「第5回療養病床の在り方等に関する特別部会」 出席のご報告
平成28年11月17日、「第5回療養病床の在り方等に関する特別部会」が開催され、武久洋三会長が委員として出席いたしました。平成29年度末に設置期限を迎える介護療養病床等の新たな転換先に関する議論は大詰めを迎えており、武久洋三会長は、介護療養病床が対象としている患者像や現在担っている機能を具体的に述べ、「新たな施設」に期待される施設機能について十分な検討を求めました。
会議の冒頭、まず吉岡充委員(全国抑制廃止研究会・理事長)より、「介護療養病床の現場に従事するスタッフは『病院』であるという誇りを持って患者のケアにあたっており、『病院』でなくなることに強い抵抗を感じる。今回提案されている『新たな施設』にしても、これまでの『転換型老健』や『療養機能強化型』の焼き直しに過ぎない」という趣旨の意見が述べられ、「現場に働く者として、納得のいく説明と理由がない限り、介護療養病床の廃止に反対する」という一貫した立場をあらためて明らかにされました。
その後、保険者や研究者の委員からは、吉岡充委員が述べた現場スタッフの思いに直接触れることなく、「介護療養病床の廃止はすでに衆議された結論であり、後戻りはできない。思い切ったスピード感ある制度改革を進めるべきである。日本が人口減少社会に転じている中で社会保障制度を持続あるものにするには、ある程度の給付の抑制と被保険者の負担増はやむを得ない」、「すでに法律上決まっている介護療養病床の廃止の議論を蒸し返すべきではない。3年の経過期間で速やかな転換が実現できるよう転換支援策を講じていくべきである」、「人口変動や患者の利用者像に即した医療需要と介護需要のデータに基づき、『新たな施設』の施設基準をさらに精緻化すべき」という発言が続きました。
これらの発言に対し、西澤寛俊委員(全日本病院協会会長)は、「現場の実情を知ろうともせず、パズルをやるように制度を論じるのはいかがなものか。経済の視点だけではなく、患者や現場スタッフの納得が得られるようなかたちで議論を進めるべきではないか」と苦言を呈する場面がありました。
武久洋三会長は、上記の議論の経過の中で、介護療養病床を運営する立場から、制度改革に伴う経済的な観点を踏まえつつ、以下の意見を述べています。
(武久洋三会長の発言)
介護療養病床の廃止は、小泉郵政選挙大勝後の、平均在院日数が長い療養病床を削減せよ、という至上命令に端を発している。「療養病床の再編」が医療療養病床から介護療養病床への移行防止策であったことは、官僚の方々はご承知のことだと思う。
介護療養病床が病院の「病床」から「施設」に変われば、たしかに医療保険における財源負担は減るが、介護保険における財源負担が増えることになるのは誰が見ても明白である。このような一方で減らして他方で増やすという政策は、保険局に医療介護連携政策課を設置して医療と介護の連携を進めていこうというときに、一体何を目指した政策であるのか理解に苦しむ。結果として国の財源負担の軽減にもつながらないのであれば、単に病院の「病床」を減らすことだけが狙いなのか、と思われても仕方がない。
介護療養病床の廃止はすでに平成18年度の介護保険法改正で決まったことなのだから、経過期間の延長等について議論する余地はないという意見も聞かれる。しかし、平成26年度の診療報酬改定によって特定除外制度が廃止となり、急性期病院と言われる一般病床についてもその削減に着手され、病院をとりまく状況は10年前と現在とでは大きく異なってきている。つまり、療養病床であろうが、一般病床であろうが、病院以外の施設で対応できる患者については、なるべく施設に移していくというマインドを持った改革なのであろう。そうであるとすれば、1病棟しかないような小病院への手当ても忘れないでいただきたい。複数の病棟があれば、病院全体で4対1以上の看護人員配置を満たせば医療療養病床25対1の病棟を存続することもできるのであろうが、50床程度で1病棟の小病院については、20床を病院病棟とし(19床までは診療所なので)、残りの30床を病棟内施設とするなどの工夫が許容されなければ、病院の運営が立ち行かなくなってしまう。
