4月10日の記者会見のご報告

会長メッセージ 協会の活動等

武久洋三会長20140410

 日本慢性期医療協会(日慢協)は4月10日、「次回の診療報酬改定に向けて」をテーマに定例会見を開きました。武久洋三会長は報道関係者を前に、平成28年度診療報酬改定に向けた日慢協の要望や今後の取り組みについて語りました。

 次期改定に向け武久会長は下記の6項目を示しました。
 
 1.在宅療養患者についても重症度への評価

 2.日本慢性期医療協会の会員は、回復期リハビリテーション病棟入院料1の体制強化加算を必ず取るように
 
 3.重度長期慢性期病棟の創設
 
 4.認知症加算を慢性期に
 
 5.看取り加算
 
 6.軽症長期入院患者に特定療養費の適応

 
 これらの項目に関する武久会長の説明(要旨)は以下の通りです。
 

[武久洋三会長]
 平成26年度診療報酬改定が終わったばかりですが、次の改定に向けた日慢協の要望はすでにあります。会員に対しては研修会などの場で示しています。本日は、現時点における日慢協の要望をみなさんにお示しいたします。
 

■ 在宅療養患者についても重症度への評価を
 

 今改定では「看護必要度」が変更され、やや急性期寄りの看護必要度になっています。また、療養病床における医療必要度についても、重症の患者さんに対する報酬は高く設定されています。

 ところが外来や往診等については、患者さんがどのような病態像であろうと同じ点数になっています。例えば、在宅の患者さんが風邪をひいた時、「病院に行くのが面倒だから往診に来てくれ」という場合であっても、あるいは非常に重度で褥瘡がたくさんあって肺炎になっているような在宅患者さんへの往診であっても、往診料は同じです。そこで、「これはどう考えてもおかしいのではないか」ということを主張したいと思っております。

 在宅医療は慢性期医療の部分がほとんどです。当協会の会員の中には、在宅療養支援診療所(在支診)もたくさんおります。在支診の会員を代弁するわけではありませんが、そうした在支診の会員のために、症状の重い在宅患者さんに対する往診料などを評価していただきたいと主張していくつもりです。
 

■ 回リハ1の体制強化加算を必ず取る
 

 今回の改定で、「回復期リハビリテーション病棟入院料1」に「体制強化加算」が新設されました。施設基準に、「リハビリテーション医療に関する3年以上の経験およびリハビリテーション医療に係る研修を修了した専従の常勤医師1名以上」「退院調整に関する3年以上の経験を有する専従の常勤社会福祉士1名以上」が入りました。
 
 また、今改定で変更された看護必要度(重症度、医療・看護必要度)の要件も課されます。「A項目の得点が1点以上の患者割合が1割以上であること」が必要で、ほかに在宅復帰率70%などの要件もあります。このような要件を見ますと、「回復期リハビリテーション病棟入院料1」と「地域包括ケア病棟入院料1」は似ていると言えます。そこで、日慢協の研修会では、会員に対し「体制強化加算を必ず取ろう」と言っています。

 A項目の10%要件は、回復期リハ病棟しかない病院にとってはかなり厳しいと思います。回復期リハビリテーション病棟や地域包括ケア病棟、在宅復帰型の療養病床を持っている病院には、身体合併症のあるリハビリが必要な患者さん、すなわち重度の患者さんがたくさんいます。従って、新しい看護必要度の条件をクリアするうえで、どちらかと言えば、慢性期病床を持っている回復期リハビリテーション病棟1が有利ではないかと思っております。

 今回、リハビリテーションが包括になったことから考えますと、将来的にリハビリテーションはすべて包括になっていく方向に動くのではないかと考えます。なぜかと言いますと、例えば管理栄養士の加算が前回改定で入院基本料に包括化されました。その根拠となったのは、約9割以上の病院が管理栄養士加算を算定していたことです。すなわち、9割の病院が対応しているような事項に関しては、入院基本料に包括していくというのが、これまでの厚生労働省の手法です。

 現在、PT・OT・STを養成する学校が増えたことにより、幸いにも療法士の数が非常に増えています。一時は、リハビリの算定日数制限によって、PT・OT・STが過剰になったことがあります。しかし逆に言えば、多くの病院に療法士が配置されていたということでもあります。

 平成24年度改定では、亜急性期入院医療管理料1と2が見直され、リハビリテーションを行ったことがあれば2を算定することになり、回復期リハビリテーション病棟入院料1と同じ点数になりました。調査によれば、リハビリテーションをしたことがあるのが95%ということも判明しています。従って、ほとんどの患者さんはリハビリテーションが必要な患者さんであるということを厚生労働省は把握しています。

 地域包括ケア病棟では、リハビリテーション2単位が必須となりました。2単位以上のリハビリは、回復期リハビリテーション病棟入院料の1~3に共通の要件ですので、回復期リハビリテーション病棟と地域包括ケア病棟におけるリハビリの最低基準は同じです。ところが、地域包括ケア病棟入院料は出来高ではなく包括となりました。

