新たなモデル「介護医療院」の創設と展望 ── 日本介護医療院協会の設立シンポ

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01_介護医療院シンポジウム全体写真

 日本介護医療院協会は4月2日、「新たなモデル『介護医療院』の創設と展望」をテーマに設立記念シンポジウムを開催しました。シンポジウムには、厚生労働省の鈴木康裕医務技監をはじめ、日本医師会の鈴木邦彦常任理事、安藤高夫衆議院議員が参加。行政や現場の立場から、今後の介護医療院のあるべき姿を探りました。

 最初に登壇した厚労省の鈴木医務技監は、「急性期の、特に救急などの機能に十分配慮しながら一定の集約化は将来、やっぱり避けられない」との考えを示しました。鈴木医務技監は、病院と同一の建物内に介護医療院を設置した場合の例などを挙げた上で、「同じ施設の中で介護医療院を持っていただくと、急性期部分の在院日数を減らして病院の運営をきちんとできる」と指摘。介護医療院の併設によって平均在院日数を短縮化する効果に期待を込めました。以下、鈴木医務技監の講演要旨をお伝えいたします。
 

多くの時間を療養病床問題に費やした

[厚生労働省・鈴木康裕医務技監]
02_厚労省の鈴木康裕医務技官 平成30年度は診療報酬と介護報酬の同時改定が行われた年であるが、今から12年前にも同時改定があった。私は同時改定を終えた直後に老人保健課長を拝命した。着任したところ、療養病床の廃止問題をめぐる嵐が吹き荒れた。その後、多くの時間を療養病床問題に費やした。療養病床の在り方をめぐる問題は私自身にとっても中心的な問題である。そういう思いで、この12年間、取り組ませていただいた。

 先ほど、江澤先生が「住まいと医療をめぐる新しいモデルである」とおっしゃった。その背景も含めて、私からお話をさせていただく。

 まず、日本の人口の推移をお示しする。これを見ると、高齢化の内訳が変化している。「急増する高齢者」から「激減する労働人口」へ。すなわち、働く人が減っていく高齢化である。医師や看護師の養成数には限りがある。現在の病床数のままで、今後の超高齢社会を乗り切っていくことは難しい。人口当たりの養成数はアメリカと大差ないが、100床当たりの看護師数を比べると、日本はアメリカの5分の1と少ない。そういう状態を少しずつ解消していく必要がある。

 ライフスタイルや世帯構造も変わってきた。子どもの数は減少している一方で、引退後の期間が長くなっている。夫が死亡した後、妻が死亡するまでの期間が、平均寿命の延伸によって年々、長くなっている。

 また、高齢者の独り暮らし世帯が増加している。三世代同居が少なくなった。もはや家庭内における介護の力には期待できない。家庭の中だけではなくて、社会全体で見なければならない。
 
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「最期を迎える場所がなくなる」と危惧した

 私は老健課長時代に、「このまま何もしないと最期を迎える場所がなくなる」と危惧した。2040年には年間の死亡者が約160万人となり、そのうち医療機関で亡くなる人が約89万人、自宅が約20万人、介護施設が約9万人、そして「その他」が約47万人と推計した。

 医療機関で亡くなる人は病床規制があるので現在よりも大幅には増えない。自宅についても、在宅医療を推進しているものの独居高齢者の増加などを考えると、爆発的には伸びないだろう。そうすると、「その他」の50万人近い人たちが最期を迎える場所がなくなってしまうと考えた。しかし、それは杞憂に過ぎなかった。

 私の予想は大きく外れた。その後、非常に増えたサービスが2つある。1つは、有料老人ホーム。もう1つは急峻な上昇を示しているサービス付き高齢者向け住宅(サ高住)である。この2つを合わせると、約50万人を収容できる。

 ただ、いくつかの課題がある。まず、月額費用。サ高住は「12万~14万円」が最も多く15.9%で、平均金額は13.9万円。1人14万円で食費込みというのは、果たしていかがだろうか。値段がまだ高いという論点がある。

 もう1つの課題は、誰がサ高住をつくっているのかである。医療法人と社会福祉法人を合わせて全体の4分の1ぐらいにすぎない。半分ぐらいを占めているのが株式会社である。もちろん、株式会社も介護事業に貢献しているので、決して悪いことではない。
 しかし、営利を目的とする株式会社の中には。これまで全く医療・介護事業に関係していなかったが、「マーケットが広がりそうだ」という考えで、「とりあえず出てみるか」という株式会社もある。
 
