「平均在院日数を短くするが1日単価は上げる」 ── 社保審部会で武久会長

会長メッセージ 協会の活動等 審議会

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 日本慢性期医療協会の武久洋三会長は11月14日、今後の社会保障制度の方向性について議論した厚生労働省の会議で、平均寿命と健康寿命の差を縮めるために平均在院日数を短縮させる必要があるとの考えを示した上で、「今、ちょうどフェイズが変わる時。平均在院日数を短くするが1日単価は上げていただいて、元気な高齢者をしっかりと増やしていく」との見解を示しました。

 厚労省は同日、社会保障審議会(社保審)の医療保険部会(部会長=遠藤久夫・国立社会保障・人口問題研究所所長)の第115回会合を開き、当協会からは池端幸彦委員(日本慢性期医療協会副会長)の代理として、武久会長が出席しました。

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 厚労省はこの日の会合で、政府の改革工程表に関連して、10月30日と11月12日に開催された経済・財政一体改革推進委員会の「社会保障ワーキング・グループ」の議論を紹介した上で、各委員の意見を聴きました。
 
 武久会長は、この日の議論などを踏まえ、次のように述べました。

 「健康寿命の延伸は非常に大事なことであると思います。100歳以上の人が7万人にもなる時代ですが、われわれが医療の現場で見ていると、90歳の患者さんが来たら、『90歳か、もうそろそろだな』という感情を医療側がどうしてもまだ持っているところがあります。
 しかし、そこから100歳になるまでに何回か病気をしたり入院したり手術をしたりして、それを乗り越えて90何歳、100歳に達する方が多くおられます。
 われわれ医療の現場では、90歳の人がちょっと風邪をこじらせて、ご飯が食べられなくて入院したときに、『治療をどうするか』ということをご家族が相談に来ることがあります。そうこうしているうちに長く入院すると、健康寿命に非常に影響します。短期間に十分な治療をすれば3日か4日でご自宅に帰れるという人も結構いらっしゃいます。
 平均寿命と健康寿命の差は、女性が約12年、男性は約9年です。厚労省は、平均寿命と健康寿命の差を一生懸命、短縮させようとしています。確かに、少し短くなってきたことは非常によいと思います。
 病院に長く入院していると、どうしても健康寿命に影響してきます。日本の平均在院日数はアメリカの5倍と言われています。平均在院日数がだんだんに短くなっているとはいえ、医療費を適正化するためには療養病床も含めて入院期間は短いほうがよい。医療の現場にいる者として、そう思います。
 高齢化がどんどん進んでおります。7対1の一般病床の急性期の所でも、産婦人科や小児科の入院も含めまして、患者の平均年齢が70歳です。地域包括ケア病棟では79歳、療養病床では81歳です。この10歳の間に、急性期から慢性期まで集中しているということです。
 90何歳の人が熱を出して病院に来たとき、われわれの現場では『きちんと治す』ということが当たり前ですが、世の中には『もう90まで生きられたからいいじゃないか』というようなことをご家族に言われる方もおられます。
 厚労省は、『ご本人の意思が一番重要だ』ということを言われています。意識がある時に、ご本人に『どうしますか?』とはなかなか聞きにくいものなのですが、ご本人にお聞きすると、『早く治して田植えの準備をしたい』と答える100歳の方もいらっしゃいます。
 今、ちょうどフェイズが変わる時です。医療費を適正化するために、『後発医薬品を使ったらよい』と言うよりも、平均在院日数を短くして、入院したらすぐに治療してすぐに帰すということが、急性期でも慢性期でも必要ではないかと思います。私も厚労省がおっしゃるように、平均寿命と健康寿命の差を短くすべきだと思います。そのために平均在院日数を短くするけれども1日単価は上げていただいて、元気な高齢者をしっかりと増やしていくという医療の現場でありたいと思っております。私の感想です。」

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介護医療院へのスムーズな移行で「全体の費用は減る」

 この日の会合では、「国民健康保険の保険料(税)の賦課(課税)限度額」に関する議論もありました。武久会長は、国民健康保険の財政運営の仕組みが変わったことに伴い、一部の市町村では被保険者の保険料負担が上昇したことなどを指摘した上で、医療療養病床(医療保険)から介護医療院(介護保険)への移行問題に言及し、次のように述べました。武久会長は「介護医療院へのスムーズな移行が行われるほうが国全体としての費用は減る」と指摘しています。

 「国民健康保険はこの前までは市町村が保険者だったと思います。最近、都道府県が保険者になったということですが、市町村の時の保険料が都道府県単位になって保険料が上がった市町村と、下がった市町村がもしお分かりになれば教えていただけたらと思います。
 というのは、医療療養病床から介護医療院に転換すると、保険が国民健康保険から介護保険になる。介護保険は市町村単位になっているので、ここで市町村によるストップが問題になっているところがございます。
 そういう意味では医療保険と関係がありますので、お話をさせていただきます。市町村として国民健康保険も介護保険も両方を扱えば、医療保険から介護保険に変わることはトータルとしては間違いなく市町村のお金としては少なくて済む。ところが、国民健康保険の保険者が都道府県になった場合には、市町村側を考えれば、医療保険から介護保険に変わると、介護保険の保険料が小さな市町村では跳ね上がってしまう。
 このへんのディスクレパンシー(不一致)を調整していただき、トータルとしては医療から介護の側に移るほうが全体の報酬としては安くなるのであれば、厚労省のほうで、なんとか検討していただきたいと思います。
 国民健康保険から介護保険へのスムーズな移行が行われると、国全体としての費用は減ると思われます。よろしくお願いいたします。」

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 これに対し、厚労省保険局国民健康保険課の野村知司課長は、次のように答えました。

 「保険料は、都道府県単位化するように動くというよりは、医療費の状況であるとか高齢化の進み具合とか、さまざまな要素が絡み合っておりますので、なかなか単純に比較するとか割り切るというのは難しいと思っております。
 昨年度末に公表させていただきましたが、平成30年度の1人当たり保険料がどう動くかということを理論値で、各都道府県に計算していただきました。
 それを見ますと、だいたい40数パーセントの市町村では、年度単位で見るとちょっと上がる。一方で、5割強の市町村では下がるということです。ただ、これはあくまで理論値でございます。 
 この理論値の計算のあとに、各市町村での保険事業の実施状況とか、あとは今回の制度改革による激変緩和のための措置などもいろいろと盛り込んだ本当の保険料というのを設定し、6月から8月にかけて保険料を算定して、個々に通知をして賦課をするということになっております。これはあくまで理論値としてはそうなるということでお含みおきをいただければと思います。」

                          (取材・執筆=新井裕充) 

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