 そうしたことから考えますと、リハビリテーションによって必ず在宅復帰を促すようにするというのが今回の診療報酬改定です。急性期を過ぎたサブ・アキュートの患者さんや、在宅療養中に急性増悪した患者さんらに対しリハビリテーションを提供し、在宅に帰す。在宅復帰するために、リハビリは必須の医療サービスです。

 地域包括ケア病棟では、リハビリを必要とする患者さんに対して2単位が最低必要としています。では、リハビリをする患者さんが50床のうち25人しかいなかったとしたら、残りの25人はリハビリをしないのに、リハビリをした場合と同じ報酬を頂けることになってしまいます。

 こういうことがまかり通るのでしょうか。厚生労働省は95%の患者さんに対するリハビリが必要であるという情報をすでに得ていますので、もし、地域包括ケア病棟で半分の患者さんしか、あるいは3分の2の患者さんしかリハビリテーションをしていないことがデータ提出の際に判明したらどうなるでしょうか。当然、次期改定で地域包括ケア病棟の点数は下がってくるでしょう。

 例えば、看護師の仕事は患者さんの療養上の世話を医師の指示の下で行うことですが、「体位変換をしたら1回300円」とか、「清拭をしたら1回500円」という診療報酬はありません。なぜならば、すべての患者さんにとって必要なサービスだからです。従って、平成30年度の同時改定が実施される時には、リハビリテーションの点数は入院基本料に包括されていくだろうと推測しています。

 では、「最低2単位」だから2単位しかしなくていいのでしょうか。病院の良心として、患者さんによっては4単位であったり、6単位であったりするケースも当然あるでしょう。そのようなリハビリ重視の考え方の下、包括の中でリハビリを提供していける病院が勝ち残っていくと日慢協では考えています。

 従って、会員向けの研修会では、地域包括ケア病棟であってもリハビリを2単位すればいいと考えずに、最低2単位、できれば4単位するように勧めています。そのほうが、当然アウトカムは良くなる。できるだけ多くのリハビリを提供して、早く自宅に帰っていただくよう努力してほしいと伝えています。
 

■ 重度長期慢性期病棟の創設について
 

 われわれとしては、特殊疾患病棟を廃止して「重度長期慢性期病棟」という新しい概念を訴えていきたいと思っています。

 今回の改定は、急性期病棟からも地域包括ケア病棟からも、また回リハからも療養病床からも、どんどん在宅に帰してくださいという非常に強いメッセージです。日慢協としてもそれは当然のことと思っております。今まで以上に、在宅復帰を強力に推し進める所存です。
 
 しかし、重度の後遺症がある患者さん、感染症が慢性的に持続している患者さんらは、3か月や4か月ではなかなか帰れないという現実があります。もちろん、そうした重症の患者さんでも、自宅に家族がいる場合や、在宅サービスをふんだんに受けられるだけの資金力がある場合には、できるだけご自宅に帰っていただくための努力をわれわれもいたします。

 しかし、われわれの努力をもってしても、在宅に戻れない患者さんが存在します。そこで日慢協は、そうした患者さんのために、「重度長期慢性期病棟」を創設すべきと考えます。在宅復帰できない患者さんのための「最後の防波堤」として、重度長期慢性期病棟を日慢協は主張していきたいと思っております。

 重度長期慢性期病棟は、いわば「超慢性期病棟」と言えます。現在、こうした患者さんを受け入れる病棟として、障害者病棟と特殊疾患病棟があります。いずれも一般病床からの算定となりますが、障害者病棟は主に難病の患者さんを扱いますので、脳卒中の後遺症や認知症などを抱える患者さんには適用されません。そのため特殊疾患病棟等に入院していると思います。

 われわれは、障害者病棟も6.4㎡の基準、すなわち地域包括ケア病棟と同じ基準が最低必要であろうと考えています。現在、障害者病棟は、4.3㎡の8人部屋でも許可されています。車いすがベッドとベッドの間に入らないような狭くて暗い、風通しが悪くて汚い病棟でも、3年、5年と長い期間にわたって患者さんが入院している病院がまだまだあります。患者さんの立場を考えますと、それは耐え難いことであります。そこで、「超慢性期」の病棟は6.4㎡の4人部屋が最低基準であるということも訴えたいと思います。
 

■ 認知症加算を慢性期に
 

 認知症で重度の患者さん、BPSDのような異常反応を示す患者さんが、救急病院から慢性期病院に至るまで、多くの病院に入院しています。非常に手間がかかって、危険性も大きい。事故が起こる可能性も高い。そうした患者さんのために、たくさんのスタッフが関わる必要があります。従って、急性期・慢性期を問わず認知症加算を新設すべきであると考えます。

