「介護保険制度の見直しに関する意見」がまとまる
厚生労働省は12月25日の会合で、「介護保険制度の見直しに関する意見」をまとめた。厚労省老健局の黒田秀郎局長は「さまざまな意見がある中で、とりまとめには慎重論、反対論などを併記した箇所もあるが、全体としては介護保険制度の見直しに関して一定のまとまりをもって大きな方向性を示すことができたのではないか」と謝意を示した。
厚労省は同日、社会保障審議会(社保審)介護保険部会(部会長=菊池馨実・早稲田大学理事・法学学術院教授)の第133回会合を開催し、当会から橋本康子会長が委員として出席した。
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厚労省は同部会に「介護保険制度の見直しに関する意見(案)」を提示。前回24日の議論などを踏まえて加筆・修正した箇所を中心に厚労省の担当者が説明し、質疑に入った。
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医療と介護の双方で負担増、「影響が大きい」
資料説明の冒頭、厚労省老健局総務課の江口満課長は「前回いただいた意見等を踏まえた修正を行うとともに、前回は『検討中』としていた『給付と負担』の項目のうちの『一定以上所得』、『現役並み所得』の判断基準の検討の方向性についても前回までの議論等を踏まえて今回記載している」と述べ、意見書案(資料1)の31ページ1070行目から紹介した。
議論のあった2割負担の「一定以上所得」の判断基準については「医療においても負担に関する議論がなされており、高齢者に対して医療と介護の双方で負担増を求めることは影響が大きいとの意見を追記している」と説明した。
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低所得者等への配慮措置の関係で「預貯金額等の要件を設ける場合」については、「預貯金等の確認に関する検討のため、厚生労働省において事務の実態を把握するとともに、保険者との実務的な検討の場を設けるべきであると追記している」と伝えた。橋本会長はこの点に関連して、次のように述べた。
【橋本康子会長の発言要旨】
私からは1点。47ページなどの議論になっているところだが、能力に応じた負担に基づいてというところで、預貯金のところの要件も設ける。それにプラスして、預貯金だけではなく、金融機関に預けているものなど、財産を個人から全部申告するというのは、「自己申告を基本とした上で」とは書いているが、なかなか現実的に難しいのではないかと思う。「不正な申告が検知された場合」ということにも言及しているが、本人もあまりよくわかっていない場合もあるのではないだろうか。今後、これをもし事務方の作業としてやっていくとしたら、金融機関に問い合わせをするなど、個人個人に対して、すごく大きな労力がかかってしまうのではないか。
また、個人の権限というところから言うと、預貯金など自分の財産、資産の全てを表に出したくないと思われる方は結構おられると思う。そのあたりの兼ね合いも今後はとても重要な課題になってくるのではないか。実際、本当にこういうことをしていいか悪いかという問題でもないが、「個人情報です」と言われてしまうと、そうかなと思ってしまう。そのあたりは疑問に感じる。
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「極めて遺憾だ」「非常に残念」
質疑で、伊藤悦郎委員(健康保険組合連合会常務理事)は「とりまとめの全般については、これまでの議論が反映されているので概ね異論はない」としながらも、「一定所得以上の判断基準の見直しについては、これまでも数度にわたって先送りされてきた」と苦言。「今回も結果的には10期の事業期間の開始までの前に結論を得るということで先送りされたことは介護保険制度の持続可能性を高めていくという観点からも極めて遺憾だと言わざるを得ない」と述べた。
鳥潟美夏子委員(全国健康保険協会理事)は「介護サービスの質の向上を図りながら現役世代の負担にも配慮し、介護保険制度の持続可能性を高めていくためにも、能力に応じた負担の観点から見直しは避けられない。議論の先送りは非常に残念」と述べ、「第10期介護保険事業計画期間の開始前までに確実に結論を得ていただきたい」と求めた。
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「一定以上所得」の判断基準について意見書案では、「令和5年にも本部会において議論され、同年12月22日の厚生労働大臣・財務大臣折衝において、第10期介護保険事業計画期間の開始(2027年度~)の前までに結論を得る、とされたことが本部会に報告された」とした上で、「預貯金等の把握に係る事務の状況等を踏まえ、本部会で継続検討し、第10期介護保険事業計画期間の開始(令和9年度~)の前までに、結論を得ることが適当である」としている。
