平成25年度第5回入院医療等の調査・評価分科会 報告

会長メッセージ 審議会

平成25年度第5回入院医療等の調査・評価分科会 報告

 平成25年6月26日に今年度第5回の入院医療等の調査・評価分科会が開催され、武久洋三会長が委員として出席されました。
 今回の分科会では、医療機関における褥瘡の発生等の状況についての検討が行われました。 

 褥瘡についての対策は、平成14年から評価され、現在、急性期入院医療では「褥瘡ハイリスク患者ケア加算」、療養病床では「褥瘡評価実施加算」が評価されることになっています。
 
 平成24年に本分科会が実施した長期入院患者の調査結果では、一般病棟では、褥瘡の有病率は6.0%、そのうち院内褥瘡発生率は1.5%、入院時褥瘡保有率は4.5%でした。療養病棟では、褥瘡の有病率は12.4%、そのうち院内褥瘡発生率は5.1%、入院時褥瘡保有率は7.3%でした。
 一般病棟の褥瘡患者は、90日を超える入院期間がそれ以外の患者に比べて2倍以上の数になっていました。
 
 日本褥瘡学会の調査によると、入院時の褥瘡の保有率は、病院ではどの病床種別も増加傾向にあり、特養、老健などの施設、訪問看護(在宅)では減少の傾向にあります。入院時に褥瘡を保有していた患者は、関節拘縮、皮膚湿潤などの危険因子、ベッド上安静、6時間以上の手術などのハイリスク、アルブミン値が3.0未満などに該当する患者が多数を占めていました。
 院内褥瘡の発生率は、一般病棟(単独)と精神科病棟では上昇の傾向にありますが、ケアミックス病院、大学病院、特養、老健、訪問看護(在宅)では、減少傾向にあります。しかし、減少傾向にあるとはいえ、訪問看護(在宅)では、病院あるいは施設の2倍以上の褥瘡が発生していることがわかりました。
 
 以下に武久会長の発言要旨を記します。

 ターミナルの定義はどんどん広くなっている。かつて、日本医師会は、いかなる治療をしても1カ月以内に死亡が予想される時期をターミナルと定義づけていたが、現在は、85歳にもなっているからという年齢を理由に、もう治療をしなくてもいいだろうというふうに見なそうとしている。患者の状態が悪くなり何もしなければ、関節が拘縮するし、栄養補給をしないなら骨と皮になってしまうが、それでも人間は生き続ける。そして最後は干からびたミイラのような状態で死んでいく。医療現場に何もしないことを求めるのは医療の実際を知らない人である。医師として、褥瘡があれば治し、できないようにするのが当たり前で、それが使命である。医療者は、患者を少しずつでもよくしていこうと思うが、よくなっても1年しか生きることができないなら何もしなくてもよい、という考えであれば、高齢者医療は必要ないということに等しい。現場の意欲を削ぐような方向性は看過できない。
 
 療養病棟では、医療区分の導入後、重症度の高い患者を8割以上受け入れるようになっているため、今回のデータでも、一般病棟と療養病棟の、褥瘡の危険因子、ハイリスクを有する患者は、ほぼ同程度入院しているという結果になっている。アルブミン値の低い低栄養の患者は一般病棟の方が療養病棟よりも若干多い。
 調査結果では、療養病棟で褥瘡が多く発生しているように見えるが、一般病棟から療養病棟に転院してきて褥瘡が発生している理由には、褥瘡の発生リスクの高い患者が一般病棟に長く入院し、褥瘡の発生寸前で療養病棟に転院していることも考えられる。加えて、一般病棟でも多くの褥瘡患者を診ているが、そのうち高齢者が92.6%という数字になっている。褥瘡による熱発で急性期病院に搬送されても困るであろうし、急性期で主病名の治療が終われば、早く慢性期医療に移すことが望ましい。一般病棟での入院期間をなるべく短くし、療養病棟に早く転院させてもらえれば、褥瘡の発生をもう少し抑えられるのではないか。

 自院で7~8年前に、褥瘡とアルブミン値との相関を調べてみたところ、アルブミン値4.0以上の患者では褥瘡は発生していなかった。アルブミン値やNSTと、褥瘡には強い相関関係がある。低栄養に一度なってしまうと、それを元に戻すのは非常に大変である。患者が吸収しやすい食事を工夫しても、そういったことへの加算はなく、あまり手間のかからない治療食などに特別食加算がついている。食事は人としての基本的なエレメントである。栄養、褥瘡などを適正に管理し、ターミナルになりそうな患者をできるだけ少なくすることには大きな意味があり、現場スタッフの努力を評価していただきたい。
 また、褥瘡ハイリスク患者ケア加算を算定している病院の方が、褥瘡の院内発生率、有病率ともに低いことから、一つ一つの加算が医療者のやりがいにつながっていることが読み取れる。加算については包括するのがよい項目もあるが、有効な加算については別評価として、現場へのインセンティブにしていただきたい。

 他の委員からも、褥瘡の問題は、在宅が川上になっている。在宅での褥瘡予防、管理を本気で行おうとすれば、スタッフ面からも財政面からも大きな負担がかかることは明らかであり、覚悟が必要。在宅から予防すると考えるならば、介護保険の改定も絡めた加算を考えるべき。予防と管理・治療は分けて考えるべき。欧米では在宅でも寝たきりにはさせないということから、日本も自立するという文化に変えていくことも必要、国民にどうしたいのかを具体的に問いかけていくべき。褥瘡は、医療の質のモデル指標とするのに適した項目であり、全病院に褥瘡の有病率、発生率の報告を義務づけてはどうか、という意見がだされました。

 次回の7月には、医療提供体制が十分ではなく、医療機関の機能分化を進めることが困難な地域に配慮した評価について検討が行われます。
 

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