「1日3単位の制限は撤廃を」 ── 井川副会長、入院外来分科会で

院外リハビリの拡充などを提案した当会の記者会見資料などが紹介された厚生労働省の会合で、井川誠一郎副会長は院外リハビリの必要性を改めて強調した上で「1日3単位という制限は撤廃していただきたい」と述べた。
厚労省は6月26日、中央社会保険医療協議会(中医協)の診療報酬調査専門組織である「入院・外来医療等の調査・評価分科会」(分科会長=尾形裕也・九州大学名誉教授)の令和7年度第5回会合を開き、当会から井川副会長が委員として出席した。
令和8年度の診療報酬改定に向け、厚労省は同日の分科会に令和6年度調査結果を踏まえた資料(入-1)を提示。入退院支援やリハビリなど5項目について「現状と課題」を示し、委員の意見を聴いた。
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井川副会長の発言要旨は以下のとおり。
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働き方・タスクシフト/シェア(その1)について
[井川誠一郎副会長]
看護職員の詳細なデータをお示しいただき、感謝を申し上げる。私からは3点、お話をさせていただきたいと思う。
実は、本日いただいた資料を拝見すればするほど、私どもが現場で感じている看護職員の不足の理由がよくわからなくなるという面白いデータだと思っている。看護職員は年間6万人弱が養成され、卒業したばかりの看護職員は8ページ(年齢階級別看護職員の就業場所)のように、ほとんど病院に就職する。
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しかも、10ページ(看護職員の離職率の推移)にあるように、離職率も他業種に比べて低いという状況。
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さらに、病床数は当然のことながら、施策の関係で、この10年間で9万床ぐらい減っている。
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7ページの「就業場所別看護職員数の推移」を見ると、2014年の97.8万人から20年までの間に3万人以上増えている。単純に計算すると、1床あたりの看護師の数は増えているはずだが、現実はそうではない。看護師不足を感じている。場合によっては、看護職を確保するために、先ほどお示しいただいた職業紹介事業者などに頼らざるを得ないという状況が現実としてある。
10ページの数字の中で、違和感があるのは離職率。正規雇用看護職員の離職率は11.3%となっている。要するに、一般労働者(産業計、医療・福祉)よりも低いと言われている。
一方、日本看護協会はこのグラフとともに都道府県別での離職率を出している。それによると、私の住んでいる大阪の離職率は、これより少し高くて14%ぐらいで、東京も非常に高い状況。大都市圏で離職率が非常に高くなっているのが現状である。その離職された方々が別の病院に勤めるのであれば数としては変わらないわけだが、結果的に離職された方がどこか別の職業に就かれるとか、それとも、例えば家庭に入られるとか、そういうことをすれば数的にどんどん減ってくる。このように、離職された方々の先について、厚労省として把握されているのかをお伺いしたい。
同様のことは看護補助者にも言える。介護のプロである介護福祉士は毎年6万人増える。看護師よりも合格者数が多い。さらに、看護補助者には、介護福祉士のみならず介護士や看護助手と呼ばれるような資格を持たない方々も相当数含まれる。しかし、介護施設の数が年々増加しているし、また介護職への処遇改善加算等が介護側に非常に手厚いこともあり、給与面の差があって病院側は非常に苦労している。そういうこともあって介護施設側に流れていると思っている。結果として、われわれ病院側には、なかなか来てもらえない。
療養病床では介護士の20対1の基準が満たせずに看護職員でカバーしなければならない事態も起こっている。介護福祉士の資格取得後、どういうところに勤めているのか。この把握も必要なのではないか。
続いて、特定行為研修を修了した看護師(特定看護師)について。日本慢性期医療協会では、この研修が始まった平成27年から指定研修機関となり、9区分16行為全てを修了してもらう内容の研修を現在まで実施しており、これまでに300名以上の修了者を出している。
指定研修機関数や施設数は確かに年々増えてきているが、ここで注意しておく必要があるのは、病院単位での指定研修機関や日本看護協会での研修の多くは、栄養・水分管理に関わる薬剤投与管理を含めた数行為のみに限定されているということ。
先ほど小池委員が指摘したように、特定看護師が実施できる行為が限定されている。できる行為数が少ない特定看護師がバラバラにいて、できる行為が異なる。すべての特定看護師が同じ行為をできるわけではない。そういう意味で言うと、例えば、ある行為について、特定看護師がいるので頼もうとしても難しい場合がある。
元来、この制度は2025年の医療需要を支えていくために、急性期病棟には24時間常時1人、回復期や慢性期の病棟には日中1人、介護施設では1施設に1人、訪問看護師は約8割という計算で合計10万人いう計算をされて、2025年までに養成するということで創設されたと理解している。
