コロナ対応の定義、「なぜ変えたのか」 ── 入院医療の調査で井川常任理事

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井川誠一郎委員(日本慢性期医療協会常任理事)_2021年3月10日の入院分科会

 入院医療に関する調査結果の速報が示された厚生労働省の会議で、日本慢性期医療協会の井川誠一郎常任理事は、分析の基準に用いられた「コロナ対応」の定義に幅があることを指摘し、「なぜ、わざわざ変えて統計を取られたのか」と尋ねた。厚労省の担当者は「特段、大きな理由があるわけではない」と答えた。

 令和4年度の診療報酬改定に向け、厚労省は3月10日、中医協下部の専門組織である「入院医療等の調査・評価分科会」の令和2年度第3回会合をオンライン形式で開催した。当会からは井川常任理事が委員として参加した。

 厚労省は同分科会に示した調査結果などを踏まえ、分科会後に開催された中医協総会でコロナ対応のための猶予策(経過措置の再延長など)を提案し、了承された。

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2021年3月10日の入院分科会
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「対応あり」のほうが落ち込みが大きい

 厚労省は同日の分科会に「令和2年度調査結果(速報 その1)概要」と題する資料を提示。コロナ発生前後の状況を比較した上で、初診患者についてはコロナ「対応あり」のほうが「対応なし」に比べて落ち込みが大きいとした。

 入院患者数については、「いずれも落ち込みが見られるものの、『対応あり』のほうが特に5月の落ち込みが大きい」とし、救急搬送件数については「4、5、6、9、10のそれぞれの月は『対応なし』より『対応あり』のほうが落ち込みが大きかった」と分析した。

 こうした「診療の状況」を比較するために用いられたのは「コロナ対応あり」「コロナ対応なし」という基準で、昨年4月~10月にコロナ患者(疑いを含む)を一度でも受け入れた場合に「あり」としている。
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017_【入-1】令和2年度調査結果(速報 その1)_20210310入院分科会

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「コロナ対応(等)あり」という基準も

 一方、急性期病院の指標の1つである「重症度、医療・看護必要度」の要件を満たしているかの判断には、「コロナ対応(等)あり」「コロナ対応(等)なし」という基準が使われた。

 この基準では、学校等の臨時休業に伴い職員の勤務が困難となった病院や、職員がコロナに感染した病院なども幅広く「コロナ対応(等)あり」に含めている。

 その理由について厚労省の担当者は「診療報酬上の臨時的な取扱いの中で『対象医療機関等』として、ア・イ・ウ・エの類型を設け、それぞれの医療機関において対応されていることを踏まえ、今回もそれを踏襲している」と説明した。
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031_【入-1】令和2年度調査結果(速報 その1)_20210310入院分科会

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「対応(等)あり」のばらつきが大きい

 急性期病院の要件を厳格化する場合に用いられる「重症度、医療・看護必要度」の基準を満たす病院は、コロナ前後でどのように変化したか。

 厚労省は資料のグラフ中に「令和元年度では基準を下回らないが、令和2年度では基準を下回る医療機関」の範囲を緑の枠囲みで設定。このゾーンに落ちてしまう病院の分布を示した。

 それによると、コロナ対応の有無にかかわらず基準を下回る病院はあったものの、「対応(等)あり」のほうが影響を受けていることが示唆された。

 急性期一般入院料1(旧7対1)について厚労省の担当者は、「現時点では、さまざまな分析があろうかと思う」と前置きした上で、「対応あり・なしで、それぞれの形状を見比べた場合、対応ありのほうがばらつきがやや大きく、対応なしのほうがばらつきが小さめで、ばらつきに差があることが視覚上、見て取れるのではないか」と説明した。
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053_【入-1】令和2年度調査結果(速報 その1)_20210310入院分科会

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コロナ対応が「基準を下回る要因に」

 コロナの影響をどう見るか、質疑では意見が分かれた。医療関係者は、コロナによって初・再診や入院の患者数が減少した影響を強調し、こうした状況が今後も続くことを懸念した。

 急性期病院の基準を満たせない原因についても、コロナの影響を指摘する声があった。急性期病院の院長らは、コロナ患者に対応するための病棟閉鎖や予定手術などの制限、看護師らの配置替えに伴うマンパワー不足などを挙げ、「基準を下回る要因に結び付いている」とした。
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コロナ対応の有無よりも「深掘りを」

 こうした意見に対し、大学教授は「コロナ対応の有無にかかわらず変化がある」との認識を示した上で、地域差による影響を指摘。緊急事態宣言が出ている病院の受診動向なども分析するよう求めた上で、「コロナ対応あり・なしよりも、深掘りした解釈が可能になるのではないか」とコメントした。

 別の大学教授は「特定警戒都道府県と、それ以外の県のデータを比較して、どのような受療状況の差があったのか。また、診療科によってダメージが大きく異なっているのではないか」と指摘し、「深掘りする必要がある」と述べた。
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コロナ対応の有無、「範囲が広すぎる」

 保険者団体の委員は、今回の「コロナ対応あり」「なし」の基準を問題視。「明確な傾向を読み取れない。網羅する範囲が広すぎて、あり・なしの明確さがはっきりしなかった」と苦言を呈し、「今後の集計で、より精緻な結果が出るようにしてほしい」と要望した。

 こうした意見に対し、厚労省の担当者は「今回は時間的制約等もあり、個別の医療機関がどういう状況であったのかなど、コロナ対応あり・なし以外の比較ができていない」とし、「次の本報告のタイミングで、少しお示しできるようにトライしたい」と理解を求めた。

 井川常任理事は、いわゆるポストコロナの患者を受け入れている地域包括ケア病棟などや回復期リハビリ病棟などの分析を進める必要性を指摘した上で、「コロナ対応」に関する基準などについて厚労省の見解を求めた。

