「認知症リハビリテーションとは」 ── 第4回慢性期リハ学会・シンポ5
3月19日に開催された「第4回慢性期リハビリテーション学会」のシンポジウム5は、「認知症リハビリテーションとは」と題して行われ、医師、理学療法士、作業療法士それぞれの立場から認知症リハビリテーションの在り方に迫りました。座長は、群馬県にある医療法人大誠会・内田病院理事長で、日本慢性期医療協会常任理事の田中志子氏が務めました。
シンポジストは、本学会長であり、京浜病院・新京浜病院理事長の熊谷賴佳氏、医療法人社団永生会介護サービス「スマイル永生」主任の三宅英司氏、東京・足立区にある大内病院、東京都認知症疾患医療センター重度認知症デイケア「はなみずき」の伊東光則氏──の3人です。
熊谷氏は、「認知症リハビリとは」と題して認知症リハビリテーションの基本的な考え方や今後の展望について述べました。三宅氏は理学療法士の立場から「認知症初期からリハビリテーションを生涯継続されるために」と題して講演。通所・訪問リハにおけるリハ会議で検討された症例などを紹介し、リハビリテーションを生涯継続させるための方策などを示しました。伊東氏は作業療法士の立場から「多職種協働のリハビリテーションの意義」と題して講演しました。
■「認知症リハビリはすべての総合的な掛け算で」── 熊谷氏
最初に登壇した熊谷氏はまず、リハビリテーションの定義を「再び元の機能を回復すること」と説明。「では、認知症の場合には何を元に戻すのか」と問題提起し、①身体障害に対する運動機能回復を目的としたリハビリ(一般人がリハビリと想起するもの)、②精神心理症状に対する知的機能回復を目的としたリハビリ(記憶力・理解力・見当識を向上させる)、③行動障害に対する社会的適応力回復を目的としたリハビリ(地域や家庭内での集団生活をおくる能力を身につける)──の3種類を提示。そのうえで、「この3つをセットにしてはじめて、認知症リハビリ、認知機能のリハビリテーションが行われたと考えたい」との考え方を示しました。
認知症リハビリテーションのプログラムについては、「五感を刺激する情報が入っているのか。身体機能を刺激するものは入っているか。そしてその結果、やる気を引き出しているか。社会的な共感や連帯感、満足度は全部最大になっているか。その評価をしているか。有効であるか」と具体的に解説。五感を刺激するリハビリメニューは感覚器を刺激し、運動器を鍛えることを紹介し、「思考を入れ、そして感動が入っている。こういうリハビリは生活そのものである。毎日がリハビリ、生活がリハビリ。食事もリハビリ、退院後もリハビリ、生きている限りリハビリである。認知症リハビリはこういうすべての総合的な掛け算でできている」と説きました。
熊谷氏は最後に、「プラチナエイジ(生涯生き生き元気)」と題して、「感動を与える街」に向けた取り組みを紹介。高齢者自身が講師を務める「ティーチング」などを挙げ、「感動を与えることは、病院や施設だけではできない。まちづくりは(座長の)田中先生も積極的に取り組まれている。まさに、まちごと全部組んでイベントをやり、生きている喜びを感じていただきたい」とまとめました。
■「個別性の高いプログラムをチーム全員で実施」── 三宅氏
三宅氏はまず、認知症予防に関する研究報告などを紹介。これらを踏まえたプログラムを実施していることを伝えました。三宅氏は「毎回の利用開始時には血圧測定や身体、生活状況の確認を行い、最低3カ月に1度は身長や体重などの身体測定も実施している。そのほか、ADL動作の要素を取り入れたオリジナルダンスや自転車エルゴメーター、筋力トレーニング、二重課題での運動教室などを実施している」と具体的に解説しました。
そのうえで三宅氏は、生涯リハビリテーションを継続するための観点を提示。「認知症のリハビリテーションにおいてはBPSDへの配慮が重要となる」と指摘し、平成27年度の介護報酬改定に言及。「通所リハや訪問リハでは、情報共有とアセスメントを行うリハビリテーション会議が体系化された。この会議においてセラピストは専門職の立場から関わるスタッフにアドバイスを行いながら生活全体のマネジメントを行い、アプローチ自体は全員で行うということが望まれている」との理解を示し、リハビリテーション会議でマネジメントを行い、アプローチを行った事例を具体的に紹介しました。