 今後、高齢者が増え、核家族が増え、働く女性が増えていく。独りで暮らす高齢者をどこで見るかという問題は、まさに日本の中心的な課題である。私は、その対処の仕方には3つのフェーズがあると考える。1つは、病床を増やして対応する。これは病床規制がなされる前の政策である。もう1つは、介護保険施設を増やして対応する。10年くらい前まではそうだった。

 では、現在はどうか。有料老人ホームやサ高住など私費での対応が増えている。医療保険から介護保険へ、そして最後は私費が中心。医療保険と介護保険と私費を合わせた対応が「ベストミックス」と言えるかは分からないが、いろいろな資源を合築して1つのサービスとして提供するのが今の姿ではないだろうか。私が平成18年に老人保健課長に就任した当時、介護療養病床の一部を老健のような形で転換していただいたらどうかと考えたが、少々説明が足りなかったかもしれない。

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違う施設を組み合わせて地域ニーズに対応すべき

 日本はG7諸国に比べて病床数が多い。約1.7~4倍強となっている。もちろん、病床数が多いことはメリットでもある。自宅近くの病院に、すぐ入院することができる。
 しかし、デメリットもある。集約化できないのでコスト高になりがちであり、ドクターやナースの配置が非常に薄くなる。

 むしろ、本当に必要な場合のためにドクターやナースを集約化して、それ以外は「住まい」と「医療」を合築することができないか。それが、今回の介護医療院の発想の原点である。

 すなわち、「どれぐらい看護師さんが張り付いているか」という評価の仕方から、「どういう病気のステージにあるのか」という組み替えが必要であろう。一般病棟入院基本料を「看護師の配置」に基づく分類から、「患者の病期」に応じた構成に変えていく必要があると考えている。
 
 我が国では、個人と民間医療機関(医療法人)が病院数で5,726施設と65.5%を占め、病床数は85万1,275床と53.2%を占めており、日本の医療の中核を担っている。
 しかしながら、施設数と病床数のシェアの違いから分かるように中小病院が多い。大規模病院においては、公的病院が多い。ドイツやフランスでは、公的セクターが大きな割合を占めている。

 ドイツは85%が公的な病床である。そうすると、労働組合などの問題はあるかもしれないが、例えば知事や大臣が「こうする」という決定をすれば、一定程度は変わっていく。
 しかし日本は、公的な施設が19.4%であり、8割は民間である。ご自分で借金をされて病院を設立されて、ご自分の責任で職員を雇っている先生方に「明日からこのように変わってください」と言って、「はい、分かりました」となるかどうかは難しい。

 しかし、地域の実情を考えると、10年後、20年後はミスマッチが起きるかもしれない。そのため、将来の動向を見据えて、先生方の施設の中で、一定程度、違うような施設を組み合わせて地域のニーズに対応したほうがいいのではないか。

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急性期の一定の集約化は将来、やっぱり避けられない

 
 最後になるが、介護医療院を診療報酬でどう扱うか。私はこれが非常に大事だと思っている。介護医療院はいわゆる退院先として、在宅とみなせることが非常に大きい。同じ施設の中で介護医療院を持っていただくと、いわば急性期部分の在院日数を減らして、全体としての医療施設内の運営をきちんとできるかという点とも関係しているので、非常に大事だと思っている。

 本日の論点は、高齢者が非常に増えて介護力がどんどんなくなっていく中で、家庭で見られない場合のオプションとしては、もちろん施設や病院というのがある。ただし、病床は今でも非常に数が多いので、これ以上増やすわけにはいかない。病床の将来像を考えると、これは医療機関の先生方から異論もあるかと思うが、私はやはり、急性期の、特に救急などの機能に十分配慮しながら、一定の集約化は将来、やはり避けられない。

 そういう中で、集約化していくもともとのところは一定の転換をしていただいて、医療機関と住まいの合築とか、そういう形を新たに考えていただいて、運営していくというのが非常に必要で、それが新しい日本の、地域の、医療と住まいのモデルを提供することになるのではないかと思う。

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  新たなモデル「介護医療院」の創設と展望

           ── 医療・介護の現場から

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03_介護医療院シンポジウム全体写真

 4月2日に開かれた日本介護医療院協会の設立記念シンポジウムでは、鈴木医務技監の講演に続いて、医療・介護の現場の立場から日本医師会の鈴木邦彦常任理事、日本慢性期医療協会の武久洋三会長、同協会副会長の安藤高夫衆議院議員が意見を述べ、最後に日本介護医療院協会の江澤和彦会長が今後の抱負を述べました。

