オンラインST外来の保険適用を ── 定例会見で橋本会長
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日本慢性期医療協会は12月11日の定例記者会見で「オンラインST外来の保険適用を ~地域偏在を解消し言葉のリハビリを受けられる社会へ~」と題して見解を示した。橋本康子会長は「言語・高次脳機能障害患者の社会復帰を支援するため、外来リハビリにおけるオンラインSTの提供を促進すべき」とし、オンラインST外来の保険適用を提案した。
会見で橋本会長は「失語症や高次脳機能障害の改善には、2~3年を要するケースがあり、退院後のリハビリ支援が欠かせないが、外来での実施回数は少ない」と指摘。STが不足している地方ではST外来の受診が難しい状況にあることを説明し、「オンラインSTは長期支援や提供不足への解決方法となり得る」と説明した。自院での症例を報告し、「生活支援にもオンラインSTは有効」とした。
この日の会見には、池端副会長が出席。病院経営に関する調査結果などを踏まえ、「病院への2026年度診療報酬改定率については、10%超が必要」と訴えた。池端副会長は、インフレ下における低水準の診療報酬改定率が病院経営に与える壊滅的ダメージについて模式図を用いて説明。“水面下”に沈んだ病院経営を立て直し、「医療崩壊を回避するためには水面上までの隆起が必要」と強調し、「10%」の根拠を示した。
会見の要旨は以下のとおり。なお、会見資料は日本慢性期医療協会のホームページをご覧いただきたい。
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改定率は10%超が必要
[矢野諭副会長]
本日の会見では、最初に池端副会長から「次期診療報酬改定に関する日本慢性期医療協会の対応」について説明していただき、続いて橋本会長からオンラインST外来の保険適用に関する提言を示す。
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[池端幸彦副会長]
病院団体では現在、各方面へ要望を行っている。その説明などに用いている資料に若干の補足を加えて日慢協としての対応を述べたい。
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まず、2026年度改定では、物価上昇に対応できる改定率が必要である。医療提供コストは年々上昇しており、物価高騰が続く状況下では、医療従事者の給与を他産業と同程度に引き上げることが困難である。
補正予算において約5,800億円の措置をいただいた点は大変ありがたいが、あくまで一時的な対応にとどまる。したがって、2026年度の診療報酬改定率については、10%超が必要である。病院団体としても、この改定率の実現を強く要望していく。日本慢性期医療協会としても同様の立場であり、地域医療を維持するためにも、十分な改定財源の確保を求める立場である。
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赤字病院割合が大幅に増加
四病院団体協議会が実施した2025年度病院経営定期調査(2025年11月26日)の結果を示す。本調査は、厚生労働省が実施している医療経済実態調査とは別に、四病院団体協議会として独自に取りまとめたものであり、有効回答数は約1,500病院である。
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調査結果によれば、2024年度は医業利益・経常利益ともに赤字病院の割合が大幅に増加している。医業利益率はマイナス7.5%、経常利益率はマイナス3.3%となり、いずれも前年と比較して大幅に悪化した。2023年度と2024年度の比較では、医業利益率がマイナス6.7%からマイナス7.5%へ、経常利益率がマイナス1.2%からマイナス3.3%へと、いずれも大きく悪化している。
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病院類型別に見ると、一般病院、療養・ケアミックス病院、精神科病院のいずれにおいても、2024年度は経常利益率が赤字に転落している。救急手術を担う一般病院はもとより、回復期医療を提供する病院、さらに慢性期を主に担う療養・ケアミックス病院、精神科病院のいずれも、医業利益だけでなく経常利益も赤字に陥っている状況である。
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また、開設主体別に見ても、国立病院、自治体病院、公的病院、医療法人いずれにおいても2024年度は経常利益率が赤字である。特に民間の医療法人においては、経常利益率がマイナス0.8%となり、赤字に転落している。
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地盤の大隆起が必要
インフレ下で低水準の診療報酬改定率が病院経営に及ぼす影響を示した図である。これは、我が国経済がインフレ局面に入り、物価上昇との関係性が医療提供体制にどのように影響するかを模式的にまとめたものである。縦軸は病院の経営状況を示し、水面より上が黒字、下が赤字である。横軸は時間の経過を示す。
