4月21日の定例記者会見のご報告

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4月21日の定例会見

 日本慢性期医療協会は4月21日、定例記者会見を開催しました。武久洋三会長は、2025年、2035年を見すえた医療・介護の人材不足への対応は喫緊の課題であると指摘し、対策として①定年を過ぎた60~75歳の「元気老人」による医療・介護分野への新たな参入、②東南アジア等、海外からのスタッフを10万人規模で迎える、という二点を挙げました。

 池端幸彦副会長からは、熊本県、大分県の地震への当協会の対応について報告がありました。安藤高朗副会長の現地入りをはじめとする迅速な対応と現地調査が、被災地の会員病院への適切な支援と、被災地の医療機関に診療報酬上の不利益が出ないようにする厚生労働省からの通知につながったとの見解を述べました。

 中川翼副会長からは、認知症ケア加算2の該当研修となる「看護師のための認知症ケア講座」、厚労省老健局指定の「コメディカルのための認知症対応力向上研修」、排尿自立指導料の該当研修となる「排尿機能回復のための治療とケア講座」の開催についてお知らせがありました。武久会長はこれらの研修会の開催について、これまで日慢協が提唱してきた認知症ケア、および嚥下障害、排泄障害についてのリハビリの重要性が診療報酬の観点からも認められた結果だと考えていると述べました。
 
 以下、同日の会見要旨をお伝え致します。会見資料はこちらをご覧ください。
 → https://jamcf.jp/chairman/2016/chairman160421.html
 
 
■ 医療・介護分野の人材不足のカバーについて
 
[武久洋三会長]
 2015年6月に出された「保健医療2035提言書」は、14名の構成員と4名のアドバイザーによってまとめられたものである。非常にレベルが高く、広範囲にわたってあらゆる可能性が想定され、かつ2020年と2035年に具体的に行うべき事項を明確に指摘している。医療の現場に働く者にとって非常に示唆に富んだ内容となっており、我々も今後の参考としていきたいと思っている。

01_4月21日会見資料1ページ
 
 しかし、ここには医療・介護に携わる人材不足についての記述がほとんどない。現在、一部の特別養護老人ホームでは、看護・介護の人材不足によって、運営に支障をきたす施設が出てくる等、看護・介護の人材不足は無視できない問題となっている。

 平成27年には約55,000人が看護師国家試験に合格している。准看護師試験には約17,000人、介護福祉士国家試験には約88,000人が合格している。合計すると約16万人である。さらに、介護福祉士以外の介護職の入職者が年間約10万人近くいると考えられる。

 さて、現在20歳の人口は約120万人である。平成27年度の出生数は約100万人である。この20年間で出生数は約20万人減少しており、1年で約1万人ずつ減少というペースである。したがって出生数は、2035年には約80万人、2055年には約60万人にまで減少することが予想される。また、平成27年度の出生数約100万人に対し、死亡者数は約130万人で、自然減が約30万人ということになる。こちらの数字についても、年々増加していくことが予想される。

02_4月21日会見資料6ページ
 
 一方、医療従事者の需給に関する検討会・看護職員需給分科会(平成28年3月28日 厚生労働省)の資料で示された、社会保障・税一体改革の試算による看護職員の必要数は、2025年に約200万人と予想されている。現状は約160万人なので、今後約40万人の看護職員が必要となる。

03_4月21日会見資料8ページ
 
 ちなみに、平成26年の看護師数は約114万人、准看護師は約36万人である。准看護師の養成を減らすようにとの声があるが、現実問題として、看護師が年間約55,000人輩出されているのに対し准看護師が約17,000人という割合を考えると、准看護師の輩出数がいきなり減少すれば、現場にかなりの混乱が起こるのは必至である。
 
 2025年に向けた介護人材にかかる需要推計(確定値)によると(平成27年6月24日 厚生労働省発表)、2025年の介護人材の需要見込みは約253万人と推計されている。対して、平成25年度の介護職員数は約171万人なので、2025年までには約82万人の介護職員が必要となる。介護保険制度の創設(2000年)以来、介護職員は13年間で116万人増加し、1年間で約10万人近く増えてきた計算である。

