慢性期リハ協会設立、「団結してやらなければ」

会長メッセージ 協会の活動等

武久洋三・慢性期リハビリテーション協会会長

 「団結してやらなければいけない時期が来た」──。慢性期リハビリテーション協会の設立準備会が7月11日に開催され、初代会長に就任した日本慢性期医療協会(日慢協)の武久洋三会長は、多くの理解と団結を呼びかけました。同日、副会長や顧問、幹事ら役員を選任したほか規約案を承認し、本格的な活動がスタート。2014年度診療報酬改定に向けた要望書を厚生労働省に提出し、慢性期リハビリテーションの必要性や重要性を広く訴えていきます。

 会場となった日慢協併設の東京研修センターには100人を超える医療関係者や多くの報道関係者が集まり、慢性期リハビリテーションに対する関心の高さをうかがわせました。冒頭の挨拶で日慢協の武久会長は「良くなる見込みがない人にはリハビリをしなくていいという考え方は恐ろしい」と危機感を募らせ、「団結してやらなければいけない時期が来た」と協力を呼びかけました。

 続いて、都道府県の査定状況について病院長や事務長らが報告。1か月で500~700万円を減額される事態が相次ぐなど厳しい現状を伝え、「途方に暮れている」と嘆く声や、「人権問題ではないか」といった怒りの声が上がりました。こうした現場の声を受け、リハビリテーション療法士の立場から提言がなされました。

 日本作業療法士協会会長の中村春基氏は、「現場から意見を発信し、なんとかしなければいけない。改善に向けてまとまらなければならない」と提言。日本言語聴覚士協会会長の深浦順一氏は、「完全な『自立』を要求する歪んだリハビリテーション観に対して怒りを覚える」と述べ、日本理学療法士協会副会長の斉藤秀之氏は「ぜひ皆様方と力を合わせてやっていきたい」と述べました。

 慢性期リハビリテーションの必要性や重要性を示すデータについては、日慢協のリハビリテーション委員会調査担当委員の池村健氏が報告。「慢性期リハビリテーション協会」の規約(案)の承認、役員選任の後、厚生労働省に提出する要望書を武久会長が読み上げると、会場から大きな拍手がわき起こりました。
 

■ 設立趣旨に関する武久会長の説明
 

[安藤高朗・副会長]
 本日は酷暑の中、こんなに大勢の方々にお越しいただきまして誠にありがとうございます。本日は、「慢性期リハビリテーション協会」の設立準備会です。

 現在、急性期のリハビリテーション、あるいは回復期リハビリテーションが非常にクローズアップされていますが、我々慢性期リハ、あるいは維持期のリハがどんどん軽んじられてきています。ある県の病院では、非常に厳しい査定を受けております。

 しかし、国民の方々の慢性期リハ、あるいは維持期のリハに対するニーズが非常に高まってきています。そのため現状をぜひ改善したいということが設立の趣旨です。本日は武久会長から設立の趣旨について説明していただいた後、各県における維持期のリハに対する厳しい査定の状況を4人にお話ししていただきます。

 続いて、各リハビリテーション協会の会長や副会長から、慢性期リハビリテーションへの提言を現場からしていただきます。また、慢性期のリハビリテーションを行うと、どんどん改善するというデータもご紹介させていただきます。

 では最初に、武久洋三・日本慢性期医療協会会長から趣旨説明を行います。
 
[武久洋三・会長]
 この建物の外は灼熱の地獄。35度から40度になろうかというエジプト並みの暑さですが、中では真夏の闘いが今まさに始まろうとしています。みなさんご存じのように、昨年4月の同時改定の時に大変な事が起こりました。何が起こったのかというと、まず「回復期リハビリテーション病棟入院料1」が新設されました。これは大変結構なことです。しかしその反面、静かに決まったことがあります。それは平成26年4月から、要介護被保険者等に対する(1か月)13単位(1単位は20分)のリハビリテーションは認めないという決定がなされました。

 この時、多くの病院関係者は「なんということだ!」と憤慨したことと思います。その後、5月から6月頃にかけて主に西日本で、特に国保連合会(国民健康保険団体連合会)による非常に大きな減点、すなわち「査定」が目立ってきました。当協会の会員から「とんでもない事が起こった」「数百万円単位で減点された」「これは一体何事か」といった声が相次ぎました。そこで都道府県の病院のみなさんが一致団結して再審査請求を出しました。しかし再審査請求はことごとく却下されました。
 
 その理由は何か。多くは「自立が見込めない患者に対するリハビリテーションは認められない」という回答でした。すなわち、「良くなる見込みがない」と言う。しかもちょっと良くなるぐらいでは駄目なんです。「自立するぐらい良くなる患者さんでなければリハビリは必要なし」ということです。大幅に改善する見込みがない患者さんは「リハビリ弱者」ということになり、「君たちはもうリハビリを受けられないんだよ」ということです。

 こうした減点の数々が、算定上限日数を過ぎた後のリハビリならばまだしも、受症後2~3か月で回復期リハビリ病棟や一般病棟に入院している患者さんのリハビリに対する査定も大幅に増えています。これは一体どういうことか? リハビリ弱者を増やすのか? 

