「フレイル」と「ターミナル」について考えよう ── 4月13日の定例記者会見

会長メッセージ 協会の活動等

2017.4.13記者会見

 「裏側に潜んでいる低栄養や脱水の治療も同時に行っていただければ、もう少し死亡率は減るのではないか。医療費や介護費が大幅に削減できるのではないか」──。日本慢性期医療協会の武久洋三会長は4月13日の定例記者会見で、「『フレイル』と『ターミナル』について考えよう」と題して意見を述べました。

 会見で武久会長は、フレイルの背景にある「低栄養」や「脱水」の患者さんを急性期病院から多く受け入れている状況を説明。慢性期病院には、こうした患者さんが多く入院していることや、7対1病院などと比べて死亡退院の割合が多いことなどを伝え、「ターミナル」の在り方にも迫りました。

 以下、会見の要旨をお伝えいたします。会見資料は、日本慢性期医療協会のホームページ(http://jamcf.jp/chairman/2017/chairman170413.html)に掲載されておりますので、ご参照ください。
 

■ フレイルとサルコペニアの違いと共通点は
 
[池端幸彦副会長]
 平成29年度最初の定例記者会見を開催する。武久会長、よろしくお願いいたします。
 
[武久洋三会長]
 昨今、「フレイル」という言葉を皆さま方も耳にする機会が多くなったと思う。このフレイルというのは、後期高齢者の患者さんが増えるほど問題となっていると思う。

 われわれ慢性期医療の立場で患者さんをみていると、確かにフレイルという状況がある。ほとんどの人がフレイルである。この点に関して、私ども日本慢性期医療協会はどういうスタンスでいくかということもまじえて、本日の記者会見でわれわれの意見を述べたい。

 まず1ページをご覧いただきたい。サルコペニアとフレイルの比較を表に示した。フレイルに対して、サルコペニアという言い方もある。
 

スライド01
 

フレイルの定義は、「加齢に伴う様々な機能変化や予備能力低下によって健康障害に対する脆弱性が増加した状態」となっている。1から5の状態、すなわち、1.体重減少(年間4.5kgまたは5%以上の体重減少)、2.主観的疲労感、3.身体活動量の低下、4.歩行速度の低下、5.筋力(握力)の低下──である。

 この状態は、日本慢性期医療協会の会員病院に入院している患者さんよりも軽い状態である。最近では、慢性期病院に入院している患者さんが重症化しており、このフレイルの状態はもうすでに通り過ぎたような重症者も多くいる。

 2ページをご覧いただきたい。フレイルとサルコペニアには、このような違いがある。代表的な違いを言うと、フレイルは体重減少、サルコペニアは骨格筋量の減少である。共通点は主に、筋肉量、筋力、身体機能である。

スライド02
 

■ 慢性期医療の現場、低栄養や脱水が多い

 フレイルの背景にあるのは、低栄養や脱水である。現実に目立っている要素として、低栄養や脱水が非常に大きいことが分かっている。

 新入院患者の検査値の異常値割合を調べた。平成22年1月から平成28年12月までの約7年間に、当院を含む計16病院に入院した3万7,730名の患者さんの入院時の血液検査の結果である。検査値の異常値割合を表に示した。
 

スライド04

 まず、尿素窒素(BUN)について見る。これは脱水の指標だが、尿素窒素が高い人は40パーセントぐらい。ナトリウム(Na)が低い人は30パーセント程度となっている。低栄養の指標になるアルブミン(ALB)が低い人が約6割。血糖値(GLU)が高い人が6割、貧血(Hb)の人が5割以上である。

 これは、3万7,000人という大量の血液検査の結果なので、かなり信頼性が高いと思う。このような状態の患者さんを、われわれ慢性期医療の現場ではお引き受けしている。
 

■ 急性期病院から低栄養の人が7割以上も入院

 では、このような低栄養や脱水の患者さんは、いったいどこから来るのか。急性期病院である。5ページをご覧いただきたい。
 

スライド05
 

 これは、新入院患者の「低栄養」異常検査値割合である。平成22年1月から平成28年12月に、当院を含む計16病院に入院した患者3万7,730人の病院別入院時検査で、アルブミン(ALB)3.8未満の低栄養を示す異常検査値を示した患者割合が高かった病院順に並べ、これらの患者の入院元の居場所を調査した。

 それによると、ALB3.8未満の患者数は2万2,474人(59.6%)だった。計16病院のうち、最も多い割合だったのはK病院(71.4%)、次いでA病院(68.1%)、M病院(67.9%)──となっている。
 
 では、そういう患者さんはどこから来たのか。黄色の部分をご覧いただきたい。入院元の居場所を見ると、M病院は74.6%が急性期病院だった。このほかにも、G病院では68.2%、J病院は79.7%、N病院は74.7%となっている。このように、急性期病院から低栄養の人が7割以上も入院してきているという実態がある。
 