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「未来に明るさが見える政策づくりを」── 日医・鈴木常任理事

04_鈴木邦彦氏(日本医師会常任理事) 鈴木邦彦氏は「介護医療院の創設と地域包括ケアのまちづくり」と題して講演。療養病棟の在り方をめぐる議論に関わった経緯を振り返りながら、地域密着型中小病院・有床診療所の役割を提示。これからの医療・介護について、「地域の実情に応じた多様なニーズに応えられるようにしなければならない。介護医療院については経営者にとっても魅力的な選択肢とすべきと主張してきたが、どのような病床機能や介護の機能を選択しても、経営が成り立つようにしていく必要がある」と述べました。

 その上で、地域包括ケアシステムの構築と地域リハビリテーションの理念に基づくまちづくりの必要性を強調。熊本県や埼玉県における地域リハビリテーションの支援体制を紹介した上で、今後の日本に必要な医療は「地域に密着した医療」が中心となり、高度急性期医療はその“外側”で、最後の砦として地域医療を支えていく役割を果たすと説きました。

 鈴木氏は、地域のかかりつけ医が中心となって、有床診療所や中小病院などが連携して在宅医療などを支援し、こうした取組によって地域包括ケアは“まちづくり”に進化していくとし、「全世代・全対象型地域包括ケアで再生を目指す社会づくりへ。未来に明るさが見える政策づくりをしていく必要がある」と締めくくりました。

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「介護医療院が良い施設となるように」── 日慢協・武久会長

05_武久洋三会長 日慢協の武久洋三会長は、「新たなモデル『介護医療院』の創設と展望」と題し、過疎化や高齢化が急速に進む淡路島を舞台にした二次医療圏の展望を語りました。
 
 武久会長は「淡路島内における人口当たりの病床数は全国平均と比較して多い。特に療養病床数が非常に多い」と指摘。こうした地域で療養病棟を介護医療院に転換した場合のシミュレーションを示した上で、「慢性期病院は療養病床だけでは生き残れない。慢性期多機能型病院にしないと地域で必要とされなくなる」と述べ、これからの慢性期病院は、自ら入院患者を確保していく必要があると強調しました。

 今後の展望については、「病院での治療が必要ない患者は早期退院し、施設入所者・在宅療養患者ともにある程度の医療ケアは必須となる。逆に、これらの患者の急変時には地域包括ケア病棟を有する地域多機能型病院で受け入れることになる」と見通しました。

 その上で武久会長は「医療の後に介護があり、介護の後に医療が必要。医療の支えのない介護はない。地域包括ケアシステムも医療の支えがあってはじめて成立する。こうした観点から、今回は素晴らしい成果をあげた同時改定であった」と評価。「地域の医療系ではない福祉施設といかに協力するか。紹介してもらえるように何をするか。この連携が非常に重要になってくる」との認識を示しました。

 今改定について武久会長は、在宅復帰先が制限された点に着目。「地域での評価が低ければ、急性期も慢性期も命取りとなる。地域住民の支持を得られなければ、病院や施設として存続することは難しい時代が来た。地域での評価が低ければ、急性期も慢性期も命取りとなる」と警鐘を鳴らしました。

 その上で武久会長は「利益を追求しようとする姿勢が透けて見えると住民の信頼を得られない。病院や施設側を中心にした運営ではなく、患者さんや利用者を第一に考えて運営していくことが必要があり、介護医療院も同様である。介護医療院が良い施設となるように頑張ろう」と呼び掛けました。

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「介護医療院は医療と介護をつなぐ」── 衆院議員・安藤副会長

06_安藤高朗・永生病院理事長 昨年10月の衆院選で初当選を果たし国政に進出した安藤高夫氏(日慢協副会長)は、約10年前に議員を志した動機として療養病床をめぐる問題を挙げ、衆議院予算委員会での質疑や、これまでの取組を振り返りながら今後の展望を語りました。

 安藤氏は、「私が考えるこれからの医療・介護の形」と題し、地域包括ケアにおける介護医療院の活躍に期待を込めました。特に、介護医療院の質向上、質評価の仕組みの導入に向けた取組を進める必要性を指摘し、「地域包括ケアのインディケーター(案)」として、ストラクチャー・プロセス・アウトカムの評価指標を提示。このうち、ストラクチャーについては、「かかりつけ医を持っている人の割合」や「認知症サポート体制の構築率」などを挙げました。