 井川常任理事の発言要旨は以下のとおり。
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2021年3月10日の入院分科会2

■「コロナ対応」の定義等について
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〇井川誠一郎常任理事
 コロナ対応で非常にお忙しい中、詳細な分析をしていただいた事務局の方々にお礼を申し上げたい。
 資料の95ページ、地域包括ケア病棟や回復期リハビリ病棟のデータを見ると、地域包括ケア病棟1・2はかなり重点医療機関や協力医療機関に指定されており、治療病棟としての責任を果たしている。一方、回復期リハビリ病棟では、それほど多くはない。むしろ療養病棟に近い感じのデータとなっている。
 コロナ対応あり・なしの分析をするときに、正しく評価できるのだろうか。すなわち、地域包括ケア病棟・回復期リハビリ病棟・療養病棟には、ポストコロナの患者が入っている病棟と入ってない病棟があり、これらの病棟が一緒くたにされてしまうことになる。
 そこで1つ質問だが、17ページの診療の状況について使われているコロナ患者への「対応あり」「対応なし」と、31ページで用いられている「コロナ対応(等)あり」「コロナ対応(等)なし」の定義を変えている理由を教えていただきたい。なぜ、わざわざ変えて統計を取られたのか。

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〇厚労省保険局医療課・金光一瑛課長補佐
 診療の状況について、初診・再診・総入院患者数の分析で用いている「コロナ対応あり」「なし」と、それ以降の、いわゆる診療実績に関係するようなところの分析で用いているコロナ対応に関係する定義が異なる理由について、お伺いがあったかと思う。
 特段、大きな理由がこちらであるわけではなく、ただ、初診・再診や総入院患者数という、ある意味、医療機関が行っている基礎的なデータを収集する際に、このコロナ患者の外来を受け入れたかどうか、みたいなことを問う質問が近くにあったので、そこのあたりを一緒に分析したということである。
 先ほど来も出ているとおり、「コロナ対応」の定義というものをどのように取るかによって、また「より細かく取るべきだ」というようなご意見も含めて、ご指摘があったかと思うので、そこは、われわれのほうでも、
もう少しデータの分析をというところは、さまざまな着眼点によって進めてまいりたい思っている。

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〇井川常任理事
 趣旨のほうは、ちょっと分かったというか、分からないというか、という感じはあるが、ただ、牧野委員がおっしゃったように、今回の影響というのは、コロナの影響と、それから診療報酬上の影響とがダブって出てきている。しかも、回復期リハ病棟と、それから療養病床とで、出てきているデータというのは、基本的に診療報酬改定の時に、改定された内容だけしか出ていない。
 調査票の「問2」の部分の所から抜粋されていると思うが、ほかのいろんな項目があった。それに対する影響は今後出てくるのだろうか。
 というのは、そこは診療報酬そのものの影響にあまり関係ない部分であるので、たぶんコロナの影響しか出てこないだろう。そうすると、そこのところのデータも同時に出されたほうが、よりコロナの影響というのが明確に出るのではないかと思っているが、いかがだろうか。

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〇厚労省・金光課長補佐
 本来であれば、数カ月先に結果としてお出しするところ、現時点でできる部分ということ、さまざまな要請もあり、本日時点での分析結果をお示しさせていただいている。今、頂いたご指摘も含めて、さまざまに、時間の制約も含めて、できることを考えたいと思っているので、ぜひ忌憚のないご意見を頂ければと思う。
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■ コロナ収束後の対応等について
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〇井川常任理事
 先ほど、ほかの委員から発言があったが、急性期病院では手術を控えるために、あるいはコロナが発生するために1~3病棟を空けなければいけなくなったという。実際にそうなった場合には慢性期側としては、その瞬間、その時期に大勢の患者さんが流れてくる。慢性期側に転院の依頼がかかってくる。
 今年、感染症法が改正された。民間病院名が公表される。そのため、幾つかの病院が手を挙げられて、それぞれ患者を移されたという経緯がある。これからコロナが収束した時点では、牧野委員もおっしゃったように、今度はその病床を埋めなければいけない。
 当然、なかなか埋まらないということも予想され、その場合は慢性期側に来る入院患者数はどんどん減ってくる。入院期限があるので、地域包括ケア病棟や回復期リハビリ病棟の患者は出ていかざるを得ない。そうすると、空床がまた起こってくる可能性もある。そういう意味で言うと、今回出ているようなデータというのは、これから来年に向けても継続的にずっと取っていかなければいけないデータだと私は思っている。よろしくお願いしたい。

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■ クラスターに関する調査について
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 クラスターの影響について津留委員がおっしゃったことは非常に身に染みる。私どものグループの病院でもクラスターが発生した。われわれは慢性期の病院であるので、慢性期でクラスターが起こると、収束までに多くの時間が必要になる。
 クラスターが発生したとき、重症の患者は急性期病院が受け入れてくれるが、軽症の患者は自分の病院で診なければいけない。ゾーニングしようとしても、その残りの患者さんを移す所がない。介護施設も全部いっぱいになっているので、患者を移す場所がなくなってしまい、非常に時間がかかるという事情がある。
 従って、まずは津留委員がおっしゃったように、クラスターを起こした所の病院の状況はどうであったか、詳細を調査してほしい。慢性期側では、職員の人数がもともと少ない状況で対応しなければならないので、クラスターが起こるとかなり疲弊する。
 しかも、そうした状況に対するインセンティブが全くないので、そういうところに配慮するためにも、ぜひとも調査をしていただければと思う。よろしくお願いしたい。

                          (取材・執筆=新井裕充) 

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