「実態調査を積極的に実施していく」── 12月11日の記者会見
日本慢性期医療協会は12月11日、今年最後となる記者会見を開きました。武久洋三会長は平成26年度の診療報酬改定について「地域包括ケア病棟の新設は療養病床を持つ病院にとってモチベーションの上がる改定だった」と振り返り、「今後、最強で最大の病棟になる」と改めて強調。「地域住民にとって最良の医療提供体制を確立するためEBMに基づいて主張していきたい」と来年に向けた抱負を語りました。
次期診療報酬改定に向けて武久会長は、現場の実態調査を積極的に実施していく意向を示し、同席した安藤高朗副会長もEBMに基づく提言の必要性を指摘。次期介護報酬改定などに向け、「経営データに基づいた介護報酬改定の在り方を訴えていきたい」と述べました。以下、会見の模様をお伝えいたします。
■ 平成26年を振り返って
[武久洋三会長]
今年最後の記者会見を始めたい。5つの議題を提示した。第一の議題「平成26年を振り返って」ということで私が考えているのは、今年が医療の転換点であったということ。すなわち、2014年、平成26年という年は、20年後、30年後に振り返ったときに「この年が医療の転換点だったんだな」ということを再認識するような年だろうと思っている。この平成26年という年は、医療・介護提供体制にとって大きなエポックメイキングの年であると認識している。
いくつか理由がある。まず挙げたいのは、平成26年度の診療報酬改定。療養病床を有する病院にとってモチベーションが大きく上がる改定だった。われわれ日慢協は、昨年の秋頃から厚生労働省の「入院医療等の調査・評価分科会」などを通じて、特定除外制度の廃止や、ケアミックス病院の問題などを指摘した。後者について具体的には、ケアミックス病院の一般病床と療養病床との間で患者さんの「キャッチボール」をできなくすべきと主張した。そして、われわれの主張に沿った形で改定された。
さらに、療養病床にも在宅復帰率が導入された。「ときどき入院、ほぼ在宅」という考え方になった。これまで考えられていた病院の役割を覆すような方向だが、これは正しい。「ときどき在宅、ほぼ入院」というのはおかしい。一般病床に長く入院するなど、病院が生活の場になっているのはおかしい。医療費が年々増加している中で、特定除外制度のような甘い条件は許容されないと考えていた。
特定除外制度の廃止をめぐっては、他の医療団体が既得権を主張して大反対していた。しかし、われわれは医療体制の抜本的改革を医療側から積極的に提案していくという積極性が必要であると思っている。
そうした中で、一番大きかったのは地域包括ケア病棟の創設だろう。全日本病院協会は「地域一般病棟」という考え方を主張していた。しかし、これは一般病床だけに限定するものだった。これに対し、われわれは「一般病床に限定すべきではない」と主張した。療養病床を持つ病院の中には、亜急性期的な機能を有する病院がたくさんあると申し上げた。こうした主張が地域包括ケア病棟に反映され、療養病床からの届け出も認められることとなった。これは療養病床を持つ病院にとって、モチベーションの上がる改定だった。
当協会では、療養病床から地域包括ケア病棟を届け出た病院にヒアリングを実施した。その結果、いずれの病院もこの約6ヵ月間が増収となった。ただ、看護職員の確保など診療体制の充実に向けてかなり努力しており、人件費などの負担も大きい。急性期病院が地域包括ケア病棟を届け出る場合と違って、療養病床は看護師らの人数が少ない。夜勤者らも増やし、管理体制をきちんと整えてから新設するには多くの経費が掛かる。そうした中で、増収・増益している病院が多かったことは大変喜ばしい。
次に挙げたいのは、地域包括ケア病棟のリハビリテーションの包括。みなさんご存じのように、回復期リハビリテーション病棟(回リハ)には最低2単位という条件がある。出来高払いではあるが、「2単位包括」と似ている。この「2単位」という数を、地域包括ケア病棟の要件に入れたことは非常に大きな意味がある。
9月30日に経過措置がなくなり、それ以後、地域包括ケア病棟が急増した。年内に1,000まで達するだろうと予想していたところ、11月末までに全国で986病院に上っている。私は2月頃、「今年度中に1,000ぐらい行くだろう」と言っていたが、「そんなばかな」という声もあった。しかし、当初の予想よりもはるかに早いペースで増えている。来年3月までに1,500以上になることは間違いない。あっという間に、回リハのトータル病床数を抜くのではないかと思っている。
