第4回社会保障審議会「療養病床の在り方等に関する特別部会」 出席のご報告
平成28年10月26日、第4回社会保障審議会「療養病床の在り方等に関する特別部会」が開催され、武久洋三会長が委員として出席いたしました。今回の特別部会では、厚生労働省より、平成29年度末に設置期限を迎える介護療養病床等に代わる新たな仕組みについて「議論のたたき台」が示され、武久洋三会長は、介護療養病床等の移行先となる「新たな施設」ではターミナル機能をも担うことになるのかという視点から、「新たな施設」に想定される施設機能のイメージを明らかにするよう求めました。
厚生労働省から示された介護療養病床等に代わる新たな仕組みには、「医療機能を内包した施設系サービス」と「医療を外から提供する居住スペースと医療機関の併設」とがあり、前者は「新たな施設」を創設するもので、後者は有料老人ホーム等と医療機関の併設について特例や要件緩和等を設けるものです。
「新たな施設」は、介護保険法を根拠とする「長期療養・生活施設」であるとともに、医療を提供することから医療法の医療提供施設の1つとされる見込みです。厚生労働省の提案では、対象となる主な利用者像によって、下記の「Ⅰ型」と「Ⅱ型」に分類されています。
Ⅰ型:重篤な身体疾患を有する者及び身体合併症を有する認知症高齢者 等
(現行の療養機能強化型A・B相当)
Ⅱ型:Ⅰ型と比べて、容体は比較的安定した者
「新たな施設」の施設基準(最低基準)は、「Ⅰ型」については「現行の介護療養病床の基準相当」、「Ⅱ型」については「現行の介護老人保健施設の基準相当」とされ、面積はいずれも、介護療養病床の平均在院日数が約1年半であることから、生活施設としてのスペースが確保できるよう8.0㎡/床(現行の介護老人保健施設相当)とされています。「新たな施設」が介護保険法上の「施設」として位置付けられることになれば、具体的な介護報酬は介護給付費分科会で検討されることになります。
一方、「医療を外から提供する居住スペースと医療機関の併設」は、「医療外付け型」として説明され、要介護度が高い利用者にふさわしい居住スペースが必要であることから、現行の「特定施設入居者生活介護の指定を受ける有料老人ホーム」(介護付き有料老人ホーム)などを想定した提案となっています。
武久洋三会長は、「新たな施設」である「Ⅰ型」の施設基準が「介護療養病床相当」とされていることについて以下の意見を述べ、「Ⅰ型」に想定される施設機能の明確な説明を求めました。
(武久洋三会長の発言)
介護療養病床の廃止は、ご承知のとおり、いわゆる小泉郵政選挙大勝後の医療費抑制政策である「療養病床の再編」に端を発している。果たしてこの国は、要介護度が高く医療が必要な高齢者の方々にはもはや医療は必要ではなく、そのまま死に至ることになっても構わないと考えているのか。これまで戦後日本の成長に寄与してこられた世代の方たちに、尊敬の念をもって医療や介護をきちんと提供しようという思いはないのか。
要介護度が高く医療が必要な患者を特別養護老人ホームや介護老人保健施設で対応するのは、現実問題としてなかなか難しい。本来は、レントゲンをはじめとした各種医療機器が備わった病院においてこそ、安心して対応できるのである。そこで確認したいのだが、「新たな施設」である「Ⅰ型」の施設基準は「介護療養病床相当」とされているが、病院の「病床」を介護保険法上の「施設」にすげ替えるだけなのか。単に名称を変えただけで、中身はまったく同じであるというのであれば、あまりにも無意味である。病床の削減が達成できればそれでよいということではあるまい。
現行の介護療養病床では死亡退院が約4割と多く、一言でターミナルケアと言っても、実際には医師や看護師による医療がかなり集中的に必要であり、患者・利用者の死亡率が高い施設と低い施設とでは現場の状況はまったく異なってくる。今後、介護療養病床が病院の「病床」から介護保険法上の「施設」となった際に、利用者の4割が死亡退院するという事実もそのまま維持できるよう整備されていくのか。それとも、重度の利用者については他の病棟で対応するようになるのか。
「新たな施設」への新規参入として、一般病床からの転換を認めるか否かが議論となっている。この点について、当協会が平成27年5月に実施した「医療施設・介護施設の利用者に関する横断調査」の結果を見ると、一般病床に重症患者が入院しているとは必ずしも言えないということがわかった。むしろ、療養病床にこそ医療必要度の高い重症患者が入院しているとさえ言える結果である。したがって、一般病床からの新規参入の是非は別として、一般病床の中にも慢性期の患者は多く入院しており、一般病床も「新たな施設」の対象に該当することは確かである。一般病床と療養病床を対比する議論の中で、療養病床を軽視する風潮はいまだに残っている。あたかも、療養病床については慢性期治療病棟としては認めるけれども、それ以上の医療を提供している病棟としては一切認めないというポリシーでもあるかのようだ。そろそろそのような偏った見方を抜きにして、フラットに検討していただきたい。
