子ども病院、「別の枠で捉える必要」 ── 井川副会長、急性期医療の議論で

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入院外来分科会_20250522

 心臓血管外科医として大阪母子医療センターで診療主任を務めた経験などを持つ日本慢性期医療協会の井川誠一郎副会長は5月22日、急性期医療について議論した厚生労働省の会合で、「高齢者や成人を主な対象とする一般的な救急病院と異なる子ども病院は別の枠で捉える必要がある」と述べた。

 厚生労働省は同日、中央社会保険医療協議会(中医協)の診療報酬調査専門組織である「入院・外来医療等の調査・評価分科会」(分科会長=尾形裕也・九州大学名誉教授)の令和7年度第2回会合を都内で開催し、当会から井川副会長が委員として出席した。

 厚労省は同日の分科会に、急性期入院医療と高度急性期入院医療に関する資料を提示。その中で、急性期入院医療について「病院としての機能がより重視されていることも踏まえ、今後の急性期における入院基本料について、どのように考えるか」「急性期の拠点的な機能に対する評価のあり方をどのように考えるか」などの課題を挙げ、委員の意見を聴いた。
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01_スライドP39

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 急性期入院医療に関する井川副会長の発言要旨は以下のとおり。

【井川誠一郎副会長の発言要旨】
 慢性期医療に携わる立場から急性期医療について発言するのはやや僭越ではあるが、私はもともと子ども病院に勤務しており、小児外科に関わっていた経緯から、小児医療における病院の性質は成人医療を担う病院とは大きく異なることを実感している。
 近年では、胎児エコーの発達により、出生前に異常が発見された場合、胎児の段階で母体ごと医療機関に搬送・入院するという対応が可能となっている。この結果、新生児期に急を要する救急搬送の件数は減少傾向にある。
 かつては出生直後にブルーベビーなどの重症例が多く、緊急搬送が頻繁に行われていたが、現在ではそのようなケースが大幅に減っている。そのため、子ども病院における救急搬送件数が2,000件を超えるような例は非常に稀であるのが実情である。
 また、こうした子ども病院の産科は、一般的な正常分娩を取り扱うことが中心であり、母体側の異常分娩を扱うわけではない。したがって、対象とする医療の性質が、他の救急医療機関とは根本的に異なる。このような事情から、子ども病院では急性期一般入院料1を算定していない、あるいは必要としないケースも多く見られる。
 以上の点を踏まえると、高齢者や成人を主な対象とする一般的な救急病院とは異なるので、子ども病院は別の枠で捉える必要があると考えている。

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リハビリテーションの実施状況について

 この日の分科会では、急性期医療の議論に先立ち令和6年度の調査結果について議論した。井川副会長はリハビリテーションの実施状況のほか、救急患者連携搬送料の届出状況、地域包括医療病棟におけるリハビリテーション・栄養・口腔連携加算の算定状況、療養病棟における経腸栄養管理加算の状況などについて意見を述べた。
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02_スライドP3抜粋

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 同分科会に示された資料は「令和6年度調査結果(速報)概要」で、表紙を含めて149ページ。平均在院日数や病床利用率などの「共通項目」のほか、「急性期医療及び救急医療等に対する評価の見直しの影響」など7項目の調査結果の概要について厚労省の担当者が説明した後、各委員が意見を述べた。

 井川副会長の発言要旨は以下のとおり。

[井川誠一郎副会長]
 膨大な資料をご提供いただき、感謝申し上げる。多角的な視点から検討いただいたことに深く敬意を表する。

 まず指摘したい点は、「共通項目」の11ページに記載された「入院料ごとの疾患別リハビリテーションの実施状況」である。
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03_スライドP11

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 早期リハビリテーション加算や、リハビリテーション・栄養・口腔に関する各種加算が設けられ、急性期の段階から積極的にリハビリテーションを実施する方向性が打ち出されていると理解している。

 しかし現実には、「急性期一般入院料1」において45%以上、特定機能病院では60%以上、専門病院では70%以上でリハビリテーションがまったく実施されていないという状況が見られる。このことが廃用症候群などを引き起こし、結果として入院期間の長期化を招いていると考えられる。

 このような現状を踏まえれば、今後の施策として、何らかの点数を付けるか、あるいは要件の緩和を図るなど、柔軟な対応が必要であると考える。

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食費基準の引き上げと給食提供等について

 21ページには、入院時の食費基準の引き上げに伴い、給食提供等に関して見直したことに関する調査結果が示されている。
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 入院時の食費基準は本調査時点で30円引き上げられているが、実際には材料費の物価上昇がそれを遥かに上回っており、その結果として、病院側が費用を持ち出しで負担するか、あるいは給食の質を下げるなどの対応を余儀なくされているのが現状だろう。

