「小児慢性期と難病 ~移行期医療の現状~」── 第26回学会シンポ6

会員・現場の声 協会の活動等

05_鹿児島学会シンポジウム6

 平成30年10月12日に開かれた第26 回日本慢性期医療学会のシンポジウム6は、「小児慢性期と難病 ~移行期医療の現状~」をテーマに、成人になった難病の娘を抱える親の立場から平岡まゑみ氏(難病のこども支援全国ネットワーク理事、TS つばさの会代表)が、移行期支援に取り組む医師の立場から兒玉祥彦氏(福岡市立こども病院循環器科)がシンポジストとして参加し、課題解決に向けた方策を提示した。座長は、国立病院機構南九州病院の元院長である福永秀敏氏(南風病院院長)が務めた。
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 【座 長】
  福永秀敏 (南風病院 院長)

 【シンポジスト】
  平岡まゑみ (難病のこども支援全国ネットワーク理事、TSつばさの会代表)
  兒玉 祥彦 (福岡市立こども病院 循環器科)

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 最初に登壇した平岡氏の講演テーマは、「主治医は誰でしょう」。平岡氏は、難病の子どもが成人になったときに受け入れてくれる環境が整っていない現状を伝えた上で、高齢者の在宅医療支援と同じように近隣のかかりつけ医を持つ必要性を指摘。「親が意識して主治医をつくっていこうではないか」と力を込めた。兒玉氏は、受け入れる医療機関側が抱える問題を提示した上で、自身の病気を知らないまま大人になった患者への教育や支援を進めていく必要性を語った。

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現在の課題は地域差と専門医不足

[福永秀敏座長(南風病院院長)]
 私は厚生労働省の難病対策委員会の副委員長を長年務めさせていただいているということで、今回の座長を仰せつかったと思っている。

 本シンポジウムのテーマは、移行期医療という問題を取り上げている。移行期医療というのは、おそらく会場の皆さんにはなじみの薄い言葉かと思う。こういう問題を日本慢性期医療学会が取り上げてくださったことは非常に感謝している。厚労省の難病対策委員会では最近、移行期医療の問題について数回にわたり議論している。

 本日、2人の演者のお話を聴けば大体どういうことか、概念はつかめると思う。小児の時に病気になった方々が医学・医療の進歩により長生きできる時代になってきている。

 ところが、そこでやはり問題になるのは、小児期で小児科の先生が診ていた病気が、例えば18歳とか20歳を過ぎて、今度は成人の一般内科とか、神経内科医が診るということになると患者さんやご家族に大きな戸惑いが生じる。もちろん、医師にとっても同様である。だから、いろいろな問題が生じてきている。本シンポジウムでは、そうした問題を掘
り下げてディスカッションできたらいいと思っている。

[平岡まゑみ氏(難病のこども支援全国ネットワーク理事、TSつばさの会代表)]
 認定NPO法人「難病のこども支援全国ネットワーク」は、疾病ごとの親の会がたくさん集まって寄り合い所帯にしたようなもので、私はそこで、結節性硬化症の親の会である「TSつばさの会」の代表をしている。

 難病のこども支援全国ネットワークは、「難病の子どもとその家族にとって、明日への希望と勇気になりたい」というスローガンで活動をしている。難病の子どもというのは、治るわけではないけれど、そのまま病気と一緒に暮らしていかなければいけない。ついこの間まで、親は子どもよりも1日でも長生きをして、子どもを自分で見れば何とかなるという気持ちでやってきた。

 しかし現在、医学が非常に発達したおかげで、難病の子どもも長生きをする。「長生きをすればいいか」という問題がそこで発生してくる。子どもの病気というのは、病気だけの治療に専念すればいいのではない。その間に成長する。家族として普通に生活をしていかなければいけない。従って、普通に病気の治療をするのと、それから大人になってからの疾患を抱えているのとは違う事情がいろいろ発生する。そのため、私ども全国ネットワークでは、病気の種類を問わず電話相談を受け付けるなど、難病の子どもと家族を支援する活動をしている。

 一方、私が代表をしている「TSつばさの会」は、結節性硬化症の子どもを持つ親の会として1987年に18名でスタートした。2018年6月現在、467名の会員登録がある。年に一度、11月23日を目処に、専門医の講演と会員同士の交流の場を持っている。現在の課題は、地域による情報量の差と専門医不足。継続して総合的に関わる医療機関がほとんどないことである。

