有料老人ホーム、「質の向上も検討すべき」── 介護保険部会で橋本会長

会長メッセージ 協会の活動等 審議会

橋本康子会長_20250317介護保険部会

 有料老人ホームの適正化に向けた方策などを議論した厚生労働省の会合で、日本慢性期医療協会の橋本康子会長は、要介護度の重い高齢者が増加している状況などに言及した上で、「専門的なケアや看護、医療の関与が非常に重要になる」と指摘し、「質の向上なども含めた規制のあり方を検討すべき」と述べた。

 厚労省は3月17日、社会保障審議会(社保審)介護保険部会(部会長=菊池馨実・早稲田大学理事・法学学術院教授)の第118回会合を開催し、当会から橋本会長が委員として出席した。

 この日の主なテーマは、前回会合に引き続き「2040年を見据えた地域包括ケアシステムの推進」について。前回2月20日の部会では相談支援、認知症施策の推進などを議論。今回は高齢者向け住まいをテーマに課題や論点を示し、委員の意見を聴いた。
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住まいは地域包括ケアシステムの前提

 厚労省は同日の会合に「地域包括ケアシステムにおける高齢者向け住まいについて」と題する110ページの資料を提示。参考資料を除く主な構成は、▼Ⅰ. 介護を必要とする高齢者向け住まい、▼Ⅱ. 住まいの確保が困難な事情を抱える高齢者への住まい支援──の二本柱。
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 このうち、前半のⅠについては、新たな検討会を立ち上げる方針を説明。夏頃までに意見を取りまとめた上で本部会に報告し、「必要に応じ、次期制度改正に向けた議論につないでいく」としている。

 検討会での議論に先立ち、この日の部会には「不適切な運営を行う事業者に対する規制や指導監督」「入居者に対する過剰な介護サービスの提供(いわゆる囲い込み)への実効性のある対応」などが論点に挙げられた。
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 後半のⅡでは、養護老人ホーム・軽費老人ホームの認知度向上や都道府県の役割・支援などが論点に挙がった。
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 厚労省の担当者は「住み慣れた地域で自分らしい暮らしを人生の最後まで続けることを目指す地域包括ケアシステムは2040年に向けて深化を図る必要があり、住まいはその前提となる。本日は、住まいについて、ご議論いただきたい」と意見を求めた。

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過剰なサービス、「報酬体系の見直しも」

 質疑で、伊藤悦郎委員(健康保険組合連合会常務理事)は「有料老人ホーム等が介護需要の受け皿となっていくことは必要だが、施設等の増加に伴い、不適切な運営や過剰なサービス提供がある」と指摘。「介護事業者に対する規制の強化、あるいは運営基準、設備基準の厳格化、不適切な事象への対応などを幅広く検討していただきたい」と求めた。

 鳥潟美夏子委員(全国健康保険協会理事)は「高齢者1人ひとり必要な介護サービスもそれぞれであり、医療や認知症、独居など多様なニーズを抱え、そのニーズも年齢とともに変化していく中で、多種多様な住まいが増加していることは望ましい」としながらも、「多様なサービスがあるがゆえに適切なサービスの選択肢が必要になること、いわゆる『囲い込み』が指摘される実態は改善していく必要がある」と述べた。

 その上で、鳥潟委員は「過剰な介護サービス提供の問題について実態把握や改善指導の実効性の確保、報酬体系の見直しについて議論し、透明性の高い運用が担保されるべき」との考えを示した。

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「囲い込み」の定義は難しい

 江澤和彦委員(日本医師会常任理事)は「介護保険ルールを逸脱していない『囲い込み』の定義というのは、なかなか難しい」と指摘。「過剰であっても駄目で、過小でも駄目なわけだが、このあたりについて、あるべき姿を模索していく必要がある」とし、「長年のかかりつけ医やケアマネジャーが近隣にいるのであれば継続して、お願いすべき」との認識を示した。

 いわゆる「囲い込み」の問題について、東憲太郎委員(全国老人保健施設協会会長)は「例えば、同一建物・同一法人のデイサービスや訪問介護ばかりが使われていて、リハビリが必要な方に通所リハや訪問リハの医療系サービスの提供がないようなことが考えられる」と説明した。

 その上で、東委員は介護給付費分科会で過去に実施されたヒアリング時の資料を紹介。「サ高住に入居されている方のサービスにおいて、訪問リハのサービスがゼロであった」とし、「高齢者向け住宅において、どのようなサービスがどのくらい提供されているのか等のもう少し詳しい詳細なデータを示していただきたい」と求めた。

