「リハビリテーション革命」7つの提言を発表 ── 3月9日の記者会見

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平成29年3月9日の記者会見

 日本慢性期医療協会は3月9日の定例記者会見で、「リハビリテーション革命」と題して7つの提言を発表しました。武久洋三会長は、平成30年度の同時改定に向け「リハビリテーションを革命する時期ではないか」と問題提起。7項目のトップに「急性期リハビリの充実」を挙げ、「寝たきりの患者さんをできるだけ半分にしようと思えば、早くからリハビリするということは必須」と訴えました。

 武久会長は、急性期病院での術後2週間~1カ月間のリハビリテーションに着目し、「この時期にきちんとしたリハビリテーションが行われれば、その後の患者さんの人生はまったく違ったものになる」と指摘。「手術直後のリハビリをきちんと実施して、後期高齢者でも手術後の1週間から10日で退院できるようにすれば、医療の効率化にもなる」などの考えを示しました。

 続いて、4月8、9日に開催予定の「第5回経営対策講座」について池端幸彦副会長が開催趣旨などを説明しました。今回のテーマは、「待ったなし! 慢性期経営対策 ~地域包括ケア病棟と新類型をうまく活用しよう~」です。

 池端副会長は、「平成30年度の同時改定については、高度急性期から、回復期・慢性期の医療へ、そして在宅へという流れが確実。急性期病院も生き残りをかけ、慢性期に移行しようとする病院がどんどん増えている」と指摘し、慢性期病院として緊急対策を講じる必要があると説明しました。具体的な事例を踏まえた講演プログラムになっていることを紹介し、「当協会の英知を集めた緊急対策講座になっているので、ぜひ注目していただきたい」と呼びかけました。

 以下、同日の会見の模様をお伝えいたします。会見資料は、日本慢性期医療協会のホームページ(http://jamcf.jp/chairman/2017/chairman170309.html)に掲載しておりますので、こちらをご参照ください。また、「第5回経営対策講座」のプログラムはこちら(http://jamcf.jp/symposium/2017/170408ke-001.pdf)です。
 

■ リハビリテーションを革命する時期ではないか
 
[武久洋三会長]
 定例の記者会見を始めたい。皆さんもご存じのように、リハビリテーションに関する団体はたくさんあるが、われわれ日慢協では「慢性期リハビリテーション協会」というものを協会の中につくっている。

 われわれは、「急性期リハビリテーション」に対する言葉として「慢性期リハビリテーション」と言っているが、「回復期リハビリテーション」も当然にこの「慢性期リハビリテーション」の中に入る。このリハビリテーションに対する考え方については、団体によって差がある。いろいろと概念が不統一になっている。

 われわれは、リハビリテーションを革命する時期ではないかと思っている。平成30年度の同時改定では、リハビリテーションに対するかなり大きなインパクトが出てくると思うので、われわれとしては患者さんに対して良いリハビリ、家族にも良いリハビリを着実に提供できるような提言をしていきたいと考え、「リハビリテーション革命」として7つの提言を挙げる。

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【リハビリテーション革命 7つの提言】

 1. 急性期リハビリの充実
 2. 癌リハビリの充実
 3. 出来高から完全包括制へ
 4. 単位数評価からアウトカム評価へ
 5. 知的リハビリの重視
 6. 嚥下・排泄リハビリの優先
 7. 高齢者リハビリの確立

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■ 急性期リハの充実、「寝たきりを半分にしよう」

 1番目は、急性期リハビリの充実である。すなわち、病気になったときに担ぎ込まれるのは急性期病院であるが、急性期病院はどちらかというとリハビリテーションに熱心ではない病院が多い。しかし、急性期病院での2週間、1カ月間という時期は、リハビリテーションの専門家から見ると、非常に重要な時期である。この時期にきちんとしたリハビリテーションが行われれば、その後の患者さんの人生はまったく違ったものになるのではないか。そこでまず、急性期リハビリの充実を一番に提言させていただく。

