地域包括ケア病棟、医療が変われば地域も変わる ── 第23回日本慢性期医療学会③

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第23回日本慢性期医療学会③

 平成26年度の診療報酬改定で新設され、制度発足1年半足らずで1,200超の病院が届け出た地域包括ケア病棟は今後どのような方向に進むのか──。9月10日の第23回日本慢性期医療学会で開催された3つめのシンポジウムは、「地域包括ケア病棟がこれからの暮らしをどう変えていくか~医療が変われば地域も変わる~」と題し、病院経営に関わる院長や看護部長らを交えて、現場の視点から現状や課題などについて議論しました。このたびの社会保障制度改革に大きな影響力を及ぼした有識者も参加し、地域包括ケア病棟の発展に期待を込めました。
 
06_座長 シンポジウム3は、座長を務めた地域包括ケア病棟協会の仲井培雄会長の挨拶で幕を開けました。「緊急の患者等を受け入れて、在宅・生活に復帰させる地域包括ケア病棟」を届け出ている病院が、地域包括ケアシステムの要となってまちづくりに参画することは、社会保障を生業とする私達にとって共通の思いだと唱えました。また、地域医療構想を策定する上で「急性期後の患者を受け入れる地域包括ケア病棟」は、第23回日本慢性期医療学会のテーマである高度急性期からのバトンを受ける役割を担っていくと指摘。以上を踏まえて、シンポジウムを進めたいと挨拶しました。
 
01_板越由香氏(医療法人平成博愛会世田谷記念病院) 講演の口火を切ったのは、副看護部長と地域包括ケア病棟師長を兼務する板越由香氏(医療法人平成博愛会世田谷記念病院)です。板越氏は、「リハビリテーション看護」をテーマに現場での取り組みを具体的に紹介。リハビリテーション看護の役割の1つに「精神活動への積極的なアプローチ」を挙げ、「小さな変化を見逃さない観察力とアクティブに待つ前向きな辛抱強さが求められる」と指摘。24時間の状態を把握して伝達することがチーム医療に不可欠であることを説明し、「退院後の生活を描ける看護師」の存在が地域包括ケア病棟を支えていることを伝えました。
 
 板越氏は「リハビリテーション療法士との情報共有で、リハビリマインドのあるケアの質を向上させ、在宅・社会復帰に向けて強い思いで関わっていきたい」と締めくくりました。
 

02_全日本病院協会(全日病)副会長の猪口雄二氏 続いて登壇したのは、全日本病院協会(全日病)副会長の猪口雄二氏。東京・江東区にある寿康会病院の理事長などを務めている経験を踏まえ、「地域包括ケアシステムと病院」と題して講演しました。猪口氏は冒頭、「地域包括ケアシステムと病院がどのように関わっていくか」と問題提起。24時間体制で高齢者の入院に対応する地域に密着した病院の必要性を論じ、そうした病棟はすでに全日病が約15年前に「地域一般病棟」として提唱していることを紹介しました。
 
 同病棟の提唱が平成16年度診療報酬改定の「亜急性期入院医療管理料」につながり、そして今回の地域包括ケア病棟の創設に至ったことを解説し、「これから伸びる病棟」と強調。「地域の中小病院が地域包括ケア病棟を目指し、常時受け入れを約束するCommunity Hospital、Primary Care Bedを地域の中でつくっていきたい」と力を込めました。
 

03_盛岡市立病院院長の加藤章信氏 同じく地域医療を担う立場から、盛岡市立病院院長の加藤章信氏が「急性期とのケアミックス型病院での地域包括ケア病棟運用の現状と今後の課題」と題して講演。地域包括ケア病棟の導入に向けた院内の動きを振り返り、導入後の稼働状況や運営上の変化などを紹介しながら今後の問題点を探りました。
 