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我が国の医療提供体制は診療報酬という公定価格により運営されているため、インフレによる物価上昇や人件費上昇の影響を直に受け、医療提供コストは時間とともに悪化していく構造となっている。現在の経営状況から推計すると、人件費は年率4%、物価上昇率は年3%であり、医療提供コストは年間3.1%上昇することが示されている。時間の経過とともに病院経営が徐々に海底へ沈んでいくような状況となるのはこのためである。現状、病院経営はマイナス3.3%の赤字であり、全国の病院が水面下に沈んでいる状態である。このまま赤字が継続すれば経営破綻は避けられず、地域医療の崩壊につながる危機的状況だ。
令和7年度補正予算では物価・処遇改善として5,800億円の措置が講じられたが、現在の医療費総額が48兆円であることから、これは約1.2%分に相当する。一時的に隆起したように見えるものの、根本的な解決には至らず、時間が経てば再び地盤沈下が進行する。したがって、2026年度診療報酬改定では、今回の補正を踏まえてもなお、水面上へ押し上げるだけの大幅な隆起が必要である。次期改定まで医療を持続させるには、水面を大きく超える改定率が必要である。
10%超の改定率を確保すれば医療崩壊の危機を回避できると考えられる。適切な診療報酬改定率によって地盤を大きく隆起させる必要がある。
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経営努力には限界がある
2026年度診療報酬改定において病院が必要とする改定率は10%である。その根拠を以下に示す。
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まず、現在の病院経営はマイナス3.3%の赤字である。我が国では2022年以降、物価および人件費が上昇し、その結果、計算上では病院の医療提供コストが6.2%増加している。しかし、病院側の必死の経営努力により、その悪化幅は3.0%に抑えられている状況である。とはいえ、この努力にも限界があり、現場は既に逼迫している。努力してもなお3.0%悪化している部分は、2024年度までの物価・賃金・人件費の上昇に対して、診療報酬上の対応が全く追いついていないことを意味する。
さらに、2025年度においても物価上昇は継続しており、病院経営は悪化し続けている。今年度は物価対応分として0.8%の経費増が生じている。また、他産業では賃上げが進む中、病院では同等の処遇改善ができていない状況である。人事院勧告水準の改善を行うためには、最低でも追加で1.5%相当の財源が必要となる。
加えて、次回2026年度改定では、2026年および2027年の2年間における物価・賃金上昇に対応する財源が必要となる。医療提供コストは1年目に3.1%、2年目に6.2%上昇するため、その平均である約4.7%分を見込む必要がある。 さらに、医療技術の革新に伴い、新たな手術や検査を導入するための財源として0.3%が必要である。これまで我が国の医療は診療報酬改定により技術革新を堅実に取り入れてきた経緯があり、今回も同様の対応が求められる。
以上の要素を合算すると、病院医療を維持し、安全かつ質の高い医療を提供し続けるためには、2026年度診療報酬改定において10%を超える改定率が必要であると結論づけられる。
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急性期医療を支えるためにも
現在、病院団体では各方面に対して積極的に訴えを続けている。担当者が手分けして永田町にも足を運び、次期診療報酬改定に向けた要望を重ねている。本日の内容は病院団体としての総意であり、日慢協としてもこの流れの中で10%の改定率を求めている。報道関係の皆さんの支援もあり、病院経営の厳しさについて理解を示す議員が以前より増えていると感じている。特に医療系メディアの皆さんの報道によるところが大きく、深く感謝している。
一方で、「急性期病院だけを助ければよいのではないか」という声も散見される。しかし、現在の医療提供体制や新たな地域医療構想を踏まえると、急性期病院だけの支援では医療体制は成り立たない。急性期病院は急性期医療にしっかり特化し、その後方は回復期、包括期、慢性期の医療が確実に支える必要がある。こうした下支えがなければ急性期医療も維持できない。診療報酬体系についても、この方向性に沿って見直しの流れが進んでいることは周知のとおりである。
私は10月まで中医協の委員を務めていた。現在の議論は、新たな地域医療構想に寄り添いながら、医療をいかに効率的に提供するかという流れの中にある。その中では、急性期病院は急性期医療に特化し、それ以外の医療機関は急性期を支えるために、効率性を意識した慢性期あるいは包括期医療を提供していく方向性が示されている。こうした観点から、日慢協としても、病院に十分な診療報酬を付けていただかなければ医療崩壊は目前に迫っているという危機感を強く訴えていく必要があると考えている。
