「ターミナル期には、介護療養病床でも医療療養20対1レベルの医療を提供」── 7月21日の会見で武久会長

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武久洋三会長平成28年7月21日

 日本慢性期医療協会は7月21日の定例記者会見で、「入院患者とターミナルの医療提供状況に関する調査結果」を公表しました。調査によると、医療の内容によっては、「入院中」よりも「死亡前7日間」のほうが多くの処置が行われている状況が明らかになりました。武久洋三会長は「ターミナル期には、介護療養病床であっても、医療療養病床20対1とほとんど変わらないようなレベルの医療を提供しているということは非常に重要である」とコメントしました。
 
 調査では、医療療養病床や介護療養病床で提供された酸素療法やモニター測定など28行為について、「入院中」と「死亡前7日間」を比較。その結果、医療療養20対1で実施された酸素療法は「入院中」が20.9%にとどまったのに対し、「死亡前7日間」は80.6%に上りました。介護療養病床(機能強化型A)について見ると、「入院中」は3.7%とわずかで、「死亡前7日間」は78.0%でした。モニター測定もほぼ同様の分布となっており、医療の内容によっては、「入院中」の全期間の処置よりも、「死亡前7日間」の処置のほうが明らかに多く処置を施行していることが分かりました。
 
 調査結果を受け武久会長は、「介護療養病床では、酸素療法をしても一銭の利益にもならないが、日慢協の会員病院ではきちんとやっている。さすが日慢協会員の介護療養病床だという思いを強くした。『この処置をしたら収益が上がるのか』ということを全く考えていない。そんな会員病院の皆さまに、改めて敬意を表したい」と述べました。
 
 会見で調査結果について説明した池端幸彦副会長は、「介護療養病床であっても必要な医療はきちんと提供していることがデータとして示された。これは非常に貴重なデータである」と強調し、介護療養病床の役割や機能に言及。「しばしば、『介護療養病床では何の医療も提供していない』と誤解されることもあるが、患者の状態に合わせて必要な医療を適切に提供している。診療報酬として計上できない処置を含め、また医療療養病床だけでなく介護療養病床についても、日本慢性期医療協会の病院では、患者の症状に対応して適切な医療を提供していることが分かる」と述べました。
 
 この日の会見には、武久会長と池端副会長が出席。会見で示した5項目のうち、ケアマネジャー関連の提案である1~3については武久会長が、4~5については池端副会長が説明しました。武久会長は、日本介護支援専門員協会の常任理事に就任したことを報告し、「日慢協としても日本介護支援専門員協会をサポートする」との意向を述べました。

 同日の会見で提示された5項目は下記のとおりです。以下、会見要旨をお伝えいたします。会見資料はこちら(http://jamcf.jp/chairman/2016/chairman160721.html)をご覧ください。
 

【7月21日の定例会見の主な項目】
 1. マイケアマネジャー制度の提案
 2. 施設ケアマネジャーの専従化
 3. 専門ケアマネジャー資格認定について
 4. 日慢協会員病院におけるターミナル治療アンケート
 5. 後期高齢者の入院医療費増大への対策
 

■ 日本介護支援専門員協会をサポートする
 
[武久洋三会長]
 本日は、5つの項目についてお話ししたい。私は日本慢性期医療協会の会長を務めているが、実は6月に日本介護支援専門員協会の常任理事になることを要請され、これを引き受けている。

 昨今、ケアマネジャーに対する風当たりが強くなっている。ケアマネジャーの資質の低下を指摘する意見や、ケアマネジャーの存在価値を疑問視する声もある。

 介護保険制度は2000年にスタートしたが、その2年前の1998(平成10)年の10月に、介護支援専門員の資格試験があった。それから毎年、試験が実施されている。最近では、合格率が20%前後と非常に低迷しており、なかなか難しい資格ではある。一方、現場でのケアマネジャーの状況を憂うることもあった。

 私は日本慢性期医療協会の会長のほか、厚生労働省のいろいろな審議会の委員もさせていただいており、非常に多忙ではあるが、このたび要請を受けたので、介護支援専門員協会の常任理事として理事会に出席している。日本医師会常任理事の鈴木邦彦先生は同協会の顧問に就任されている。日本介護支援専門員協会のたっての要望ということもあり、私は常任理事として実務的な面でのお手伝いもさせていただくことになった。