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小児の病院をなかなか離れられない

 移行期に当たっての問題について、実は私も真っただ中にある。娘は現在44歳。本日も成育医療センターに検査入院ということで預けている。知的な障害を伴うので、なかなか大人の病院というわけにはいかないという現実がある。

 親としては、特にめったにない病気などの場合、確定診断を下していただいた小児の先生が神さまに見える。後光が差している。今まで何だか分からなかったものに病名を与えてくださった先生に対しては、絶大な信頼を置いている。そのため実際には、その小児の病院をなかなか離れない。

 先生としても「この病気は大人の病院に移しても分からないだろうな」という思いから、そのまま抱える。そういうことは実際にいくらでもある。ただ、大人になってしまった体に対して小児科の先生が、あまり経験がないというか、ご存じない。成人になるがゆえの疾患、高血圧であったり、腫瘍であったり、そういうことに対して知識も話題もあまりご存じない。そうすると別の疾患を見落とすことになる。

 私の娘は昨年10月、子どもの病院で検査入院をして「問題なし」として退院したが、12月に腸管からの出血で倒れた。胃から、腸から、全部に大量のポリープがあった。同時に、肝臓に繊維化があって、それから脾臓が腫れていた。

 ずっと何年もかかって、小児の病院では見落としていた。「それは成人になってからの疾患だから」と説明されるが、親としては釈然としない。ひともんちゃくあり、結果として、今年もまた、その子どもの病院で、定期的な健診をしてもらうが、その結果を持ってどうするか。大人の病院の先生にもう1回ご相談するようなかたちを取るつもりでいる。

 それから、大人になってから問題になるのは、どのように日常を暮らしていけるかという問題。重度の身体障害を伴っていたり、酸素までいかなくても、胃ろうであったり気管切開であったり、そういうパイプだらけになって暮らしている子どもではない患者がたくさんいる。

 子どもの時から、その状況になった場合には、これはひたすら親が見ている。よく宿泊施設や病院などに預けると子どもの具合が悪くなると言うが、それは吸引や経管などのケアが、とおり一遍でされると抜け落ちてしまうことがあるからで、自宅では親がすべて、その子にとって非常にカスタマイズされたやり方を編み出してやっている。

 子どもの病院でも、一人ひとりに対して非常にカスタマイズされたやり方をして細かく診ていただくのだが、しかしそれをそのまま大人の診療科へ持ち込めるかといえば、それはやはり難しいと思う。

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「ま、いいか」と思ってやっている

 
 今、私たち親として考えていることがある。重度のお子さんたちにとって自立とは、誰の手からでもケアが受けられる状態。医療機関が、いや、ケアをしてくださる方が代わっても、同じようにやっていけるということを考えている。

 そしてこの3年間、小児神経学会その他でひたすら訴えているのは、主治医は誰だろうということ。ほとんどの神経科の子どもたちは大きい病院でしか受診していない。ご近所のお医者さんはよく知らない。

 最初はそこで見つかったかもしれないけれど、大きい病院に行っている。かなり無理しても、やはり大きい病院に通い続けている。ただ、遺伝子疾患の場合は肉体的に老化が早いと言われている。筋力の衰えなども含めて、ご老人と変わらないケアになってくる。

 その場合に、子どもの病院ではやはり日常生活を、それから大人になってからの疾患をカバーし切れないと思っている。そこで、どうしようかという話になったとき、お年寄りで在宅療養されている方々と同じように近所の主治医を見つけようではないかと考えている。近所の主治医で、手に負えないところは大きい病院に回してもらう。それはお年寄りのケアと全く同じ。親が意識して主治医をつくっていこうではないか、そういうことを訴えている。

 私は手始めに、透析を成育医療センターから地元の病院へ移した。それから現在、皮膚の疾患に対しての薬が2週間に1回しか処方できないので、近所の先生にお願いして出していただいている。成育医療センターから分厚い紹介状を送っていただいた。そのままうまく近所のクリニックの先生を引っ張り込んでやっていけたらいいなと思っている。

 結局のところ、その疾患に関する特徴的な治療というか、その病気ゆえの治療というのはほとんどないのが実情。結節性硬化症の場合はたまたまあるものの、それでもやはり普段の生活に関して言えば、治しようのない病気である。治しようのない病気にとって大事なのは、日常生活をどう安全に過ごしていけるかということ。従って、身近な主治医をみつけましょうということである。

 子どもの病気というのは、ただただ寄り添うことしか親はできない。子ども自身がその疾患と向き合う、やっていけるという環境をつくるのが親の役目だろうと思い、そういう認識を持っていたいと思っている。

