リハビリテーションが在宅復帰の鍵を握る ── 第23回日本慢性期医療学会④

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第23回日本慢性期医療学会④

 第23回日本慢性期医療学会2日目の9月11日、「明るい長寿社会を創るにはリハビリテーションが必須! ~リハビリテーションが在宅復帰の鍵を握る~」と題するシンポジウムが開催されました。認知症を抱える高齢者を支える慢性期リハビリテーションに取り組む医師らが集い、早期の在宅復帰を目指すリハビリテーションのあり方を考えました。座長を慢性期リハビリテーション協会副会長の江澤和彦氏が務め、講演後のパネルディスカッションではシンポジストが「私たちがあきらめてはいけない」と力強く語りました。
 
01_熊谷賴佳氏 「日本慢性期医療協会が考える認知症リハビリは、人間性の復活を目指すリハビリ」──。こう訴えたのは、日本慢性期医療協会常任理事で蒲田医師会会長の熊谷賴佳氏(医療法人社団京浜会・京浜病院理事長)。熊谷氏は、認知症リハビリには「予備期」「BPSD期」「維持期」──という3つの時期があると指摘し、それぞれの時期に応じた目的やプログラムの組み立てがあることを解説しました。

 一方、すべての期に共通の考え方として、「楽しくなければ続けられない」「言葉を使わなくてもコミュニケーションはとれる」などを紹介。認知症リハビリの考え方については、「できる限り自立した生活を目標として、患者一人ひとりに適したプログラムを適切な時に行い、楽しく、かつ周囲の温かい励ましを得られる治療法」との考えを示し、「患者さんが光に向かって頑張れる。これを提案するのが慢性期リハビリテーション」と述べました。
 

02_阪口英夫氏 東京・八王子市にある陵北病院歯科診療部長の阪口英夫氏は「食べるためのリハビリテーション」と題し、歯科医師の立場から在宅復帰を支えるリハビリテーションについて述べました。

 阪口氏は「食事は生きる意欲を左右する。口から食べることが在宅復帰の鍵を握る」と指摘。歯科医師が多職種と連携し、より良い口腔環境を整えることによって初めて経口摂取が実現することを具体的に説明しました。阪口氏は、摂食・嚥下障害への対応の難しさを挙げ、スクリーニング検査などを通じて治療方針を決定していく過程を写真や映像で解説。脳梗塞で入院した患者が在宅復帰を果たしたケースを示しながら、病院歯科医の幅広い取り組みを紹介し、「食べるためのリハビリテーション」には多職種の緊密な連携が必要であることを伝えました。
 

03_浜村明徳氏 小倉リハビリテーション病院名誉院長の浜村明徳氏(日本リハビリテーション病院・施設協会名誉会長)は、「これからのリハビリテーションと地域包括ケアの推進」と題して講演し、地域全体で支えるリハビリテーションの在り方に迫りました。浜村氏は、「地域包括ケアの目標は、住み慣れた地域で安全・安心・健康が確保され、生活が継続されることにある」との考えを提示。地域包括ケアとリハビリとの密接な関係に触れながら、「リハビリだけで目標の達成は不可能であり、他の分野と連携し、地域の支援チームとして機能していくことも重要」と指摘しました。

 浜村氏は、認知症カフェや認知症サポーターの推進など、地域を巻き込んだ活動を展開している模様を伝え、「職員ボランティア活動(プロボノ)としての地域包括ケア推進」を提唱。地元商店街の活性化活動と連携したり、地域のサロン活動を支援したりする活動を通じた「地域リハビリテーション」の考えを示し、「われわれが地域に入っていくしかない」と強調しました。
 

04_丸山泉氏 日本プライマリ・ケア連合学会理事長の丸山泉氏(丸山病院理事長)は、「家庭医療学を基盤とした新たなシステム作り」の必要性を説きました。丸山氏は、「10年後に求められる医療像」として、「境界を越えて、統合できる力」を挙げ、現在のままでは今後の高齢社会を乗り切れないことを指摘。「プライマリ・ケアの精神は、まさにリハビリテーションの精神と同じである」との考えを示したうえで、「専門職のスキルをどう一般化するか」「専門分化から統合・総合へ、リハビリテーションはどうあるべきか」と問題提起しました。

 今後の課題解決に向け丸山氏は、①アウトカム評価型のリハビリテーションへ、②専門性への囲い込みから、総合力へ、③家庭医療学を基盤としたリハビリテーションへ──の3つを挙げ、「私たちは、プライマリ・ケアの基盤を考えていく必要がある」と結びました。
 

05_吉尾雅春氏 千里リハビリテーション病院副院長の吉尾雅春氏は「リハビリテーションの真価が問われる」と題して講演し、死体解剖の資格を持つ専門的な立場から、解剖学的な知識を基礎としたリハビリテーションのあり方を解説しました。

 痛みを伴う肩関節の問題を例に、「関節包を保護する関節筋の存在、システムをほとんどの医療従事者は知らない」と指摘。他院から「ひどい脳梗塞だから歩行は諦めて」と言われた患者のケースを具体的に紹介しました。吉尾氏は、同院スタッフの献身的なリハビリによって、患者の「もう一度歩きたい」という意欲を出現させる過程を説明。約1年間の訓練が実って歩行できるようになり、念願だったハワイ旅行に行けるまでに回復した事例を紹介し、「歩けるようになるチャンスを奪うかもしれない、私たちの専門性は怖い」と警鐘を鳴らしました。この患者を支援したのが入職1年目の新人PTであることを指摘し、「技術の問題ではなく人間学である。ハビリテーションとは人間としての復権である」と強調。「常識を疑う良識を持つ」というスライドで講演を締めくくりました。
 