 もちろん、リハビリは受症後間もない時期に開始するのが良いことは分かっています。当然、急性期でのリハビリをしっかりとやっていただかなければいけません。しかし、回復期リハビリテーションで削られています。患者さんの状態を直接確認することなく、「高齢者で自立が見込めない」ということをレセプト上から推察して減点する。これは非常に大きな問題です。こうした考え方の延長線上に何があるのでしょうか。「高齢者で改善の見込みがない患者さんは治療しないでよろしい」ということにもなりかねません。さらにもっと飛躍して考えると、「世の中の役に立たないような障害者や難病の方々は生まれてこなくてよろしい」という考え方にもつながりかねない暴挙です。

 これに対して、私たちは1年間静観していました。これまでリハビリテーションに関する診療報酬については、リハビリの専門団体に委ねていたからです。維持期のリハビリテーションについても「よろしく頼む」ということで、日慢協としてはあまり大きな声を出して要求してこなかった。あえて要求しなかった。厚生労働省に対して複数の団体から要求することはあまり好ましくないだろういう判断があったので、1年間辛抱していた。1年間、待っていた。どこかのリハビリ団体が「これはおかしい」と声を上げてくれることを期待していたのです。

 ところが、厚労省保険局医療課の担当者に状況を尋ねたところ、「どこの団体からも一切文句は出ていない」との回答でした。そこで、慢性期リハビリテーションについてはやはり日本慢性期医療協会が立ち上がり、「慢性期のリハビリは必要である」と大きな声で言わなければ、誰も振り向いてくれないと思いました。誰だって、受症後すぐにリハビリをすれば良くなりますが、残念ながら、急性期段階のリハビリだけで良くなる患者さんばかりではありません。少しずつ改善しているけれど、6か月経過してもまだ歩けない人もいる。そういう人たちを無視しろというのでしょうか? 

 私は医師なので、PTやOTにリハビリの指示を出します。私自身がROM訓練をするわけではなく、リハスタッフらが患者さんを少しでも良くするように頑張る。「必ず歩けるようにする」という狭い目的ではなく、現状より少しでも良くするために一生懸命リハビリをする。それなのに、彼らの苦労を徒労で終わらせるような、無情な大幅査定が行われています。これは現場のリハビリスタッフたちに大変申し訳ないことです。リハビリテーションに関係する医師の団体ならびに慢性期医療を行う医師が、リハビリを守れないということは誠に情けない。

 そうした思いから、「慢性期リハビリテーション協会」の設立をご案内したところ、この会場が一杯になりました。事柄の大きさというものをまさに痛感しています。リハビリ弱者、健康弱者、そういう弱い方々を守っていくのが我々医師であり、チーム医療ではないでしょうか。「良くなる見込みがない人にはリハビリをしなくていい」という考え方は、まさに恐ろしい考え方であるということを、みなさんと共有したいと思っています。

 慢性期リハビリテーションに算定日数制限が入ったのは平成18年4月からです。同時に、疾患別のリハビリテーションに変わりました。それ以前はPTやOTらが個別にリハビリを行っていましたが、改定後はPTやOTらが一緒になって1人の患者さんを良くしなければいけなくなりました。PTやOT、STらがチームを組んで行うので、チームワークが非常に良くなって効果が上がるようになりました。ところが昨年の同時改定で、13単位の維持期リハの廃止方針が示されました。その結果、「国は慢性期のリハビリをやめるんだな」という空気が流れたわけです。高齢者がどんどん増えて、診療費用がどんどん上がっていく。これをなんとかしたいと思う審査員の目に止まったのでしょう。

 DPCも回復期リハも入院料は包括払いです。出来高払いはリハビリだけです。療養病床も包括なので、出来高はCTとMRIとリハビリしかありません。CTとMRIは数ヶ月に1回ですが、リハビリは毎日行うものです。従って、リハビリを減らせば、診療報酬を大幅に削ることができる。そういう背景があって、「自立する見込みがある人にだけリハビリをやりなさい」「診療報酬は付けないが、やりたければ勝手にやりなさい」ということです。このように売られたけんかを誰が買うんですか? 私は1年間、「誰か買ってくれないかな」と様子を見ていた。「買ってくれないなら、私が買いましょう」と言わざるを得ない。

 この問題は、慢性期医療を提供している病院だけに関係するわけではありません。急性期もケアミックスも含め、リハビリに対する軽視です。病気を発症して専門的な治療を受けた後、何によって回復するかと言えば、注射や薬も当然必要ですが、メインはほとんどリハビリテーションです。リハビリ看護やリハビリ介護もありますが、基本は療法士の方々がいかに効率的なリハビリを行うかにかかっています。にもかかわらず、これを無視するような風潮に対して敢然と立ち向かわなければ、誰かが声を上げなければ、「認めたんだな」ということになってしまうのです。

 本日、みなさんにお集まりいただいたのは、そういう危機感をひしひしと感じられているからこそ、遠い東京まで来ていただいた。この暑い中、地下鉄の新宿御苑前駅からここまで歩いてこられた。この灼熱の地獄の中、多くのみなさんに集まっていただきました。本日は、査定を受けた現場から報告していただいた後、最後は何らかのシュプレヒコールを上げたいと思います。団結してやらなければいけない時期が来たと思います。みなさん、どうかよろしくお願いいたします。(会場から大きな拍手)
 

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