 とはいえ、悪いことばかりでもない。この写真はディズニーランド。私どものネットワークでは、ディズニーランドのご招待を年間100組ぐらい頂くので、娘と一緒に行ってきた。この写真は北海道のキャンプ。隣で一緒に笑っているのは看護師さん。自閉が強ければ精神的に問題もあるが、これだけの笑顔が見られるなら、「ま、いいか」と思ってやっている。娘と母と、ほぼ、そのうち老々介護になるのではないかというわが家である。

 そしてこの花の絵は娘が描いたもの。娘が37歳ぐらいになってから、突然絵を描き始めた。とてもいいタイミングで、良い指導者とめぐり逢えた。これだからやっていけるんだなというお話。ありがとうございました。

[福永秀敏座長(南風病院院長)]
 平岡さん、本当にありがとうございました。最後の笑顔、長年の苦労を解消してくれるような笑顔だったと思う。

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一生涯、診ていく病気を対象にしている

[兒玉祥彦氏(福岡市立こども病院循環器科)]
 大人を対象とした医療施設で働いていらっしゃる先生方は、こども病院や小児循環器科医は何をしているのか、ちょっとイメージがつかないかもしれない。こども病院は、子どもを対象として、いろいろな医療をしている病院で、多くの専門科に分かれている。循環器科や、先ほどの小児神経科、内分泌科など、大人の総合病院と同じように子どもの総合病院として取り組んでいる。

 子どもを対象とした医療をしていて、その中で小児循環器科はこれもまたイメージがわかないのではないかと思う。大学の同級生に会うと「どんな病気を診てるの?」とよく聞かれる。小児循環器科は、その名のとおり子どもの心臓病を診ている。大人の循環器内科の先生とやっていることは似ているというか、たぶん、やっていること自体はほぼ同じである。

 ただし、診ている病気が全く違う。こども病院の循環器科で働いていると、知り合いの循環器内科医から「子どももやっぱ心筋梗塞になるわけ?」みたいに言われたことがある。そんなことは当然ない。大人の循環器内科の先生は、心筋梗塞などの虚血を主に診ていらっしゃると思うが、私たちが診ている病気は、先天性心疾患という病気である。

 先天性心疾患は、学生時代に勉強した以来でぼんやりと覚えていらっしゃる方もいるかもしれない。「心室中隔欠損」「ファロー四徴症」「単心室症」など、この病名を見ただけで嫌な思い出がある方もいるかもしれない。複雑だったり、単純だったり、そういう構造的な心臓の病気を診ている。

 そのため、大人の循環器内科医とちょっと違うのは、基本的に手術ありきの病気。大人の先生みたいに自分で治すということは、比重としてはあまり大きくない。どちらかというと、外科の先生に提示して、外科の先生に手術をしてもらって、その術前、術後の管理をしていく。

 ただ、これは大人の心臓病の先生たちと一緒で、やはり一度、私たちが診ることになると、つまり病気があってしまうと、そのあと一生涯、やっぱり診ていかなければいけない。例えば、心室中隔欠損であって穴をふさげばほとんどの場合は問題がないが、そのあとに弁膜症が出てくるとか、あるいは不整脈が出てくるとか、そういったいろいろな問題がおこり得る。そのため、私たち小児循環器内科医が一生涯、こういった子どもたちを診ていかなければいけないということになる。そういう病気を私たちは対象にして仕事をしている。

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どこで診るか、誰が診るか

 私たちが対象とする小児期の慢性疾患の患者さんたちは、どんどん大人の数が増えていってしまって、小児科医だけでは賄いきれなくなっているという現状がある。「どこで診るか問題」「誰が診るか問題」が発生している。

 大人になった慢性疾患の患者さんを誰が診るのか。小児科で救命したのだから、小児科でずっと診続けなければいけないのか。あるいは、年齢が上になってきたから、年齢相応の診療科に移行するべきなのか、どうなのか。先ほど平岡さんの話にも出てきたが、こうした問題がある。

 小児科で診る際の問題点としては、例えば腫瘍であるとか慢性腎疾患であるとか、そういう成人特有の疾患に対応できない。そういうことを想定はするが、小児科医としての研修を受けていないので対応できない。例えば生活習慣病。脂質異常症や糖尿病であるとか、あるいはもしかしたら成人科の先生だと比較的スムーズに「こういうときはこういう薬を出すよね」みたいに、もしかしたら若い先生でもできるような対応が、小児科医はベテランでもできないということになる。