では、地域包括ケア病棟と回リハのいずれを取るべきか。診療報酬上、リハビリが出来高であるというメリットがあるので、回リハを取ったほうが得である。また入院期間の上限を考えても、地域包括ケア病棟が2ヵ月であるのに対し、回リハは6ヵ月なので、回リハを取ったほうがいいのではないかという判断もある。そのため回リハも増えているが、これは過渡的なものであって、いずれは「地域包括ケア病棟でリハビリが2単位包括」というふうに、リハビリは包括の方向にシフトしていくだろう。
こうした中で、民間の中小病院にとって不安材料がある。公的な急性期病院が地域包括ケア病棟にどんどん申請しており、急増している。しかも、中小規模の病院ではなく500床、400床という規模の大病院が地域包括ケア病棟に動いている。そうすると、民間の中小病院が地域包括ケア病棟を取っても、とてもかなわない。大変なことになる。
先ほど、この会見前に日慢協の常任理事会を開催した。各地の代表が40人ほど集まった。「秋以降、明らかに患者数が減った」と言う。「急性期病院からの紹介がかなり減っている」「外来患者も減っている」との声があった。私自身も様々な講演などに参加して、同様の声を聞いている。
これはなぜか。特定除外制度の経過措置の終了に伴い、今までは何気なく患者さんを送ってきた急性期病院が、リハビリ病院や慢性期病院に送れば、自院のベッドがガラガラになるという状況に直面している。そのため、われわれの会員に対して「ポストアキュートだけに頼るな」と伝えている。サブアキュートも、すなわち地域の在宅からの紹介、または特養や老健、介護施設からの紹介、在宅療養支援診療所等との連携を強めるようにと申し上げている。ポストアキュートとサブアキュートの患者割合をフィフティ・フィフティにしないと経営は安定しない。
診療報酬改定に続いて、今年6月に医療・介護体制の改革を進めるための法律(いわゆる医療介護一括法)が成立した。この点についてもお話ししたい。医療法の改正などを受け、厚生労働省医政局が2つの大きな検討会をスタートした。
1つは「医療介護総合確保促進会議」で、9月に「総合確保方針」を取りまとめて終了した。これを受け、「地域医療構想策定ガイドライン等に関する検討会」を9月から開始し、明日第5回会合が開かれる。私はその検討会の委員を務めている。これは医療機関の将来に重要な影響を及ぼすマターが含まれている。ガイドライン案がまとまるのは来年3月頃と聞いている。今後、医療機関に対する非常に大きな締め付けになるのではないかと危惧している。それは都道府県知事の権限強化である。
改正医療法によると、ある医療圏で、ある機能の病床が過剰であるときには、都道府県知事は病床機能への転換などを拒否できる。それに反して強行した場合には、地域医療支援病院の取り消しなど、様々な強い権限が付与されている。ところが、多くの病院経営者は急性期医療の問題であると誤解している面がある。すなわち、急性期医療を継続できるかどうかに関わることが中心であると思っている。
先日、日本病院会の堺会長がアンケート調査の結果を公表した。病床機能報告制度で11月14日までに報告された急性期病棟と自己申告したところが75%あったとおっしゃっている。すなわち、入院期間が長い回復期や慢性期が25%で、急性期が75%という現実離れした結果が出ている。このことは、自院が急性期病院であると信じたい、あるいは信じている病院が多数あるということを意味している。彼らの頭の中にあるのは、「急性期医療を今後もやりたいので急性期の枠に入りたい」ということ。「もし急性期の枠に入れなかったらどうしようか」と心配している。
しかし実は、「急性期の枠に入りたい」と思っている間に時機を逸してしまう。「当院は急性期が無理だから慢性期の枠に入ろう」と思ったときには、すでに慢性期の病床枠がオーバーしていることが考えられるが、そういうことをほとんど認識していない。回復期病院にも同じことが言える。そうすると、急性期にも入れない、慢性期にもいけない病院・病棟が全国で続出する可能性がある。そういうリスクが全く、ほとんど認識されていない。
二次医療圏がつくられた昭和63年から現在までの間に、人口が半分に減少したが法定病床数は当時のままで、オーバーしている病床もそのままになっている地域がある。人口が半分になったらベッドも半分になっていいはずだが、何らの措置も取られていない。しかし、国民健康保険の保険者が県になれば、各都道府県知事が放置するはずがない。もし余分なベッドがあれば、病院のベッドが住まいになってしまう危惧がある。「住居費を医療費で賄うのはおかしい」ということに各都道府県が気付くまで、それほど時間は掛からない。
