災害対応、「現場がすぐ動けるように」 ── 診療報酬の取扱い等で池端副会長

協会の活動等 審議会 役員メッセージ

2024年1月10日の総会

 能登半島地震による被災への対応策が示された厚生労働省の会合で日本慢性期医療協会の池端幸彦副会長は今後に向け、「診療報酬上の対応等に関する雛形を事前に示しておいて、現場がすぐに動けるようにしてはどうか」と提案した。

 厚労省は1月10日、中央社会保険医療協議会(中医協、会長=小塩隆士・一橋大学経済研究所教授)総会の第577回会合を開催し、当会から池端副会長が診療側委員として出席した。

 厚労省は同日の総会で、被災に伴う診療報酬上の対応について1月1日から7日にかけて発出した事務連絡の内容を報告。保険証がなくても受診できることや被災地からの転院受け入れなど、やむを得ない場合の柔軟な取扱いを示した。

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支援活動は長期にわたる

 質疑で、診療側の長島公之委員(日本医師会常任理事)は「医療関係者はこれからも全力で支援に取り組むが、支援活動は長期にわたることが見込まれる」とし、「被災者や医療機関等の状況に応じた柔軟な対応や支援をこれからも迅速に検討していただきたい」と求めた。

 支払側の鳥潟美夏子委員(全国健康保険協会理事)は厚労省から発出された事務連絡の周知に努めていることを伝え、「引き続き状況の把握などをして連携に努めてまいりたい」と述べた。

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迅速に対応していただいた

 福井県医師会長として支援に尽力している池端副会長は被災地の深刻な状況などを伝えた上で厚労省の対応を評価。「特別な措置などで非常に迅速な対応をしていただいた」と謝意を示した。

 その上で池端副会長は、今後に向けた課題を提案。「例えば、プランAやプランBなど『診療報酬上のBCP』のような対応を発災前に準備して知らせていただければ、現場としては動きやすい」と述べた。

【池端幸彦副会長】
 1月1日、私は隣の福井県で震度5強と大きく揺れて、当院の壁も傷んだ。県内の15病院ほどで一部断熱したり水道が破裂したり、あるいは電気が通らなかったりしたが、幸い大きな被害にはならなかった。現在、県の災害支援として石川県の能登方面で活動している。
 非常に厳しい状況である。七尾までは行けるが、その先の輪島・珠洲・能登地方はまだ道路が寸断されていて、自衛隊等の車がなかなか通れない。DMATは入っているが、JMATは七尾までで待機状況になっていることが多い。
 被災地には入れないため患者さんを被災場所から出すしかないということで、自衛隊のヘリを使って、小松空港や福井空港に患者の搬送が始まっている。そうした中で、今回、診療報酬上の特別な措置を講じていただき、非常にありがたく思う。当県でも71歳から97歳の45名を受け入れているが、いずれも要介護者の方々で、そうした患者さんが災害拠点病院に入って満杯になってきている。そのため、地域包括ケア病床や療養病床など要介護状態の患者さんを受けられる病院へと、さらに2次搬送しなければいけない状況だ。
 こうした災害が発生したときに、災害地以外の医療機関で迅速に受け入れるために今回のような特例措置などで対応していただいた。医療区分や施設基準等、あるいは派遣する看護師のために人員配置が一時的に少なくなることに対しても特別な措置があった。発災当初は不安が大きかったが、非常に迅速な対応をしていただき、心から感謝を申し上げたい。
 そこで事務局に質問したい。最近、地震などの災害が頻繁に起こっている。今回のような診療報酬上の対応は、災害規模の大小があるとしても、当然、その都度、実施しなければならないと思うが、対応に関する雛形がすでに事務局で準備されているのかどうか。例えば、災害の規模に応じて「プランA」「プランB」「プランC」というような形で準備しておいて、発災後すぐに「今回はプランAを発出する」「プランBを発出する」というようにしてはどうか。診療報酬上の特別な措置については、ある程度の雛形があるのではないか。
 もしそうであれば、「診療報酬上のBCP」みたいな形で、発災前に示ししておいて、「今回の対応はこのプラン、その後の微調整は中医協総会などで議論する」という方向で対応していただいたほうが、私たちもすぐに動ける。「この規模であれば、こういう診療報酬上の取扱がなされる」と各医療機関に説明して、迅速に動くことができる。そういう雛形のようなものはすでに準備されているのだろうか。

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【厚労省保険局医療課・眞鍋馨課長】
 災害対応の際に報酬上どのような特例を取り扱うかということに関しては、昨今の地震や台風による災害の多様な経験が生かされてきており、事実上、私どもとしては、発災あるいは被災したときに、どのような事務連絡をまずどの段階でお出しするか、そして被害の状況を見極めながら、この程度であれば、ここまでというのは、そういった、われわれの中で蓄積された経験則に基づく対応というのは事実上、できていると考えている。
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【池端副会長】
 そうであれば、それは事前に、平時から、ある程度、お知らせしておいて、「こういう場合はこういう方法でいくので、ぜひ、すぐに対応してください」と伝えておいたほうが、現場としてはすごく動きやすい。今後、ご検討いただきたいと思う。

