「フリーアクセスを守っていきたい」 ── 医療保険制度改革の議論で池端副会長

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池端幸彦委員(日本慢性期医療協会副会長)_2022年9月29日の医療保険部会

 健康保険法等の改正に向けて医療保険制度改革の議論を開始した厚生労働省の会合で、日本慢性期医療協会の池端幸彦副会長はコロナ禍の経験を踏まえ「フリーアクセスがあったからこそ大きな混乱もなく、第7波も対応できたのではないか。このフリーアクセスをぜひ守っていきたい」と述べた。

 厚労省は9月29日、社会保障審議会(社保審)医療保険部会(部会長=田辺国昭・国立社会保障・人口問題研究所所長)の第154回会合をオンライン形式で開催し、当会から池端副会長が委員として出席した。

 厚労省は同日の会合に「医療保険制度改革に向けた議論の進め方」と題する資料を提示。医療保険制度の見直しに関する政府方針や、前日に開かれた政府系会議で示された論点などを挙げ、委員の意見を聴いた。

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全ての世代で公平に支え合う仕組み

 資料説明の中で、厚労省保険局総務課の森真弘課長は9月7日に開かれた「全世代型社会保障構築本部」での岸田文雄首相の発言を紹介。「今後3年間で団塊の世代が後期高齢者となる中、負担能力に応じて、全ての世代で、増加する医療費を公平に支え合う仕組みが必要です」と伝えた。

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20_【資料1-1】医療保険制度改革に向けた議論の進め方_2022年9月29日の医療保険部会

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 その上で、森課長は「こうした総理の指示を踏まえ、その論点として増田主査から昨日の全世代型社会保障構築会議に提出されたものがこちらのページ」とし、医療保険関係の論点を読み上げた。

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21_【資料1-1】医療保険制度改革に向けた議論の進め方_2022年9月29日の医療保険部会

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来年の通常国会に提出したい

 森課長は「昨日の会議において、これらの論点について厚生労働省の関係審議会で議論を深めてほしいと言われている」とし、「医療保険の分野はこの医療保険部会で今後議論を進め、年末までに取りまとめた上で社会保障構築会議に報告することが求められている」と伝えた。

 その上で「検討スケジュール(案)」を提示。「本日、医療保険制度改革の議論をキックオフさせていただき、10月、11月と月2、3回程度、今後、精力的に議論をいただきたい。医療費適正化計画についてもご議論いただき、12月までに取りまとめをして構築会議にも報告した上で必要な法案を来年の通常国会に提出したい」と述べた。

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23_【資料1-1】医療保険制度改革に向けた議論の進め方_2022年9月29日の医療保険部会

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医療と介護にまたがるアプローチを

 質疑で、佐野雅宏委員(健康保険組合連合会副会長)は「2040年に向けて医療と介護の両方が必要な高齢者が増加する」と見通した。

 佐野委員は「これまでの医療費適正化は生活習慣病対策など、いわば現役世代を中心とした対策だったが、人口構造の変化を踏まえればフレイル対策や介護予防など、医療と介護両方にまたがるアプローチが大変重要になるのではないか」との認識を示した。

 その上で、「次期の医療費適正化計画は実質的に医療費・介護費適正化計画という内容を目指すべきではないか」と述べた。

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担い手の処遇改善の視点は重要

 
 猪口雄二委員(日本医師会副会長)は「後期高齢者医療制度において対象年齢になったからといって無条件で加入している健康保険から移行させるのではなく、対象年齢になっても仕事をしている方は引き続き健康保険の被保険者にとどまるようにし、制度を支える側になっていただくことも検討課題になるのではないか」と述べた。

 秋山智弥委員(日本看護協会副会長)は「本年10月からは診療報酬でコロナ対応等を担っている看護師等の収入を3%程度引き上げる措置が講じられる」と評価した上で、「全ての職場における看護師のキャリアアップに伴う処遇改善の在り方について検討することが閣議決定されている」と強調。「医療保険制度改革の議論としても医療の担い手の処遇改善の視点は重要だ」と述べた。

