「日本に寝たきりが多い理由を考えよう」── 1月14日の会見で武久会長

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1月14日の会見

 日本慢性期医療協会の武久洋三会長は1月14日の定例記者会見で、「日本に寝たきりが多い理由を考えよう」と題する資料を示し、急性期病院の長期入院が及ぼす影響についてデータを示しながら説明しました。武久会長は、急性期病院を早期に退院したほうがリハビリなどの成果が良いことを指摘し、「寝たきりの患者さんを少なくするために、急性期病院は早く慢性期病院に送ってほしい」と訴えました。

 会見で武久会長は、DPC制度の見直しによって急性期病院の平均在院日数がさらに短縮されることを見据え、空床を利用したSNRやMFHなどの考え方を紹介。「病棟を施設に変えなければいけないのは、急性期の競争に負けた一般病棟になる」と見通し、既存の施設を活用すれば「安倍首相が目指す『介護離職ゼロ』のための40万床は、新たな投資をしないで実現できる」と説きました。

 同日の会見には、池端幸彦副会長と矢野諭常任理事が出席。池端副会長は、厚労省の「療養病床の在り方等に関する検討会」での議論を紹介した上で、一般病床の6.4㎡をそのまま移行できるよう主張していく意向を示しました。矢野常任理事は、当協会で実施している「看護師特定行為研修」の進行状況などを報告。研修指導者の養成を進め、研修の質をさらに向上させていく必要性を指摘しました。

 以下、武久会長の説明部分を要約しましたので、お伝えいたします。会見の資料はhttp://jamcf.jp/chairman/2016/chairman160113.htmlをご覧ください。
 

■ 日本は平均在院日数が異常に長い
 

○武久洋三会長
 本日は記者会見の後に新年会を開催する。多くの皆さまにご出席いただき、ありがとうございます。私はちょっと変なことをいつも言うので非常に評判が悪くて、全国の病院長から嫌われているが、言うべきことは言ったほうがいいと思う。本日も、いろいろなお話をさせていただきたい。

 本年は、診療報酬改定の年である。非常に大きな改革が行われようとしている。診療報酬改定に対する日慢協としてのスタンスを皆さんにお伝えするとともに、より広い意味で「医療をどう変えていけばいいか」というファンダメンタルな面も含めてお話をさせていただく。

 本日の会見のテーマは3点。1番目については私から説明したい。聞くところによると、「外国には寝たきりはいない」とか、「北欧にはほとんどいない」などと言われる。日本には非常に寝たきりが多いということだが、それはどういう理由からなのかを考えてみた。

 外国では、食べられなくなったらなんの治療もしないから結果的に早く死んで寝たきりはいないのかなと、単純にそう思っていた。しかし、それはどうも違うのではないかということが最近、明らかになった。そのことについて、最初にお話ししたい。日本は平均在院日数が異常に長い。急性期病院での入院期間を外国並みに短縮した場合、寝たきりは少なくなるのではないかと思っている。

 日本の医療には、良い面もあれば悪い面もある。フリーアクセスは非常に良いが、病床数が多いのはいかがなものかと思う。このほか、「平均在院日数が長い」「外来受診が多い」「寝たきりが極端に多い」「平均寿命が長く、健康寿命との乖離が大きい」などの問題点も指摘される。

 このうち「平均在院日数」について各国のデータを調べてみると、諸外国はみな1けただが、日本は特定除外患者を除いて31日。特定除外患者を含めると40日以上になる。日本の平均在院日数は、諸外国と比べて6~8倍ぐらいになっている。
 

■ 今回のDPCの改革にはどういう意味があるのか

 皆さんは、中央社会保険医療協議会(中医協)の議論を逐一追っている方が多いと思う。では、今回のDPCの改革にはどういう意味があると理解しているだろうか。DPCの入院期間にはⅠ~Ⅲがある。中医協に出されている資料から推論すると、「DPC病院は第Ⅱ期日までに患者さんを退院させなさい」というベクトルを示しているのではないか。