 2035年には、2015年前後に生まれた世代が20代にさしかかり、医療・介護の現場にスタッフとして出てくるようになる。一つの年代の人口が100万人と仮定して、その半分が女性だとし、看護・介護職に女性が多いことを考えると、50万人のうち25万人が看護・介護職に就かなくてはならない計算である。極端な例だが、女子高校生が一学年50万人いるとしたら、その半分が医療・介護を進路に選択するということになる。そのようなことが、果たして可能なのか。いうまでもなく2035年の高齢者は現在に比べて増加しているので、医療・介護人材の問題は喫緊のことであり、「保健医療2035提言書」にこの点が言及されていないというのは、多少不自然であるように思われた。
 そこで日慢協としては、医療・介護の人材不足について、次の改善策を提案したい。

04_4月21日会見資料17ページ

 一点目、「65~75歳の元気老人が虚弱老人を支援する」という構図は、今後日本の人口が増えない以上はどうしても必要となってくる。それに、65~75歳ならば、定年を迎えたと言ってもまだまだ元気である。ついこの間まで働いていたばかりなので、何もせずにぶらぶらしている方がかえって健康に悪いという人が多い。1,700万人にものぼるこの年代の人材に、政策として焦点を当ててもらえれば、人材不足の最も手っ取り早い解消法となるだろう。

 二点目として「東南アジア等の外国人スタッフにどんどん入ってもらう」というやり方が考えられると思う。EPAに基づく看護師・介護福祉士候補者の累計受入れ数は年間3,000名を超えているが、就労中の看護師446名のうち国家試験合格者数は147名、就労中の介護福祉士1,491名のうち国家試験合格者数は313名。現地の看護大学を卒業して国家資格を取り、さらに外国である日本まで来て日本語の試験に挑めるような超エリートなのだから、もっと日本に来ていただければと思う。私の法人でも、海外から200名ほど受入れを行い、職員として働いてもらっているが、利用者からも職員からも、ものすごく評価が高い。言葉遣いが丁寧で、やさしく、笑顔が多いからだ。それに、国内で選抜されてきているので、優秀で理解力の高い方が多い。同じような認識のEPA受け入れ先は、多いようである。EPAは、これからは看護・介護の分野に10万人規模で入ってもらうべきだろう。

 平成27年度は、EPAで来日した看護師のうち47名が合格したものの、合格率はまだ11%である。以前、猛反対された経緯はあるが、国はあらためて、EPA来日者の国家試験では漢字にルビをふる、制限時間を長めにするといった対応を検討しても良いと思う。

05_4月21日会見資料20ページ

 総務省の統計にあるように、65歳以上75歳未満の人口は、2015年には1,747万人、2035年には1,496万人と減少し、2015年と2035年で比較すると15%減となっている。

 そして、75歳以上の人口は、2015年1,637万人から、2035年には2,245万人と、2015年の人口の1.37倍となっている。75歳以上の人は当然病気の確率が高くなるので、この層をカバーするために、65歳以上75歳未満の層に期待したいという提案である。ちなみに、平成28年10月から、週20時間以上の雇用者にも厚生年金保険、健康保険がつくようになる。ボランティアとしてではなく、きちんと健康保険をつけて給与を出せば、働く意欲も湧く。自国民である程度努力をして、最終的に足りない部分を外国にお願いしていくという方向に向かえばいいのではないか。

06_4月21日会見資料21ページ

 要介護度別認定者数は、ご覧のとおりどんどん増えている。人材対策を今のうちからはじめないと手遅れになるのではないかということを、医療・介護の現場にいる人々、特に医療と介護の接点にいる慢性期医療のスタッフは日々強く感じている。今後、在宅医療の患者がますます増えていくことになるのは承知しているが、まず在宅医療を診るスタッフがいないのである。人材というものは一朝一夕で増えるものではないので、本日のような提言をした次第である。
 

