訪問リハ、「縛りがある」 ── 定例会見で橋本会長

会長メッセージ 協会の活動等

橋本康子会長_2023年4月13日の日慢協会見

 退院後に実施する訪問リハビリテーションについて日本慢性期医療協会の橋本康子会長は4月13日の定例会見で「通院が困難な人という縛りがある」と指摘し、入院中や外来でのリハビリと比べて手薄になっている現状を説明。寝たきり防止に向けて「早期集中型訪問リハビリ」を推進すべきと提案した。

 会見で橋本会長は、患者の生活環境でリハビリを実施することの重要性を強調。充実した訪問リハによって患者の状態が改善した事例などを紹介し、除外規定(通院困難者)の撤廃や、退院直後の十分なリハビリ量の確保などを求めた。

 橋本会長はまた、訪問リハの質の確保に向けて、リハビリの成果などを可視化する仕組みの必要性を指摘。アウトカム評価の導入や一定の資格保有者の評価などを提案した。

 橋本会長の説明は以下のとおり。なお、会見資料は日本慢性期医療協会のホームページをご覧いただきたい。

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訪問リハを有効に活用すべき

[池端幸彦副会長]
 それでは、日本慢性期医療協会の定例記者会見を開始する。新年度が始まり、同時改定に向けた本格的な議論がスタートする時期である。そうした中で、本日は橋本会長から提案を含めたプレゼンテーションをしていただく。

[橋本康子会長]
 4月の定例記者会見を始めたい。今回はリハビリテーションについて、「訪問リハビリテーションの充実」の側面に焦点を当てて話したい。

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 本日の内容は「訪問リハビリテーションの実践的活用法」について。「早期集中型訪問リハビリの可能性」という観点から説明する。現行の訪問リハビリテーション制度をより有効に活用する実践法に関して考え方を共有したい。

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02_2023年4月13日の日慢協会見資料

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 また、訪問リハビリの課題についても言及し、「リハビリの場所」「リハビリの量」「リハビリの質」という観点から考察したい。

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回復期から維持期・生活期

 訪問リハビリテーションは回復期以降、在宅で生活する通院困難な患者や利用者に対し、主に機能維持を目的として提供される。

 リハビリテーションの役割分担についてイメージ図をご覧いただきたい。

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 回復期リハビリが医療保険の対象であり、その後に介護保険が適用される。通所リハや外来リハも存在するが、ここでは訪問リハビリテーションに焦点を当てて考察したい。

 現在、訪問リハビリテーションの対象者は医療保険と介護保険の両方で利用が可能であるが、介護保険を選択した場合は介護保険が優先される。医療保険と介護保険の対象者には「通院が困難な人」という縛りがある。

 すなわち、医療保険では、「疾病、傷病のために通院してリハビリテーションを受けることが困難な者」、介護保険では「通院が困難な利用者」となっている。

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ミスマッチが生じている

 訪問リハビリテーションは、在宅生活への復帰や維持を目的とするが、その在宅では実施できていないケースがあり、ミスマッチが生じている。

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 病院リハビリと訪問リハビリの違いは、場所や目的においても生活の場でのリハビリに十分な「量」が実施されていない点にある。

 病院リハビリでは1日3時間など十分な時間が確保できるが、退院後の訪問リハビリでは週2時間や週4時間程度になることが多い。また、長期継続は減算されるため、継続支援が不十分であると言える。

 訪問リハビリの質については、アウトカム評価が十分に行われておらず、勤続年数評価のみが考慮されているため、質の確保が不十分であると考えられる。

 以下、リハビリの「場所」「量」「質」について説明する。

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退院後のエピソードに対応する

 リハビリの場所について考える。退院後の生活を軌道に乗せるためには、自宅や職場など実際の生活場面での課題を見つけ、それらを解消するためのリハビリが必要である。

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 入院中は集中的なリハビリが行われ、ADLが向上し、退院後は自宅で生活できるようになる。しかし、実践の場である自宅において、リハビリの「量」や「質」が十分に担保されていないことが問題である。

 実際、退院直後に問題が顕在化するため、この時期の訪問リハビリが最も有効である。

 自宅や地域での生活課題を抽出し、解決するため、退院直後に短期集中型で早期に訪問リハビリを実施することが今後の取り組みとして重要である。

 訪問リハビリは、外来リハビリが終了して社会生活を送ることができる高齢者にも利用されることがある。

 退院後、高齢者は自宅で再発することがある一方、ボランティア活動や旅行などの希望もある。そうしたエピソードに対応するための訪問リハビリが必要となる。

 当院の例だが、退院後に北海道へのボランティア活動を希望している患者がいたが、車椅子だった。そのため、車椅子の使用時に必要な動作のリハビリを実施した。このようにリハビリの組み合わせを個別に調整するケースもあるため、退院後の訪問リハビリが重要である。

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生活環境でリハビリを

 退院後支援として、外来リハビリは手厚くなった。実践の場である訪問リハビリにも集中的に実施する施策が望まれる。

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 退棟後のリハビリの必要性は認識されている。厚労省の調査によれば、地域包括ケア病棟では34.5%、回復期リハビリ病棟では57.5%となっている。

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P6左_2023年4月13日の日慢協会見資料

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 しかし、診療報酬では外来での疾患別リハビリが算定可能となっているものの、訪問リハビリには適用されていない。

