「在宅療養を推進するリハビリテーション」── 第4回慢性期リハ学会・シンポ2

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シンポジウム2全体

 第4回慢性期リハビリテーション学会のシンポジウム2は、「在宅療養を推進するリハビリテーション」をテーマに開催されました。慢性期リハビリテーション協会副会長の江澤和彦氏が座長兼シンポジストを務め、現場の医師や相談員と共に在宅復帰に向けたリハビリテーションの在り方を考えました。

 シンポジストは江澤氏のほか、東京・大田区にある「ナグモ医院」院長の南雲晃彦氏、蒲田医師会在宅医療連携調整窓口の相談員である三浦大輔氏の2人です。南雲氏は、在宅診療所の立場から現状報告と今後の見通しを伝えました。三浦氏は、在宅復帰へのプロセスについて、調整窓口の活動を伝えながら、多職種協働や連携の重要性について述べました。
 

■「リハ職はまちづくりもやれ、地域の人も巻き込め」── 南雲氏

01_南雲晃彦氏 南雲氏は冒頭、維持期・生活期のリハビリテーションに言及し、「医療から介護への移行がなかなかうまくいっていない。医療のリハがかなり減算になり、事実上、医療のリハでは経営が厳しいというところまで来ている」と現状を伝えました。

 平成30年度改定については、「とにかく維持期リハは医療から介護に行かざるを得ない。加速する。介護保険下でもデイケアは一定の日数を過ぎたらだめだということになるだろう」と見通しました。そのうえで、「デイサービス・リハをわきに立って見ているが、これでリハの効果が出るのか疑問である。施設によってもものすごく差がある。熱心に行っている所と、まったく行っていない所がある」と苦言を呈しました。

 南雲氏は最後に、リハビリ専門病院と老健施設を併設した複合施設が都内に誕生することを紹介。「地域の急性期、慢性期、医療施設の経営者、介護従事者、認知症その他の患者支援団体、まちづくりのNPO、町内会、商店会などから成る委員会を立ち上げ、高齢者が住みやすい町をつくる。リハをする人はこういうことをこれからやっていかなければならない。機能訓練をやるだけではだめで、まちづくりもやれ、地域の人も巻き込めということだ」と訴えました。
 

■「他の事業所が共存して協働し、相互の質を向上」── 三浦氏

02_三浦大輔氏 三浦氏はまず、地域資源の把握をするためにアンケートを実施したことを紹介。「医療機関をそれぞれ個別に相談員が訪問した。直接、医師と顔を合わせて情報収集をさせていただいた。実際に先生に会うと、本当の情報を引き出せたこともあった」と振り返り、地域の研修会での広報活動などを通じて連携を構築していった過程を伝えました。

 相談のタイミングと内容については、具体的な事例を挙げながら解説。退院調整について、「介護の部分で問題がない場合、すぐに介護申請してケアマネを付けるという相談もあるが、在宅の先生とリハビリだけという場合であれば、介護保険を申請することで退院が長引いてしまうこともあるので、そのときは申請しないで医療保険で訪問リハと在宅の先生の手配で退院してはどうかというアドバイスをさせていただいた」と、臨機応変に対応したケースなどを紹介しました。

 三浦氏はまとめとして、在宅療養に向けた課題を提示。「多くの先生に在宅に参加していただく『在宅医グループ化』や、ICT連携などの取り組み、調整を推進していく必要がある」と指摘したうえで、事業協力の展開に期待を込めました。三浦氏は「訪問看護ステーションや在宅専門のクリニック、介護事業所などもいろいろ増えている。他の事業所がいろいろ共存して協働していく。それによって相互の質を向上させ、お互いの役割を理解したうえで地域の受け皿の質が高められれば、在宅の推進につながる」と締めくくりました。
 