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大きな方向性を示すことができた
この日の議論を終え、菊池部会長は「2割負担の判断基準についても含め、大筋この内容でご了解いただけた」とし、「この意見書案で確定させるということで、よろしいか」と諮り、了承された。
とりまとめを受け、黒田局長が挨拶。「昨年12月から約1年間にわたり、さまざまな立場からの意見を頂戴した」と謝意を表した上で、「意見書の中に書かれた課題を1つひとつ解き明かしながら議論していただけるように準備したい」と述べた。
最後に、社会保障法を専門分野とする菊池部会長が挨拶。「慎重論、反対論などを併記した箇所もあるが、全体としては介護保険制度の見直しに関して一定のまとまりをもって大きな方向性を示すことができたのではないか」と述べ、閉会した。厚労省は同日、意見書の確定版を同省ホームページに掲載した。
【厚労省老健局・黒田秀郎局長】
昨年12月から約1年間にわたる丁寧な御審議、誠にありがとうございます。
今回は、「2040年に向けて」というテーマ。それから、特に全国一律の仕組みをベースにやってきた、この分野について、中山間・人口減少地域の区分を設けて議論をするということ等々、初めての試みも入れさせていただきましたが、さまざまなお立場からの御識見、それから御意見を頂戴しまして、今日のとりまとめに至りました。心より御礼申し上げます。
先生方からもお話がありましたが、「一定以上所得」、いわゆる2割負担の判断基準の見直しにつきましては、第10期介護保険事業計画期間の開始、令和9年度からの期間の前までに結論を得るということになり、この部分につきましては、引き続きの継続検討をお願いすることになります。
本日も意見がございましたが、そういった御意見、それから、この意見書の中に書かれた課題、1つひとつ解き明かしながら、これから議論をいただけるように私どもも準備をしてまいりたいと思います。1年間、どうもありがとうございました。
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【菊池馨実部会長】
黒田局長、どうもありがとうございました。今後、法案化に向けてよろしくお願いいたします。改めまして、本部会のとりまとめに至りますまで皆さまの御協力に感謝を申し上げます。さまざまな御意見がある中で、とりまとめには慎重論、反対論などを併記した箇所もありますが、全体としては、介護保険制度の見直しに関して一定のまとまりをもって大きな方向性を示すことができたのではないかと思います。これもひとえに、今回のとりまとめに向けて皆さまがさまざまなお知恵を授けてくださり、また調整に御協力をくださった賜物であると考えます。
午前中に医療保険部会のとりまとめがございましたが、そちらは31ページ、本日の介護保険部会のとりまとめは67ページでございまして、長いからどうということではないのですが、今回、事務局には皆さまの意見を丁寧に記述していただき、非常に丁寧な対応をしていただいた。それがこの67ページになっているのではないかと思います。その意味では事務局にも深く感謝申し上げます。
私、僭越ながらこれまで社会保障審議会で、医療保険・介護保険・年金・福祉・生活困窮者支援・生活保護・障害といった分野の議論に関わらせていただきました。
その中で、介護保険は最も議論が難しい分野であると感じております。それは制度の構造上、社会保険方式のもと、費用の拠出者と給付の受給者がかなり截然と分かれているということに起因している面があると思っています。第2号被保険者も給付の可能性はあるものの、その保険料はほぼ第1号被保険者の給付にあてられるというのが実情であります。その分、世代間の対立が生じやすい構造になっていると思います。
医療保険においても、後期高齢者医療に約4割の支援金が現役世代の保険者から投入されていますが、他方で今回、現物給付化が予定されている出産育児一時金の財源として後期高齢者も支援金を支出することになっているなど、世代相互間の支え合いの仕組みも一部導入されております。ドイツの介護保険では、子育て世帯の介護保険料免除というやり方もあるようですが、ドイツは若年障害者も対象とする介護保険制度であり、日本とは制度構造が異なっております。
こうした中で、社会保障の理念である連帯、支え合いを制度上実現していくには、他の社会保障制度よりも一段と深い制度の持続可能性の維持に向けた共通了解の醸成が必要だと思います。本年の出生数66万8千人という少子化の進行に鑑みれば、以前、野口部会長代理がおっしゃっていたように、介護保険制度を中長期的に持続させていくには関係者が深い知恵を出し合って、制度に関係する方々が置かれた現状を十分踏まえつつも、将来にわたって持続可能な制度に向けた改革を今から少しずつ重ねていくしかないと思います。そうした方向での介護保険部会における皆さまの御議論を今後とも、ぜひお願いしたく存じます。
2025年12月26日




