要介護認定、「見直しの時期も検討を」── 介護保険部会で橋本会長
要介護認定の迅速化に向けた方針が示された厚生労働省の会合で、日本慢性期医療協会の橋本康子会長は「急性期病院で治療を受けた後、要介護度1のまま介護医療院に入所して亡くなるケースも少なくない」と指摘し、「見直しの時期も今後は検討すべき」と述べた。
厚労省は12月9日、社会保障審議会(社保審)介護保険部会(部会長=菊池馨実・早稲田大学理事・法学学術院教授)の第115回会合を開催し、当会から橋本会長が委員として出席した。
厚労省は同日の部会に「要介護認定の認定審査期間について」と題する資料を提示。今年6月21日に閣議決定された「令和6年規制改革実施計画」の関連事項を紹介した上で、「今年度中に措置する2つの事項について、ご議論をいただきたい」と今後の方針を示した。
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認定審査期間の平均値を公表
規制改革実施計画に示された「a」については、「認定審査期間(認定申請日から二次判定日まで)等について、都道府県毎及び保険者毎の一覧表として厚生労働省HPにおいて公表する」との方針を示した。
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質疑では、自治体の担当者から「単に日数を羅列するだけでなく、現在、置かれている要介護認定に係る状況を十分に分析した上で、各保険者がなぜ認定に日数を要しているのかなどの課題や、その解決に向けた国としての取組も付して公表していただきたい」との要望があった。
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主治医意見書の取得に時間がかかる
実施計画の「b」については、多くの意見があった。厚労省は資料の中で「市町村の担当者が感じる要介護認定事務の課題」を提示。それによると、最も多かったのは「主治医意見書の取得に時間がかかる」(92.6%)、次いで「認定調査の実施までに期間を要する」(52.8%)、「認定調査の内容確認に時間がかかる」(51.9%)──などだった。
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その上で、認定審査期間の各段階における目安となる期間について、全市町村と認定審査期間の平均が30日以内の市町村とを比較した表を提示。それによると、30日以内の市町村では、「主治医意見書所要期間」が約5日短く、「認定審査期間」では約2週間の開きがあった。
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30日以内となるような目安期間を設定
厚労省はこうしたデータを踏まえ、「認定審査期間が30日以内となるよう、目安となる期間を設定し、公表する」とした上で、「認定審査期間が30日以内となるような、認定審査の各段階における目安期間について、どのように考えるか」との論点を挙げた。
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委員からは「原則30日とされている審査期間について、多くの自治体で大幅に超過している状況が常態化していることは利用者・介護事業者双方にとって大きな問題であり、その解消に向けた取組は大変重要」と賛同する意見があった一方で、「郵送に時間がかかる」「オンライン会議で合理化を促進してほしい」「主治医意見書の情報量を工夫すべき」など課題を指摘する声もあった。
また、自治体の担当者から「全国の保険者は実情に即して努力しながらも、現実には30日以内に収めることが困難であり、介護保険法の施行から4半世紀が経とうとする今日、法定日数自体を見直すことも視野に入れた検討も考えられる」との意見もあった。
橋本会長は、主治医意見書の内容を見直す必要性を指摘したほか、要介護認定制度の課題に言及。救急搬送されて急性期病院で治療後に要介護認定の見直しが間に合わないまま介護医療院などで早期に死亡するケースを念頭に、「要介護認定を見直す時期も検討すべき」と述べた。
【橋本康子会長】
30日以内に収めるために主治医の意見書をもう少し早く書くという点については、デジタル化やペーパーレス化を進めていくための検討が今後なされていくと思う。
今回は、実施計画の a と b についての議論だが、今後は、d や f などに示された措置がなされることを踏まえて、検討していくべきと考える。
例えば、主治医の手元に来るまでに郵送などで時間がかかる、また書いた後に郵送する時間もかかっている現状がある。そうした面での改善も含めて見直さなければいけないと思う。
また、主治医意見書の内容自体について、私が認識している限りではあるが、20年間変わっていないのではないか。例えば、診断名、発症日、ADLや認知症の状態など、そういったことを全て書かなければいけない。これらを主治医が把握しているのは当たり前のことだが、全て細かく書く。食事の状態、ADLなど、全部書かなければいけないので、非常に時間がかかってしまうということもあるのではないか。そのため、他のデータなどから転用できる項目については、それで補えるようにするなど、主治医意見書の内容の見直しも今後、検討の中に入れていただければいい。
また、要介護認定の期間については、30日以内に収まっていない自治体が多いという状況のほかにも課題がある。例えば、病状的に急性期の病院で手術や治療をされたり、がん、脳梗塞の発症など、いろいろある。その後、慢性期の病院、回復期の病院、リハビリの病院、療養病床などに転院をしたり、施設に退院されたりするが、急性期の病院で介護保険を見直すということは、ほとんど意識にないように思う。急性期の病院で治療している間に要介護申請の見直しがされることは今の時点では、ほとんどなくて、その後、慢性期医療や在宅期、施設など、介護保険を使わなければいけないとなった時点で見直しが始まる。そこのところが、30日という議論とは別に、全く間に合っていない。介護医療院では、ターミナル、終末期の状態の場合、要介護度1のまま介護医療院に来られて亡くなるということもある。そうした場合、見直しの時期を急性期の病院でも行うことを今後は検討すべきではないか。
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仮名化情報の利用・提供を可能としてはどうか
この日の部会では、医療等情報の二次利用の推進に向けた対応方針(案)についても議論があった。
厚労省は「医学・医療分野のイノベーションを進め、国民・患者にその成果を還元するためには、医療等情報の二次利用を進めていく必要がある」との考え方を示した上で、「医療等分野の研究開発を促進していくため、次の対応を進めていく」とし、3項目の対応方針(案)を示した。
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介護レセプトデータ等について、「仮名化情報の利用・提供を可能としてはどうか」とした上で、「介護レセプトデータ等の仮名化情報と、他の公的DBの仮名化情報や次世代医療基盤法の認定作成事業者のDBの仮名加工医療情報との連結解析を可能としてはどうか」などの方針を挙げている。
資料によると、元データの生年月日が「2003/7/26」のケースについて、匿名化情報では「2003/7」だが、仮名化情報では「2003/7/26」となる。また、収縮期血圧が「211」の元データは、匿名化情報では「201以上」だが、仮名化情報では「211」となる。
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質疑では、「匿名化・仮名化の違いなどを国民にわかりやすく説明いただくよう、お願いしたい」との要望などがあった。橋本会長は匿名化情報と仮名化情報の取扱いの違いについて質問した。
【橋本康子会長】
匿名化と仮名化の違いがわかりやすいのは17ページにお示しいただいた図だと思うが、ビッグデータの中に匿名化と仮名化のデータの両方が入っているという理解でよろしいか。例えば、それらのデータを取得して活用したい場合には、いずれかを選んで活用するのだろうか。
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【厚労省担当者】
データベースの構築はこれからになるが、仮名化データの提供は今のデータベースとは別のものをつくって、その中にデータを入れて、そこから出していきたいと考えている。
そのため、研究者の方々が申請するときには、「こういう研究をしたいので、これは仮名化データで提供してほしい」と言っていただいて申請していただくことになる。そのときに、その仮名化データでないとできない研究なのかについては、審査の体制の中できちんと審査させていただくと考えている。
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【橋本康子会長】
審査して、これは匿名化でも可能であると判断した場合には、匿名化データを提供することになるのか。
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【厚労省担当者】
その場合は、匿名化データでの提供をするということを考えている。
2024年12月10日