 「第Ⅲ期日まで引き延ばして30の倍数まで入院させるのは勝手だが、それなら点数は下げるよ」と。「第Ⅲ期日まで延々と入院させるならば、急性期病棟とは認めないよ」という明確なメッセージであると思っている。今後は当然、DPC病院だけでなく出来高の一般急性期病院も同じように切り捨てていく政策が進んでいくと思われるので、入院期間が長くなって点数が下がるのはDPCだけではない。入院期間が長くなっても出来高病院は下がらないということはまず考えられない。

 ところで、なぜDPC病院や急性期病院のことを日慢協の会見で話すのか。それは、「寝たきりがなぜ多いのか」という命題に関連するからである。これまで厚生労働省は、「急性期」というものを優遇してきた。特定除外制度はその典型である。われわれ慢性期医療の立場から言えば、慢性期医療でもきちん治療して、慢性期ICUの患者さんを積極的に診ているにも関わらず評価が格段に低い。非常に残念な思いをしてきた。

 特定除外制度の下では、急性期病院に何日でも入院できる。高度急性期病院に300日以上も入院している患者さんがたくさんいる。「急性期」という言葉は心地よいし、7対1や10対1が1病棟しかなくても「自院は急性期病院である」と言うほうがかっこいい。地域住民に信頼されたいと思ったら、「当院は急性期病院である」と言うはずである。このように考える病院が悪いとは思わない。急性期病院のほうが優れているという偏見が常態化しているので、世間が悪いとも言える。

 「急性期病院か慢性期病院か」と言われれば、やっぱり「急性期病院」のほうが聞こえはいい。職員のモチベーションも上がる。従って、昨今のように急性期を絞って地域包括ケア病棟にするとか、10対1に降ろすとか、そういうことを言うと医師や看護師のモチベーションが下がるので、なかなか移行が進まないという現実がある。

 厚労省の保険局医療課は、DPCを改革することによって平均在院日数を極端に短くしようとしている。平均在院日数の短縮は、政府が様々な政策を進める上で非常に重要になってくる。急性期病院での入院期間を外国並みに短縮すれば寝たきりは少なくなる。そうすれば、安倍首相が掲げる「介護離職ゼロ」の実現に向けて、特別養護老人ホーム等を40万床もつくらなくてすむのではないか。
 

■「急性期医療」とは、どのような医療か

 日本の医療システムは非常に優れている。アメリカやヨーロッパのほうが優れているとは決して思わないが、日本は人口が減少している。昨年は亡くなった人が約130万人、生まれた人が約100万人。約30万人も減少しており、これが毎年増えていく。国力が増すわけがない。年間5,000億円がいつまで認められるのか非常に危うい。日本の医療を守りながら、超高齢社会の医療を持続させるには、急性期の入院日数を短縮し、寝たきりを少なくして介護施設の必要性を減らすことしかない。

 では、「急性期医療」とはどのような医療であろうか。私は、委員を務める厚労省社会保障審議会の医療保険部会や、地域医療構想策定ガイドライン等に関する検討会などで、「急性期とはどういう医療か」と厚労省に投げかけているが、明確な答えは返ってこない。中医協のDPC評価分科会などの資料によると、急性期とは「病状が不安定な状態からある程度安定した状態になるまで」と定義されている。ならば、安定しなければ何年でも急性期なのか。それは違うだろう。従って、この定義は不適切ではないか。

 急性期の定義は、病床機能報告制度のどこにも書いてない。では、自院は急性期病院だと、どのようにして判定しているのか。自分の病院が急性期であるか、クライテリアがはっきりしない以上、雰囲気で「急性期だ」と判断して報告するので、急性期医の病院が非常に多い。これはやはり基準を決めないといけないが、医政局もはっきりとは言わない。反対する病院が多いからだろう。なんとなく、ボワーっと広い範囲で「急性期」としている。しかし、DPCの第Ⅲ期日の実質的な短縮を考えれば、医政局から「これが急性期だ」という基準をぜひ出していただきたい。