■ 急性期病院から脱水の人が7割以上も入院

 脱水はどうか。6ページをご覧いただきたい。尿素窒素(BUN)20.1以上の脱水を示す異常検査値を示した患者割合が高かった病院順に並べ、これらの患者の入院元の居場所を調査したものである。
 

スライド06
 

 これによると、16病院の新入院患者3万7,730人のうち、脱水の指標である「BUN20.1以上」は1万4,960人(39.7%)だった。

 右側の黄色い部分をご覧いただきたい。入院元の居場所を見ると、I病院は急性期病院から77.4%、N病院は71.1%となっている。急性期病院から、かなり高い率で脱水の患者さんも来ていることが分かる。
 

■ アルブミン値が非常に低い患者は急性期病院から

 要するに、これらの入院時の検査で悪かった人たちの多くは、主に急性期病院からの紹介患者であったということが分かる。7ページをご覧いただきたい。平成22年1月から平成28年12月までの間に、当院を含む計16病院に入院した患者3万7,730人の「低栄養」ALB値別、「脱水」BUN値別の入院元の居場所である。
 

スライド07
 

 「低栄養」の指標となるアルブミン(ALB)の値について見ると、アルブミン値が非常に低い患者さんは急性期病院からの紹介が多いことが分かる。

 アルブミン値はだいたい4以上あるが、「2.5未満」の患者さんのうち急性期病院から来たのが68.2%、「2.5以上3.0未満」は62.7%、「3.0以上3.8未満」は55.1%となっている。アルブミン値が低い患者さんほど、急性期病院から来ている。

 また、「脱水」の指標となる尿素窒素(BUN)について見ると、「20.1以上25未満」患者さんのうち急性期病院から来たのが53.0%、「25以上」は48.2%となっている。やはり急性期病院からの紹介患者さんが多い。
 

■ I病院のケース、低栄養のほとんどが急性期病院から

 調査した16病院のうち、I病院のケースを紹介する。I病院は149床(医療療養病床104床、回リハ病床45床)で、2010~16年に入院して6項目の検査を実施した患者2,244人(男1,010人、女1,234人、平均年齢78.5歳)の場合である。
 

スライド08
 

 それによると、アルブミン値が低い「3.8未満」の患者さんは1,214人(54.1%)で、このうち995人(82.0%)が急性期病院からの紹介患者さんだった。「2.5未満」の患者さんは急性期病院から42人(91.3%)、「2.5以上3.0未満」は142人(84.5%)と非常に高い割合となっている。この病院は、低栄養の患者さんのほとんどが急性期病院から紹介患者である。

 尿素窒素でも同じように、「20.1以上25未満」が79.9%、「25以上」は75.7%となっており、施設や在宅から来る患者さんよりもはるかに検査結果が悪く、低栄養や脱水の患者さんが多い。
 

■ 異常値の上位10人の入院元、ほとんどが急性期病院
 
 アルブミンの値が低かった上位10人の入院元を調査した。9ページをご覧いただきたい。
 

スライド09
 

 アルブミン値の正常値は3.8以上であるのに、1.8とか1.6、1.4など、この黄色い部分はすべて急性期病院からの紹介である。すなわち、低栄養の割合が非常に著しい場合は、ほとんどが急性期病院からの紹介ということが分かる。

 10ページは尿素窒素。こちらも同じような傾向が見られる。
 

スライド10
 

■ 死亡退院が多い医療療養病床、「非常に大変な仕事である」

 私が運営している病院のデータを示す。11ページをご覧いただきたい。2016年1~12月に当院を含む16病院に入院した患者6,800人の「入院30日」「60日以内」「90日以内」の経過と、それぞれの退院患者に占める死亡割合である。
 

スライド11
 

 「入院30日以内」は、退院患者に占める死亡割合が20.75%、「60日以内」は17.22%、「90日以内」は15.87%と、だんだん減ってきている。

 しかし、12ページをご覧いただきたい。各種病床種別・施設における死亡割合を示した。
 

スライド12
 

 これによると、医療療養病床では40%から50%パーセントの死亡退院がある。これに対して、7対1一般病床では2%、地域包括ケア病棟は4%と少ない。

 医療療養病床は、死亡退院する患者さんが多い。死亡退院する患者さんが多いということは、現場は非常に忙しい。夜勤も大変である。こういう医療を慢性期病院では行っている。非常に大変な仕事であるということをご理解いただきたい。
 

