日米ジョイントフォーラム 武久会長講演概要
2012年1月22日(日)、社会医療研究所と日本慢性期医療協会の共催のもと「日米ジョイントフォーラム」が開催されました。このフォーラムは米国から講師の方々をお招きし、米国の長期急性期医療(LTAC: Long-Term Acute Care)について理解を深めていただき、さらに日本の慢性期医療について考えるプログラムとなっておりました。
まず最初に、Mr.Rajive Khanna、Dr.Gary S. Clark、Dr.Lee Picklerら三人の講師の方々によって、米国におけるLTACの概念と運営の状況などが紹介されました。
これらの講演を受けて、武久洋三会長は「日本の慢性期医療からみたLTAC」という演題で講演をされました。米国の医療制度は、あいまいな面を多々残す日本のそれと違い、非常に機能分化されていることに着目しつつ、米国の医療制度の良い面を学んでいくことが大切であると述べられました。
武久会長はまず、「一般病床」と「療養病床」という現在の日本の病床区分について触れ、また、平均在院日数の計算は症例の区別なく行う米国に比べ、日本の平均在院日数は「特定除外制度」によって多くの患者が除外されたものである点にも触れられました。一般病床において90日以上入院している患者は平均在院日数にカウントされず(特定除外)、この仕組みによって病院は平均在院日数を低く見積もることで高い入院基本料を算定することができます。国も、国際的にみれば日数の長い、日本の平均在院日数を数字の上で抑えることができるため、このような実態と離れた経過措置が続いてしまっている現状があります。こういった仕組みにより、急性期病院が実質的には慢性期に属する患者に病床を提供しているというミスマッチが生じていることが示され、武久会長はこれをして「一般病床の社会的入院」であると評されました。このような一般病床では、各担当医の専門分野のみに診断が限られてしまい、包括性を欠く治療体制や、大量の薬剤投与などによって、かえって高齢者の身体環境が悪化する「医源性身体環境破壊」問題が生じがちです。こうした問題に対し、慢性期医療は患者の身に立った良質な医療を提供しなければならず、同時に「慢性期医療といえども急性期治療機能を持っていなければならない」という点を強調されました。
次いで急性期機能を持った慢性期病院の一例として、博愛記念病院におけるいくつかの事例が紹介されました。たとえば「高齢者の低栄養・脱水といった症状に対して経管ではなく経口摂取にこだわった治療法の紹介」、「バーコードによる投薬量管理」、「流動食の分配におけるイリゲーターから使い捨てパックへの移行」など、慢性期医療の質を向上させつつコスト・時間を削減し、より多くの患者を受け入れていく体制づくりのモデルケースが示され、武久会長は「今後増加していく慢性期患者に対して、より多くの受け入れ態勢を整えていくことが求められている」と述べられました。
また、医療の地域格差の問題にも焦点が当てられ、国が推進する医療困難地域への要件緩和などの施策について評価するとともに、これからは後方病院や診療所との連携による在宅療養まで含めた入院システム、「在宅療養支援ネットワーク」の構築の必要性を指摘されました。
「急性期も回復期も慢性期もそれぞれ本物しか残れない。それぞれの定義を明確化していくことが求められている」これは武久会長のかねてよりの主張です。今回のフォーラムでも医療の機能分化の必要性を強く説かれました。武久会長は機能に応じた専門性と訴求力のある病床区分が求められているとし、「一般病床」「療養病床」というような現行の区分ではなく「長期急性期病床」「長期慢性期病床」「介護療養病床」といった明確な区分にすべきではないかと述べられました。
これらの内容の総括として、武久会長は今年1月に発表された「2012 日本慢性期医療宣言」を紹介されました。
1.長期急性期病床として、高度急性期治療後の患者を迅速かつ適切に治療します。
2.回復期機能として、積極的且つ充実したリハビリテーションにより地域復帰を
目指します。
3.癌末期や臓器不全などのターミナル期の患者に対し、何よりもQOLを優先し、
周囲とのコンセンサスを得ながら治療します。
4.在宅療養後方病院としての機能を整備し、在宅療養患者の緊急入院治療に対応し
ます。
5.身体疾患合併の認知症患者を積極的に受け入れ、早期の治療を推進します。
最後に武久会長は、高度急性期病院は良質な慢性期病院を見定め、急性期病院自体も慢性期病院を養成していかねばならないこと、急性期病院や在宅から受け入れた患者に対して、慢性期病院は良質な医療を提供していく責任があることを強調され、その提言をもってフォーラムは締めくくられました。
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2012年1月22日