントなものになるので、できるだけ早期の治療が必要である。本来、適切な治療とリハビリがあれば元の生活に戻ることができる高齢者も同じと見てターミナルの範疇に入れてしまうのは、正しい医療のあり方とは思えない。患者個人の尊厳からしても、きちんと治療して治すのが現場の医師の務めである。
特養における看取りについてはまず、特養の入所者が感染症などで病院に入院することとなりベッドが空いたとしても、一定期間、そのベッドに他の新たな利用者を入所させてはならないという現在の制度を見直す必要があろう。退院後の円滑な入所への配慮という趣旨なのであろうが、経営者とすれば、入所者が病院に入院すると1人分の収入が減るので、どうしても病院との連携がとりにくいものとなる。医療が必要な場合には、医療機関の判断を適宜求めることができるような柔軟な仕組みを考えていただきたい。
◇ 鈴木邦彦先生(日本医師会常任理事)が指摘されたように、介護福祉士は歴とした国家資格者で、病院にも多数勤務している。にもかかわらずなぜ、病院では「看護補助者」と呼ばれることになるのか。誰がそう呼ばせているのか。非常に不可解である。介護はすでに確立された1つの分野なので、看護の補助をするのが介護であるという認識はとっくにあらためる時代に来ている。入院患者のほとんどを後期高齢者が占めるというこの時代に、看護職だけで対応できると考えているのか。
また、介護職の関連で言えば、医療療養病床に勤務している介護福祉士は介護職員処遇改善加算の対象にならないため、同一法人内の配属先によって給与が上がる介護福祉士と上がらない介護福祉士が生じることのないよう病院が持ち出しでカバーしているという現状がある。あわせて見直しをお願いしたい。
◇ 人は病気になったときだけでなく、亡くなる直前もまた重症となる。血圧はみるみる下がり、咽頭や気管に痰が貯まってゴロゴロと喘鳴がする。吸引すると、死亡間際は出血傾向があるためピュッと血が噴き出すことがあり、居合わせた患者家族が気色ばむ。自分の行為に後々クレームがつくのではないかというプレッシャーも重くのしかかってくる。死亡退院の割合が約35パーセントある介護療養型医療施設や約50パーセントある医療療養病床のスタッフは、このようなストレスフルな場面に日々直面しているのである。1人の患者の死に立ち会うには、実に多くのスタッフを必要とし、実に多くの時間をかけている。このようなことからすると、看護師の配置基準が入所者100人に対して3名の特養で看取りを進めていくというのは無理強いとも言える。ターミナルだからといって何もしないでじっと見守っているというわけではないということをよくご理解いただきたい。
◇ 当院では、在宅で療養している患者が発熱のために入院してきた場合は、必ず、3~5日で在宅に戻すよう治療している。なぜなら、1週間以上入院していると、言い方は悪いが、家族が患者のいない生活に甘んじてしまうからである。たった数日の違いで、もう在宅では無理だ、と気持ちが変わってしまう。在宅からの入院患者は、5日までに戻すのが在宅療養を継続させるテクニックといえる。この方針を地域の後方支援病院は徹底していくべきである。
◇ 訪問看護の利用者数は、平成27年度で見ると、介護保険・医療保険を合わせて約56万人いることになっている。しかし、そのうち、ターミナルケアの利用者数はわずか約4,200人と1パーセントにも達していない。要するに、重症患者にはほとんど対応していないということである。年々増えているという訪問看護ステーションに就業する看護師は、「調整」「連絡」「相談」「助言」など、ケアマネジャー的な要素も含めたトータルキーパーソンとしての役割を担っているようだが、もっと、「24時間の重症患者対応」を前面に打ち出すべきではないか。
◇ 幸野庄司氏(健康保険組合連合会理事)から、在宅医療に関する懸念として、在宅の患者像に見合った職種が対応しているのか、医師でなくても対応できるような利用者の要求に対して医師が訪問しているようなことはないか、というご発言があった。保険者の立場とすれば当然気がかりなことだと思う。何人かの出席者の方が言われるとおり、医師が訪問するだけで患者の不安感を拭うことはたしかにあり、同じことは訪問看護についても言え、看護師が血圧を測ることによって安心感を与えるということはある。そのような意味では、利用者の要求と訪問する職種が完全にマッチしていなければならないというものではない。しかし考えてみると、医師の包括的指示によって特定行為を行う看護師を養成する新たな研修制度は、開業医も年々高齢化していく中で、かかりつけ医だけでは今後の訪問診療のニーズに応えきれなくなるであろうことを国が見越した方策であるといえるのではないか。このことからすれば、チームで在宅を支えるという発想こそ重要であって、訪問看護であっても看護師がすべて訪問しなければならないというものではない。「介護保険サービスの利用の調整」や「相談」は、本来、ケアマネジャーの役割であり、簡単なバイタルサインのチェックであれば、ケアマネジャーが医療知識を身に付ければ行うことができる。様々な職種が相互に連携しながらかかわっていくというシステムの構築が、保険者にとってはどうかはわからないが、少なくとも患者・利用者にとっては一番効率がよいと思う。
他の出席者からの主な発言としては、以下の意見がありました。
・看取りにおいては、医師が患者本人や家族にどのようなムンテラ(病状説明)を行っていたかがとても重要である。たとえ老衰であっても亡くなる直前は苦しむことがある、とあらかじめ伝えているのかどうかによって、患者とそのご家族の安心感は大きく異なる。(東憲太郎氏・全国老人保健施設協会会長)
・特養における医師の配置基準が時代に追いついていない。もはや健康管理や療養上の指導を行うための人数では、看取りや急変には対応できない。(鈴木邦彦氏・日本医師会常任理事)
・ターミナルケアに関する加算には、実施加算や体制加算、あるいは計画を作成したことに対する加算が混在しており、また、同じ名称の加算であっても診療報酬と介護報酬とで微妙に考え方が異なっているが、ベースにある哲学は共通にしておくべきである。(田中滋氏・慶應義塾大学名誉教授)
・どのようにして訪問看護師を確保し、養成していくか。病院や診療所における訪問看護の拡充も期待されているので、病院や診療所に勤務しながらも、一定期間であれば訪問看護に従事できるような体制づくりを検討しているところである。(齋藤訓子氏・日本看護協会常任理事)
・高齢者の看取りを考えるにあたっては、徐々に弱って死に至る場合と、大きい病気が急に起きて死に至る場合とを分けて考える必要がある。訪問看護については、急変時の対応のしやすさからすれば、病院や診療所から直接訪問するという仕組みを強化していくべきであろう。(猪口雄二氏・全日本病院協会副会長)
次回の「医療と介護の連携に関する意見交換」は、「リハビリテーション」と「関係者・関係機関の調整・連携」をテーマとして、4月中旬に開催される予定です。
○「医療と介護の連携に関する意見交換」(第1回)の資料は、厚生労働省のホームページに掲載されています。
⇒ http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000155666.html
2017年3月23日