「介護医療院の将来展望」── 第26回学会シンポ7

協会の活動等 官公庁・関係団体等 役員メッセージ

07_鹿児島学会シンポジウム7

 平成30年10月12日に開かれた第26回日本慢性期医療学会のシンポジウム7は、「介護医療院の将来展望」と題して、介護医療院の創設に関わった第一人者が一堂に会した。シンポジストには、厚生労働省社会保障審議会・介護給付費分科会の分科会長を務める田中滋氏(埼玉県立大学理事長)を招き、座長は元日本医師会常任理事で中央社会保険医療協議会の診療側委員も務めた鈴木邦彦氏が担当。日本介護医療院協会の創設に尽力した江澤和彦氏(日本医師会常任理事)、同協会の会長を務める鈴木龍太氏も参加した。

 シンポジウムの冒頭、鈴木邦彦座長は介護療養病床の廃止をめぐる問題に触れながら「厚生労働省への大きな不信が生まれた。その決着をつける意味もある」と述べ、超高齢社会に対応すべく創設された新たな類型に期待を込めた。

 介護医療院に関する議論に関わった田中氏は地域づくりに貢献する介護医療院の役割を指摘。江澤氏は、「住まいと生活を医療が下支えする新たなモデル」とし、今後発展していくために必要な取り組みなどを語った。鈴木龍太氏は、自身が運営する鶴巻温泉病院の取り組みなどを紹介しながら、今後の課題を提示。「医療療養病床(医療保険)から介護医療院(介護保険)への移行は市町村の財政負担を増大させるため、円滑な移行が進まない恐れがある」と懸念した。

.

 【座 長】
  鈴木邦彦 (志村大宮病院理事長、元日本医師会常任理事)

 【シンポジスト】
  田中 滋 (埼玉県立大学理事長、慶應義塾大学名誉教授)
  江澤和彦 (日本医師会常任理事、倉敷スイートホスピタル理事長)
  鈴木龍太 (日本介護医療院協会会長、鶴巻温泉病院理事長・院長)

.

療養病床の廃止問題に決着をつける

[鈴木邦彦座長(志村大宮病院理事長、元日本医師会常任理事)]
 介護医療院は今回の平成30年度介護報酬改定での目玉とも言われており、非常に注目を集めている。期待も多く持たれている新しい介護保険施設である。

 私は2つの意味があると思う。1つは、皆さんもご存じのように「生活」プラス「医療」という新しい機能を持つ介護保険施設がつくられたということ。それと、少しご年配の先生はご存じだと思うが、平成18年度の介護報酬改定において介護療養病床を6年後に廃止するということが突如打ち出されて現場が大混乱になった。そして厚生労働省への大きな不信が生まれた。その決着をつける意味もあると私は考えている。

 こうして誕生した介護医療院。結果的には、現場からおおむね好意的に受け止められているのではないかなと思っている。これがどのように育っていくか。本日は、その第一人者である3人の先生方にご講演をしていただく。

.

介護医療院も地域の一員でなければいけない

[田中滋氏(埼玉県立大学理事長、慶應義塾大学名誉教授)]
 介護ニーズを満たせる制度と提供体制ができた。次は生活をどうするか。2040年に向かって、わが国は超高齢者の増加をみる。75 歳以上の人口は増加が止まるが、超高齢者が増えて死亡者数が増え、生産年齢人口が減る。85歳以上の人口は400万人
から1,000万人まで、あっという間に増える。75歳以上人口の総数は変わらないが、その中の85歳以上人口が急増する。

 85歳以上の超高齢者に最も必要なものは何か。生活能力である。入院しなくてはならないとか、医療ニーズが高くて介護医療院に入るとか、そういう人たちへの制度的な対応は可能である。しかし、血圧が高いとか日常的な状態は別として、入院するようなことはないし、自分で体を洗える、トイレに行って自分のお尻を拭ける、ご飯も自分で食べられるけれども、風呂は洗えない、洗濯を干せない、買い物ができない。つまり生活ニーズの重い人が増える。これを支える仕組みが必要である。

 もう1つの問題は、働く人の激減。2025年を過ぎると働く年齢層が激減していく。こういう中でサービスの提供側としては、変わらぬ使命がある。しかし求められる機能は変わる。いろいろな経営戦略が必要になる。

 今、私たちがつくっている地域包括ケアシステム。そして、その目標である地域共生社会、あるいは多世代共生社会がある。目的概念と手段としての地域包括ケアシステムというのは、もしこの国がうまく発展していけば、次の世代のために使うことができる。