療養病床には重症患者が入院している。医療区分が適切かどうかは別途大いに議論が必要であるとして、この4月から医療療養病床25対1についても医療区分要件(医療区分2・3の患者5割以上)が課せられた。その後の経過も見ずに介護保険施設や住まいに移行せよというのでは、政策としていかにも中途半端なのではないか。
介護療養型医療施設における老人性認知症疾患療養病棟も非常に重要で、いつ誰が認知症になるかは誰にもわからない。認知症患者のターミナルケアには、4対1の看護配置は絶対に必要である。看護配置については、病棟単体では平成29年度末までの経過措置の対象で4対1は満たしていないが、一般病棟10対1や医療療養病棟20対1が院内にあるため、病院全体としては4対1を満たすような場合はどのように取り扱われることになるのか。今後の課題となろう。
特別養護老人ホームにおける看取りの推進ということも言われているが、看護師の当直が認められず、介護職員の当直も十分ではないという施設で看取りができるとは通常考えにくい。やはり、医師・看護師による医療のサポートがあり、きちんと看取りができるという施設が不可欠である。高齢者に然るべく医療を提供せず、そのまま死に至るにまかせるというスタンスは、現代の文明国家としていかがなものか。人間が亡くなるということはとても神聖なことである。あまり安易に考えないでいただきたい。我々療養病床は、患者が在宅に復帰できるよう真摯に医療を提供してきており、また、看取りにも適切に対応できるよう必死に取り組んできている。このことを是非ともご理解いただきたい。
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武久洋三会長の以上の意見と質問を受けて、濵谷浩樹審議官(医療介護連携担当)は、平成18年からの療養病床再編の経緯を振り返った上で、「療養病床廃止の決定の時点において介護療養病床における患者像を十分に把握していなかったことが、結果として介護療養病床の受け皿となる適切な施設を設置することができず、現在まで転換が進んでいない主な要因となってしまった。そこで今回は、介護療養病床が提供している医療機能をあらためて評価するとともに、生活施設としての機能をも重視した新たな施設の創設を提案させていただいている。現行の介護療養病床にプラスアルファの機能を併せ持たせるというイメージである」と述べています。
他の委員からは、「医療介護総合確保基金は、介護療養病床からの転換についてだけでなく、医療療養病床25対1からの転換についても充てることができるのか。今回の議論では、医療療養病床25対1についてはすっかり中央社会保険医療協議会での検討事項になってしまったかのような印象を受けるが、それならばなぜわざわざこのような特別部会を設けたのか」(鈴木邦彦委員・日本医師会常任理事)、「新たな施設のⅠ型の主な利用者像は『療養機能強化型A・B相当』で、施設基準は『介護療養病床相当』とされているが、このズレをどのように説明するのか。『療養機能強化型A・B相当』の利用者とはすなわち重症度が高い利用者であるので、『介護療養病床相当』よりも手厚い医療・介護が必要なはずである。また、新たな施設への移行期間は第7次介護保険事業計画に合わせて3年とされているが、移行がまるで進まないまま3年が経過するというのでは困る。段階ごとに移行計画の提出を求めるようにしてはどうか」(田中滋委員・慶應義塾大学名誉教授)、「介護療養病床だけでなく、医療療養病床25対1や一般病床が新たな施設に移行した場合、介護保険財政は持ち堪えることができるのか」(東憲太郎委員・全国老人保健施設協会会長)、「医療区分・ADL区分については、『慢性期入院医療の包括評価調査分科会』の分科会長であった池上直己先生によると、その分類だけが利用され、点数はまったく違うものが使われたという経緯がある。医療療養病床だけでなく、介護療養病床あるいは一般病床にも関わってくるので、早急に見直しを進めていただきたい」(西澤寛俊委員・全日本病院協会会長)などの意見がありました。
今回の特別部会で各委員から出された意見や要望は「議論のたたき台」に反映され、療養病床の在り方、介護療養病床等に代わる新たな仕組みについて引き続き議論・検討されることになっています。
○第4回社会保障審議会「療養病床の在り方等に関する特別部会」の資料は、厚生労働省のホームページに掲載されています。
⇒ http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000141151.html
2016年10月27日