本日、当会では本年最後の理事会を開催した。理事からも同様の危機意識が多数示された。補正予算が成立しても、それは一時的な止血にすぎず、根本的な解決には程遠い。大きく開いた穴を埋めるためには、今後のさらなる抜本的な改善策が不可欠であるという点を重ねて強調したい。もう時間がない。この1週間が勝負。極めて重要な局面であると私たちは認識しており、引き続き全力で取り組んでいく。以上、次期診療報酬改定に向けた総括的な説明としたい。
[矢野諭副会長]
続いて、橋本会長からプレゼンテーションしていただく。
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今回の提言について
[橋本康子会長]
池端副会長から総論的な説明があった。私からは「オンラインST外来の保険適用〜地域偏在を解消し言葉のリハビリを受けられる社会へ〜」という提言について述べる。
本提言の目的は、長期にわたる言語能力獲得支援の確保と、STが不足する地域における外来リハビリ受診の促進である。脳卒中などにより発話が困難になる患者は多く、そのリハビリは3カ月や半年といった短期間ではなく、年単位で継続する必要がある。当院においても、患者と家族が通院しながらリハビリを続けている。その際、「発話が改善するには1年から2年を要するが、少しずつ必ず良くなるため、長く継続することが大切」と説明している。長期的な言語能力獲得支援が不可欠である。
ST人材は地域によって大きく偏在している。STが不足する地域では外来リハビリの受診そのものが困難であるという課題がある。この問題を解消したいと考えている。オンラインによるSTリハビリが保険適用されれば、地域偏在の解消にも大きく寄与すると考える。オンラインSTの保険適用を求めたい。
アウトカムは、就労支援を重視した社会復帰である。発話が改善すれば、就労や社会参加の可能性が大きく広がるため、社会復帰を見据えた言語リハビリの推進が重要であると考えている。以下、詳しく説明する。
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言語療法は長期支援が必要
失語症や高次脳機能障害の改善には、一般的に2年から3年を要するケースが多い。そのため退院後のリハビリ支援が欠かせないが、外来での実施回数は極めて少ないのが現状である。
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SLTA総合評価法(書字、発話、言語理解)における最高到達点までの平均経過月数を見ると、回復期リハビリテーション病棟の平均は4.0カ月(入棟まで34日、入棟期間83日)である。一方、脳血管障害による「基底核伸展損傷例」では36.5カ月、「広範病巣例」では35.1カ月を要するなど、病巣の種類によっては2年から3年の長期にわたり改善まで時間を要する。このため、失語症のリハビリは長期支援が不可欠である。
脳血管疾患等リハビリテーション料(ST)の算定回数について全国データを見ると、入院では月1,400万回算定されている一方、外来では約100万回にとどまっている。外来STは入院の約7%にすぎず、外来で十分なSTが提供できていない状況が明らかである。外来STが提供されていない理由としては、そもそも外来で言語聴覚療法を行う施設が少ないこと、さらにSTの絶対数が不足していることが挙げられる。
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ST人材の不足と地域偏在
STはPT・OTに比べて有資格者数が少なく、配置されている施設も限定されている。このため地域偏在が顕著であり、STによる支援が「提供できない」「受けられない」という状況が生じている。
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職種別に病院・診療所の従業者数を見ると、PTは約10万人、OTは約5万3,000人である一方、STは約1万8,000人にとどまる。STの有資格者数自体は約4万3,000人であり、病院・診療所で勤務しているのはその半数以下である。女性の割合が高いため家庭に入っている可能性や、教育分野など別業種に従事している可能性も考えられる。
従業者数1万8,805人のうち、病院勤務は1万7,703人であるが、診療所で勤務しているのは全国でわずか1,102人という状況である。都道府県別の従業者数や人口10万人あたりの従業者数を見ても地域間格差は非常に大きく、特に地方ではSTの数が著しく少ない。では、外来STが存在しない地域ではどうすべきか。その1つの解決策として、オンラインによる外来ST提供が必要になると考えている。
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外来STのオンライン提供
オンラインSTは、長期的な支援が必要な患者や、提供体制が不足している地域における有効な解決策となり得る。国内では自費による提供事業者が既に存在し、米国では適切な提供モデルとして位置付けられている。
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現在、情報通信機器を用いた診療としては「D to D」や「D to P」などがあり、診療報酬上でも評価されている。一方で、オンラインSTは主に医療機関以外の事業者が自費で提供しているのが現状である。今回の提言は、「D to D」や「D to P」と同様に、オンラインSTにも診療報酬上の評価—すなわち点数を設けるべきであるという内容である。