■「次回改定、一つのキーワードは循環型ということ」── 江澤座長

03_座長(江澤和彦)氏 二者の発表を踏まえ、座長兼シンポジストの江澤和彦氏(倉敷スイートホスピタル理事長)が「在宅療養を継続させるために、生活期リハビリテーションはどうあるべきか」と題して講演しました。江澤氏はまず、平成27年度介護報酬改定を振り返り、「厳しい財源の中でメリハリの効いた改定だった。次回の同時改定を見据えた今後の方向性を明確化した」と評価。「特にリハビリについては、大変すばらしい改定だったと評価している」と述べました。

 次期改定については、「リハマネⅡ(通所リハビリマネジメント加算Ⅱ)が今後、通所リハと訪問リハにおいてはスタンダードな評価になっていく」と見通し、ここでのポイントを提示。「本人や家族、ケアマネさんなど、地域のいろいろな異なる事業所が入って、ここに医師をはじめ多職種が入るところがポイント」と指摘したうえで、「地域にフィッティングしたリハビリテーションカンファレンスと位置づけられ、本人や家族、ケアマネジャーも、社会参加がリハなのだという意識が非常に高まっていくのではないかということが期待される」との考えを示しました。

 江澤氏は最後に、「本当のアウトカムというのは、やはりその人がちゃんとした活動や参加を通じて尊厳ある自立した生活が送れているのかどうか」と問題提起。次回の同時改定について「事業所単位から地域単位というのが、キャッチフレーズではないか。循環型ということで、とにかくいろいろな状態に応じて、いろいろな必要な社会資源を利用しつつ、どう地域で暮らしていくかが大事で、一つのキーワードは循環型ということであろう」とまとめました。
 

■「リハビリに対する医師の関心度も高めていく」── 江澤座長

 討論では、訪問リハをめぐる課題を中心に意見が交わされました。口火を切ったのは南雲氏。「現在、実施しているリハビリの効能や成果などをどれぐらいの期間で見直すのだろうか」と問題提起しました。

 これに座長の江澤氏は「3カ月に一度ぐらいが一般的ではないか」と回答。2年前の改定を振り返り、「訪問リハにおいて、一番患者さんのことをよく知っている、かかりつけ医が指示を出せるように解禁された。かなりフレキシブルに、やりやすくはなった」と評価しながらも、「訪問看護ステーションの全国の全算定延べ件数の3割が訪問看護から出るリハになっている」と指摘。この点について江澤氏は「訪問看護自体も看護の視点を持ったリハということで位置づけられているのだが、実態はおそらく訪問リハと変わらない状況があり、今後はそのあたりをどうするかが課題になっている。生活期リハは3カ月に1回のペースで見直し、そこに医師や多職種が関わっていくのがポピュラーではないか」との考えを示しました。

 これに対し南雲氏は「先日、訪問リハをやっている事業所の方からご相談を受けた。指示書を書いてもらえないと言う。医師が指示書を書いてくれないので、ご要望があっても訪問リハに入れない。そういう話を複数聞いたが、現場ではそういうことがたくさんあるのだろうか」と会場の参加者に意見を求めました。

 理学療法士の男性は「日ごろの業務がお忙しいのか、書いていただけない場合もある。大きい病院の場合は患者様が多いと思うので、返答のあるケースが少ないのが現状」と明かし、「そういう場合は、利用者様の同意を得たうえで、比較的理解のあるかかりつけ医の先生に変更するような対応もして、円滑にリハビリを受けていただける環境をつくるようにしている」と回答。そのうえで、「かかりつけ医の先生も指示書を書くというシステム、訪問リハビリのシステムをご理解いただくような環境を地域でつくっていけたらいい」と述べました。

 江澤氏は「急性期の拠点病院の勤務医の役割というよりは、かかりつけ医の役割として、都道府県医師会、地区医師会などがリーダーシップを発揮しながら進めていくことではないか」との理解を示し、医師会の研修にもリハビリテーションが盛り込まれていることを指摘。「リハビリに対する医師の関心度も高め、リハビリに対する正しい理解や重要性を認識していただこうということで、日本医師会の研修にもリハビリテーションを含めており、もう少し時間がかかればできると思っている」と今後の展開に期待を込めました。

                           (取材・執筆=新井裕充)

 

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