 急性期の定義は医政局のマターであると思うが、保険局医療課は急性期を入院日数によって規定しようという動きに出てきた。すなわち、入院期間が第Ⅰ期日、第Ⅱ期日までぐらいが急性期であろう。病状のことを言い出すと診療科群分類が問題になるので、日数という基準を出してきた。手術が終了して1週間程度が第Ⅰ期日であり、その辺りが急性期ではないか。
 

■ 急性期病院の入院期間を短縮すれば早期に改善

 急性期病院での処置や手術が終了したら、日常生活に戻れるようにするためのリハビリテーションを実施できる病院に直ちに転院させるべきである。自ら食べて自ら排泄できるようにして、車いす自立を確立すべきである。そうすれば、寝たきりにならずに自宅に戻れる人が増えるはずだ。寝たきりにならずに車いす自立を確立できれば、入院せずにすむ人が増える。

 そのためには、できるだけ早くリハビリを受けられるようにする必要がある。自分で食事をして自分で排泄できるようにするための生活リハビリの効果はすでに示している。こうしたリハビリを早期から進めていくことによって、長期入院を減らすことができる。

 では、こうした考え方にエビデンスはあるか。ポストアキュートの病院で調査したところ、急性期病院での入院期間が短ければ、急性期治療後を受け持つポストアキュートの慢性期病院での入院期間も短いことが分かった。また、急性期病院での入院期間が短いほうが1日当たりのFIM向上点数を示すFIM効率も高いことが分かった。

スライド23──急性期病院での入院日数別
 

 これをさらに細かく1週間、2週間と分けて見てみると、急性期病院での入院期間が短いほど、ポストアキュート病院の入院日数が短くなる。これは非常に大きなデータであると思う。急性期病院での入院期間が1ヵ月、2ヵ月と長期に及ぶ患者さんは、ポストアキュートの病院に移ってもなかなか入院期間が短くならない。
 

スライド24──後方病院での入院日数
 

 FIM効率はどうか。急性期病院に3ヵ月以上入院していた患者さんは、ポストアキュート病院に移ってからFIM効率が良くなる率が低い。
 

スライド25──後方病院での入院時FIM点数
 

 これらのデータを見ると、急性期の治療が終わったらすぐに、リハビリを集中的に実施できる施設に移すべきであると言える。高度急性期病院には、先ほど申し上げたようなリハビリを実施できるスタッフがいない。1日1単位程度のリハビリをしても大した影響はない。リハビリを集中的にできる病院に早く移れば非常に良くなる。

 疾患別に見てみる。脳血管疾患でも、このように明らかな差が見られた。
 

スライド26──脳血管疾患
 

 廃用症候群は神経障害がないので、急性期病院から早期に転院した場合には、このように短期間で改善する傾向が見られる。1ヵ月半ぐらいで在宅復帰を果たす。

スライド27──廃用症候群
 

■ 施設に転換すべきは急性期競争に負けた一般病棟
 
 2040年には、全国の高齢者数が減少する。地方ではすでに減少を始めている。現在、高齢者が急増しているが、減少するまでの20年間を乗り切るためにどうすべきかを考える必要がある。とすれば、新しい施設をつくるよりも、急性期病床の削減によって空いた病床を利用すればよい。

 私は昨年7月の会見で、院内の空床を施設に転換利用するSNW(Skilled Nursing Ward、スキルドナーシングウォード)を提案した。当時は、療養病床の削減によって余った病床をSNWに転換すべきと考えた。ところが、最近の動きに見られるように、厚労省保険局医療課がDPCの改革によって急性期病院の平均在院日数を極端に短くしようという政策をこのまま進めると、慢性期病院よりも急性期病院のほうが困るのではないか。すなわち、病棟を施設に変えなければいけないのは、急性期の競争に負けた一般病棟になるであろう。

 仮に、急性期病院の入院日数を半分にしたとする。当然、慢性期病院に来る患者さんは倍増する。急性期の競争に負けて空床が出たときに、この空床に対して、院内住居であるSNR(スキルド・ナーシング・レジデンス)や、前回の会見でご紹介したマルティプル・ファンクショナル・ホスピタル(MFH)などが必要になる。MFHは、1つの病院の建物内に特別養護老人ホーム(特養)や老人保健施設(老健)などを併存する「多機能病院」である。