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P6右_2023年4月13日の日慢協会見資料

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 訪問リハビリの実施目的について、当院で患者や家族から聞き取りを実施した。退院後に不安を抱えている人が多いことがわかる。

 トイレへの移動などADLの維持や改善を望む人が約5割近くいる。一方、IADLの獲得を望んでいる人は5割以上である。

 具体的には、自宅に帰ってからの自転車やバイク、自動車の運転、電車利用、買い物、子どもの送迎、調理や洗濯などを挙げている。また、自宅や職場の環境設定や旅行などの要望もある。

 ADLだけでなく、生活の質を向上させるためのIADLも訪問リハビリを実施する目的として重要な要素になる。患者の生活環境でリハビリを実施することが最も重要であり、これがリハビリの特徴であると言える。

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回復期や外来のリハに大きく劣る

 リハビリの「量」について考える。訪問リハは維持レベル。回復期リハや外来リハに比べて大きく劣る。

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 入院中は1日あたり3時間程度のリハビリが可能である。また、退院後の外来リハビリでは1日あたり2時間程度のリハビリが実施できる制度が存在する。

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P7左_2023年4月13日の日慢協会見資料

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 ところが、訪問リハビリでは週2時間程度と大幅に短縮される。右側のグラフを見てほしい。

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P7右_2023年4月13日の日慢協会見資料

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 訪問リハの開始から6カ月後のADL変化を示した。緑の部分が「0点」である。要支援でも要介護1や2の状態でも、約半分の患者が「0点」で変化がないことがわかる。機能の維持がやっとである。

 機能が向上している患者もいるが、多くは維持レベルにとどまっている。もちろん維持も重要だが、人材不足や医療・介護費の厳しい状況を考えると、できるだけ効果的な訪問リハをもっと実施して、寝たきりにならないようにリハビリの量を増やす必要がある。

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入院中のリハと同等の効果

 以下では、訪問リハの可能性を示す症例を取り上げたい。単に機能の維持だけでなく、改善が見込まれる状況を示すことが目的である。入院中と同じ量の訪問リハを実施した。当院では「在宅入院」としている。

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 症例1は、小脳梗塞で重度の体幹失調のある62歳の男性患者。医師やリハビリスタッフが頻繁に訪問し、リハビリを実施した。

 回復期リハビリ病棟に入院した当初は重度の障害を抱えていたが、入院中のリハビリでFIM点数が20点から52点まで向上した。

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 その後、肺炎で一時的に機能が低下したものの再び上昇し、訪問リハでも同様の効果が得られている。この症例から、在宅訪問リハビリが入院と同等の効果をもたらす可能性があることがわかる。

 十分なリハビリ量があれば、入院リハと同等の効果が期待できる。訪問リハを改善の場とすることは可能である。

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訪問リハでも十分な効果

 症例2は80代の女性。気管カニューレを留置し、呼吸も困難であった。急性期病院の退院後、回復期リハ病棟を経由せずに直接、訪問リハに移行した症例である。

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 訪問リハで3カ月後には調理が可能となり、5カ月後には石垣島への旅行も実現している。

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 入院中のリハビリでも同様の結果が得られると考えられるが、訪問リハでも十分な効果があることが示されている。

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言語聴覚士の介入で栄養改善

 症例3は、退院後に嚥下リハビリなどを実施した場合である。入院時の指示が自宅で実践できているか。食事の指導をはじめ、訪問リハでは、それらを確認する機能もある。

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 訪問リハでは言語聴覚士がいない場合もあるが、症例3は言語聴覚士が介入したケースである。

 入院時にはとろみのある嚥下食を摂取していたが、退院後の訪問リハで柔らかい通常食を摂取できるようになった。

 特に、食事に要する時間が1時間近くから20~30分に短縮されたことが重要だ。これによりQOLが向上し、栄養状態も改善され、介護負担も軽減された。訪問リハによって十分な効果が得られることが示されている。

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認定資格とアウトカム評価で

 最後に、リハビリの質について触れたい。入院時と同等の効果を在宅リハビリで実現するためには、リハビリの質が重要である。訪問リハは担当者による個別の施術が中心となるため、技術の差が大きく影響する。

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 訪問リハの事業所は小規模である。職員数は平均してPTが3人弱、OTが1人程度、STがほとんどいない状況のため、学べる環境や指導体制が十分に整っているとは言い難い。

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 ストラクチャー評価については現在、介護保険では勤続3年や7年以上で加算が付くが、技術と年数は必ずしも正比例しないため、年数だけで評価するのは適切ではない。

 そのため、例えば各療法士の学会や協会が認定する資格を持っている人に対して加算を付けるという考え方があってもいい。

 アウトカム評価については指標がない。ADLが向上しないまま漫然と続けるのではなく、成果に応じた点数が得られるような仕組みが必要である。

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家庭や地域の環境に適したリハビリを

 まとめると、必要なときに必要な量のリハビリを実施できる早期集中型の訪問リハビリが望ましい。

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 退院直後は患者が不安を抱えるため、ADLやIADLが低下しないように「早期集中型訪問リハビリ」を推進すべきである。

 訪問リハビリの最大の特長は、ご自宅で実施できること。家庭や地域の環境に適したリハビリの実施が可能になるのが大きな利点であり、そうした方向に進めていく必要がある。

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                          (取材・執筆=新井裕充) 

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