 プロセスについては、介護医療院などからの在宅復帰に向けた連携の試みや退院後を見据えた投薬管理の指導、栄養指導・口腔ケアの指導などを提案。アウトカムについては、医師会会員の地域ケア会議への参加回数や、在宅での看取り率などを挙げるとともに、高齢者の満足度調査などの活用も提案しました。

 介護医療院の運営については、まず地域で連携している医療機関や介護施設などへの広報活動が必要であると指摘。地域包括ケア病棟を開設した際に、広報用のチラシなどが功を奏したことを紹介し、「介護医療院バージョンを作成したい」と意欲を示しました。

 安藤氏はまた、介護療養病床を介護医療院に転換した場合のシミュレーション結果を示した。具体的には、永生会の関連グループである医療法人社団明生会セントラル病院本院(東京・渋谷)の介護療養病床92床を医療療養34床、介護医療院58床に転換した場合を試算。人件費の増額分を差し引いても、年間で約4,700万円の黒字になるとし、「こういう病院には介護医療院はピッタリだ。医療療養病床1で重症な患者さんをお引き受けして、入院が長期化する場合には介護医療院という形で稼働率の安定化を図ることができる」と説明しました。

 医療・介護連携において介護医療院が果たす役割に期待を込め、「医療と介護をつなぐ今の時代において、介護医療院は本当に傑作ではないか。介護医療院の重要性をかみしめながら、地域にパブリックリレーションしていくことが大事である」と語りました。

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「最大の使命は利用者の尊厳を保障すること」── 江澤会長

 最後に登壇したのは、日本介護医療院協会の江澤和彦会長。介護医療院について「尊厳の保障」を基本理念に掲げ、「住まいと生活を医療が支える新たなモデルとして創設された」と述べました。その上で、「地域に開かれた交流施設として、地域包括ケアシステムの深化・推進に資する社会資源である」との考え方を示しました。

 江澤会長は、介護医療院の提供サービスとして、利用者の意思・趣向・習慣の尊重(個別ケア)や、人生の最終段階における医療介護(ACP:アドバンス・ケア・プランニング)、生活期リハビリテーション(心身機能・活動・参加)、地域貢献(介護者教室・出前講座・カフェ・ボランティア・地域づくり)などを挙げました。

 介護医療院における生活施設の役割については、プライバシーの尊重(ハード+ソフト)や居場所づくり(愛着ある物の持ち込み・音楽)、レクレーションの開催、地域交流(住民交流イベント・カフェ・社会資源利用)などを挙げ、自院の取組などを紹介しながら具体的に伝えました。

 江澤会長は「介護医療院の理念(案)」として、「利用者の尊厳を保障することを最大の使命とする(尊厳を保障する施設)」を冒頭に掲げ、地域に開かれた交流施設として地域貢献する役割などを示しました。以下、江澤会長の講演要旨をお伝えいたします。

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本人の意思を尊重した看取りを

[江澤和彦・日本介護医療院協会会長]
07_江澤和彦会長 今後、介護保険3施設は特養・老健・介護医療院の3つに収れんする。いずれも機能は異なっている。介護医療院については、利用者の尊厳を最期まで保障し、看取りも大きな役割の1つになるだろう。

 介護医療院は、要介護度の高い方に多く利用されると思う。要介護度3、4、5に応じた自立支援のあり方も考える。必要な人にはリハビリテーションも提供すべきだである。すなわち、自立支援を念頭に置いた「長期療養プラス生活施設」であろう。

 介護医療院には、在宅の三本柱である「通所」「訪問」「ショート」の3つの機能が提供できる。ということは、在宅療養支援が十分可能な施設なのである。入ったら入ったきりではない。介護医療院と在宅を終末期に行き来する。最期は在宅であった、あるいは最期が介護医療院であったということが当然あり得る。

 「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」(GL)に沿いながら、本人の意思を最大限に尊重し、医療ケアチームと十分に話し合いをする。アドバンス・ケア・プランニング(ACP)にどう取り組んでいくのかが重要になる。