 そこで、本日の1~3の項目は、日慢協としても日本介護支援専門員協会をサポートするという意味で提案したい。
 

■ マイケアマネジャー制度で、入院期間が大幅に短縮
 
 まず、マイケアマネジャー制度の提案について説明する。私はこれまで、「主治ケアマネジャー」という言葉を使ってきたが、ちょっと堅いので、「マイケアマネジャー」と呼ぶことにした。このマイケアマネジャー制度とは、どのような内容であるか。

 すなわち、要介護者はマイケアマネジャーを選択することができる。マイケアマネジャーを選択した要介護者が病院や施設や小規模多機能など居宅以外のサービスを利用するようになった場合には、3カ月間に限って、連携を実施することを前提として、1カ月につき3,000円の介護報酬を与えてはどうか。マイケアマネジャーは利用者が指名し、ケアマネジメントはもちろん、常に介護と医療のサポートをする。このような提案である。

 マイケアマネジャー制度の最大の利点は、要介護者が病院に入院しても、常に在宅復帰への準備のために、マイケアマネジャーが何度も病院を訪問するということ。すなわち、病院での入院期間の短縮が大いに期待できるということである。これは老健局のマターではなく、保険局などを含めた厚生労働省全体として取り組むべき課題であると思う。

 急性期病院における、いたずらに長い入院が寝たきりの原因になっていたり、医療費を増大させている等々、日本の医療も効率化が求められる時代になっている。そうした中で、1人の患者さんに、1人のマイケアマネジャーが付いていれば、見回りに行って医師と話をして、「病状が良くなったようですから、もうおうちに帰れると思いますが、どうでしょうか」と、マイケアマネジャーが主治医に尋ねる。

 このような制度を導入すれば、不必要な長期の入院を防ぐことができて、その結果として入院医療費の大幅削減が可能となる。さらに言えば、急性期病院には十分なリハビリスタッフがいないことが問題であり、急性期病院に長く入院していることによって、寝たきりが増加してしまう。これを防ぐためにも、マイケアマネジャー制度の導入を提案したい。
 

■ 施設ケアマネジャーの専従化は必須である
 
 現在、ケアマネジャーは、1人で39件のケアプランを受諾できるが、マイケアマネジャーの制度とすると、30件のケアプランの上に、居宅以外に移動した要介護者等への支援として別の20名のサポートを行うことができるようにしてはどうか。これも提案したい。

 施設におけるケアマネジャーには介護報酬が付かないこともあって、施設ケアマネジャーは他の業務との兼務が認められている。これは、ケアマネジャーの資質が問われる原因の一つでもある。他の業務と兼務しながら、施設内のケアマネジメントは無理である。在宅復帰に向けたケアマネジメントができるはずもない。

 他の業務と兼任である中で、良質な個別の施設ケアプランを立てて、退所に向けたケアマネジメントをすることなど到底できない。従って、施設ケアマネジャーの専従化は必須であると考える。

 ケアマネジャーはこれまで、資格試験合格後に現任研修や継続研修、主任研修など、いずれも研修さえ受けていれば、試験がないため資質が十分向上していかないと言われている。
 

■ 医療的な知識を十分に備えた専門ケアマネジャーを
 
 専門ケアマネジャー資格認定の制度も提案したい。すなわち、ケアマネジャーの実務経験が5年以上の者を対象として、日本介護支援専門員協会が「専門ケアマネジャー研修」の受講資格を与え、約50時間の研修の後、履修後試験を行い、合格者に専門ケアマネジャーの資格を与える。試験の合格率は約80%程度に設定してはどうかと考えている。

 第1回試験は2019年1月に実施する予定。現在、日本介護支援専門員協会の常任理事会で検討中である。この試験には、日本医師会の協力も得られることになっている。

 医療的な知識を十分に備えた専門ケアマネジャーを、日本介護支援専門員協会が認定する。今までは全部、厚労省が名付けた職名である。例えば「ケアマネジメントリーダー」など、いろいろな呼称があるが、現在は「主任ケアマネジャー」で固定している。この主任ケアマネジャーと専門ケアマネジャーは異なる。スペシャリストという意味で、日本介護支援専門員協会が認定する資格である。