■ 熊本県、大分県の地震について
 
[池端幸彦副会長]
池端副会長20160421 このたびの地震で被災された方に心からお見舞い申し上げるともに、お亡くなりになった方のご冥福を心よりお祈りする。当協会では、地震発生後ただちに安藤副会長を中心にチームを組み、救急車を派遣した。4月18日朝に安藤高朗副会長自ら、慢性期医療協会の会員病院を中心に回り、被災の状況や現在困っていることについてヒアリングを行った。病院が運営できないほどの被害にあった会員病院はなかったものの、大変な状況にあることに変わりはない。皆さん、何とか立ち上がろうと努力されている。また、それぞれ地域の被災者の受け入れを行っている。物資についても、ヒアリングをもとに発送できるものを揃え、協会の常任理事・福岡県慢性期医療協会会長である原寛先生の原土井病院(福岡県)でとりまとめており、体制が整い次第、順次発送して行く予定である。

 またヒアリングの中で、被災により他院から転院してきた患者の受入れを行う際、受け入れた患者について診療報酬請求を出来るのかという疑問が多く出ていた。また、療養病棟入院基本料1を算定する医療機関では、医療区分2・3の入院患者が8割以上いなければならないという基準があり、この点についても不安の声が多かった。他にもオーバーベッドで困っている等、安藤副会長から連絡があったので、その日のうちに武久会長から厚生労働省に連絡をした。結果、被災の状況をかんがみて適切な対応を行えるよう、通知を出していただけた。厚生労働省からは、大変な状況の中で頑張っている医療機関を支援するため、診療報酬の面からも万全の体制をとっていきたいということで、コメントいただいている。
 

[武久会長]
 東日本大震災の時には、会員病院の中でも全壊が出る等被害が非常に大きかったので、協会では約3,000万円の支援金を用意した。1995年の阪神・淡路大震災の時には、すぐに水やおむつ等の援助物資をトラック三台に詰めこみ、淡路まで運んだ。そのまま野島断層近くにとどまって仮設の診療所を出し、地元の医師が入るまでの一週間にわたって診療を行った経験がある。当時も思ったことだが、一日もすれば救援物資は町役場に山のように積み上げられる。ところが、これら物資はせっかく集められても、配布が後手に回る。民間や、地元の消防団、警察のほうが動きは早い。結局、災害時であっても自分たちのことは自分たちで守らねばならない。厳しい時期を抜けたころに山ほど救援物資が来ても困るだけということで、よい教訓になった覚えがある。
 
 いずれにせよ、病院が機能しなくては地域住民が非常に困るので、責任は重い。今後、どのような被害が出てくるか分からないが、当協会では、せめて協会の会員については出来る限りのことをしたい。医療を継続して提供するという観点からサポートしていくことで、地域住民の助けにもなっていくと考えている。
 
 
■ 日本慢性期医療協会、今後の研修予定について
 
[中川翼副会長]
中川副会長201604121 日本慢性期医療協会では、認知症ケア加算2の該当研修となる「看護師のための認知症ケア講座」を開催する。予想をはるかに上回る1,000名以上の申込を受けたので、急遽会場を変更し、規模を拡大しての開催を予定している。5月14、15日は横浜、7月9、10日は大阪、7月29、30日は東京と、合計3回開催する。また、認知症にはチームで関わっていく必要があると考え、「看護師のための認知症ケア講座」とは別に厚労省老健局指定の「コメディカルのための認知症対応力向上研修」(5月24日)も企画している。

 さらに排尿自立指導料の該当研修となる「排尿機能回復のための治療とケア講座」も、5月16~18日に開催する。この研修は、一日目は医師と看護師を対象にした座学、二・三日目は看護師のみ対象とした座学と演習という講義内容である。いずれも、今後ますます重要になってくるトピックである。研修会を開催していくことで会員病院の経営的安定につながり、同時に、提供する医療の質のレベルアップにつなげていければと考えている。
 
[武久会長]
 認知症ケア講座については1,700名超、排尿機能回復のための治療とケア講座には、500名近い参加者が集まっている。排泄に関するリハビリの効果については、昨年から記者会見を通してお伝えしてきたとおりである。私の病院でも成果を上げており、学会でも発表してきた。当協会では、嚥下障害と排泄障害についてのリハビリの重要性を重ねて申し上げてきた。一歩先んじて進めてきたことを評価していただいていると感じている。今のところ、このリハビリに熱心に取り組んでいるのは我々の協会である。今後も引き続き、積極的に進めていきたい。
 

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