第60回社会保障審議会介護保険部会出席のご報告

会長メッセージ 協会の活動等 審議会

日慢協ブログ原稿_第60回社会保障審議会介護保険部会(7月20日)

 平成28年7月20日、第60回社会保障審議会介護保険部会が開催され、武久洋三会長が委員として出席いたしました。議題は、下記の通りです。

 1.軽度者への支援のあり方
 2.福祉用具・住宅改修
 3.その他

◇武久洋三会長の発言
 私は40年前から医療の現場で、制度の移り変わりの経過を見てきた。2000年に介護保険制度が開始する前は、自助、共助、互助、公助という言葉があった。だが介護保険が始まってみると、利用者の公助への期待がどんどん大きくなっていき、ベクトルが公助の改善に向いてしまった。これは、介護する家族の負担が軽減されるということではプラスである一方、費用はかさんでいく。
 介護認定審査会の委員長を16年続けてきたが、介護保険スタート時の頃の審査員は、審査が甘いところがあり、できるだけ有利な要介護度をとらせてあげようという空気があったように思う。もちろん、途中からだんだん厳しくなってきているので、そう簡単にはいかなくなっている。
要支援2から要介護1になるには、認知症があるか、病状が不安定か、この二つが介護認定審査会の基準になっている。ここを満たさなければ、要支援2から要介護1にはなれない。しかし、審査会に提出されるケースの中には、どうしても要支援から要介護に上げるのは難しいケースも含まれてくる。そのような場合でも、要介護に上げてあげようかという雰囲気が、委員の中にあるように思われる。また、要支援1、2であっても、改善して要支援が外れる場合もある。これは非常に喜ぶべきケースなのだが、これまで受けていたサービスが受けられなくなるのは気の毒だから、要支援のままにしてあげたいという意識が働く委員も多いように思われる。
 これまで、要介護、要支援の人が元気になって非該当になったというケースは、どのくらいあるのか。これについては、介護認定審査会にすべてのデータがあるので、資料にできるだろう。非該当に変わるケースについて、私としては、利用者の同居家族の有無が大きく関連していると考えている。軽度者にも訪問サービスを行うのは、本来はおかしい。しかし、要支援者というのは、軽い認知症者も含め、フレイルの状態にある。筋力の低下、関節の可動域の制限、低栄養の3つが大きなポイントになっており、ここが改善しなくては、医学的見地から考えて、要支援状態は改善しえない。では、介護予防のために訪問サービスで何かやっているのかというと、生活支援サービスを提供するばかりで何もやっていない。デイサービス等は、利用者にできるだけ楽しく過ごしてもらおうというのがメインになっている。このようなやり方を変えていくためにも、総合事業化に賛成である。要支援者が集団で一生懸命活動力アップに努め、栄養士の指導が入ったおいしい食事を食べ、フレイルを改善していくということが、女性で12年、男性で9年という平均寿命と健康寿命の差を縮め、要支援者を減少させることにつながっていく。また、要支援、要介護の現状維持だけでなく、良くなっていく人が一定の割合でいてもいいのではないか。これからますます高齢者が増えていくのだから、予算がいくらあっても足りなくなる。メニューの見直しを含め、効率的なサービス提供のあり方について考え直す時期ではないかと思う。

 介護保険制度における福祉用具・住宅改修について、資料を拝見し委員の皆様の意見を聞いていると、いかに悪徳業者をはびこらせないかということが非常に重要なポイントになってくると思われる。平均価格の3倍以上の額の請求がまかり通ってしまうというのは、あまりに常識から外れている。
 もうそろそろ、厚労省で標準となる価格を決めていただかないと立ち行かない時期ではないか。住宅改修で家の中に手すりをつけるような場合でも、様々なデータを調査した上で、1メートルをいくらに設定するかといった何らかのメルクマールを設定していただかないと、今後ますます厳しくなっていくと思われる。
 介護保険制度においては、要支援、軽度の要介護者の方に、できるだけ長く自宅で過ごしてもらうのが最良だと思う。そのためにできることなら何でもするというのが、国であり、市町村のスタンスだろう。その中でどういったやり方がベストであるか考えていかなくてはいけない。
 介護予防、日常生活支援の総合事業化というのは非常に良いことだと思うが、規模の小さい市町村には総合事業化の体力はないので、別の事業所へ委託していくことになると思われる。そうなると、利用者が楽しく過ごすことに重点を置く地域や、厳しく指導する地域といったふうに、地域ごとで特色が出てくるだろう。しかし、この事業そのもののベクトルとしては、繰り返しになるが、筋力アップによるフレイルの改善、低栄養状態の改善、軽度の認知症の改善などである。
私の地元でもすでに介護事業は過当競争になっており、デイサービス、デイケアの送迎車など、20、30台とすべて違う事業所のものが走っている。こうした状況の良し悪しは別としても、介護保険サービスとは、要支援状態、要介護状態の改善のためというのが基本である。この基本に立ち返り、もう一度、適正なサービスを提示していただく必要があると思う。

○第60回社会保障審議会介護保険部会の資料は、厚生労働省のホームページに掲載されています。
 ⇒ http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000130774.html

 

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