 ACPは、介入が早すぎると本人の意思との齟齬が生じやすくなるし、遅すぎると十分に機能しない。本人の意思を最大限に尊重するためには、特にプロセスが重要である。介護医療院では、ACPの介入時期にふさわしい利用者も多くいらっしゃり、本人の意思を尊重するためにさまざまな取組ができるのではないか。

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どういう空間にしていくのか

 介護医療院は新たに登場する施設である。本人やご家族をはじめとした地域住民に対し、「介護医療院とは何か」ということを懇切丁寧に説明するよう努めていく必要がある。

 介護医療院が地域の中のブラックホールになってはいけない。地域に開かれた交流施設にする。ボランティアの人たちが介護医療院の中に入り、住民との交流も積極的に進める。介護予防の教室を開いたり、健康づくり教室を開いたりしながら、透明性を持った施設にすることが非常に大事である。私は介護医療院を「地域包括ケアシステムの深化・推進に資する社会資源である」ととらえている。

 介護医療院は、「介護保険上の介護保険施設(生活機能)」プラス、「医療法上の医療提供施設(長期療養)」である。療養病床から参入する場合には、「長期療養」はいわば得意技といえるが、「生活施設」という点ではどうか。介護保険施設を運営していない法人や事業者にとっては初めてのチャレンジになるかもしれない。「生活施設」は1つのキーポイントではないか。特に、プライバシーの尊重が重要である。

 単に間仕切りをしただけでプライバシーが尊重されるかといえば、必ずしもそうではない。移行定着支援加算をハードのてこ入れに使えるかもしれないが、ソフトの問題もある。利用者や家族への関わり方、声のかけ方など、いろいろと新たに取り組むべき課題もあるだろう。

 4人部屋、多床室でのプライバシーの尊重については、これからいろいろと知恵を絞って考えていく必要がある。例えば、個室であれば愛着のある物、仏壇や写真を室内に持ち込むことができる。お亡くなりになる瞬間まで耳が聞こえている場合が多いので、本人が好きな音楽をかけてお見送りをすることもできる。最期を迎える居場所をどういう空間にしていくのかについても考える。車いすや要介護度の高い人がきちんと生活していけるか、いろいろな配慮が必要になる。

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サービスの質向上を目指す

 介護医療院は、地域に開かれた交流施設として地域に貢献していく必要がある。年中行事やレクリエーションなどを積極的に開催することが望ましい。いかに生活感を感じていただくかが非常に大事なポイントである。

 私は岡山県や山口県で病院や施設を運営している。岡山県独自の介護医療院の基準には、「食事に地産地消のものを出そう」という一文が入っている。介護医療院の運営と地域づくりは密接に関連している。
 介護医療院では、生活の潤いを感じられることがとても大事である。療養病床から介護医療院へと看板は変わったものの、多床室が間仕切られたまま、やっていることは今までと一緒というのでは介護医療院としてはいかがなものか。

 地域住民らの理解を得るために、介護医療院の質を担保する仕組みも必要である。今後、日本介護医療院協会では、まずは基本理念を確立した上でさまざまな研修会を開催し、好事例の共有や検討、第三者評価や認定制度などの構築に努めていきたい。

 現時点における「介護医療院の理念(案)」をお示しする。

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【介護医療院の理念(案)】

 ・ 利用者の尊厳を保障することを最大の使命とします。
   →尊厳を保障する施設

 ・ 自立支援を念頭に置いてサービスを提供します。
   →自立支援施設

 ・ 必要かつ良質の施設及び在宅の療養を提供します。
   →入所・在宅療養施設

 ・ 潤いある生活感溢れるサービスを提供します。
   →生活施設

 ・ 地域に開かれた交流施設として地域貢献します。
   →地域貢献施設

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 まだ全くの私案である。今後、協会内で十分に検討し、さらに詰めていきたいと思っている。皆さまからご意見を賜りながら、生まれたばかりの介護医療院を成功に導けるようにしたい。介護医療院が健全に成熟していくように努める。

 誰も好き好んで病気や障害を抱えたわけではない。しかし、お元気であればたぶん出会うことはなかったということもある。少しでも、その人らしさを引き出すために、私たちは何ができるか。尊厳を保障し、潤いあるサービスを提供していきたい。

 1つでもいいから、今できることを少しずつ進め、必要かつ良質のサービスを提供していく。そのために日本介護医療院協会では、会員病院や介護事業所などから好事例を集め、多くの研鑽を積み、介護医療院におけるサービスの質向上を目指していきたい。

                           (取材・執筆=新井裕充)

 

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