 手術などの場合、手術の日が決まったら、その前からリハビリの療法士、PT・OT・STらが動く。麻酔の状況はどうか、麻酔の後はどうするか、術後にどうするかなどを考えたうえで、リハビリを始める。手術直後のリハビリをきちんと実施して、後期高齢者でも手術後の1週間から10日で退院できるようにすれば、医療の効率化にもなる。だらだらと長い間、急性期病院に入院するということも防げる。多くの手術をする高度急性期病院はぜひ、リハビリのスタッフを雇用していただきたい。

 入院の契機となった病気が肺炎でも心筋梗塞でも、そして脳卒中でもすべて同じである。発症直後の入院初期からリハビリテーションと関わっていくことにより、慢性期リハビリの病院に来る患者さんの数が大幅に減るのではないか。こう言うと、「患者が大幅に減ったら困るのではないか」と思うかもしれないが、そんなことはない。

 寝たきりの患者さんをできるだけ半分にしようと思えば、早くからリハビリするということは必須である。時期が遅れたら、われわれの病院で1カ月、2カ月も遅れてリハビリを初めからすることになる。その苦労というのは本当に筆舌に尽くしがたい。そういう意味でも、急性期リハビリの充実を提言したい。手術の場合は術前からアプローチするということを提言したい。
 

■ 癌リハ、「系統立てて充実させてほしい」

 2番目は、癌リハビリの充実。病院でも癌のリハビリは言われているが、残念ながら現実に系統立てて行われていない。「癌になったら余命半年、1年」と言われる時代は過ぎて、現在では3年どころか5年、10年と生存できるようになった。しかし、何かの臓器を摘出して失った状態になり、身体機能は満足な状況ではない。

 不足した臓器の分のカバーをリハビリテーションで行うことは、例えば「歩けなくなった機能を歩けるようにする」ということとほぼ同じような意味がある。それなのに、残念ながら癌リハビリテーションが現場でほとんど行われていない。

 癌のリハビリテーションは長期にわたることもある。そのため、日慢協では慢性期リハビリテーションの中で、癌リハビリテーションに対する概念というものをきちんと訴えていきたいと思っている。ぜひ、このリハビリテーション業界で、癌のリハビリテーションを系統立てて充実させてほしいという意見を申し上げたい。
 

■ 出来高から完全包括制へ

 3番目は、出来高から完全包括制へ。ご存じのように、2014年4月の診療報酬改定で地域包括ケア病棟が新設され、リハビリテーションは出来高ではなく最低2単位の包括制となった。最低であるから、3単位にしようと10単位にしようとそれは各病院の自由であるが、最低2単位はしないと地域包括ケア病棟の入院料を取れない。

 昨年、われわれが調査したところによると、日慢協の会員病院では地域包括ケア病棟でのリハビリテーションを平均3.5単位実施していることが分かった。これは私としても非常に驚きであった。包括制にした場合、「2単位以上したら損だ」という考え方はわれわれの協会の会員には少ないということが分かった。

 病院の療法士やリハビリテーションの担当部局が一生懸命に実践することによって、患者が早く退院し、アウトカムがどんどん良くなるということが、その病院の地域での評判になり、その病院の患者が増える。これが自然な競争であると私は思っている。
 

■ リハビリのアウトカム、「一番良く表すのは動画」

 4番目は、単位数による評価ではなく、完全にアウトカム評価にすべきということである。「いったいどれだけ良くなったか」という評価で統一してほしいと思う。

 2016年度の診療報酬改定では、回復期リハビリテーション病棟におけるアウトカム評価が導入された。FIMの運動項目の改善が一定水準に達成していなければ、回復期リハビリテーションの単位が6単位に包括化される。この算定に「FIM利得」(退院時FIM-入院時FIM)などが用いられている。

 ややこしい条件付きである。これをいっそ、「入院時のFIM」に対して「退院時のFIM」がどれくらいかによって評価してはどうか。あるいは、「1カ月間のFIM」や、「1カ月経過した時点でのFIM」ということでもいいが、それによってアウトカム評価をするという形を厚労省で考えていただけたらと思う。

