第3回「令和6年度の同時報酬改定に向けた意見交換会」 出席のご報告

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池端幸彦委員(日本慢性期医療協会副会長)_2023年5月18日の意見交換会

 厚生労働省は5月18日、「令和6年度の同時報酬改定に向けた意見交換会」の第3回会合を開き、当会から池端幸彦副会長、田中志子常任理事が出席し、意見を述べた。池端副会長は中央社会保険医療協議会、田中常任理事は介護給付費分科会の委員を務めている。

 意見交換会は今回が最終回。テーマ6の「人生の最終段階における医療・介護」、テーマ7の「訪問看護」について、厚労省が示した「検討の視点」を中心に委員が意見を述べ、最後に中医協の小塩隆士会長、介護給付費分科会の田辺国昭分科会長が感想を述べて閉会した。

 今後に向けて、池端副会長は「3回の議論を介護報酬、診療報酬にどのように落とし込めたかを検証することも重要」と指摘し、「6年後を待たずに、こういう意見交換会等を開催してほしい」と要望。田中常任理事は障害部門と連携を進める必要性を強調し、障害福祉サービス等報酬の関係者も交えた検討を求めた。

 池端副会長、田中常任理事の発言要旨は以下のとおり。

【池端幸彦副会長】
 今回で意見交換会はいったん終了となり、介護報酬、診療報酬を議論する場でそれぞれ検討することになる。3回にわたり私も非常に勉強になった。感謝を申し上げる。
 次の同時改定は6年後になると思うが、医療と介護の連携に関する議論は同時改定に限らず常に必要であり、常に情報共有しなければいけないことだと思う。 
 3回の議論を踏まえ、介護報酬、診療報酬にどのように落とし込めたかを検証することも非常に重要ではないかと思うので、もし機会があれば、6年後を待たずに、検証も含めて、こういう意見交換会等を開催していただくことを要望する。

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【田中志子常任理事】
 3回にわたる意見交換会は大変勉強になった。感謝を申し上げる。日頃、認知症の方々を診ている中で、障害分野との連携を進める必要性を感じている。若年者の認知症、また初期の認知症の方々の就労支援については、これまでも発言したように障害部門との連携が不十分であり、医療・介護のみにとどまる連携が目立っている。「認知症があったら障害サービスは利用できません」と言われることもある。
 障害部門と連携を進める必要があると感じている。障害分野の方々の参加についてもご検討いただきたい。こうした意見交換会の開催を今後も引き続き検討していただきたいというのは池端委員のおっしゃるとおりで私も賛成である。

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人生の最終段階における医療・介護について

 テーマ6では、「意思決定に関する情報の共有」が検討の視点に挙がった。池端副会長は「日々、意思決定について考える機会を設けることが大事」とし、「外来受診の際などに話し合う取り組みを支援するような報酬体系ができればいい」と提案した。

 田中常任理事は、認知症を抱える人を診療している日々の経験から「意思の疎通が困難な状況下での看取りが多い。家族の意思を一本化できない場合も多い」と伝え、「本人の意思が聞き取れない場合の在り方をもっと明確につくる必要がある」と述べた。

【池端幸彦副会長】
 本人の意思が確認できない場合、先ほどのご説明にもあったように多くは家族に意思決定が委ねられる。これはアンケート調査でも明らかだ。私の経験からすると、家族に意思決定を求める場合、本人ではなく家族の意思が中心になってしまうケースがある。
 そのため、本人が意思表示できない場合には医療・ケアチームと家族が一緒に話し合い、「本人ならどう考えるだろう」と想像して意思決定を進めるべきだ。あくまでも主体は本人であることを意識する必要がある。現場で混乱する場合があるため、それをしっかり啓蒙する必要がある。
 意思表示ができなくなってから急に意思決定を迫られても困難であるため、日々、意思決定について考える機会を設けることが大事だ。例えば、外来を受診している際に「もしものとき、どう考える?」という話を医師と患者あるいは家族の間で持ち出す。そうした取り組みを繰り返し、病状が変わるたびに再度考える。これが本来あるべき姿ではないかと思うので、そうした取り組みを支援するような報酬体系ができればいいと感じている。