スライド34──MFH等

 このような1つの病院の建物の中に、7対1もあれば地域包括ケア病棟も回復期リハビリ病棟もある。特別養護老人ホームや老人保健施設も、「病院型特養」「病院型老健」として6.4㎡のまま認めれば、新しい施設をつくることなく空いた病棟ですべて対応できる。そうすれば安倍首相が目指す「介護離職ゼロ」のための40万床は、新たな投資をしないで実現できる。

 この新しい形は、「垂直型」である。本来、地域包括ケアというのは1病院で完結するのではなく、地域で連携して完結すべきと言われている。すなわち、患者さんが地域のあちこちの病院や施設を回って、地域包括ケアを完成させるという。

 しかし、ご紹介したイメージは、病院内における垂直連携である。今後、地域包括ケアシステムの施設連携は水平型から垂直型に移行していくのではないかと考えている。なぜか。厚労省医療課の急性期削減という政策によって一般病棟が空く。その空いた病棟に、いろいろなニーズを受け止める施設などが入る。病院を倒産させて貴重な社会資源を消失させ、新たに特養などをつくるよりも、大幅な経費節減になるからである。
 

■ 急性期病院は早く慢性期病院に送っていただきたい

 このように、いろいろな提案をしていくことが医療団体として当然の責務であると思っている。お願いばかりしているのではだめだ。データを示したうえで、「こうしたらどうか」と提案していく。私たちのデータは、現場にいない厚生労働省のお医者さんにとっても信頼性が高いデータではないかと思っている。

 急性期病院の入院期間をめぐる問題について、褥瘡割合という観点から見てみたい。高度急性期と急性期病院からの褥瘡の持ち込み状況について調査した。平成22年1月から3月にかけて、高度急性期・急性期病院から入院した3607名のうち、前院での入院期間が判明した患者3507名を対象にまとめたのでご報告する。

 それによると、前院の入院期間が1ヵ月以内の場合には、持ち込み褥瘡患者の割合が7.9%にとどまっているが、6ヵ月以上になると20.0%に上昇する。つまり、急性期病院で褥瘡をどんどんつくっている。それを慢性期病院で必死になって治している。こういう矛盾がある。1ヵ月前後で慢性期病院につないでくれれば、褥瘡をつくることなく早く退院できる可能性が十分にある。

 今後、病床機能報告制度の精緻化が進んで「定性評価」から「定量評価」に移る。そうすると東京都の場合には、「高度急性期」のベッドは1万5000床程度という枠がはめられる。1病院1000床であるとすると、15病院までが「高度急性期」で、16番目の病院は「高度急性期」ではないということになる。ところが、16番目の病院のデータを見てみると、年間8500件ぐらいの手術をこなしている。毎日30件ぐらい手術している。それでも高度急性期病院にはなれない。

 実は、1000床ある大病院のベッドの半分以上は、入院しなくてもいいような、すぐに退院できるような患者さんなのではないか。ずるずる入院させて、3ヵ月を過ぎたら特定除外患者になるのでその前に退院させようかと、こういうことが続くことによって寝たきりが増えている。これが日本の入院医療の現状である。

 以上が、本日皆さんにお伝えしたいことである。急性期病院の入院日数を減らす必要があるということ。

 ところが、昨日の中医協総会で日本医師会副会長の中川俊男委員が「急性期病院の平均在院日数の短縮化はもう限界である」と改めて主張したようである。しかし、「限界である」という証拠を見せないと理解を得るのは難しい。ぜひ、証拠を見せてほしい。

 私が本日ご紹介したように、急性期病院を早く退院したほうがリハビリテーションなどの成果が良い。急性期病院に長く入院しているのは弊害以外の何物でもない。寝たきりが少なくなれば当然、介護施設も少なくてすむ。寝たきりの患者さんを少なくするために、急性期病院は早く慢性期病院に送っていただきたい。これを強くお願いして、私のお話を終わりにしたい。

                           (取材・執筆=新井裕充)
 

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