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51ページにあるように、約9割の研修修了者が病院で従事している。病院でよく実施される特定行為で、タスクシフトとして行われやすい行為としては、例えば、気管切開チューブの交換、CVの抜去、PICCの挿入、デブリや陰圧閉鎖療法を含めた褥瘡処置などが挙げられるが、先ほど申し上げたように、研修修了者であればできるというわけではない。
そこで、今後これをどうしていくかが大きな課題。特定看護師の数は増えたが、実際にはできない行為が多くあることについても考えなければいけない1つの課題だと思っている。
【厚労省担当者の発言要旨】
離職をした看護師がどこに行かれているのか、詳細について今把握しているものがないので、また調べたいと思っているが、井川委員がおっしゃったように減少してはいないので、おそらく流動しているのではないかと想像する。そういった状況について、また次回以降、詳細を報告させていただきたい。
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病棟における多職種でのケア(その1)について
66ページに、POCリハについての資料がある。地域包括ケア推進病棟協会が推奨している短時間のリハビリについて。
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疾患別リハビリとしては、1単位20分に満たないので算定できない。完全なボランティアでの実施となる。そのため、68ページに示されているように、実施割合は非常に少ない。
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また、69ページにあるように、空き時間などで施設管理者が療法士に頼んでPOCリハを実施してもらっているのが実情。本来であれば、看護師や介護士などが、例えば食事介助のときに少し立ってもらうなど、そういう形で実施できるのが一番理想的だろうとは思う。将来的には、そういう形で実施できればいいが、今はまだそういう形はとれないのでセラピストが実施している。
POCリハは、算定の仕方が非常に難しいと考えている。例えば、リハであれば、カルテに20分間のリハを実施したと書けば済むが、例えばトイレで脱着行為をするなど、短時間で実施したとき、それをいちいちカルテに記載していると、カルテに記載している時間のほうが長くなってしまって、それを書くのが面倒ということもある。そういう点を考慮して点数などを付けていただければ非常に喜ばしいと思う。
また、前回の診療報酬改定で心血管リハにのみ復活した集団リハも、実施しているところでは、ある程度の効果が見られている。そういうデータも地域包括ケア推進病棟協会は持っているので、適用拡大が必要ではないかと考えている。
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次に、71ページ(リハビリテーション・栄養・口腔連携体制加算に関する状況)に同加算を届け出ていない理由が挙げられている。
牧野委員は、「土日祝日のリハビリができない理由が非常に多いため、この要件が厳しすぎるのではないか」という話をしたと思う。前回の改定のときの議論の中で、土日祝日を全部はさむと、振替休日があるために、例えば金曜日に入院すると火曜日まで全くリハビリをしないという状況が生み出されるということで、この要件がついたと記憶している。
地域包括医療病棟などでは、この要件が満たされるわけだが、高齢者にとって、入院当初から4日間何もしないとADLが完全に落ちてしまう。ほとんどの人は、その範囲内で帰れないことになり、後方病院に転院になる。そのようなことから考えると、ここの要件は、すぐに緩めてもいいかと言われると、ちょっと微妙なところだと考えている。
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75ページに、低栄養リスクを有する患者割合が出ている。ここで、「低栄養リスクを有する患者」とは、GLIM基準に到達しない時点の患者だろうか。そうだとすると、GLIM基準で低栄養と判定された患者の数は、ここには出てこない。そのデータがもしあるのであれば、低栄養と判定された患者が各病院にどの程度いるのか、示していただければありがたい。
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79ページに「管理栄養士の業務の現状」が示されている。右側の円グラフ「介護保険施設」では、本来の仕事である「栄養管理業務」が業務の半分以上を占めている。これに対して、左側の「病院」の管理栄養士では、(入院患者業務のエフォートが)3割に満たない。「給食管理業務」の中に、調理などが入っている。調理等の「給食管理業務」が増えているという状況。これは、調理師や調理補助員の不足を物語っている。本来、管理栄養士しての業務に専念できるような方向に持っていかないといけない。
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そうしないと、80ページ以下にある栄養サポートチーム加算も当然、算定できないし、栄養管理という意味では非常に低調となってしまって、その結果、入院期間の延長にもつながるので、ぜひ、ここは手を加えていただきたいと考える。
【厚労省担当者の発言要旨】
(75ページについて)ご認識のとおりで、今お示ししているものはスクリーニングでリスクありとなったもの。GLIM基準に該当するかについても調査を行っているので、また次回以降、データをお示しできるように準備したいと思う。
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入退院支援(その1)について