 こうした意見を踏まえ池端副会長が発言。「どうしても守らなければならないことが2つある」とし、国民皆保険制度とフリーアクセスを挙げた。

【池端幸彦副会長の発言要旨】

 皆さんがおっしゃっているように、持続可能な医療保険制度を維持することに対しては今日お集まりの皆さん方の反対はないところだと思う。私も同じ思いである。その中で、どうしても守らなければならないことが2つあると思う。世界に冠たる日本の国民皆保険制度を是が非でも維持すること。そして、フリーアクセスが維持できていること。この2点は非常に重要ではないかと思う。
 フリーアクセスに関してはいろいろなご意見があることは承知している。例えば今回のコロナ禍で第1波の時はかなり混乱した。しかし、一気に感染者が増えた第7波になって、診療所も病院も全ての医療機関が何らかのかたちでコロナ患者を診ようということで、フリーアクセスがあったからこそ大きな混乱もなく、第7波で数が多くなっても問題なく、ある程度、対策ができていたのではないか。このフリーアクセスをぜひ守っていきたいと医療提供者側として感じている。
 次に医療費適正化について述べる。医療提供者側としては国民の健康被害等につながらないことは是が非でも守らなければならない。医療費適正化に反対するものではないが、こうした視点で今後も議論したい。保険者側も提供者側も国民側も、どういうバランスで痛み分けをしたほうがいいか、これから議論になるのではないか。 
 先ほど猪口委員がおっしゃったように、現役世代並みのしっかり働いている元気な方々には健保組合にそのまま残って支える側になっていただくことは1つの考え方であり、私も賛成したい。
 出産育児一時金の大幅な増額等については、皆さんがおっしゃったように私も大賛成である。次の現役世代を育てる、なっていただくという意味でも、より出産しやすい環境をつくるということ。これを全世代で支えていくことも非常に重要な視点ではないかと思う。 
 先ほど菅原委員がおっしゃったように、以前、この医療保険部会に出された表によると地域差がある。東京とそれ以外の一番低い所で20万円ぐらいの地域差があったと思う。地域差をどう考えるかも今後検討いただければと思うので、よろしくお願いしたい。
 次は同時改定である。佐野委員がおっしゃったように、健康をできるだけ維持するためにフレイル対策や介護予防は非常に重要である。この一次予防は非常に重要な視点であり、介護保険制度の中だけではなく、医療の中でも、これに対してどういうアプローチができるかということ。特に栄養や口腔ケア、リハビリなど、こうしたことも医療と介護の連携の中でどういうことができるかを1次予防という視点で進めていくことに私も大賛成である。 
 ただ、資料2の1-2の62ページ(医療費適正化計画の概要)では、「住民の健康の保持の推進」として特定健診や保健指導の実施率、メタボ予備軍への対応等が取り組みとして挙げられ、数値目標も示されている。「健康日本21」などの流れから適正化計画の中に入っているが、私の知る限り、国内外の文献等を見ても、健診を進めて二次予防をすることによって保険財政がかなり健全化した、適正化されたという論文はなかなか見ない。そういうものが確かにあるのかどうか。それがあるのであれば、次回以降にお示しいただきたい。 
 二次予防が駄目であると水を差すわけではない。「適正化」という観点でこれが本当に通用するかどうか、やや疑問を感じるところもあるので資料があればお願いしたい。
 また、資料1-1の22ページには「働き方改革の確実な推進とともに、タスク・シフト/シェア、医療の担い手の確保」等が挙げられている。これも非常に大事な視点である。
 先ほど秋山委員もおっしゃったように、医療の担い手をしっかり確保する。そして、その方々を評価することが非常に重要だと思う。
 次は同時改定ということであえて言わせていただくと、医療の担い手である医師や看護師だけではなく、それ以外の多職種の評価も重要である。85歳以上の高齢者が2040年以降も増えていく。医療の中にも要介護の状態の方々がどんどん入ってくる。その方々を支えるのは看護師だけではない。医療の世界では「看護補助者」と呼んでいるが、介護職が非常に重要なタスクシフト、タスクシェアの担い手になると思う。
 しかし、医療機関等に入っていただける介護職員が非常に不足している。介護職に関しては介護保険上で、そして看護師には補助金等、あるいは加算等で処遇改善がなされているが、病院で働く介護職には全くそれがない。そのため、この格差が10万円以上もついてしまって、介護職が医療機関に入ってこない。急性期、慢性期、回復期に限らず、現状も介護職の不足が続いている。 
 これについてどう考えるか。次の同時改定に向けて、医療保険として介護の担い手をどう考えるかをぜひ議論していただきたい。 
 ジェネリックに関しては、安定供給を一方で考えなければいけない。ジェネリックの推進はもちろん引き続き進めていくべきだが、現場では医薬品の供給不足がかなり深刻で現在も続いている。後発医薬品の供給体制、あるいは基礎的医薬品を維持するためにどういう薬価があるべきかを含めた議論も必要ではないか。

                          (取材・執筆=新井裕充) 

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