当法人でも介護療養病床を運営している。どのような患者が入院しているかといえば、身体の拘縮が非常に強く、要介護度5の中でもとくに重介護で身体合併症のある患者や、重度の認知症があり暴力行為が見られる患者である。このような患者が老健や特養に入所を断られ、当院に辿りつくという例がほとんどである。つまり、介護療養病床が入院を断わればどこにも行き場がない患者を社会的責任として引き受けているのである。いわば介護療養病床は、地域における医療の「最後の拠り所」となっているのである。この介護療養病床が「病院」ではなく「施設」になったときに、果たして現在担っている「最後の拠り所」としての機能をそのまま継承できるのであろうか。現実問題として、「当院は今日から介護療養病床ではなく『新たな施設』になったので、お引き受けすることはできません。他の施設に移っていただきます」などと言って入院あるいは入所を断る医師はいないであろう。「どこにも入所できなかったので是非ともお願いします」と患者家族から依頼されれば、診療に従事する医師の天命として何としても引き受けるのではないだろうか。
いずれにしても、介護療養病床の名称を「病床」から「施設」にすげ替えるだけで、有する施設機能はほとんど同じであるというのであれば、抜本的な改革になるとは到底考えられない。前回の特別部会では、「新たな施設」には現行の介護療養病床にプラスアルファの機能を併せ持たせるという説明があったと記憶している。介護療養病床を代替できる施設機能について、十分な検討をお願いしたい。
他の委員からは、「介護保険3施設を運営していると、特養は終の棲家、老健は在宅復帰、介護療養病床は重介護で医療ニーズのある患者への対応、と機能が分化していることがよくわかる。今回の新たな提案はこれをあえて動かそうというものであることを留意し、現在提供されている医療・介護サービスの質が落ちることのないよう注意を要する」(鈴木邦彦委員・日本医師会常任理事)、「どうしても『医療内包型』に議論が集中しがちだが、病院完結型から地域完結型へという流れの中で、『医療外付け型』へのスムーズな転換も考慮されなければならない」(齋藤訓子委員・日本看護協会常任理事)、「制度の改革によって病院や施設の経営に甚大な影響を与えてはならないし、患者・利用者が知らないうちに負担が大幅に引き上げられたということもあってはならない。新たな仕組みには弾力的な運用ができるというメリットがあるので、そのメリットを活かすよう進めていくべきである」(白川修二委員・健康保険組合連合会副会長・専務理事)、「世の中にある様々な職業は使命感で成り立っていると考えたときに、介護療養病床で長年ご苦労されている医療・介護スタッフには敬意を払い、『新たな施設』が病院でなくなるということについて何らかの配慮が必要であろう」(横尾俊彦委員・全国後期高齢者医療広域連合協議会会長/多久市長)、「精神科病院では、重介護でかつ身体合併症を抱える認知症患者に医療を提供してきており、次回の特別部会では、老人性認知症疾患療養病棟の在り方について発表する予定である」(見元伊津子委員・日本精神科病院協会理事)、「『新たな施設』においても服薬管理や栄養管理は重要なサービスになるので、薬剤師や栄養士との多職種連携を意識した施設基準の議論は欠かせない」(安部好弘委員・日本薬剤師会常務理事)、「制度に翻弄されているのは『転換型老健』も同様であり、是非、『転換型老健』にも『新たな施設』への道が確保されるようお願いしたい」(東憲太郎委員・全国老人保健施設協会会長)、「医療療養25対1も『新たな施設』の対象となれば介護保険財政はさらに逼迫し、介護保険料や利用者負担のアップにつながって、ひいては必要なサービスがカットされることになるのではないかという不安がある」(井上由美子委員・高齢社会をよくする女性の会理事)、「今回提案されている『新たな施設』は、介護療養病床の機能に生活施設としての機能を加えるというものであって、生活の場である以上、『病院』と呼ぶのはふさわしくない。むしろ、21世紀にこの国が生み出すまったく新しい施設類型であると前向きに捉えてはどうか」(田中滋委員・慶應義塾大学名誉教授)などの多くの意見がありました。
次回の特別部会では、年内のとりまとめに向けて、さらに具体的な資料に基づいて議論されることになっています。
○第5回療養病床の在り方等に関する特別部会の資料は、厚生労働省のホームページに掲載されています。
⇒ http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000143287.html
2016年11月18日