 次の世代のために何が一番大切か。子どもである。高齢者をめぐる問題は、今こうしてわれわれが検討し、合意を得て、設計図は出来上がっている。あとはそれが実行されるかどうか。あるいは利用者に理解いただけるかどうか。しかしながら社会にとって、日本が21世紀後半も持つかどうかの鍵は高齢者の処遇ではない。高齢者処遇は実行すればいい。問題は子どもの減少を止められるかどうか。これこそが国策の中心でなくてはならない。

 75歳以上人口が激増した時代には、その対応が国策の第1にあげられた。では、次は何か。日本という国を、子どもがまた生まれる社会にしないと22世紀の日本はない。地域包括ケアシステムの目標として、「地域共生」とか「多世代共生」という
言葉をあげている理由はここにある。地域包括ケアシステムの対象は、子ども、障がい者、その家族、あるいは福祉ニーズを持つ人。こうした人たち全部を包含していく仕組みで、連携をつくる。だから町づくりという言い方をしている。

 ということは、介護医療院も地域の一員でなければいけない。中に入ってきた人だけにサービスをするというのは、必要条件であって十分条件ではない。先生方はこれから介護医療院でもいいし、医療療養型でもいい。老健でもいい。特養を別法人でお持ちなら特養でもいい。いずれも地域の一員である。自分の所に来た人だけではなく、この地域を支えるという視点が法人経営者としては絶対に必要である。

 急性期医療において医者は主役である。でも、この世界では医師、看護師はサポーターにすぎない。われわれは、もっと後ろに位置する黒子として、地域をつくっていく。そういうための1つのツールとして、新しく介護医療院ができた。必ず役に立つ。みんなで上手に育てていこうではないか。

.

介護医療院は、利用者の尊厳を最期まで保障する

[江澤和彦氏(日本医師会常任理事、倉敷スイートホスピタル理事長)]
 介護医療院は、住まいと生活を医療が下支えする新たなモデルである。介護医療院の大きな役割は長期療養と生活施設。この二本柱のうち長期療養については、療養病棟を持つ医療機関にとって長年培ってきた得意技かもしれないが、生活施設については、もし病院が新たに介護医療院へ移行する場合には新しいチャレンジになる可能性がある。

 介護医療院にはⅠ型とⅡ型がある。Ⅰ型は療養機能強化型で、介護療養病床がそのままA相当、B相当となる。Ⅱ型は「老健相当」と言われ、この老健は療養型老健。いわゆる在宅復帰を目指すリハビリ型の老健ではなく、療養型老健相当であるから、一定程度の喀痰吸引、気管切開等の人を受け入れる。介護療養病床の5万5,000床と、医療療養病床25対1の6万床を合わせて、最大10万床になるかどうかと言われている。

 今後の介護保険3施設は、老健、介護医療院、特養に収れんされる。老健はリハビリ等を提供し、在宅支援・在宅復帰のための施設。介護医療院は長期療養・生活施設。特養は生活施設。こういう形で、制度上の役割は明確に区分がされた。もちろん利用者は当然クロスオーバーするわけだが、主な役割は明確に分けられた。

 介護医療院は、住まいと生活を医療が支える新たなモデルとして創設された。すなわち、介護保険上の介護保険施設(生活機能)プラス、医療法上の医療提供施設(長期療養)である。

 介護医療院は、利用者の尊厳を最期まで保障し、状態に応じた自立支援を常に念頭に置いた長期療養・生活施設であり、さらに施設を補完する在宅療養を支援し、地域に貢献する。地域に開かれた交流施設として、地域包括ケアシステムの深化・推進に資する社会資源であると考えている。

 介護医療院の提供サービスとして、利用者の意思・趣向・習慣の尊重(個別ケア)、人生の最終段階における医療・ケア(ACP)、生活期リハビリテーション、廃用性症候群の脱却、自立支援介護などがあげられるだろう。特に、地域貢献が重要である。例えば、介護医療院の移行定着支援加算があるが、非常に高い報酬が付いている。その算定要件を本人や家族、住民にきちんと説明することとなっている。

 介護医療院は新しい施設類型であるから、地域住民にきちんと説明する。さらに入所している利用者と地域住民が一緒になったイベントを開催するとか、住民の方々にどんどんボランティアに入っていただいて、とにかく透明性を高めていくことが非常に重要なポイントではないかと思っている。

 介護医療院は、地域包括ケアシステムの深化・推進に資する社会資源である。特に危惧されるのは、看板が介護医療院に変わったけれども、やっていることが今までと何も変わっていないこと。これでは介護医療院の将来がなかなか見通せなくなる。