 加藤氏は、①院内外への情報提供の推進、②病棟運営に関するシステムの円滑化──の2点を指摘し、①については、医師をはじめとする職員の理解が不十分であることや、近隣の病院など地域への広報が不足していることを挙げました。今後については、院内全体の連絡会議や院内研修などによって職員の意識改革を進める必要性や、患者や家族への説明、地域への情報提供などに注力する意向を示し、「大規模病院が複数存在する県都で、地域包括ケアシステムを支える特長を持った病院として運営できる。地域包括ケア病棟は最大にして最強の病棟となり得る」と結びました。
 

04_国際医療福祉大大学院教授の高橋泰氏 一方、政府の社会保障制度改革国民会議の報告書など、国の政策決定に強い影響力を与えている国際医療福祉大大学院教授の高橋泰氏は「今後の人口推移からみた『地域包括ケア支援病棟』誕生の必然性」と題して講演し、人口減少社会に向けた病床再編の動きを解説しました。
 
 高橋泰氏は「人口構成が大きく変化すれば、医療や介護の需要は大きく変化する」との考えを示したうえで、「今後の人口構成の変化などを踏まえると、『とことん型』の急性期医療は過剰であり、『まあまあ型』の医療を提供する病床が不足している」と指摘。「とことん型」の病床から「まあまあ型」の病床への転換が不可欠であると主張し、「需要が伸びるのは生活支援型医療の『地域包括ケア病棟』である」と説きました。

 本シンポジウム座長の仲井氏の司会により、会場から寄せられた質問にシンポジストが答える形で進行。それぞれの立場から、幅広い問題意識を示しました。質疑の模様をご紹介いたします。
 
第23回学会シンポ③-2
 

■ 地域包括ケア病棟、基本設計をもう少し検討すべき
 
○座長(仲井培雄・地域包括ケア病棟協会会長)
 会場からの質問を受け付けたい。はい、武藤先生、どうぞ。

○会場(武藤正樹・国際医療福祉大大学院教授)
 私が分科会長を務めさせていただいている中医協の入院医療等の調査・評価分科会では、次期診療報酬改定に向けて地域包括ケア病棟に関する議論も進んでいる。その中で、手術料を包括外にして出来高算定にする案が出ているが、この点について、どのようにお考えになるか。

○猪口雄二氏(全日本病院協会副会長)
 急性期病院が地域包括ケア病棟を併設している場合には、手術料は出来高またはDPCで算定して、その後に地域包括ケア病棟に移すという流れになる。そういう流れができつつある。しかし、地域包括ケア病棟が新設された本来の目的から考えると、在宅復帰を支援し、在宅などで急性増悪した場合にはまた地域包括ケア病棟に戻すという機能が重要である。その機能については、目に見える形で診療報酬上の評価をしたほうが選択肢は増える。

 そこで、診療報酬上の評価の1つとして「手術料を外出し(出来高)にしてはどうか」という話になるのだが、現状のままで手術料だけを外出しにすると、他の要件は現行のままであるならば、「手術は急性期でやって、その後に地域包括ケア病棟に移すから外出しにしなくてもいい」という声が出てしまう。従って、地域包括ケア病棟を発展させていくためには、同病棟のあり方や基本的な設計をもう少し検討する必要がある。この辺りの議論が今後、進んでいくことを期待している。

○武藤氏
 地域包括ケア病棟のコンセプトとして、中等度までの救急受け入れを円滑にする役割がある。手術料を外出しにすれば、急性期の一般病棟を持たない病院を中心に、地域包括ケア病棟が広がっていく可能性があると考えるが、この点についてはどうか。

○猪口氏
 そのとおりだと思う。今後、地域包括ケア病棟が増えるとすれば、急性期の一般病棟を持たない病院であり、そういう病院にとっては手術や一定の処置などを外出しにしたほうがインセンティブは働く。そうすると、無理をして急性期の一般病棟と地域包括ケア病棟の両方を持っている病院が、今後は地域包括ケア病棟だけで運営できるようになる。