 ただし、この評価をする場合には、紙に「FIM何点」と書くのではなく、実際に訓練している様子を毎月末に動画で撮って、入院時の動画と比べていく必要がある。これは現在でも、あるリハビリテーション病院では行っている。これは当初、家族や本人に「あなたは入院の時はこんな状態だったが、今はこんなに良くなっている」と説明するために撮っていたのであるが、よく考えてみると、リハビリテーションのアウトカムを一番良く表すのは動画ではないかと思う。

 ぜひ、動画による評価という方法も取り入れていただきたい。紙だけで鉛筆なめて、少し加減をするような病院がもし出てきたとしたら、それは医療保険上も良くないと思うので、そういうことができないようにするためにも、動画でアウトカムを残すという形は公平でいいかなと思う。
 

■「知的リハビリ」を重視したシステムを構築させる

 5番目として、知的リハビリの重視を挙げたい。人間は動物である。確かに、「動物」という文字は「動く物」と書く。そのため、まず動けることを優先したリハビリが今まであまりにも前に出すぎたのではないか。しかし、人間というのは動けるだけではなく、知的行動をする存在である。動けることだけが良くなっても知的能力が回復しなければ、これは人間としてのリハビリテーションのアウトカムにはならないと思う。従って、知的リハビリを重視したリハビリテーションのシステムをぜひ構築させていきたい。

 「知的リハビリ」の対象には、高次脳機能障害や認知症など、いろいろあると思う。例えば、普通に会社勤めをしていた人が脳卒中になって寝たきりになったとする。なんとか歩けるようになったとしても、会社に戻って今までのようにコンピューターを使った実務に戻れるか。これに戻ることができて初めてリハビリが成功したということである。

 今まで、知的リハビリに対する配慮というものがあまりにも少なすぎたのではないか。このような考え方も含め、リハビリテーション革命に関する7つの提言は、本日の理事会での了解を得たうえで発表している。
 

■ 嚥下・排泄は「人間のファンダメンタルな機能」

 6番目は、嚥下・排泄リハビリの優先である。これは知的リハビリと少し違って、人間のファンダメンタルな機能である。すなわち、「歩ける」ということよりも、「自分の口で食べて、自分で排泄ができる」ということが一番であると思う。

 鼻から管を吊っておむつをしながら歩くことができたとしても、人間性の回復としては十分な成果ではないと私は思っている。従って、まずは嚥下、そして排泄が自立できるようなリハビリを先行、優先して行っていただきたいということで、リハビリテーション革命の7つの提言の中に入れさせていただいた。
 

■ 後期高齢者の入院患者が急増、「高齢者リハビリの確立を」

 7番目は、高齢者リハビリの確立である。後期高齢者の入院患者が、実は後期高齢者人口の4.2%いるということが統計上分かっている。昨年の後期高齢者の人口は1,641万人であるが、この4.2%にあたる約70万人が病院に入院していることが統計上分かっている。

 ところが、30年後にはこの後期高齢者の人口が2,400万人以上になる。現在よりも800万人ぐらい増える。この4.2%を2,400万人にかけると、100万人以上の数になる。すなわち、入院患者が100万以上である。一方、厚労省は病床をどんどん削ってきて、病床転換をしようとしている。

 従って、高齢者に対するリハビリというものの概念がしっかり確立していないと、10年後、20年後、30年後と、この後期高齢者が猛烈に増えるだろう。入院患者のほとんどが後期高齢者になってしまうような状況の中で、高齢者リハビリの確立が喫緊の課題であると考えている。ほかの40歳、50歳、60歳の脳卒中患者となんとなく同じように、85歳の脳卒中患者さんのリハビリをしたのでは、絶対にうまくいかない。

 「年寄りだから、もういいか」ということで、リハビリの熱心さを少し加減してしまうと、寝たきりの患者さんがさらに増えてしまうことになる。やはり先ほどの6番と同じように、高齢者でも嚥下と排泄をきちんとできて、自分で歩けなくても車いす自立ができるようにして、お宅に帰してあげるというのが本来の高齢者リハビリの確立ではないかと思う。

 リハビリテーションにはいろいろな要素が含まれているが、大きく7つに分けて提言させていただいた。私の所属している日本慢性期医療協会、そして慢性期リハビリテーション協会の責任者として、現在のリハビリ界を少し変えていかないといけないと思っている。国も大きく変えようとしている。この時期に、現場からこのようなリハビリテーション革命の提言をさせていただく。
 