■ 重症患者さんを多く引き受け、死亡率を抑える

 13ページをご覧いただきたい。当院には、気管切開の患者さんが3割近くおられる。人工呼吸器を付けている患者さんは10%以上おられる。
 

スライド13
 

 近くの高度急性期病院から、重症患者さんを多く引き受けている。重症患者さんがこのぐらいの割合なのに、医療療養病床の全国平均の半分程度の死亡率に抑えられている。そのためには、かなりの努力をしてきている。

 食べなくなる原因がはっきりしていれば当然、すぐに治療する。しかし、ターミナルの定義がはっきりしていないので、それぞれの病院や施設によって、その解釈はいろいろだろう。
 

■「ターミナル」の定義、厚労省は明確にしていない

 自分で食べられなくなったら、それは果たして「ターミナル」なのだろうか。「ターミナル」の定義は何か。この点について厚生労働省は明確にしていない。
 

スライド16
 

 厚労省は平成27年3月に「人生の最終段階における医療の決定プロセスに関するガイドライン」の改訂版を公表した。これまでの「終末期医療」という言葉を「人生の最終段階における医療」に変更したが、このガイドラインには「終末期」の定義が明記されていない。

 このガイドラインでは、人生の最終段階における医療とケアのあり方について、「医師など医療従事者から適切な情報の提供と説明がなされ、それに基づいて患者が医療従事者と話し合いを行い、患者本人による決定を基本」とか、「医療・ケアチームにより可能な限り痛みやその他の不快な症状を十分に緩和し、患者や家族の精神的・社会的な援助も含めた総合的な医療とケアを行うことが必要」といった説明がなされているが、終末期の定義がここには一切書かれていない。
 

■ 日本医師会 ──「終末期医療のガイドライン 2009」

 では、日本医師会はどうか。「終末期医療のガイドライン 2009」には、こう書いてある。すなわち、広義の「終末期」(単に「終末期」と表現するとき)については、
 「担当医を含む複数の医療関係者が、最善の医療を尽くしても、病状が進行性に悪化することを食い止められずに死期を迎えると判断し、患者もしくは患者が意思決定できない場合には患者の意思を推定できる家族等が『終末期』であることを十分に理解したものと担当医が判断した時点から死亡まで」としている。
 

スライド17
 

■ 日本老年医学会 ──「立場表明」2012

 日本老年医学会はどうか。「高齢者の終末期の医療およびケア」に関する日本老年医学会の「立場表明」2012では、終末期の定義をはっきりと示している。

 それによると、終末期とは「病状が不可逆的かつ進行性で、その時代に可能な限りの治療によっても病状の好転や進行の阻止が期待できなくなり、近い将来の死が不可避となった状態」としている。
 

スライド18
 

■ 低栄養や脱水が「ターミナル」にされてしまう

 国がきちんとした「ターミナル」の定義を決めないと、単に低栄養や脱水でも「ターミナル」にされてしまう。「ターミナル」に関する統一的な定義が明確にあれば、現場はそれに従う。しかし、国はきっちりとした判断を示していない。核になる定義を決めないと、低栄養や脱水の状態、すなわち痩せ衰えた状態ならもうターミナルではないかということにもなりかねない。

 いま慢性期の病院では、低栄養や脱水の患者さんを急性期病院から8割、9割も受け入れている。そうした慢性期医療の現場としては、「治療」というよりもむしろ、補給されていない栄養や水分を補うこと、すなわち治療ではなく「補給作業」をするということになる。なぜ、急性期病院できちんとしたことをしてくれないのだろうか。

 こういう補給が十分できないような状態で、1カ月も2カ月も急性期病院に入院していれば、それはフレイルになるのは当然である。筋力が落ちることは当たり前として、歩くこともできないし、廃用性症候群になる。

 低栄養や脱水になれば、亡くなる可能性が非常に強くなってくる。そういう患者さんを慢性期医療の現場ではたくさんお引き受けしている。現在、こういう状況にあるということをご理解たまわりたいと思う。
 

■ 裏側に潜んでいる低栄養や脱水の治療も同時に

 後期高齢者は、十分な栄養が補給されなければ病気になる、また水分が不足してきたら病気になる。急性期医療の臓器別専門医の先生方には、このことをよく理解していただきたい。表に出てくる感染症や、いろんな病気だけでなく、その裏側に潜んでいる低栄養や脱水の治療も同時に行っていただければ、われわれのところへ来たときに、もう少し死亡率は減るのではないか。

 急性期病院で、もっと早めに適切な治療をしていただければ、慢性期病院や回復期病院での入院はもっと短期間になり、いまよりもっと早く回復して退院できる可能性が高くなるのではないか。

 そうなれば、寝たきりも半分になってくるのではないか。結果的には、医療費や介護費が大幅に削減できるのではないか。以上のようなことを慢性期医療の現場の立場から公表して、公に問いたいと思う。

                           (取材・執筆=新井裕充)

 

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