従って、私は日慢協の会員にいつも言っている。できるだけ早く自分の病院の病床機能を明確にして、各病棟の機能をきちんと分けて、病床機能報告制度のクライテリアの中で明確に位置づけられる病棟構成を確立するように言っている。多くの急性期病院は、「急性期医療の枠に入りたい」という願望があるだろう。しかし、その病院なり病棟の機能が急性期医療としてのクライテリアに達しないのに、いつまでも急性期医療の夢を追い続けると、かなり厳しい結果になることも十分にあり得る。こうしたことを会員には周知徹底している。
昭和60年の第一次医療法改正で医療計画制度が導入され、二次医療圏ごとに必要病床数を策定することが決まり、昭和63年に二次医療圏が策定された。それから約30年が経ち、このたび非常に大きな改革がなされた。その重大さを認識していない病院経営者がたくさんいる。法律でいったん決まると、「そんなことはないだろう」と思っていても粛々と施行される。
昭和60年当時、「当分の間はたいしたことないよ」と軽く見ていた病院経営者もいた。しかし、全くそんなことはなかった。昭和63年になると、基準病床数を超えた地域では、たった1病床たりとも許可されなくなった。こうした状況を私は見ていたので、今回の法律の重要さを痛感している。従って、先ほど「20年後、30年後」と申し上げたが、もっと早く、2、3年後に振り返ったとき、「平成26年、2014年が変革の年だった」と思うことだろう。以上、平成26年の年末を迎え、この1年間の感想を述べた。
■ 平成27年への抱負
平成27年はまず介護報酬改定があり、そのほか病床機能報告制度や地域医療構想のガイドラインへのスタンスなど、いろいろお話ししたいことがあるが、重要なことは新年会の場で新年の方針をまとめてお示ししたい。
本日の会見には当協会の副会長である安藤先生が同席しているので、安藤先生から一言申し上げたい。彼は若くして病院や介護施設の経営に携わり、全日本病院協会の中心幹部でもあるので、いろいろご意見を伺いたい。
今まで、全日本病院協会と日本慢性期医療協会の考え方が対立する事項があった。最も大きな問題は、特定除外制度の廃止とケアミックス病院のキャッチボールだったが、ひとまずこの問題には一段落がついた。私自身、全日本病院協会の会員でもある。われわれは共に、中小病院、民間病院という点で共通している。全日本病院協会とは研修会などを通じて、いろいろな協力体制を進めている。この意向に対しては、当協会の理事会でも異論はない。
ただ、慢性期医療に特化した領域については当協会が先導している。地域包括ケア病棟協会はわれわれが発起人として設立されたが、地域包括ケア病棟は全病院団体を横断したような病棟であるので、全日本病院協会や全国自治体病院協議会などの会長の皆様にもお話をして、横断的に一致協力してやろうということをお願いしている。そのような方向で、来年度は進むと思っている。
安藤副会長に、介護報酬改定をはじめ、私が述べた以外の項目について述べていただきたい。
[安藤高朗副会長]
介護報酬改定について、「マイナス6%改定」という話も出ており、非常に驚いている。介護事業者の収支状況について、一般企業と比較して良好であると思われるようなデータが出ているようだが、一般企業と介護施設は性質が全く異なる。介護施設では、一定の人員配置基準が決められているので、一般企業のような少数精鋭にしてコスト削減を図るわけにもいかない。そうしたことがきちんと伝わっていないのではないかと懸念する。
また、介護施設では「拡大再生産」とまではいかないまでも、「再生産」をするためには12~13%の利益率が必要であると言われている。そのようなきちんとした経営データに基づいた介護報酬改定の在り方を訴えていきたいと思っている。介護職員の処遇改善加算についても、様々な課題がある。
介護療養型医療施設については、看取りなど一定の機能を重点的に評価する方向性が示されている。当協会の会員には、現在示されている多様な機能を上回るような介護療養型医療施設を目指していただきたい。地域包括ケアシステムの中で、「介護療養型医療施設がここにあり」というようなものをつくっていけたらいいと思っている。
先ほど武久会長からお話のあった地域包括ケア病棟については、日慢協としての「クリニカル・インディケーター案」を作成中であり、来年には公表したいと考えている。このほか、当協会が今年開催した研修などを資料にお示ししている。来年はさらにバージョンアップして進めていきたい。
例えば、「日米ジョイントフォーラム2015」を1月31日に大阪で、2月1日に東京で開催するほか、「第2回慢性期リハビリテーション学会」を3月14、15日にパシフィコ横浜で開催する。前回よりもはるかに多い演題数を予定している。また、「慢性期医療総合診療医」の認定講座は12月からスタートしている。すべての勤務医のほか医学生にも学んでいただき、地域包括ケアシステムの構築に向けて支援していきたいと思っている。
