「多機能病院(MFH)」を提案 ── 12月10日の定例会見で武久会長
日本慢性期医療協会の武久洋三会長は12月10日の定例会見で、1つの病院の建物内に特別養護老人ホーム(特養)や老人保健施設(老健)などを併存する「多機能病院(MFH、マルティプル・ファンクショナル・ホスピタル)」という考え方を提案しました。
「地域完結型」から「施設完結型」へ──。武久会長は、「患者さんが地域の中の病院をぐるぐる回るのは果たしてどうなのか」と疑問を呈し、7対1病床の削減に言及。「病院側にとっても施設完結型のほうが望ましい。急性期病床の締め付けが厳しくなって空床ができる。その空いた病床に、いろいろな機能を備えさせたほうが国の財政的にも好ましいし、患者さんにとっても便利である」との考えを示しました。以下、会見の要旨をお伝えいたします。
※ 会見資料は、http://jamcf.jp/chairman/2015/chairman151210.html
[池端幸彦副会長]
ただいまから、今年最後の定例記者会見を開催する。では武久会長、お願いいたします。
[武久洋三会長]
今年も残りわずかとなった。昨日の中医協では、大変厳しい内容が示された。急性期病院を締め付ける。さらに、慢性期の病院の施設化に向けたダイナミックな議論が展開されている。
こうしたなか、当協会として要望は出さないが、提案はどんどん出していきたい。今回の定例会見は、今年最後の提案ということになる。4つある。
【本日の内容】
1.SNR、HCFについて
2.MFHについて
3.2016年度改定への日慢協のスタンス
4.特養急増設への提案
■ SNR、HCFについて
[武久会長]
現在、病床機能報告制度の機能区分では、「高度急性期」「急性期」「回復期」「慢性期」──の4つだが、病院の機能に着目すると、高度急性期が急性期であって、急性期以降のいろいろな機能を持った病院は「多機能病院」という形に整理できるのではないか。
すなわち、マルティプル・ファンクショナル・ホスピタル(MFH)である。そして、専門病院はスペシャル・ホスピタル(SH)で、整形外科だけ、あるいは産婦人科のみを標榜する専門的な医療機関のほか、療養病床だけを運営する病院もSHに含まれる。
このように、医療機能ではなく、病院機能という切り口で分類すると、多くの病院が「多機能病院」になるのではないか。では、多機能病院として、どのような類型が考えられるか。「急性期型多機能病院」と「慢性期型多機能病院」の2つに分かれるだろうと考える。
さらに今後は、病院に「施設」としての機能が加わることになる。病院内施設として認めてもよい機能を挙げたので、ご覧いただきたい。
介護療養型医療施設が廃止された後の転換先は、ホスピタル・ケア・ファシリティー(HCF)となる。また、SNW(スキルド・ナーシング・ウォード)も病院内施設となる。当初、私たちはSNWを「施設」として提案していたが、現在は「住居」を想定したほうがいいと考え、SNR(スキルド・ナーシング・レジデンス)としている。このほか、老健や特養、グループホーム、ケアハウスなどを挙げた。これらを病院の中に入れてはどうかという提案である。
■ MFHについて
皆さんが取材で目にすることも多いと思う。病院の建物の周囲に老健や特養があり、病院とつながっている。病院の建物と同じ敷地内にあり、病院と一体化している。平面的につながっている。これらが1つの建物の中で縦につながっていてもかまわないだろう。
すなわち、病院という大きな建物の中に、外来、手術・処置、7対1、地域包括などが同居する。かつて「地域完結型」と言われたが、安倍政権になってからコスト・パフォーマンス、費用対効果の考え方が重視される傾向になっている。コスト・パフォーマンスから考えると、患者さんが地域の中の病院をぐるぐる回るのは果たしてどうなのか。
病院側にとっても、このような施設完結型のほうが望ましい。急性期病床の締め付けが厳しくなって空床ができる。その空いた病床に、いろいろな機能を備えさせたほうが国の財政的にも好ましいし、患者さんにとっても便利である。こうした考え方は当協会の理事会でも承認を得ている。一考に値する考えではないだろうか。
■ 2016年度改定への日慢協のスタンス
各種団体から様々な要望が出されているが、私たちは決められた方針に誠実に従っていく。最終的に決めるのは厚労省。国民のために適切に大胆に改定してほしいと思っている。われわれはそれに協力する。
できれば、重症度の高い患者さんを受け入れている医療機関や、頑張って成果を出している医療機関を評価してほしい。メリハリの効いた改定にしてほしいと思う。
■ 特養急増設への提案
政府は、「介護離職ゼロ」という目標に向けて、特養などの整備を進めるという。2020年代の初めまでに約40万人分を整備する計画がすでに示されている。国民が最も希望しているのも、終のすみかである特養である。
では、老健は今後どうなるのか。老健の中で希望する施設は、特養への転用を認めてはどうかと考えている。現在、老健は在宅強化型が少なく、滞在型がまだまだ多い。特養への入居が決まるまで老健に滞在し、特養が決まったら出て行く。残念ながら、老健は特養待機者の一時的入所に利用されているのが現状である。
介護離職を防ぐために特養を急増させるのであれば、何よりも速効性が重要であるので、特養への転用を認めてはどうかと提案したい。その場合、社会福祉法人化してもいいし、医療法人が特養を運営可能にする方法もある。
医療と介護の垣根を取り外し、医療と介護が一体化した機能が1つの病院内にあれば、患者さんは地域の中の様々な医療機関を移動しなくてもいい。安心して暮らすことができる。ターミナルを迎えても、同じ建物内にいる当直医がすぐに駆けつける。看護師も各病棟にいて、すぐに対応できる。医師がいない特養では、ターミナルに対応できない。しかし、患者さんやご家族は、安心して療養できる場所を希望している。
一方、病院のベッドは社会的入院をなくしていく。これは当たり前のことである。空いたベッドは特養に転換し、老健も特養に転換していけば、特養を急増させることができる。現在、いろいろな機能を持つ老健がある。その中で、希望する老健を特養に転換すれば、介護離職は減っていくだろう。
以上、述べたことをまとめると、1つの病院の建物の中に医療・介護・福祉の機能があり、そこの病院にさえ行けばとりあえず地域医療は完結するという方向性が望ましい。その地域内に高度急性期病院があれば、ほとんどの患者さんに対応することができる。このような新たな提案に対し、いろいろと異論があるかもしれない。今後さらに議論を深めていきたいと思っている。
■ 療養病床の在り方について
[池端副会長]
介護療養型医療施設と医療療養病床25対1の転換先などについて、療養病床の在り方等に関する検討会で議論が進められている。現在、「医療内包型」と「医療外付型」の2類型を軸に検討している。
このうち介護療養型医療施設の機能強化型A・Bは「医療内包型」を想定していると思われる。「医療外付型」は「住まい」であり、当協会が提唱しているSNRもこの「医療外付型」であり、当協会はこうした方向性に賛成している。
財源については、「医療内包型」は介護保険で、「医療外付型」の中の医療に関しては医療保険となるだろう。介護療養型医療施設について、病院の病床として残してほしいとの声が会員から聞かれるが、大きな流れを考えると、かなり厳しいのではないかと感じている。
むしろ、先ほど武久会長がおっしゃったように、1つの病院の建物の中に様々な機能を一体化させ、住まいの機能などを強化していく方向で進めていくべきではないかと考えている。
(取材・執筆=新井裕充)
2015年12月11日