 また、自律的な医療が提供されにくいという問題もある。小児科医は結構、赤ちゃんをよく診る。赤ちゃんは自分で意思表明をしないので、勝手に医療を進めていく。患者さんに対して「こういう治療がありますよ」とか、「明日、採血がありますよ」と、そういうことはいちいち説明しない。勝手にどんどん治療を進めていく。

 患者さんも結構それに慣れっこになって、「先生が言うからそんなもんよね」みたいな感じになってしまう。子どもの自律的な発達ということに関して言えば、あまり適切な環境ではないだろうと思う。

 そのほか、小児科病棟入院時に診療報酬に影響する、成人患者が小児科外来・病棟に違和感を持つという問題もある。これらは医療者側の問題でもあるかもしれない。小児科の多くの病棟は、成人患者の数がある程度制限された診療報酬システムの中で動いているので、あまり成人患者が増えると診療報酬に影響する。また、50歳、60歳になった人が病
気によっては小児科外来に通っていると聞くが、そういった状況が果たして望ましいのかということもある。

 成人科で診る際の問題点も当然ある。一番大きいのは、やはり医療者の知識、あるいは専門に関する問題だが、該当する専門の診療科がないという病気がある。例えば免疫不全症。小児科には免疫を専門にしている医師がそう多いわけではない。大人に移るときに、免疫不全症の人、あるいは重症心身障害、そういった人たちが何科に行けばいいのかということが問題点としてある。それから先天性心疾患など、疾患に関する知識が乏しい場合もある。

 大人の循環器科の先生たちは、どちらかというと生活習慣病に起因するような虚血性心疾患などを主に担当されているので、もともとの構造異常ということに関して知識があまりないということで受け入れが難しいケースがある。

 このほか、患者さんが新たな医療環境を不安に感じるという問題もある。先ほどのお話にも出たが、「子どもの時期に長く診てくれた先生のほうがいいんだ」ということで、新しい環境を不安に思われて、転科をなかなか希望されない患者さんもいることは事実である。

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現在の主な課題は、患者教育

 成人科への移行には受け入れ側となる成人診療科の協力が不可欠である。当院では、カウンターパートになる九大病院の循環器内科の協力が得られているので、転科をおおむねスムーズに達成できているという現状がある。このため、当院の現在の成人科移行における主な課題は、患者教育であるとわれわれは考えている。

 患者教育がなぜ必要か。まず疾患に関する知識不足ということがある。身体管理に関する情報を持っていない。赤ちゃんのときから心臓病なので改めて病気に関する説明をすることもないまま、いつのまにか大人になっている。

 本人も、改めて自分の病気について確認することもないまま、「なぜか僕は定期的に病院に通って薬をもらっているな」「ほかのクラスメートと違うな」と思いながら大人になっていく。「どこの病気か知っている?」と尋ねると、「腎臓?心臓?」みたいな人が結構いる。そういう状況があり、私たちも改めて移行期問題を考えるようになり、この数年で「これはいかん」と思い始めた。

 それから、内服薬を自己管理していない患者さんもいる。お母さんが出してくれるまま飲んでいる。生活習慣病予防など成人として必要な健康教育を受けていない患者さんもいる。大人の病院に通っている患者さんたちは、かなり懇切丁寧な生活習慣病予防の指導などがあるが、子どもに関してはそういう指導が全くされていないので、基本的な健康教育が足りていないという問題がある。

 コミュニケーション能力不足もある。基本的にはお母さんと医者が話し合って決める。「いつ、入院しましょうか」「この日は運動会だから」「この日は卒業式だから」という会話の間、患者さんである子どもはその横でスマホかなんかをいじっている状況がある。年齢的なこともあって、患者さんには医療者とのコミュニケーション能力がまずないし、自分が直接、医者や看護師と話すべきだとは思っていない節がある。

 家族の問題もある。先ほどのお話にもあったが、子どもへの過保護・親子密着が起こりやすい。社会・経済上の問題点もある。医療依存度に対して経済力が弱く、相談先も知らないことがある。

 こうした課題を踏まえ、われわれは移行支援啓発ビデオを作って外来で放映したり、看護師による教育セッションを実施したり、患者さんの交流会を開いたりして移行期支援に取り組んでいる。より良い移行期支援に向けて、実践と検討を重ねたいと思っている。

                          (取材・執筆=新井裕充) 

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