■ 緊急の対策講座を開催、「当協会の英知を集めた」
 
[武久洋三会長]
 続いて、4月8、9日に開催する「第5回経営対策講座」についてご案内したい。平成30年度の同時改定前後、猛烈に医療、介護の現場が変わる。そうしたことも踏まえ、経営対策講座を緊急に開催することになった。池端副会長からご説明いただく。
 
池端幸彦副会長20170309
 
[池端幸彦副会長]
 私から簡単に説明させていただく。パンフレットをご参照いただきたい。「第5回経営対策講座」を4月8、9日の2日間にわたり開催する。テーマは、「待ったなし! 慢性期経営対策 ~地域包括ケア病棟と新類型をうまく活用しよう~」ということで、緊急に行うことになった。

 平成30年度診療報酬・介護報酬同時改定については、高度急性期から、回復期・慢性期の医療へ、そして在宅へという流れが確実である。急性期病院も生き残りをかけ、慢性期に移行しようとする病院がどんどん増えている。

 一方、慢性期病院としては、これまで実績ある当会会員が今後も地域で求められる病院として勝ち残るためには、どういう戦略が必要なのか。今回の講座では、慢性期医療のトップを走る様々なタイプの病院からご講演いただく。質問コーナーを設けるなど、実利のある経営対策講座にしたいと思っている。

 1日目は、まず武久会長が「地域で勝ち残るための戦略を考えよう」と題して基調講演し、今後の方向性などをお話しいただく。その後の「事例講演」では、具体的な事例を踏まえながら各病院のトップにお話しいただく。

 それぞれの地域性や病院の規模、病院の種別等々でいろいろな解があると思う。答えは1つではないということで、今回は当会の会員の中で、それぞれの立場で頑張っていらっしゃる先生方を中心に、実際に生の事例を紹介する講座を設けた。

 まず、「介護療養病床と認知症ケア」について熊谷頼佳先生(京浜病院理事長)にご講演いただく。そして、「急性期から地域包括ケア・慢性期までのマルチタイプ」と題して、仲井培雄先生(芳珠記念病院理事長、地域包括ケア病棟協会会長)がご講演する。

 それから、「介護療養病床の活かし方」については、当協会副会長の清水紘先生(嵯峨野病院理事長)にお話しいただく。同じく副会長の中川翼先生(定山渓病院名誉院長)には、「医療療養病床25:1の活かし方」について解説していただく。

 また、学識経験者のお立場として、小山秀夫先生(兵庫県立大学経営研究科教授)には「慢性期医療政策のこれから」と題してご講演いただく。

 今後の小規模病院の展開については、松谷之義副会長(松谷病院理事長)と私が担当する。私は「小規模病院の在宅展開」について、松谷副会長は「小規模病院の施設展開」についてお話しする。

 猿原孝行先生(和恵会ケアセンター理事長)には、介護療養病床から老健転換の実績を踏まえてお話しいただく。リハビリテーションの活かし方については、木戸保秀先生(松山リハビリテーション病院院長)にお話ししていただく。

 そして、総合的なマルチタイプの病院の事例として、安藤高朗先生(永生病院)からお話ししていただくほか、財務対策も必要であるので、税理士の先生から「病院経営者・実務者が知っておきたい財務分析の見方」についてお話しいただく。
その後は、リハビリ(橋本康子先生)やサ高住(富家隆樹先生)、認知症ケア(田中志子先生)などを中心に講演を進める。

 現在、各病院はさまざまな取り組みをしている。平成30年度の同時改定に向けて、さらにどう展開しようとしているのか。具体的な事例を通じて、詳しくご講演いただこうと思っている。

 当協会の英知を集めた緊急対策講座になっているので、ぜひ注目していただければと思う。270名を募集したところ、現時点で240名の参加希望が寄せられている。もう残り少なくなっており、非常に関心が高い。ぜひ、ご注目いただければと思い、ご紹介させていただいた。引き続き、よろしくお願い申し上げる。

                           (取材・執筆=新井裕充)

 

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