「大胆な診療報酬の体系を」── 井川副会長、入院外来分科会で
「高齢者の入院医療」などをテーマに議論した厚生労働省の会合で、日本慢性期医療協会の井川誠一郎副会長は「超急性期の治療にめどがつく1週間ぐらい、早ければ4~5日で包括期や回復期に移してリハビリを始めてしまうという大胆な診療報酬の体系をつくってもいい時代ではないか」と述べた。
厚労省は6月13日、中央社会保険医療協議会(中医協)の診療報酬調査専門組織である「入院・外来医療等の調査・評価分科会」(分科会長=尾形裕也・九州大学名誉教授)の令和7年度第3回会合を開き、当会から井川副会長が委員として出席した。
今回の議題は、①高齢者の入院医療(総論)、②包括的な機能を担う入院医療(その1)、③回復期リハビリテーション病棟(その1)、慢性期(その1)──の4項目。
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厚労省は同日の分科会に示した資料(入-1)の中で、これら4つのテーマについて「現状と課題」などを示し、委員の意見を聴いた。井川副会長の発言要旨は以下のとおり。
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高齢者の入院医療(総論)について
[井川誠一郎副会長]
15ページにあるLynnのモデルはよく出てくるグラフであるが、このグラフが作られたのは2001年、今から20数年前。現在、こういう傾きは特に心不全モデル、呼吸不全モデルなどでは、おそらく若い人はこうなる。
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一方、予備力がなくてマルチモビディティ状態にある高齢者はいったん落ち込む。急性増悪して落ち込むときに元のラインまで戻らない。それが一番の課題だろうと思う。1段、2段、下がった状態になってしまう。認知症や老衰について、「経過中に肺炎・骨折等が起きえる」と書いてあるが、実はその過程の中で肺炎などを起こすたびに、上の「慢性心不全や慢性呼吸不全」のような形になるのが現状だろうと思う。
元のラインに戻すには当然、発症や悪化時の早期から維持リハや栄養維持、それからオーラルフレイルなどの予防が重要だと考えているが、前回の資料によれば、急性期では専門性の高い治療が優先されているために、これらがそれほどなされていないのが実情である。こういうことは、超高齢社会にある我が国では喫緊の課題。いずれ急性期でも、そういう認識が目覚めるだろうという形で、ゆっくり待っていられるかというと、そうではないのではないかと私は思っている。
大胆ではあるが、例えば、超急性期の治療にある程度のめどがつく1週間ぐらいとか、それこそ早ければ4、5日というレベルで、めどがつけば包括期や回復期にさっと移して、リハビリをそこで始めてしまうというような大胆な診療報酬の体系をつくっていってもいい時代ではないかなと私は思っている。
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これが私の考える23ページの課題に対する答えである。
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包括的な機能を担う入院医療(その1)について
まず31ページ(地域包括医療・地域包括ケア病棟入院料等を算定する病棟の平均職員数)について。
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牧野委員は(地域包括ケア病棟1・2のほうが地域包括医療病棟よりも多い)看護師の逆転現象を非常に疑問に思っていると指摘した。私もそう思っていたが、この点については質問していただいたので、私はセラピストの部分について述べる。
「理学療法士、作業療法士及び言語聴覚士」について、地域包括ケア病棟の1・2に比べても少し低い。地域包括ケア病棟1と比較すると、半数程度しかいない。
本来であれば、出来高算定が可能なのが地域包括医療病棟なので、先ほど津留委員も指摘したように、リハ・栄養・口腔連携加算の点数だけではセラピストの原資にならないかもしれない。ここの部分で出来高算定があれば普通はできるということから考えると、もっと、これは増えていくべき職員であろうと私は思っている。これがやはり少ないということは、高齢者救急を主に扱うであろう地域包括医療病棟で、先ほど申し上げたように、発症や悪化直後からの早期のADL維持に向けた取組ができないことがある。
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また、36ページ(地域包括医療病棟の届出にあたり基準を満たすことが困難な項目・A票)、38ページ(同・B票)にあるように、満たすことが困難な施設基準の上位に出てくるセラピストに関わる項目。
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さらに、58ページ(入院料ごとの疾患別リハビリテーションの実施状況)。先ほど津留委員がおっしゃったリハ・栄養・口腔連携加算の算定数が非常に少ない理由の1つにある土日のリハ提供が少ない、できないこと。牧野委員が指摘された56ページのADLの変化率。
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当然、セラピストが少ないので、ADLの変化率が急性期一般の2から4と変わらない。 セラピストがいなければ、そうなるので、そういうことにも通じてしまうということになる。
