介護サービスに特別措置の導入を ── 令和3年度改定の審議で武久会長

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20201218_介護給付費分科会

 令和3年度の介護報酬改定に向けた報告書を大筋でまとめた12月18日の会合で日本慢性期医療協会の武久洋三会長は、介護サービスの提供に地域格差がある状況などを改めて指摘し、「保険者に一定の権限を与えてサービスを提供できる特別措置」の導入を提案した。厚生労働省の担当者は「被保険者がきちんとサービスを受けられる環境を整えていきたい」と理解を示した。

 厚労省は同日、社会保障審議会(社保審)介護給付費分科会(分科会長=田中滋・埼玉県立大学理事長)の第197回会合をオンライン形式で開催した。

 前回9日の会合で厚労省は「令和3年度介護報酬改定に関する審議報告(案)」を提示。そこで委員から出された意見などを踏まえ、今回の会合に修正案を示し、おおむね了承を得た。
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私から言いたいことがある

 議論を踏まえ、田中分科会長は「本日、頂いたさまざまな意見をどのように反映させるかについては今後、私と事務局とで相談し、必要な対応を行った上で皆さまにお送りし、その上で厚生労働省のホームページに公表することを予定しているが、よろしいだろうか」と確認。委員から異論は出なかった。

 続けて田中分科会長は「審議報告とは無関係だが、私から一言、言いたいことがある」と切り出し、「何人かの委員からご発言があった『現役世代』という言葉は報告書案にも最初あったので消してもらった」と明かした。

 田中分科会長は「現役かどうかを年齢で決めてはいけない。現役世代かと言われたら、そもそも武久会長も私も総理大臣もみんな現役世代ではない」と委員の笑いを誘った。

 その上で、「現役かどうかはその人の元気さ、あるいは意欲、体力、気力の問題であって、80歳でも90歳でも現役の人がいていい。年齢によって現役世代、引退世代と決めつけるのはよしましょう」と語った。
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厚労省にとっても厳しい1年であった

 最後に厚労省老健局の土生栄二局長があいさつ。「本年3月以降、今回で22回になるが、数多くの分科会で議論を賜り、またWEBでの開催で普段とはちょっと違う環境であったが、毎回、本当に精力的にご議論いただいた」と謝意を示した。

 その上で、土生局長は「分科会の先生方におかれても、それぞれ大変なご苦労のあった1年であったとご推察申し上げる。厚労省にとっても厳しい1年ではあったが、この間に相当数のご支援や激励の言葉を頂いた」とこの1年を振り返った。

 令和3年度改定については、「やはり感染症への対応、それから災害への対応ということが第一の柱」とし、「地域包括ケアシステムの推進」「自立支援・重度化防止の取り組みの推進」「介護人材の確保・介護現場の革新」「制度の安定性・持続可能性の確保」といった次期改定の5本柱を改めて掲げた。
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全ての国民に幅広く介護サービスを

 今後の検討に向け武久会長は、介護サービスの公平性をさらに図る必要性を改めて強調。「同じ保険料を払っているにもかかわらず、来てくれない状況がある」とし、訪問や通所系の介護サービスは「各種加算での対応では難しい」とした。

 その上で、武久会長は「現状のままでは、過疎地や離島などの住民にも幅広く公的な介護保険サービスを提供するという建前が崩れかねない」とし、「保険者である市町村が特別に何らかの配慮をしてサービスを提供できるような特別措置などを検討してはどうか」と提案。厚労省側の見解を求めた。

 厚労省老健局老人保健課の眞鍋馨課長は「おっしゃるとおり、やはり被保険者がきちんとサービスを受けられるような環境を整えていきたい」と述べた。

 武久会長の発言要旨は以下のとおり。

〇武久洋三会長
  いつも気にしていることがある。公的保険でありながらサービスが提供されない地域がある。私は四国に住んでいる。過疎地や離島に住んでいる被保険者に対してサービスが十分に行き届いていない。
 東京周辺でも自宅の近隣にサービスがないことがある。同じ保険料を払っているにもかかわらず、来てくれないという状況がある。過疎地や離島などの介護サービスに加算を付けていただいてはいるが、現実には片道1時間、往復2時間ぐらいかかる場所への訪問・通所サービスが非常に難しい。各種加算での対応では難しい。
 そのため、公的な介護保険の中に特例のような仕組みをつくることを考える必要がある。現状のままでは、過疎地や離島などの住民にも幅広く公的な介護保険サービスを提供するという建前が崩れかねない。
 この先、10年、20年も経てば過疎地域は徐々になくなっていくかもしれないが、現時点においては介護サービスが十分に受けられないような状況が全国各地に見られる。
 そこで、私から改めて提案したい。公的な介護保険制度であるから、措置制度のような考え方を導入することは難しいとしても、保険者である市町村が管轄する過疎地や離島における介護サービスについては、特別に何らかの配慮をしてサービスを提供することができるような特別措置などを検討してはどうか。そうすれば、各市町村がその区域内にいる要介護者等に対して、さまざまなサービスをまんべんなく提供できる可能性があると思う。通所と訪問サービスのみではあるが、提案したい。
 令和3年度の改定では無理であっても、今後こうした方向性も検討していただきたい。
介護サービスが十分に受けられない状況が全国各地で起きている。このような特別措置を導入すれば、過疎地や離島などの住民も等しくサービスを受けることができる。介護保険料を支払うことで、都市部と同等の、またはそれに近いサービスが提供される。
 今後の検討に向けては、保険者に一定程度の権限を与えてサービスを提供させるということもご考慮いただければと思う。この点について、真鍋課長にお答えいただけたらありがたい。

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〇厚労省老健局老人保健課・眞鍋馨課長
 武久委員のご発言の内容については、以前の当分科会で何度かお聞きしている。介護保険制度が全国一律の保険制度である以上、サービスが平等に提供されるということは非常に重要なことだと考えている。
 今回の対応については、審議報告の24ページ(特例居宅介護サービス費による地域の実情に応じたサービス提供の確保)の箇所にお示ししている。これは市町村が定められる独自の基準、あるいは独自の報酬であるが、こうしたシステムについて、より使い勝手をよくするような一定の対応を行いたいと提案している。
 こうしたことを通して、私どもとしてはこの実施状況等も把握しながら、武久委員のおっしゃるとおり、やはり被保険者がきちんとサービスを受けられるような環境を整えていきたいと思っている。

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〇武久洋三会長
 感謝を申し上げる。ぜひ、期待したい。

                          (取材・執筆=新井裕充) 

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