 続いて、4つめの項目の「日慢協会員病院におけるターミナル治療アンケート」と、5つめの項目の「後期高齢者の入院医療費増大への対策」については、当協会の池端副会長からご説明を申し上げる。
 

■ 介護療養病床でも適切な医療を提供している
 
[池端幸彦副会長]
 日慢協会員病院におけるターミナル治療アンケートについて、ご報告する。日本慢性期医療協会は今年6月、当協会の会員1,036病院を対象に、入院患者への医療提供状況や、ターミナルの医療提供状況などについて調査を実施し、367病院から回答を得た。

 ※ 資料はこちら(http://jamcf.jp/chairman/2016/chairman160721.html)をご覧ください。

 入院時やターミナル期において、療養病床を中心とした慢性期医療の中で、どのような医療を提供しているか。まず、資料3ページの「入院患者に提供した医療等(平成28年5月31日時点)」をご覧いただきたい。

01_入院患者に提供した医療等(平成28年5月31日時点)

 1番から28番まで、主な医療行為を挙げている。これらを入院時にどれぐらい提供したのか。死亡退院した場合はどうか。これを比較するためのアンケート調査である。28項目のうち、差が大きかったものを中心にまとめたグラフが最終ページにあるので、13ページをご覧いただきたい。入院患者とターミナルの医療提供状況の比較をグラフに表した。

02_入院患者とターミナルの医療提供状況の比較

 ブルーの棒グラフが「入院中」で、オレンジが「死亡前7日間」である。これを見ると、「入院中」の全期間の処置よりも「死亡前7日間」の処置のほうが明らかに多くなっている医療処置がいろいろある。

 「静脈内注射」「酸素療法」「モニター測定」等は、医療療養病床だけではなくて、介護療養病床でも大幅に多くなっている。「酸素療法」と「モニター測定」については、医療療養病床で7~8割という提供状況で、これは介護療養病床でもほぼ変わらない。介護療養病床であっても、必要な医療はきちんと提供しているということがデータとして示された。これは非常に貴重なデータであると思う。

 しばしば、「介護療養病床では何の医療も提供していない」と誤解されることもあるが、このデータを見ると、患者の状態に合わせて必要な医療を適切に提供していることを示す貴重なデータである。診療報酬として計上できない処置を含め、また医療療養病床だけでなく介護療養病床についても、日本慢性期医療協会の病院では、患者の症状に対応して適切な医療を提供していることが分かる。
 

■ 後期高齢者の入院医療費を「急性期」「慢性期」で示すべき
 
 最後の項目、「後期高齢者の入院医療費増大への対策」について述べる。資料の10ページをご覧いただきたい。後期高齢者になると、外来より入院医療費が多くなるという結果が出ているが、その入院医療費は、急性期病院と慢性期病院でそれぞれどれくらいかの報告がないことを指摘したい。

03_年齢階級別の1人当たり医療費及び平均収入

 これは、平成28年7月14日に開催された第96回社会保障審議会医療保険部会の資料「年齢階級別の1人当たり医療費及び平均収入」である。同部会には、武久会長が委員として出席している。

 棒グラフのブルーの部分は「入院」の医療費、オレンジは「入院外」である。これを見ると、75歳を境にして、ブルーの「入院」医療費がどんどん増えている。一方、1人当たりの平均収入は、60歳以降になると徐々に減っていく。

 ここで問題になるのは、ブルーの「入院」医療費の内訳である。例えば、80歳や90歳の高齢者はどのような病院に入院しているのか。こうした高齢者が急性期病院に長く入院しているということはないか。急性期病院の入院基本料は慢性期病院よりも高く設定されている。従って、ブルーの「入院」の部分を「急性期」と「慢性期」に分けて、データを出していただきたい。同部会では、武久会長がこのような指摘をしている。

