要介護認定の迅速化は重要 ── 介護保険部会で井川副会長

要介護認定の迅速化や保険者の負担軽減に向け、「主治医意見書の事前入手に係る対応(案)」が示された厚生労働省の会合で、日本慢性期医療協会の井川誠一郎副会長は「主治医意見書所要期間が要介護認定の迅速化を阻害し、入院期間が延長される原因となっている。要介護認定の迅速化は重要」と賛同した。
厚労省は6月30日、社会保障審議会(社保審)介護保険部会(部会長=菊池馨実・早稲田大学理事・法学学術院教授)の第122回会合を都内で開催し、同部会の委員を務める橋本康子会長の代理として、当会から井川副会長が出席した。
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介護保険制度の改正に向け、同部会では4月21日から前回6月2日の会合まで3回にわたり、「2040年に向けたサービス提供体制等のあり方」検討会が示したテーマを踏まえて議論。今回から「その他の論点」に入った。
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「地域共生社会の在り方検討会議」の報告を踏まえ議論
同日の部会で、厚労省はまず「地域共生社会の在り方検討会議」の中間とりまとめの概要を報告した。
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その上で、中間とりまとめに示された「身寄りのない高齢者等への対応」などの課題のうち、同部会での審議に関連する事項について「介護保険制度に関するその他の課題」(資料2)として4項目を提示。井川副会長はこのうち「介護現場におけるリスクマネジメント」について意見を述べた。
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議題3「その他」では、▼介護情報基盤について(資料3)、▼要介護認定について(資料4)を提示。このうち資料4では、「1.要介護認定の申請代行」について論点を、「2.主治医意見書の事前入手」については対応案を示し、委員の意見を聴いた。
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井川副会長は、主治医意見書の事前入手について意見を述べた。井川副会長の発言要旨は以下のとおり。
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介護現場におけるリスクマネジメントについて
[井川誠一郎副会長]
私はリスクマネジメントという観点から述べる。不勉強のため、介護施設に関して国まで報告がいかないことを存じ上げなかった。
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医療事故の調査報告制度は10年以上前から厚生労働省に全部、通知しなければいけないことが義務づけられている。ただ、そこで1つ大きな問題点は何かと言うと、死亡事故しか内容はないということである。例えば、助かった患者に関しては報告義務がなくなっている。そういう意味で言うと、今回の、どういうふうにやろうかという中で、できればヒヤリハットまで含めたいという話は非常に有効だと思う。リスクマネジメントの観点から言えば、当然にマスがあって、それに対して、どう接していけばいいかという議論は非常に重要な観点になるので、ぜひ、これは進めていただきたいと思っている。
それ以外に、リスクマネジメントについては、リスクを犯さないという観点の施策は非常に重要だろうと思う。現在、マルチモビディティを抱えている患者・利用者ばかりなので、1人の高齢者に対して、その観点を持ったケアプランを作成できるかできないかということになる。その人のその後を左右すると考えてもいいのではないかと思う。
ご存知のように、ケアマネジャーの資格はさまざまな国家資格から取得できる。 創設当時は看護師の資格者も多く見られたが、今はほとんどおられないという状況であるし、居宅介護支援事業所に在職しているケアマネジャーは平成13年には看護師が50%を超えていたが、今や15%程度。それに対して、介護福祉士が70%を超えるという状況である。したがって、介護福祉士の方々に医療的な知識をある程度、持っていただかないと、良質なケアプランが作成できないのではないかと考えている。
これは、7ページの3つ目の丸にある「法定研修の在り方等」に関することにつながると思う。
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われわれ日本慢性期医療協会は、小林広美委員が副会長を務めている日本介護支援専門員協会会と協力して、過去3年間ほど、メディカルケアマネジャー研修を実施しているが、忙しいケアマネジャーに多くの時間を割いて来ていただいて、医学的な知識をしっかり教えさせていただくのはなかなか難しい。そういう意味で言うと、介護福祉士の研修そのものの中にも、少しずつ医療的知識も組み込んでいくような施策も必要ではないかと考えている。
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主治医意見書の事前入手について
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資料4の14ページ(規制改革実施計画における指摘)にあるように、主治医意見書の所要時間が要介護認定の迅速化を阻害していることは周知のとおり。このことによって、本来、必要のない医療機関での入院期間そのものが延長される原因と一部なっている。
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要介護認定を迅速化することは重要であることから、事務局から示された17ページの対応(案)に関しては基本的に賛成させていただきたい。
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ただ、16ページの資料の出典である令和5年度老人保健健康増進等事業「要介護認定情報のデジタル化・電送化に関する調査研究事業」の成果報告書では、厚労省作成の主治医意見書の書式を4.5%の自治体は使用しておらず、また、使用している自治体でも、11%が項目を独自に追加している。
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私は大阪の病院で、申請者からの依頼を受けて主治医意見書を記載したことがある。私の病院では、厚労省の書式のPDFファイルから意見書を作成して申請者に渡していたのだが、「当該自治体の書式と異なる」という理由で受け付けられず、また、そこの担当者から紙媒体の書類をいただき、そこに記入しなければならないという、いわゆる二度手間のような形になっていた。
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令和5年度老健事業の成果報告書でも、この点に触れており、「効果的・効率的に認定調査業務を進めるために改めて様式を見直す余地がある」とされており、「要介護認定調査様式案」を提示されている。
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主治医意見書は、資料3(介護情報基盤)の12ページの下段「介護情報基盤の活用イメージ」にあるように、医療機関から介護情報基盤への電子送付が見込まれている。
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それによって、資料4(要介護認定)の17ページの対応(案)の3つ目の丸にあるように、「介護情報基盤を通じた情報の共有を進めていくことが必要」と考えている。そういう意味で言うと、各医療機関にデジタル化された統一書式フォーマットというものが存在しなければ、この制度そのものが意味をなさない。そのためには、ぜひ事務局主導で、逸脱を許さないデジタル化された統一書式の作成が急務であると私は考えている。
2025年7月1日