ということは、このセラピストの数がなぜ地域包括医療病棟で少ないのかという、そもそもの原因のところをしっかりと追求しなければ、あらゆるところに影響を及ぼしている項目なので、ぜひ、もう少し深掘りをしていただきたい。例えば、応募そのものが少ないのか、セラピストの総数全体が少ないのか。もしくは、例えば、その施設は募集すらしていないのかなども含めて調査・解析する必要があると考えている。
続いて、ページ32ページ(地域包括医療病棟入院料の届出を行った理由)、33ページ(地域包括医療病棟の届出を行った後の状況)について。
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確かに、他の入院料の病棟と組み合わせることで患者の状態に即した医療が提供できているとか、それから、実際の患者の状態により即した入院料であると感じておられるのだろうとは思うが、この項目は複数回答が可能なので、例えば、思わなかったところはチェックが入らないということになる。
ということは、例えば、32ページでは、60%以上の施設が経営が安定すると考えて届けを行っているが、届出をした後では、経営が安定していると答えたのは上位にはきているが、逆に55%の施設はあまり安定していると感じていないということになる。
先ほどの意見にもつながるが、「リハビリテーション・栄養・口腔管理が進んだと感じる」と答えたのはわずか20%しかなくて、80%の施設はそう思わないということになる。
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これは25ページにあるような地域包括医療病棟の医療サービスのイメージというところから考えると、そこは早急に調査して改善すべき問題だろうと考えている。
また、71ページに「地域包括医療病棟・地域包括ケア病棟届出施設の救急提供体制」をお示しいただいている。
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地域包括ケア病棟は療養病床からも算定できる。5%の減算を受け入れれば救急体制がなくてもよいということになっている。これが一般病床との大きな違いである。
療養病床のパーセンテージを記入していただいたが、実際に、これを評価していこうと思うと、一般病床と療養病床の地域包括ケア病棟の救急医療体制をそれぞれ分けて示していただかないと、議論の材料としては不足しているかなと思っている。
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回復期リハビリテーション病棟(その1)について
まず、112ページ(FIM利得別の患者数の分布)のFIM利得0について。
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当然、回リハに入院されている患者さんも誤嚥性肺炎や尿路感染など高齢者が罹患しやすい疾患にかかられると、その間、リハビリが止まったりとか、それからADLが落ちたりというかたちで、ゼロというのはある程度、仕方がない。
資料の数で言えば、80万人中4万5,000人、5.6%。それを多いと考えるか少ないかと考えるかの違いだろうと思う。感覚的に言うと、おそらく1%ということはない。1カ月間で見れば、数%はそういう形でゼロがいるという感覚は実際にはあるのではないかと思う。
ただ、その次のページの113ページの施設別で見たときに、その患者数が異常に多い施設がある。これはやはりおかしい。
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左側を見ると、0を含んだ場合の0点以下の50何%が0点以下という、この施設は一体病院なのかと言いたいぐらい、ちょっと異様な施設であるので、そういうところの詳細は明らかにしていただきたいと思う。
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続いて、116ページ「疾患別リハビリテーション料の提供単位数別のFIM利得」が出されている。前回改定で、運動器のリハビリテーションが5単位、6単位以上を提供してもあまり変わらないという議論のときのような形で出ているが、運動器・廃用と脳血管の一番違いは何かと言うと、失調の原因である。脳血管の失調の原因は神経学的な麻痺であるが、運動器や廃用はどちらかというとサルコペニア。筋肉減少によって起こっている場合が多い。
そうすると、その回復度というのは当然、変わってくる。リハビリテーションをどの程度でやれば上がるか下がるかというのは変わる。そういう意味で言うと、サルコペニアの筋肉量というのは、ある程度上げてあげると、とりあえず立てる。歩行補助具があると歩ける。そうすると、その段階で一気に70点ぐらいまで、FIMが跳ね上がってしまう。
ところが、その後、帰れるかどうか。家へ帰って、ちゃんと生活できるかどうかとなると、そこから数点というのが非常に大きい。これは前回の改定のときにも、どなたかの先生がおっしゃっていたが、実際にそうである。72点と74点という点数で全然違ってきて、その72点で帰してしまうと、また戻ってきてしまう。サルコペニアの改善が不十分なので、また帰ってきてしまい結果的にまた入院して、リハビリをしないといけない。
医療資源投入量的に言うと、個人1人ひとり当たりで考えると、その人たちはむしろ増えてしまうということも加味した上で、このグラフは見ていかないといけない。このグラフの中で6単位から9単位までの間に、1.5という、傾きは低いが、廃用も運動器も増えている。
これは1つ大きな重要な意味を持つのではないかと私は考えている。
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慢性期(その1)について