112ページに、「療養病棟における患者の流れ」が示されている。毎回、診療報酬改定の議論をするたびに、療養病棟では死亡退院が非常に増えているという話をされる。
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療養病棟において死亡退院が多いのは、急性期や回復期、包括期で治療しきれずに、かつ医療ニーズが多くて早期退院が困難な患者がいること。急性期や回復期の入院日数の短縮化の流れの中で、施設や在宅での療養が困難な患者が増えてきている結果だと思われる。
また、療養病棟入院基本料1では医療区分2・3が8割以上を求められている。当然ながら、高齢者でマルチモビディティの複雑な病態の患者を抱えていることも、その1つの理由であろうと思うが、さすがに、61.6%は多いかなと私も思う。
私のグループ病院には、かなり重症な患者が来ているが、在宅復帰率が30%を超えている。死亡退院も40%に満たない。日本慢性期医療協会では、療養病棟は療養する病床ではなくて、先日も申し上げたが、「慢性期治療病棟」でならなければならないと訴えている。
しかし、文字どおり、療養している、すなわち看取りを行っている病院がまだまだ多いのではないかということを、この数字は示しているのではないかと考える。入退院支援加算を届けていない理由の中で、「退院支援が必要な患者が少ないため」という理由が療養病床で多いという結果にもつながっているのだろうと思う。そういう意味でいうと、非常に残念な結果ということになる。
前回改定では、医療資源投入量を中心に考えた30区分という形で、医療区分が細分化されたが、現在もなお治療し、在宅復帰させていても大きなインセンティブは存在しない。看取りとして療養していただいているのとあまり変わらない。
例えば、TPNを継続しつつ、経口移行を進めて、できるだけ在宅に持っていきたいと考えても、それに対する点数はほとんど医療区分2のままという状況になる。逆に、TPNを続行しながら看取りをされていても同じ点数という状況。それが非常に大きな問題。治療していることに対する評価が全くされないことになっているので、今後の医療区分の変更の大きな課題だろうと考えている。
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リハビリテーション(その1)について
135ページに、排尿自立支援加算の算定状況が示されている。排尿自立は人間の尊厳に関わる部分なので非常に重要であると考えている。
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このデータは調査票ではなくNDBデータからのものなので、届出機関数が1,000程度というのは算定率としては非常に低い。届け出ない理由に関して、詳細な検討が必要だと考える。
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136ページに、われわれ日本慢性期協会が記者会見に使用したスライドが引用されている。退院前に、社会復帰を円滑に進めるための実践的な訓練である院外リハが多くの患者に必要であると、われわれは考えている。例えば、歩道には排水のための傾斜が必ずある。院内リハで、いくら平坦な道を歩いても、外へ出た瞬間に下肢の疲労感が非常に強いことがよくある。
できるだけ社会復帰していただこうということを考えると、1日3単位という制限というのは何のためにあるのだろうと考える。やはり、これは撤廃していただければと思う。
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138ページに、3単位を超えた院外リハを実施した症例が45%もあったことが示されているが、これは患者のADLや社会復帰を願うために、個々の医療機関や療法士がボランティアで実施しているということを認識していただきたいと思う。
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151ページにあるように、高齢者に対する早期リハが重要であることはエビデンスとして示されている。
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155ページ。急性期リハビリテーション加算等の初回算定日を見ると、3日以内に介入できていない割合が38%もある。しかも、これはDPCデータから抽出した割合なので、実際にリハを実施されなかった患者は、この中に入ってこない。そういう患者がさらに相当数いることを考えると、リハの実施率としては、まだまだ少ないという印象。前々回にも申し上げたように、ちょっと大胆な政策が必要なのかもしれない。
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食事療養(その1)について
162ページに、嚥下調整食の状況が示されている。それによると、「栄養摂取が経口摂取のみの患者のうち、急性期病棟の患者の約1割、包括期病棟の患者の約2割、慢性期病棟の患者の約4割は、嚥下調整食の必要性がある」と判断されている。
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しかし、糖尿病食や胃潰瘍食、貧血食、嚥下困難者のための流動食、経管栄養のための濃厚流動食などは特別食として特別食加算を算定できるが、嚥下調整食の場合は、実際には治療食なのだが、同加算を取れていない。算定要件を見直して、そういう加算を拡大することも必要ではないかと思っている。
2025年6月27日