 一方、病床数が多い病院が急性期病床を持ちながら、ポストアキュートの病棟として地域包括ケア病棟を持つという運営の仕方もある。

○武藤氏
 地域包括ケア病棟の機能を今後どうしていくかという問題。類型を少し分けたほうがいいのか、今後の検討課題である。
 

■ 地域包括ケア病棟の類型を分けるべきか
 
○座長
 高橋先生は、今後の地域包括ケア病棟についてどのようにお考えだろうか。

○高橋泰氏(国際医療福祉大大学院教授)
 サブアキュートとポストアキュートとでは、病棟の運営コストが異なる。現在の点数評価のままでは、軽い急性期の患者さんらを受け入れるサブアキュートを運営するのは厳しい。地域包括ケア病棟を伸ばしていくなら、最低限、自宅などから来る患者さんを受け入れる場合(サブアキュート)と、急性期病床から受け入れる場合(ポストアキュート)とを分けて、サブアキュートはDPCに準じた報酬体系にしないと、本来の地域包括ケア病棟としての運営は難しいのではないか。

○加藤章信氏(盛岡市立病院院長)
 当院は260床の公立病院で、ワンフロアーをすべて地域包括ケア病棟にしている。診療科の数が多いので、どの病棟に入院していただくか迷う時がある。そんな時、「手術料が包括なので、ちょっと持ち出しになってしまうが地域包括ケア病棟に」と判断する場合もある。この辺りを手当てしていただけたらありがたいと思うこともある。

 一般病棟に入ってもらってから地域包括ケア病棟に移すとなると、毎日ベッドのやりくりが大変になるという苦しい事情もある。マンパワーなどに余裕のある大きな病院ならばいいが、そうではない当院のような病院の場合には、出来高にしていただくと現場としてはありがたい。

○座長
 点数が付いていないので手術をやっていない病院もかなりあると思うが、短期滞在手術等基本料3を活用して手術を実施している病院もあり、手術可能な体制ではあると認識している。地域包括ケア病棟の類型を分けるよりも、現在の類型のまま、いかに発展させていくかを考える必要もある。いったん分けてしまうと、元に戻すのはとても難しい。現状のまま、この病棟をどう生かすかを検討するのも1つの考えだろう。

○武藤氏
 ありがとうございました。
 

■ 総合診療の教育を受けたドクターが必要
 
○会場
 板越さんにお尋ねしたい。地域包括ケア病棟をサブアキュートとして運営しているとのご説明だったが、地域包括ケア病棟にドクターを何人ぐらい配置しているのか。様々な疾患を幅広く診るのは大変だと思うが、どうだろうか。
 
○板越由香氏(医療法人平成博愛会世田谷記念病院副看護部長)
 かなりハードな病棟になっている。1ヵ月平均の入院患者さんが約40人で、退院も40人前後。多いときには1日に4~5人の入院がある。ドクターは地域包括ケア病棟に3人。

○会場
 とすると、患者さん16人に対し医師1人という配置だろうか。

○板越氏
 そのようになる。

○座長
 そのドクターの診療科は。

○板越氏
 総合内科2人、循環器科1人。

○座長
 地域包括ケア病棟にはどのようなドクターが望ましいのかについて関心がある。ほかのシンポジストの先生方、いかがだろうか。

○猪口氏
 私が若いころは何でもやらされたし、大学でもそういう教育を受けてきた。最近は縦割りで細かく診療科が分かれているが、日本専門医機構認定の「総合診療専門医」は、まさに地域包括ケア病棟に必要な医師であると思う。
 
 総合診療専門医が多く誕生するまでには年月がかかるので、すぐにというわけにはいかないが、地域に必要なのは「横割り」ができるドクターであると思っている。

○座長
 まさに、在宅の後方支援もできる総合診療専門医である。

○猪口氏
 専門的な治療が必要な場合には、その診療科の専門医につなげばいい。高齢者の多疾患に対応するためには、総合診療の教育を受けたドクターが必要であると思う。
 

■ 医師不足の地域、少ない人数で何でも診る
 
○座長
 ほかに、質問はあるだろうか。

○会場
 関西で病院の院長をしている。医師の教育についてお尋ねしたい。先ほどの話にも関連するが、最近の若いドクターは大学病院をはじめとした高度急性期病院で臓器別の専門教育を受けている。総合内科の先生に来ていただいて総合診療に関する研修にも努めているが、なかなかうまくいかない。どういう研修をすればいいのか、お知恵を頂きたい。