まず2点質問させていただきたい。126ページから127ページにかけて、突然、複数の訪問看護ステーションからの訪問看護や1日に複数回の訪問を行うことが可能となるなどの特例がある別表7・8と、医療区分における疾患・処置等とを合わせたようなデータをお示しいただいている。
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ここで、別表7・8を医療区分の「疾患・状態」「処置等」と絡めた理由は何か。特別な理由があったのだろうか。突然出てきたので、どう評価していいのかよくわからないというのが質問の1点目。
もう1点は132ページ。「療養病棟における経腸栄養管理加算の有無別の中心静脈栄養の実施状況」を示していただいている。
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これは病棟調査票(C票)の数値をもとに作成されているようだが、分母が令和6年10月の1カ月間の入院実患者数で、分子が同期間の中心静脈を実施した実患者数という理解でよいか。
そうだとすると、経腸栄養管理加算を算定していない409の病棟のうち、例えば1病棟40床とすると、そのうち36人ぐらいがTPNをやっているという病棟が数か存在することになるが、そのような認識で正しいのだろうか。以上、2点を質問させていただく。
[厚労省担当者]
1つ目の質問については、122ページにあるように、「新たな地域医療構想のとりまとめ」においても、在宅で提供されている患者像と重複が認められるということ。
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その中で、全体の中で、地域の中での療養病床のあり方が構築されていくということは指摘されていると思うので、これは訪問看護のほうの重症度のところも示した上で、療養病棟における医療区分と、この訪問看護における部分と、ちょっと合わせた視点で、お示ししたところである。2つ目のご質問については、ご指摘のとおりの認識ということで、「そのとおり」ということになる。
[井川誠一郎副会長]
そんなにたくさんTPNをやっている病院があるとは知らず、びっくりするような数字だが、そういう、ちょっと常識を外れた病院があるということで認識した。
では、いくつか意見を述べる。131ページに「療養病棟における経腸栄養管理加算の状況」が示されている。
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経腸栄養管理加算は、療養病棟に入院中に患者が新たに経腸栄養を算定した場合に取れる加算であるが、それがわずか9.3%と低く、あたかも療養病棟では経腸栄養に移行する気がないのではないかと思われるぐらいの数字になっているが、80%以上の施設が実は加算の届出が困難な理由として、栄養サポートチーム加算を届けられないということを挙げている。
この栄養サポートチーム加算は療養病床でどの程度、算定できているのか。前回の分科会でも質問させていただき、お答えをいただくことになっていたところであるが、令和6年度調査には入っておらず、令和4年度調査に入っている。
令和4年度調査結果によると、栄養サポートチーム加算の算定状況は療養病床1で9%、2ではわずか5%程度しか取れていない。算定できない理由に関する質問では、50%以上の施設が所定の研修を修了した医師・看護師・薬剤師の確保が難しいと回答している。所定の研修とはどのようなものかというと、医師は10時間程度の研修だが、看護師やコメディカルに関しては40時間以上の研修が必要となる。
これは急性期病院と同様の基準である。看護師の配置が20対1のところと7対1のところで、当然、看護師の数が全然少ないにもかかわらず、同じ40時間の研修を受けるということになると、その5日間、その看護師が1人抜けてしまうことになるので、療養病床にとって非常に痛いということになる。
一方で、専任の管理栄養士がいれば取れるのだが、管理栄養士も年間7,000人以上輩出されているものの、実際に病院に入職する人は多くないので、管理栄養士を確保するのもなかなか難しい。ということで、実際には取れていないということになる。
つまり、経腸栄養管理加算は療養病棟では取りたくてもなかなか取れないということが現実だと考えるので、もし、この加算を本当に療養病床に算定させて、経腸栄養を進めていくということを考えるのであれば、施設基準の見直しをやはり考える必要があるのではないかと考えている。
続いて、133ページ。「療養病棟における中心静脈栄養中の身体拘束の実施状況」が示されている。
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令和4年度調査では、療養病棟における身体拘束実施率は21.7%だが、実施された463名の患者は全員、認知症ケア加算を算定されていたことも明らかにされている。
今回の調査では、令和6年10月の1カ月間の療養病床での身体拘束実施率は平均8.1人。同期間のTPNの実施数は平均7.2人。そのうち、平均では2.0人。つまり、27%に身体的拘束が実施された。先月示された調査結果の報告に記載されている。
一方で、TPNの患者は経口摂取により十分な栄養を確保できないという患者像なので、認知症はその要因として極めて大きい。それらを考えると、療養病床全体の身体拘束率21.7%に対してTPN患者の27%が一概に高いとは言えない。
そうすると、認知症患者かどうかという判定をしっかり下し、独立した要因であるかどうかを考えた上で、TPNの実施患者の身体拘束率が高いという記載になるべきだろうと私は思っている。
2025年6月14日






