リハビリテーション会議での検討などを踏まえ三宅氏は「BPSDに対するアプローチは環境因子や個人因子を加味した個別性の高いプログラムが必要で、通所リハや訪問リハにおけるリハ会議のように本人を支援するすべての人的資源と連携を図りながらアセスメントを行うことが有効である」との見方を示しました。そのうえで、認知症のリハビリテーションを生涯継続させるために、「すべての人的資源と連携したアセスメントを元に、個別性の高いプログラムを作成してチーム全員で実施することが重要である」とまとめました。
■「複合的な問題に対して統合ケアを目指す」── 伊東氏
伊東氏はまず、「認知症のある人はどのような人なのだろうか」と問いかけ、「認知症になるまで、人生の大半を普通の人として生きてきた。認知症があっても普通の人だと考えるならば、人生の目標も普通の人と同じに違いない。今まで生きた延長線上の残りの人生を歩き続けたいと考えるのが誰もが思うものである」との考え方を示しました。そのうえで伊東氏は、認知症者の人生を取り巻く環境も考慮に入れたリハビリテーションの必要性を語りました。
伊東氏は、「私たちの生活は、その人にとって大切にしている生活行為から成り立っている」と指摘し、家族や介護に関わるすべての人々への支援や連携の取り組みを紹介。介護保険のケアマネジャーらが参加する家族会の模様を伝え、「ケアマネジャーには地域とのつながりのためにヘルパーとして買い物をしてくれと頼んでいる。何もしなければすぐに一人暮らしができなくなるが、さまざまな組み合わせにすることによって、長く一人で幸せな状態を維持することができる。つまり、緩やかな形で幸せの維持ができる」と説きました。
最後に、伊東氏は認知症の臨床像を示し、「他の医療分野に比べケアの占める割合が大きく、多様かつ個別性が高い」と指摘。地域包括ケアの推進に向けて、「私たちは、一体的で連続した複合的な問題に対して統合ケアを目指さなければならない」と強調したうえで、「リハビリ職員として固有な役割を果たすほかに、一つの職種の一方的な構造では限界があるので、多職種との相談、調整、交渉に関する技術も今後、獲得する必要がある」と意欲を見せました。
■「セラピストたちがまちをつくることを推進する時代」── 田中座長
質疑応答では、会場から退院後の環境変化に関する質問がありました。伊東氏は「認知症になって入院するケースが一番問題だ。一気に環境が変わると、元の生活に戻ることが非常に難しい」と指摘。その対応については、「環境が変わった時、今ここでという状況を判断するのが難しいので、独居になる場合は試験外泊などをして、どこでつまずくのかを判断するようにしてはどうか」と提案しました。
座長の田中氏も「場所の移動により環境が変わるので、入院中の環境についても私たちには気を付けることがまだまだある」と指摘。そのうえで、「認知症を有する患者さんにとって分かりやすい環境をつくり、私たちが認知症の患者さんにきちんと対応してあげるにはどうしたらいいのか。一人ひとりの職員が意識することによって、病院から次の施設、あるいはリハビリ病棟につなぐことができるのではないか」との考えを示しました。
田中氏は認知症リハビリテーションについて、「実際に生活する場面を念頭に置いて、その人が何ができるかを支援することだ」と説明。「運動することや作業することなどに特化するのではなく、何のために運動するか、何のために筋トレをするか、何のために作業療法をするか。それは、その人が本来いるべき場所にいるような、その人らしさを発揮するために行うことが認知症のリハビリテーションである」と述べました。そのうえで田中氏は「リハビリテーション専門職とケア職との違いは何なのか。その辺りをいま一度、セラピストのプライドに則って、認知症リハビリテーションというものに積極的に参画し、そしてセラピストたちがまちをつくることを推進するような、そういった時代が来たのではないか」と締めくくりました。
(取材・執筆=新井裕充)
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2017年3月20日