米国言語聴覚協会は「テレプラクティスは聴覚・言語療法の適切な提供モデルであり、主たる実施としても対面の補完(ハイブリッド)としても用い得る」と明確に示している。テレプラクティスとは通信技術を用いた言語聴覚療法であり、米国では広く実施され、多くの文献で有効性が示されている。
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症例:就労支援へのオンラインST
ここで症例を示す。当院はリハビリテーション専門病院であり、これまでに約10例のオンラインSTを実施している。その中から1例を紹介する。
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症例は、もやもや病によって失語症を呈した女性である。発症後、当院の回復期リハビリテーション病棟に22日間入院し、その後は外来リハビリを継続した。 リハビリ内容は、復唱やニュースの聞き取りによる聴理解強化、呼称訓練や漫画説明などによる喚語練習である。発話が十分にできず、生活の自立も難しい状況が続いたため、1年2カ月後、ご実家のある沖縄へ戻られた。しかし、沖縄には外来でSTを受けられる施設がなかったため、オンラインSTを開始した。訓練は週1回程度の実施であった。
オンライン訓練を継続することで、徐々に会話能力が向上し、LINEでの文章表現も改善した。映画字幕への理解も進み、日本映画の内容も把握できるまでになった。発症から2年4カ月ほど経過した頃、障害者雇用枠ではあるが一般企業への就労が可能となった。50歳前後の患者であったが、十分な回復を得て社会復帰に至った例である。就労には機能改善に加え、できること・できないことへの具体的な対応が必要であり、オンラインSTは実生活の支援にも有効である。
オンラインSTを実施するには、安定したWi-Fi環境、患者または家族のPC・タブレット操作能力、日常会話を理解できる程度の聴理解などが前提となる。また、物品を使用しない訓練であること、徒手的評価や対面での介入を必要としない内容であることが求められる。
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オンラインSTの対象と意義(私見)
安全確保の観点から、オンラインSTにおける対象患者と対象行為を明確にする必要がある。これは地域偏在の是正や長期支援の確保に加え、在宅ST人材の活用可能性を広げる意義も持つ。
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オンラインSTの対象となる患者は、退院直後や生活期などの慢性期にあり、医師やSTが対面で症状を把握し評価できていることが前提である。入院中に医師の診察を受け、STによる訓練が行われている患者であれば、既に対面で状態が把握されているため、オンライン移行の安全性が担保できる。一方、初診からオンラインのみで実施するのは安全面から適切ではないと考える。また、患者本人や家族がテレビ会議システムを操作できることは必要条件である。
オンラインSTで扱う行為は、非接触で完結する言語・高次脳機能障害へのリハビリテーションである。例えば、失語、発話、構音障害、言語理解、就学・就業に関する会話訓練などはオンラインでも安全に実施できる。一方、摂食嚥下に関しては危険性を伴うため、相談や食形態の助言までは可能であるが、嚥下評価や訓練をオンラインで行うことは適切ではない。
オンラインSTの意義としては、まず公平性が挙げられる。すなわち、STが存在しない地域の患者に医療アクセスを提供できる点である。次に継続性である。退院後フォローを含む長期的なリハビリ支援がオンラインにより確保される。さらに効率性として、退職後の在宅STの活躍の場を創出し、また患者の交通費などの負担軽減にもつながる。そして有効性として、就労支援を含む社会復帰の促進、QOLの改善、適切なアウトカム指標の設定など、オンラインSTがもたらす効果は大きいと考えられる。
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オンラインST外来の保険適用を
まとめとして、オンラインSTが保険適用になればいいと考えている。言語障害や高次脳機能障害を抱える患者の社会復帰を支援するためには、外来リハビリにおけるオンラインST提供を促進する必要がある。オンラインSTの推進は、ST人材の掘り起こしにつながる。有資格者の半数がリハビリ業務に従事していないが、オンラインであれば在宅でも可能となり、新たな人材活用につながる。
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オンラインSTは有用性の高い手段であり、適切な体制整備のもとで積極的に提供されるべきである。STの長期支援と地域偏在の解消につながることが期待される。
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2025年12月12日