 ここで大事なポイントは、施設の経営者、管理者から現場職員までが自法人、あるいは自施設の目指す介護医療院のあるべき姿、青写真を描いていただき、それを共有し、年単位でそこを目指していくことだろう。少しずつ変化して、継続的に努力することが非常に大切である。質の向上には年単位の時間が必要で、そんなに容易なものではない。年単位で少しずつ、介護医療院のあるべき姿を目指していただきたいと思っている。

 今年4月、日本慢性期医療協会の会内組織として日本介護医療院協会が設立された。5つの理念を掲げている。日本介護医療院協会の立ち上げ時に私が陣頭指揮を執らせていただいた。今後の切り盛りは、このあとにご講演する鈴木龍太先生が担う。日本介護医療院協会の会長として新たな取り組みをいろいろと考えられておられるので、ぜひご期待いただければと思う。

.

在宅復帰も目指せる施設に

[鈴木龍太氏(日本介護医療院協会会長、鶴巻温泉病院理事長・院長)]
 日本介護医療院協会は4月に設立され、江澤先生が会長にご就任された。私は8月から会長を引き継がせていただいた。先ほどのお話にもあったように、介護医療院はこの数年の間に5万から10万床まで増えていく可能性があり、地域医療計画に大きく影響する存在になるだろうと思っている。

 今までの介護療養病棟との大きな違いは、医療の提供に加えて住まいとしての機能を持つということ。「自立」「参加」「地域との交流」がキーワードで、それを理念に盛り込んでいる。今後の動きを注視し、全く新しいことなので、皆さんで勉強しながら、介護医療院ができて良かったと思われる施設にしていきたいと思っている。これからダイナミックに介護医療院に移行したあと、介護医療院がどうなるかについては、それぞれの現場の判断にかかっていると思うので予想できない面もある。現場の動きを注視しながら、取り組んでいきたい。

 当院の介護医療院は、医療療養病床2の60床を改修し52床にしてから移行したいと思っている。従来は、要介護度4、5の重症患者さんが45床程度、看取りは2床程度だが、5床程度は動く病棟にしたい。在宅復帰も目指せる病棟にしたい。

 介護医療院の良いところは、在宅復帰先として認められる点である。回復期リハ病棟や地域包括ケア病棟など、退院ができる病棟の患者さんが入ってくる可能性が高い。そうすると、今までの医療療養病床2のように要介護度4、5の患者さんだけではなく、少し軽い方でリハビリをすれば在宅復帰も目指せる病棟ができるのではないかと思っている。

 介護医療院の利点については、新設費用が要らないこと、職員もそのままで転換ができること、医師が常駐し、当直医も兼務できること、入所者も移動しないで済むことなどがあげられる。

 介護報酬は介護療養病床よりも少し高い。それから移行支援加算があり、改修費の補助が出る。地域医療構想で病床を削減した場合、介護医療院にすれば空いた病床を有効利用ができる。都道府県の総量規制の対象外である。介護福祉士が吸引や経管栄養チューブの接続ができる。在宅扱いなので、回復期リハ、地域包括ケア、急性期病院からも、在宅として退院ができる。それからリハビリテーションができる。

 一方、課題もある。皆さんの病院もそうだと思うが、療養病床には重度で意識がないような患者さんも多いと思う。そういう患者さんの終の棲家になるので、ベッドが回転しないのではないかということも思っている。そのため、在宅復帰できる患者さんを受け入れるベッドを少しつくっておいたほうがいいと思っている。「自立」「参加」という観点からも、そういう機能があってもいいと思う。

 それから、運営主体が同じ病院と介護施設なので、病院と介護医療院で介護職員の処遇が違うことがかなり大きな課題にもなる。また、介護職員の不足への対応も考えなければいけない。また、医療療養病床(医療保険)から介護医療院(介護保険)への移行は市町村の財政負担を増大させるため、円滑な移行が進まない恐れがある。現状では市町村ごとの対応が違っており、当院のある神奈川県のように30以上の市町村がある地域では、書類が30種類以上あることも考えられるので、早急な対応が求められる。

 介護医療院の対象となるのは27万床。このうち、10年間で10万床が移行するかどうか。各自治体が介護医療院に対応できるようになれば、介護医療院への移行が円滑に進むだろう。介護医療院は、医療療養病棟や地域包括ケア病棟よりも充実したリハビリができる可能性がある。現在多く入所している重介護者だけではなく、回復期リハや地域包括ケア病棟、急性期から自立可能な中等度の患者さんを受け入れ、在宅復帰も目指せる施設になると期待している。

                          (取材・執筆=新井裕充) 

この記事を印刷する この記事を印刷する

« »