○加藤氏 
 当院のある岩手県はご承知のとおり医師不足の地域であるため、少ない人数で何でも診るという姿勢で取り組んでいる。教育や研修体制はまさに課題の1つであるが、難しい疾患の場合には専門病院に紹介するようにしている。地域によっていろいろな対応があると思う。

○座長
 総合診療専門医がようやく動き出した。総合診療をはじめ、ドクター多の教育や研修の在り方について、今後さらに議論が深まることを期待している。
 

■「まあまあ急性期」とミスマッチを起こしている
 
○座長
 最後に、シンポジストの方々で議論したい。高橋先生が「まあまあ型」と「とことん型」とおっしゃった。この点について、もう少し補足していただきたい。
 
○高橋泰氏
 地域包括ケア病棟の機能が不明確になっていることもあって、当初の「まあまあ急性期」と、現在の地域包括ケア病棟はミスマッチを起こしているような気がしている。

 そのため、「まあまあ型」は、地域包括ケア病棟について説明する場合には使わないようにしているが、一般の人に説明する場合には分かりやすいので使用している。急性期医療の中には、徹底的に治療するタイプと、生活を支援するタイプがあるという意味で使用している。
 
○座長
 ありがとうございます。例えば、回復期リハビリにも「まあまあ」と「とことん」があるのか、慢性期医療にも「まあまあ」と「とことん」があるのか疑問があるが、それは機会がある時にまた聞かせてほしい。
 

■ 地域を変える動き、「ようやく始まった」
 
○座長
 地域包括ケア病棟はこれからの地域を変える大きな可能性がある。今回のテーマは、「医療が変われば地域も変わる」ということだが、加藤先生、いかがだろうか。地域はどのように変わるだろうか。

○加藤氏
 地域包括ケアシステムの構築が非常に重要な課題となっている。私どもの岩手県もそうだが、地域包括ケアシステムを十分に運営するための体制がまだ不十分である。地区医師会としっかりチームを組んで、しっかりやらなければいけない。その動きはまさにこれからである。地域包括ケア病棟が地域包括ケアシステムを構築するために大いに役立つよう、これから積極的に進めていきたいと考えている。

○座長
 震災の影響はいかがだろうか。

○座長
 震災のために消失してしまった公立病院をどのように再建するか。そちらのほうに県民の意識が強くて、地域包括ケアシステムの構築に向けた動きがなかなか進んでいない現状がある。

○座長
 本当に大変な中で地域医療に取り組んでおられる。猪口先生はいかがだろうか。

○猪口氏
 「地域がどう変わるか」ということだが、当院のある東京・江東区では、民間の9病院が中心となって輪番制を組み、「とりあえず入院させる」というシステムを昨年からスタートさせた。その結果、各病院が1年間で1,000人ぐらいをそれぞれ受け入れるという実績ができた。私たちの自治体としては、うまくいく方法が1つできてきた感がある。

 今後、各地域にそれぞれの地域包括ケアシステムができてくると思うが、私たちのような取り組みも利用して、円滑に病診連携ができるように発展していけばいい。やればできると思う。

○座長
 その仕組みに参加している病院は、地域包括ケア病棟を有する病院だろうか。

○猪口氏
 地域包括ケア病棟を持っているのは、当院を含めて3病院。二次救急に注力している病院もあり、各病院の役割分担はまだ明確になっていないが、今後はもう少し明確にしていきたい。

○座長
 地域を変える動きがようやく始まった。地域包括ケア病棟の今後に、ぜひ期待したい。本日は、どうもありがとうございました。
 

 
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