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アクセルとブレーキを同時に踏むのか

 この日の総会では、次期改定に向けて医療従事者の賃上げと入院医療を中心に議論した。
 
 このうち、賃上げ対応については昨年12月21日と今年1月4日の2回にわたる分科会での検討結果を報告した上で、「医療機関等における職員の賃上げについて(その1)」と題する資料を提示。診療報酬上の評価方法や賃上げの状況の把握等について論点を示した。

 質疑で診療側は、補てん不足が生じた場合の追加的な仕組みなどを要望。支払側は確実に配分される仕組みや検証の必要性を強調し、「別立ての加算」などを要望した。

 続いて「入院(その10)」の議題では、看護必要度や医療区分の見直しに向けたシミュレーション結果が示され、支払側は「7対1の重点化」などを改めて主張した。

 池端副会長は賃上げ対応と入院医療の適正化について「アクセルとブレーキを同時に踏むことになる。同時に踏んだら両方の効果がなくなる」と指摘し、慎重な対応を求めた。池端副会長の発言要旨は以下のとおり。

■ 医療機関等における職員の賃上げについて
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 長島委員、太田委員がおっしゃったように入院・外来医療等の調査・評価分科会での資料等を踏まえ、入院に関しては、150以上の複数の入院基本料で対応することがよいのではないかという印象を持っている。
 その上で、報告をどうするか。論点では、賃上げの実績について一定の報告を求めることや、賃上げ状況の把握などを挙げている。この件に関して、病院や診療所の先生方から多く聞く声がある。ベア2.3%、大臣折衝事項に盛り込まれた「ベア+2.5%」や、今回の試算に用いられた「ベア+2.3%」を必ず担保しなければいけないことを非常に危惧されている先生方が多い。
 報告制度で必要なことは、加算による収入がきちんとその職員に配分されているかを把握することであり、確実な配分を担保することが目的ではないか。2.5%、2.3%、2.0%の賃上げがなされたかという実績を把握するよりも、むしろ確実に行き渡っているかを把握する制度と捉えるべきだ。それぞれの医療機関の事情があるので、必ずしも2.5%、2.0%のベースアップができるわけではないことを理解していただきたい。
 病院等の先生方からは「できるだけ簡便な報告制度にしてほしい」という声も多く聞く。いただいた加算分はきちんと職員に配布することがわかる設計で、簡便な報告制度にしていただくことを要望する。

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■ 重症度、医療・看護必要度等の見直しについて
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 先ほどの賃上げ対応の議題では、医療従事者の処遇改善や賃金上昇に向けて、いろいろな手立てで努力していただき、ある程度の方向性が見えたと思う。特に病院等の医療機関の方々にとっては、何とかして、しっかりと賃金上昇に結びつけようという意欲が湧く内容であろう。 
 一方で、今回の入院医療の資料を見ると、病院の根幹に関わる病床の施設基準等が大きく変わってしまうような、変えなくてはいけなくなってしまうような提案がなされている。先ほど長島委員、太田委員もおっしゃったように、このままでは7対1病床の削減だけにとどまらず、10対1に落とさなければいけない病院もあるだろう。それでも、なおかつ医療従事者には2.5%、2.0%の賃金アップをする。これが果たして、どう考えられるだろうか。 
 いわゆるアクセルとブレーキを同時に踏むことになる。アクセルとブレーキを同時に踏んだら両方の効果がなくなる。アクセルの効果も抑えるし、ブレーキの効果もなくなることになるので、慎重な対応をお願いいしたい。
 第一に優先すべきことは医療従事者に対する処遇改善である。他産業に劣らないように、一般企業と同様に近い賃金まで上昇させて、働く意欲を増してもらうことが先決だと思う。まず、それをやってから、そして徐々に機能分化等も進めていく。もちろん同時並行しなければいけない面もあるとはいえ、アクセルとブレーキを同時に踏むべきではない。したがって、看護必要度等については多くの病院が対応できるような基準にとどめておくべきだ。極論かもしれないが、令和8年度改定まで2年間の経過措置を設定するなど、徐々に様子を見ながら進めないと、医療従事者に対する賃上げにすら対応できなくなってしまう医療機関が続出する。賃上げした医療機関、賃上げできない医療機関との間で不公平感が出てしまうことを非常に危惧する。
 医療経済実態調査の結果で示されたように、令和5年度の推計値ではあるが病院全体として10%の赤字。施設基準等がさらに厳しくなって、さらに赤字が増える医療機関が続出するようでは、日本の医療提供体制、特に入院医療提供体制については、かなり厳しい状況になる。こうした状況も踏まえ、十分慎重に検討していただきたい。

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