9月10、11日には「第23回日本慢性期医療学会」を名古屋国際会議場で開催する。テーマは、「慢性期治療力を高めよう ~高度急性期から慢性期への最高のバトンタッチを~」ということで、慢性期医療の質をいかに高めていくかを探りたい。今後、急性期病院から重症の患者さんがどんどん慢性期病院に移っていく。ポストアキュート、サブアキュートとして療養病床が果たす役割が非常に重要になってくる。こうした取り組みをさらに進めていくことがこれからの日本の医療にとって重要であり、当協会としても積極的に押し進めていきたいと思っている。
[武久会長]
第23回慢性期医療学会に非常に期待している。療養病床には、「慢性期治療病棟」という非常に大きな機能がある。看護師を多く配置し、急性期的な治療機能のある療養病床が増えている中で、「長期にわたって療養する病床」という考え方を今後も維持することは、実態との乖離を招く。このことは、地域医療構想ガイドライン策定の検討会などを通じて、厚労省医政局などに対して強く訴えていきたい。
各都道府県における協議会では、郡市区医師会をはじめ各病院団体が一致協力する必要がある。病院の病床機能については病院団体が中心となって一致協力し、病院としての意見を主張していくというスタンスが非常に重要であると思っている。そういう意味で、12の病院団体でつくる日本病院団体協議会の役割は非常に大きいものになってくるだろう。
日慢協としては、政府が進める医療介護の改革に異を唱えるものではない。医療の提供体制が非常に効率悪いと言われれば、われわれは内部改革を進め、改善策を積極的に提案していくという心構えが必要だと思う。保守的に「今のままの体制は一番居心地がいい」と縷々述べても、それはなかなか一般の方々には理解していただけない。具体案については来年にご報告したい。
■ 平成28年度診療報酬改定を視野に入れて
[武久会長]
来年は、平成28年度診療報酬改定の議論が本格化する。ご存じのように、夏頃までは改定に必要な調査データがほぼ出そろう。そのため、来年夏までには、地域包括ケア病棟の患者像等について自主的に調査したい。どのような患者さんが入院し、どのような経過をたどって、どのような施設からどこへ帰ったのかなどの調査を早めに実施したい。もちろん、こうした調査は厚労省保険局も実施すると思うが、それ以前にいろいろなデータを出して担当部局に提供することもわれわれの責務であると思っている。
次期改定に向けた提案については、前回の記者会見などでもお伝えしたとおり、「リハビリテーション提供体制の抜本改革」を提言している。詳しくは前回の会見資料をご覧いただきたいが、概略を述べると、まず「出来高から包括への全面転換」を主張している。
このほか、疾患別リハビリの点数を統一することや、算定日数制限の撤廃、9時~5時リハビリから24時間リハビリへ、ということも求めている。嚥下障害リハビリや膀胱直腸障害リハビリを優先し、早く人間性を回復すべきであるということも申し上げている。
リハビリを自由に、どのような病棟でも現場の裁量で効果的・集中的に実施される体制をつくり、できるだけ早く患者さんを日常にお戻しすることに専念したい。残念ながら現在は、1日9単位を取ることに汲々としている病院が多い。患者さんの病態が良くなることよりも9単位を取ることのほうが大切になってしまっては本末転倒であると思っている。
このほか、次期改定に向けて様々な提言を考えているが、まずは現場の実態を調査し、それを踏まえて評価していただきたい。EBMに基づいた提言をしていきたいと思っているので、期待していただきたい。
■ 地域包括ケア病棟の現状と将来
今年3月、「地域包括ケア病棟は最大で最強の病棟になる」と述べた。そのとおりに動いている。約36万床の7対1病床、約20万床の10対1病床、合わせて約60万床の急性期病床がいつの日か20万床になる。政府や厚労省の幹部がそうした方向を意図して進めている以上、その機能を補完するのはまぎれもなく地域包括ケア病棟だと思っている。この病棟が30万、40万、50万床に増えていくと予想している。地域包括ケア病棟が大きな病棟になったら、次は地域包括ケア病棟の中で、機能に応じて2~3区分に分かれていくだろう。
大切なことは、地域住民にとって最良の医療提供体制が確立すること。そのために、EBMに基づいて主張していきたいと思っている。医療と介護の連携が非常にスムーズに進み、同じ患者さんが医療保険か介護保険かによって不利益を被ることがないように、一貫した連携政策を取っていただきたいと思っている。来年も、ご協力のほどをよろしくお願いいたします。
2014年12月12日