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【田中志子常任理事】
 慢性期の疾患や認知症を有する方々においては、何度も指摘があるように意思の疎通が困難な状況下での看取りが多い。患者さんの居場所は地域包括ケアシステムにのっとって移動していく。慢性期病院にいらっしゃったときには既にご本人からの聞き取りが困難で、データにあるように医師が患者さんからの聞き取りを取っているのが20%というような数字にならざるを得ないのが現場の実情であると思っている。 
 一方、アドバンス・ケア・プランニング、ACPは欧米から入ってきた考え方であり、本来では本人の意思の確認が重要とされている。元来、考えられてきたこのアドバンス・ケア・プランニングにそぐわない、本人の意思の聞き取りが困難なケースが多く、現場は大変なジレンマを感じている部分がある。 
 また、死生観や宗教感も欧米諸国とは違うと思う。先ほど池端委員がおっしゃったように、ご家族への聞き取りといっても、ご家族がなかなか一本化した考えでない場合も多く、現場は混乱をきたしている。 
 アドバンス・ケア・プランニング、ACPということではなく、改めて超高齢者が世界のどこよりも多く看取り期に入る我が国ならではの看取りを模索していく中で、本人の意思が聞き取れない場合の在り方をもっと明確に考える必要があると思う。
 例えば、ご本人の意思がしっかりとされている段階で、誰もが意思を表明できるような、そういった国民感情の育成をどうしていくのかをきちんと考えていく必要があるのではないか。

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緩和ケアの提供について

 テーマ6では、「緩和ケアの提供」も検討の視点に挙がった。池端副会長は「非がん患者の緩和ケアも非常に重要」とし、医療用麻薬の使用を促進する方策が必要であると指摘した。

【池端幸彦副会長】
 最近、非がん患者の緩和ケアも非常に重要であると感じている。がんに対する麻薬等の使用はかなり進んでいるが、欧米各国と比較すると使用量は少ないと言われている。
 しかし、非がん患者についても、例えば心不全の重度末期の状態や閉塞性慢性肺疾患の末期の状態などで呼吸困難に苦しむような場面では、少量の麻薬が有効であることが確認されている。
 このため、麻薬の使用を進めていきたいが、介護施設における実施は困難で、医師や看護師が外から入ろうと思っても、がんの末期以外は関わることができない状況にある。非がんの緩和ケアに対して何らかの処置が必要なケースがあると思われるので、これも検討の課題であろう。
 麻薬に対する抵抗や悪いイメージが根強いという問題もあるため、そこを取り除く啓蒙活動も必要ではないか。
 今後は治療と緩和ケアを同時に行う姿勢が必要である。治療が終わってから緩和ケアに移行するのではなく、両者を並行して進める必要性を感じている。

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訪問看護について

 テーマ7について田中常任理事は「在宅の看取りで訪問看護が重要な役割を果たす。看取り期に訪問看護をもっと利用しやすくする必要がある」と提案。「在宅酸素療法をコロナ以外の急性疾患でも直ちに算定しやすくすることなど、在宅分野の医療保険の拡大が望まれる」と述べた。
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田中志子委員(日本慢性期医療協会常任理事)_2023年5月18日の意見交換会

【田中志子常任理事】
 私自身、訪問診療に出て訪問看護の看護師さんと実際に連携している現場の一医師である。そんな経験も踏まえて意見を述べたい。
 在宅の看取りで、本人の自宅、住まいで亡くなられている場合には、ご家族が慌ててしまって、どうしていいかわからなくなることがある。あらかじめ連携をしていても搬送の問題等が生じている。そのような場合に、訪問看護が大変重要な役割を果たす。看取り期に訪問看護をもっと利用しやすくする必要があると思う。 
 在宅医療の推進が叫ばれている中で、在宅時医学総合管理料以外の診療報酬の整備が追いついていないように感じる。がんだけでなく、非がん疾患の在宅看取り、施設看取りを推進するのであれば、がん末期や難病以外の方でも医療保険の訪問看護を利用しやすくすることや、在宅酸素療法をコロナ以外の急性疾患でも直ちに算定しやすくすることなど、在宅分野の医療保険の拡大が望まれる。
 超高齢多死を迎える上で、非がん疾患の在宅・施設看取りを増やすためには医療保険と介護保険のバランスの見直しは喫緊の課題と考えている。
 また、山間地域における移動時間、訪問看護師の移動時間の配慮というものに関して、手厚く見ていく必要があると思う。
 以前、私から提案させていただいた特定行為のできる看護師さんの訪問看護ステーションへの配置を評価し、在宅生活の延伸を支えるべきと考えている。

                          (取材・執筆=新井裕充) 

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