 講演を受け、座長の江澤氏は「とても情熱あふれるお話ばかり」と評価。シンポジストを交えたディスカッションに移りました。会場から寄せられた質問にシンポジストが答える形で進行し、現場が抱える悩みも浮き彫りになりました。以下、討論の概要をお伝えいたします。

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■ われわれがあきらめたらいけない
 
○座長(江澤和彦・慢性期リハビリテーション協会副会長)
 フロアーからの質問を受け付けたい。ご質問がある方は挙手を。

○会場
 浜村先生におききしたい。しばしば、「サーベイをしてからリハビリテーションをすべきだ」との声を聞く。私は、本人の主観をしっかりと確認してからリハビリテーションをしなければいけないと考えている。先生はどのようにお考えになるか。

○浜村明徳氏(小倉リハビリテーション病院名誉院長)
 非常に大事な視点であり、私もそのように考える。施設などに入所すると、本人と家族との関わり、社会との関わりが希薄になる。先ほど、吉尾先生が「人間は生活を営む社会的動物である」とおっしゃった。入所していても家族や社会との関わりが持てるようにすることが大切である。

 入所期間が長くなるとなかなか難しいが、われわれがあきらめたら、すべて終わりだ。われわれがあきらめてはいけない。在宅復帰や社会復帰がきちんと果たせるか、われわれに問われている。容易なことではないが、リハビリテーションスタッフとして組織の中で主張していくことが大事であり、行動する時は先頭に立ってほしいと思う。
 
○会場
 ありがとうございました。
 

■ すべてセットのリハビリを自然に
 
○座長
 ほかにご質問は。

○会場
 貴重なお話をありがとうございました。熊谷先生におききしたい。認知症のために視覚や聴覚などの身体機能が低下している患者さんに対するリハビリテーションについて、教えていただきたい。 

○熊谷賴佳氏(日本慢性期医療協会常任理事)
 物忘れよりも前に、五感の機能が落ちる。そこで、視点や見方を変えると思い出すこともある。例えば、間違い探しなどのゲームやいろいろなテストをすることによって、ほかの機能も総合的に上がることがある。できるだけ、耳も目も、そして触覚、味覚、嗅覚などをすべてセットにしたプログラムを組んであげるといい。

 食べる、見る、聴く、すべてセットのリハビリを自然にやっている施設もある。知らないうちに自然にできている施設では高い効果を示しているし、それに気づかない施設では、効果が薄いということがある。今まで無自覚であったとしたら、ぜひそうしたことを意識して、取り入れていただけたらいいと思う。

○座長
 ありがとうございました。
 

■ 人間の可能性にチャレンジしていく
 
○座長
 最後に一言ずつ、総括的なコメントをいただきたい。

○熊谷氏
 BPSDは治せるということをまず自覚していただきたい。認知症の中核症状である物忘れや判断力の低下など脳機能の低下を治療する薬はないが、BPSDは治すことができる。家族との摩擦などを修復してあげることによって、そこに愛情や連帯感、笑顔を取り戻すことができる。そうすると、リハビリをはじめ、あらゆることがスムーズに進むようになる。皆さんの力で、BPSDを治してほしい。

○阪口英夫氏(陵北病院歯科診療部長)
 一生涯、口から食べることができればいいが、まだ日本には専門の医療機関が少ない。「食べるためのリハビリテーション」は非常に難しい課題だが、今後の取り組みを通じて、日本全国で「食べるためのリハビリテーション」が充実することを願っている。

○浜村氏
 リハビリテーションの最終的な目標は、その人らしい暮らしを再構築して、終末期に至るまで継続できるように支えることにある。地域全体がチームとなって連携し、働きかけていくような取り組みも必要である。

 これからの医療は、市民が納得できるものでなければならない。納得できるリハビリテーションでなければならない。これからも前向きに取り組んでいきたい。

○丸山泉氏(日本プライマリ・ケア連合学会理事長)
 リハビリテーションというジャンルの中に入れてしまって考えるのか、あるいはもう一つ大きなくくりの中で考えるか。われわれは、そういう局面を迎えている。これは決して否定的な意味ではない。

 リハビリテーションはもちろん重要で、今後も発展していく。ただ、リハビリテーションというジャンルの中で全体が同じ方向を目指すよりも、もう少し大きなものを背景にしないと、またリハビリの領域の中に入ってしまう弊害があるのではないかと心配している。

○吉尾雅春氏(千里リハビリテーション病院副院長)
 私たちの仕事は、患者さんが持っている欲求、ディマンドに応えることであり、これらをいかに実現していくかを考える視点が必要である。

 患者さんの環境因子を評価するということは知っていても、スタッフに「環境因子とは何か」と問うと、多くは「患者さんの家、地域、家族」ということを一番に挙げる。しかし、環境因子として最も重要なのは病院であり施設であり、そして患者さんに関わるスタッフたちだと思っている。まずここがきちんとしていること。スタッフたちがきちんとした意識を持って、きちんとした活動ができるかが問われている。患者さんを評価する前に、まず自分たちを客観的にきちんと評価する謙虚さを持たなければいけない。

○座長
07_江澤和彦氏 どうもありがとうございました。われわれがあきらめたらすべてが終わる。決してあきらめない。人間の可能性にチャレンジしていくことが大事だと思う。

 本日は、それぞれの立場から非常に興味深い、そして私たちの実践に役立つ話が多くあった。本日の話を参考にして、皆さまの日々の活力にしていただきたい。ありがとうございました。
 

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