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多くの事業者は真面目にやっている

 小林司委員(連合総合政策推進局生活福祉局局長)は「介護報酬改定の議論では、入居者への医療、看取りへの対応をどうするかが課題であった」と振り返り、「死亡による契約終了が一番多いが、それ以外の理由はないのか」と指摘。「例えば、本人の意思とは異なり退去せざるを得なかった場合がないのかについては、今後も丁寧に見ていく必要がある」と述べた。

 山際淳委員(民間介護事業推進委員会代表委員)は「一部の事業者において不適切な事例はあるだろうと思うが、多くの事業者は真面目にきちんとやっているだろうと思われる」と理解を求めた。

 その上で、山際委員は「利用者の状態像を踏まえて、自立支援の観点から適切なサービスがきちんと行われているかどうかを点検することが必要だろう」と指摘。「量や質が本当に適切なのか、検討会ではこの点でも議論を深めていただきたい」と述べた。

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サービスの質について議論を

 山田淳子委員(全国老人福祉施設協議会副会長)は高齢者住まいの入居者像の変遷に言及。「2014年から24年までの10年間で90歳以上が増加し、要介護度も重度化が進んでおり、死亡退去が半数を占めている」とし、「ケアの内容や看取りの機能について、より専門的な適切な関与が必要であり、質の検証も求められるのではないか」と指摘した。

 石田路子委員(NPO法人高齢社会をよくする女性の会理事)も「90歳を超える方々や認知症の症状が出ている方が当たり前に多い」とし、「老人ホームという名前を掲げている限りは、内容の規制をしっかり受けなければいけない」との考えを示した。

 江澤委員は「これまで集合住宅の減算やペナルティの議論は数多くあったが、中身について、肝心のサービスの質について、自立支援するかどうか、どのようなサービスがふさわしいのか。引き続き議論をお願いしたい」と述べた。

 橋本会長は「チェックできる仕組みや制度が十分に整備されていないのが現状」と指摘。身体拘束や虐待の問題に触れながら、「質の向上なども含めた規制のあり方を検討すべき」との考えを示した。橋本会長の発言要旨は以下のとおり。

【橋本康子会長】
 これまでの委員が述べた内容とほぼ同じであるが、高齢者向け住まいについて考える際、8ページ(高齢者向け住まいの概要)および14ページ(高齢者住まいの入居者像と整備状況に関する変化や特徴)に示されているように、90歳以上の高齢者が多く、要介護度3から5の利用者が多い現状がある。
 このような状況においては、認知症に対する専門的なケアや看護が必要である。また、ホスピスや疾病特化型の施設も近年増加しており、看取りの終末期ケアが求められる。特に疾病特化型の施設では、医師や医療の関与が非常に重要となる。
 しかし、これらの点を実際にチェックできる仕組みや制度が十分に整備されていないのが現状である。その結果、身体拘束の問題や、さらに進んで虐待の問題に発展するケースも見受けられる。そのため、こうした課題について今後検討を進める必要がある。
 また、さまざまなタイプの施設が次々と登場しており、それらを適切に管理・監督する仕組みを考える必要がある。一方で、介護サービスはサービス業である以上、競争原理が働くことで質の向上などのプラス面も期待できる。その辺も含めた規制のあり方についても検討しなければならない。

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外国人介護人材、「幅広い支援を」

 この日の部会では、外国人介護人材の訪問系サービスへの従事について、これまでの検討経過や改正の概要などの報告があった。
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 訪問介護員等の人材不足の状況などを踏まえ、厚労省は2023年7月に「外国人介護人材の業務の在り方に関する検討会」を設置。7回の議論を経て昨年6月に報告書をまとめた。同検討会では、当会事務局長の富家隆樹常任理事が構成員として議論に参加した。

 新たに受入対象となるサービスは、訪問入浴介護など。小多機については、「現在実施している老人保健健康増進等事業の結果を踏まえて、今後別途検討」としている。
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 報告を踏まえた質疑で、江澤委員は「現在、カンファレンスへの参加やアセスメントの作成には日本語の問題等もあって外国人介護人材が参加しづらい状況になっている」と指摘。「1人訪問で行くようになるのであれば、そのあたりを含めた幅広い支援をお願いしたい」と要望した。

 橋本会長は体調管理や健康面の支援などについて見解を述べた。

【橋本康子会長】
 現在、私どもも外国人人材を受け入れており、施設や病院などで受け入れが進んでいる。その際、感染症の検査は行われていると思われるが、国ごとにC型肝炎のキャリアが多い場合や、結核の発症例が見られることがある。来日後に治療が必要となるケースも少なくない。
 特に在宅訪問介護や訪問入浴介護、訪問介護においては、利用者の自宅を訪問することになるため、感染症の管理について一層の注意が求められる。
 病院であれば、看護師など専門職が多数おり、体調管理が徹底されるが、訪問介護ではそのような管理が難しくなる。この点についても考慮すべきであると考える。

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