 年齢別の入院期間を見ていただきたい。スライド11ページ。

04_年代別にみた入院期間

 右側の棒グラフは、「年代別にみた入院期間」である。多くを占めているブルーの部分は、入院期間が「0~14日」である。一番上の棒グラフ、「75歳以上」の所を見ていただきたい。「0~14日」が最も多くて53.2%、次いで「15~30日」が20.7%、「1~3月」が19.2%となっている。

 このうち、「0~14日」は急性期であるので、75歳以上の半数以上が急性期病院に入院しているということになる。とすると、75歳以上の「入院」医療費を「急性期」と「慢性期」に分けた場合に、どのような数字になるのか。厚労省から追加のデータが示されることを期待する。

池端幸彦副会長平成28年7月21日 後期高齢者が軽度・中度の疾病であっても、高度急性期または急性期に入院することにより、1日約5万円~8万円の入院医療費がかかる。慢性期ならば1日約2万円で済む。

 従って、重度や緊急性の高い疾患以外の後期高齢者の軽度・中度の疾病については、地域包括ケア病棟や慢性期病棟等のケアミックスなどの地域のバックベッドに入院すれば、後期高齢者の入院医療費の大幅削減が可能となると考えている。

 地域のバックベッド病院での治療は、多臓器の身体合併症の多い後期高齢期患者が多い。こうした患者に対しては、専門性が非常に高い高度急性期の臓器別専門医の治療よりも、むしろ総合診療医機能を持つ後期高齢者の治療に習熟した医師が必要となるのではないか。われわれは、こうした領域で力を発揮することのできる病棟、病院でありたいと考えている。
 

■ 地域のバックベッドがきちんと誠意を持って対応する
 
[武久会長]
 遅れて出席された方もいらっしゃるので、私が先ほど述べた1から3について簡単にご説明したい。

 まず、「マイケアマネジャー制度」の提案について。私はこれまで、「主治ケアマネジャー」と呼んできた。1人の患者さんを1人のケアマネジャーをずっとフォローしたほうがいいのではないかと思っている。

 現在、特別養護老人ホームや老人保健施設などに入所するたびにケアマネジャーが変わっていくが、施設が変わるたびにプツンプツンと途切れるのではなく、「マイケアマネジャー」がずっと継続してフォローしたほうがいいと考えている。最大の利点は、マイケアマネジャーが病院を頻繁に訪れることによって、入院期間が短縮して医療費の削減につながることである。

 施設ケアマネジャーについては、兼任に伴う質の低下などを指摘する声もあるため、専従化が必要であろうと考える。

 また、専門ケアマネジャーについては、ケアマネジャーのスペシャリストとして、日本介護支援専門員協会がこのような資格をつくって認定してはどうかと提案している。

 近年、介護と医療の接点であるケアマネジャーの資質をいかに上げるかが課題になっている。今回の提案は、こうした課題に対する一つの対応策でもある。

 それから、池端副会長からご説明を申し上げたターミナル治療のアンケートについても補足したい。介護療養病床では、酸素療法をしても中心静脈栄養をしても、一銭の利益にもならないが、日慢協の会員病院ではきちんとやっている。「さすが日慢協会員の介護療養病床だな」との思いを強くした次第である。「この処置をしたら収益が上がるのか」ということなど全く考えていない。そんな会員病院の皆さまに、改めて敬意を表したいと思っている。

 ターミナル期には、介護療養病床であっても、医療療養病床20対1とほとんど変わらないようなレベルの医療を提供しているということは非常に重要である。

 また、後期高齢者の医療費がグンと伸びる原因について、「慢性期の病院に長く入院しているからではないか」と言われていたが、決してそうではないということもお伝えした。

 必要もないのに高度急性期病院に入って、しかもHCUやICUなど高額なベッドに入院して、家族にも会えないまま最期を迎えるというのは果たしてどうか。医療費の面からも問題があるのではないか。むしろ、軽度や中度の患者さんについては、地域の中のバックベッドである地域包括ケア病棟や慢性期病棟のある病院に入院していただければ、われわれがきちんと誠意を持って対応させていただくという提案である。以上。
                           (取材・執筆=新井裕充)
 

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