 日慢協の会員病院には、慢性期病棟だけでなく急性期病棟も持っている病院がありますので、いずれの病院で、BPSDの患者さんにどれぐらい手間がかかるかを今年中に調査して結果を出したいと思っております。厚生労働省は、口で主張するだけではなかなか言うことをきいていただけません。現場での地道な調査・研究による統計データを出して、正確な情報を厚生労働省に提供したいと考えています。
 

■ 看取り加算について
 

 看取り加算は、在宅の患者さんには評価されていますが、病院でも非常に死亡者が多い施設があります。高齢者のターミナルケアを担っている慢性期病棟においては、多大な人的負担があります。

 もちろん、急性期病院に救急搬送されて間もなくお亡くなりになる患者さんもいますが、慢性期病院にターミナルの患者さんが入院する場合には、長い期間にわたって関わるケースが多くあります。すなわち、医師が1日に何度も回診しなければなりません。看護師さんもずっと付き添うことが多くあります。

 お看取りする際に、喀痰が溜まっているのを吸引せずに放っておくということはあり得ません。非常に重症の患者さんで家族が付き添っている場合には、スタッフも非常に緊張して喀痰吸引する際に出血したら冷たい目で見られて糾弾される場合もあります。そのような患者さんが1つの病棟に10人いれば、職員が何人いても足りないような状況になります。

 そうしたことから、重度の患者さんのうち、特に看取りをするような患者さんについては、何らかの評価をしていただきたいというのが要望です。これについても、どのぐらいの数のスタッフが必要で、どのような関与をしているのか調査したうえで、データを提示したいと思っております。
 

■ 軽症長期入院患者に特定療養費の適応を
 

 国が求めるように、療養病床に入院している患者さんもどんどん在宅復帰していただく方向で、われわれも動いています。ところが現実には、軽症であるにも関わらず、なかなか退院しようとしない患者さんがいます。

 急性期病院の場合には、「急性期の治療が終わったので帰ってもいいですよ」と言われれば、納得して退院する患者さんが多いと思います。しかし、慢性期病院に長く入院している患者さんの場合には、なかなかそうなりません。特に、25対1の病床に医療区分1の患者さんが多数を占めているような病院では、住居代わりに入院しているような患者さんが残念ながらいます。そういう患者さんに「退院してください」と言っても、簡単には受け入れてくれないケースが多々あります。

 なぜ、患者さんが病院に長く入院したがるのかと言えば、その病院の医師や看護師が優秀であるからという理由では決してなく、他の施設に入院するよりも料金が安いからです。サ高住に入るのも高い。ユニットケアの特別養護老人ホームもはるかに高い。介護老人保健施設も高い。自宅に帰って訪問看護や訪問介護などを受けるほうが高い。つまり、経済的な理由で、「この病院に入院しているのが一番安い」と考えて、いつまでも退院していただけない。これはむしろ社会問題であって、医療問題ではありません。

 そこで、特定療養費の適応を認めていただきたい。すなわち、6か月以上入院していて医療区分の低い患者さんに対しては、例えば、「1人につき1日数千円を徴収してもいい」という制度です。高度急性期病院に紹介状なく来院した場合、特定療養費として初診時に数千円を徴収することが認められています。

 そこまで高い料金でないとしても、何らかの対応が必要です。最も安い料金だからという理由で療養病床に長い期間入院されることは、社会的損失であると思っています。

 今回の改定では、急性期病院における特定除外制度が一掃されました。一般病床に長期入院している患者さんも、1つの社会的問題でありました。特定除外制度は、利用者側と病院側の利害がWIN-WINの関係にあったために、急性期病院で長く続いていたのです。

 今改定は方向性が非常にはっきりしています。療養病床であろうとも、どんどん治療して早く帰っていただくという方向性が示された以上、それに従うのは医療者として当然の義務であります。もし、療養病床の退院を阻害している原因が、低額な入院基本料にあるとすれば、特定療養費の制度を導入すべきだと思います。「サ高住よりも療養病床のほうが安い」というような状況を改善するため、軽症の長期入院患者に特定療養費の適応を認めるよう要望してまいりたいと考えています。
 

■ 次回の会見について
 

 次回の会見は5月15日を予定しています。当日は、地域包括ケア病棟部会の設立総会を開催いたします。特別記念のシンポジウムには、厚生労働省保険局医療課の宇都宮啓課長のほか、4名の先生方にシンポジストとしてご参加いただく予定となっております。  

 今回の改定および病床機能報告制度は医療界に大きなインパクトを与えております。それに対して日慢協は、国民の側に立ち、国民がより良い医療を受けることができるように努めてまいります。厚生労働省から求められている医療を提供すべく協力していきたいと思っております。

 今回の診療報酬改定に対して、様々な団体からいろいろな異論が出ていますが、われわれは厚生労働省が決めた方針に協力し、医療現場で努力していくことが彼らに報いることであり、国民のためであると信じています。そのような方向で頑張りたいと思いますので、今後ともよろしくお願いいたします。
 

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