「現場感・実効性ある協議の場を」── 橋本会長、介護保険部会で
「地域包括ケアシステムの深化、持続可能性の確保」をテーマに議論した厚生労働省の会合で、日本慢性期医療協会の橋本康子会長は「医療介護総合確保方針に基づく医療と介護の協議の場は必要」と評価した上で、「現場感のある、実効性のある協議の場をつくっていただきたい」と求めた。
厚労省は9月29日、社会保障審議会(社保審)介護保険部会(部会長=菊池馨実・早稲田大学理事・法学学術院教授)の第125回会合を開催し、当会から橋本会長が委員として出席した。
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厚労省は同日の部会に「地域包括ケアシステムの深化、持続可能性の確保」と題する資料を提示。その中で、「医療介護連携の推進」など3項目の論点を挙げ、委員の意見を聴いた。
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「医療と介護の協議の場」で議論
論点②「医療介護連携の推進」では、「急変があった際に必要な通院、入院等ができるよう、医療、介護の連携を強化していく必要がある」とした上で、医療介護総合確保方針に基づく協議の場を課題に挙げ、「協議が行われていない区域が一定数存在する」と指摘した。
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こうした「現状・課題」を踏まえた「論点に対する考え方(検討の方向性)」では、「第10期における足元の検討事項」として3項目、「第11期以降、2040年に向けた中長期的な検討事項」として5項目を挙げている。
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その上で、「医療介護総合確保方針に基づく医療と介護の協議の場」で議論していく方向性を示した。 質疑では、この論点について多くの意見があった。
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連携は双方向であるべき
粟田主一委員(社会福祉法人浴風会認知症介護研究・研修東京センター長)は「実効性のある協議の場にしていくためにはどのような取組が必要なのかも十分に検討して、今後、具体例を提示していく方向で進めていただきたい」と求めた。
幸本智彦委員(日本商工会議所社会保障専門委員会委員)は「医療介護連携を進めるにあたっては関係者の役割分担と連携の仕組みを整理することが重要」とした上で、「連携は双方向であるべき」と強調。「医療側からのアプローチだけでなく、介護の側からも医療側へ課題提起や情報共有が行えるよう体制を整えていただきたい」と要望した。
石田路子委員(NPO法人高齢社会をよくする女性の会副理事長)は「市町村を越えた広域的な議論をする仕組みや検討・議論に資する事項の提示、情報提供などが(検討の方向性に)挙げられているので、各自治体が抱えている課題について建設的に解決を目指すのみならず、自治体間の格差に関する実態調査もしっかり提示して議論していく必要がある」と指摘した。
橋本会長もこうした意見に賛同し、「構成員の選定から会議の回数なども含め、医療・介護の協議の場をしっかりお願いしたい」と述べた。
【橋本康子会長の発言要旨】
8ページの医療介護連携の協議プロセスについて述べたい。最近、介護施設などでは医療度がすごく重度化している。それも踏まえ、医療介護総合確保方針に基づく協議の場が必要だと思う。粟田委員や幸本委員、石田委員がおっしゃったように、現場感のある実効性のある協議の場をぜひつくっていただきたいと思う。
例えば、今、介護施設のおよそ半数が協力病院を持っていない。その理由としては、コミュニケーション不足もあるが、やはり医師1人当直の病院などは、緊急時や臨時の対応ができないなど、いろいろな細かい理由があると思う。そうしたことで、この制度を利用できていないとなると、介護施設の入居者で重度化している方々にとっては不利益ということになるので、そういったことを1つひとつ議論していかなければいけないと思う。医療・介護の協議の場について、構成員の選定から始まり、会議の回数も含めて、しっかりお願いしたいと思う。
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2040年目前の11期ではなく10期から
医療介護連携の推進に関する論点については、検討時期に関する意見もあった。山本則子委員(日本看護協会副会長)は「医療資源、介護資源の状況を地域ごとに可視化し、都道府県と市町村が共同して広域的な議論を行っていくという方向性に賛成」とした上で、第11期に挙げられた検討事項に言及。「現時点から顕在化している課題が多く、2040年を目前に控える第11期ではなく、第10期から検討を始めることが妥当ではないか」と提案した。
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第11期以降の「中長期的な検討事項」には、「医療や住まいも含めた需要に適した提供体制への転換」「事業所の協働化等、連携の推進の検討」「広域的な医療・介護提供体制の必要性の検討」などが挙げられている。また、これらの事項については、「協議の場で必要な議論を行うとともに、2040年に向けた医療介護連携に係る提供体制等について本格的に議論していくため、圏域単位等で調整・協議する場を開くことを検討することが考えられるのではないか」としている。
厚労省老健局介護保険計画課の西澤栄晃課長は「(協議の)場の設置を徐々にやっていったほうがいいのではないかという趣旨で書いている」と説明した上で、「確かに、中長期的な見込みという位置付けは、10期のところから、やはり強くしていったほうがいいかなと思うので、できるだけ10期から、できるものはやっていくべきと今、感じている」と理解を示した。
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必要な介護サービスが過不足なく
論点③「持続可能性の確保」では、これまでの議論や政府方針などを紹介した上で、「利用者負担の判断基準の見直し等の給付と負担の見直しに関する課題」などを挙げ、「次期制度改正に向けてどのように考えるか」と意見を求めた。
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給付と負担については、同部会の意見(令和4年12月20日)として、(1)高齢者の負担能力に応じた負担の見直し、(2)制度間の公平性や均衡等を踏まえた給付内容の見直し、(3)被保険者範囲・受給者範囲──を挙げている。
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このうち(2)に示された「ケアマネジメントに関する給付の在り方」について小林広美委員(日本介護支援専門員協会副会長)は「ケアマネジメントに関する給付の見直し、利用者負担を導入することについては慎重に検討すべき」「利用者に更なる負担を課すことのないように慎重に検討すべき」と改めて強調した。
及川ゆりこ委員(日本介護福祉士会会長)は「現在の物価上昇について高齢者の生活に不安が広がっており、家族介護力の脆弱性が顕著であることを踏まえると、高齢者の日常生活の継続は厳しい状態」とし、「サービスの利用控えが生じないよう、必要な介護サービスが過不足なく提供できる仕組みとしていただくことが何より重要」と述べた。
橋本会長は(3)の被保険者範囲・受給者範囲について発言。介護保険優先の原則に伴う課題を挙げ、「そのような制度についても考えていかなければいけない」と指摘した。
【橋本康子会長の発言要旨】
10ページの(3)被保険者範囲・受給者範囲で、「第2号被保険者の対象年齢を引き下げることについて、介護保険を取り巻く状況の変化も踏まえつつ、引き続き検討」とされている。対象年齢を引き下げるということは、財源の確保の点があるのだろう。
40歳未満でも介護が必要な方がいる。実際、リハビリなどをやっていると、10代、20代でも介護が必要となる方もいる。ただ、そういう方々は、ご両親の年齢もまだ若く財政的にすごく苦慮している。
全体的なことをいうと、制度の普遍化など、介護保険の必要性は高齢者に限られたものではないということから考えると、それがいいとは思う。しかし、年齢の引き下げとなると、若い人たちも苦しいところがあると思われるため、負担能力別というところですればいいのではないかと思う。
いろいろな制度が混在して大変かもしれないが、介護保険と医療保険との兼ね合い、また介護保険と障害福祉サービス等の兼ね合いで、どちらを優先するか。多くは介護保険優先になっている。大きな話になってしまうが、そのような制度のところも一応検討するというか、考えていかなければいけないところではないか。
2025年9月30日