 とりわけ注目すべきは、回答項目「05」と「06」である。

「05」 → 30円以上経費が増加しているため、給食の内容は変えずに経費の節減を行った(納入方法の変更、光熱費の契約変更等)
「06」 → 30円以上経費が増加しているため、給食の内容を変えて経費の節減を行った(食材料、メニューの変更等)

 この2項目の結果を見ると、完全直営方式を採用している病院では、いずれも30%台の同程度の割合で推移している。

 しかし、給食業務に委託が関与している場合には、給食内容を変更して経費削減を図っている事例が顕著に増加していることが確認できる。すなわち、内容を維持して対応したのではなく、内容を変更して対処した事例が増えており、委託運営という方式がこのような対応に結び付いている可能性があると考えられる。

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救急患者連携搬送料について

 38ページに救急患者連携搬送料の届出状況が示されている。全体のうち17%の医療機関が届出を行っているとのことであるが、同搬送料が創設された経緯を踏まえると、この数値が多いのか少ないのか判断が難しいところである。
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05_スライドP38

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 高齢者の搬送が主となることを考えれば、より多くの届出がなされても不思議ではない。しかし、現実には多くの要件が課されているため、届出を行えていない医療機関が多いのが実情である。

 この搬送料に関して興味深いデータが、40ページの「救急患者連携搬送料の届出医療機関における状況」に示されている。
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 これは高度救命救急センターなど搬送元からどのような医療機関へ搬送されたかを示すデータだが、興味深いことに、n数はほとんど差がない。すなわち、救急部門を有していない医療機関にも一定数の搬送が行われている。しかし、搬送を受け入れた側には何らのインセンティブもないのが現状である。

 したがって、今後、こうした搬送体制を拡充しようとするのであれば、受け入れ側にも相応のメリットが得られるような仕組み、ウィンウィンになるようなものがなければ、届出数の増加は見込みにくいのではないかと感じている。

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リハ・栄養・口腔連携体制加算に関する状況について

 43ページによると、リハビリテーション・栄養・口腔連携体制加算を届け出ていると回答した医療機関が9.0%にとどまっている。9.0%という数値は、どう考えても少ない。「本当にリハビリテーションを実施しているのか?」と問いたくなるほどであり、実際に急性期医療機関からの届出は限定的である。

 届け出ていない理由としては、「常勤専従の理学療法士、作業療法士または言語聴覚士を2名以上配置することが困難」(56.3%)、「土日祝日における1日あたりの疾患別リハビリテーション料の提供単位数が平日の8割以上を満たさない」(53.9%)といった回答が多く挙げられている。

 つまり、土日祝日にもリハビリテーションを提供し、かつ常勤かつ専従のスタッフを配置するとなれば、最低でも2~3名以上の人員が必要となる。それだけの人員を確保できるか否かについては、例えば回復期リハビリテーション病棟を有し、専任スタッフとして配置できる体制が整っていれば対応可能かもしれないが、そうでなければ別途、土日祝日の配置に充てる必要がある。

 その一方で、本加算の点数は1日あたり120点にすぎず、この点数では人件費を十分に賄うことは困難であり、結果として加算を算定するための体制整備が進まない一因となっていると考えられる。現行のままの設定では、同加算の届出が大きく伸びていくことは難しいのではないか。
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07_スライドP43

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 66ページには、地域包括医療病棟における「リハビリテーション・栄養・口腔連携加算」の算定状況が記載されているが、nは24である。この数値に基づけば、「算定なし」とされた割合は21%、すなわち実数では5件にとどまる。
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08_スライドP66

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 ところが、右側に掲載されたグラフにおいては、「届け出ていない理由」のn数が26となっており、「n=24」と整合しない。「26」がどこから出てきた数字なのか、よくわからない。

 また、「土日祝日において平日の8割以上のリハの提供が困難」との理由に該当する件数が10件あるが、この10件がどこから出てきたのか。
 したがって、これらの数字がそもそも信用できないので、再確認していただきたい。

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地域包括医療病棟における患者の流れについて

 69ページ。地域包括医療病棟における患者の流れについて、数字がおかしいのではないか。
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09_スライドP69

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 入棟が19件、退棟が53件となっているが、入棟数は該当期間中に実際に入棟した患者全体を数えるものであり、退棟数よりも多くなるのが自然である。それにもかかわらず、入棟が19件しか示されていないため、「患者の流れがこうだ」と言われても説得力がない。確認していただきたい。

【厚労省担当者の回答】
 66ページ、69ページの地域包括医療病棟に関するご質問があった。残念ながら、nが少ない。例えば、69ページは入棟と退棟でnの数が違うのはなぜなのかといった質問であったが、生データ自体がこういうふうになっているということで、そのままお示ししている。その回答はいただけていなかったということで、これしか、お示しすることはできない。
 66ページ目も、そういったnの少なさ、回答はいただけないということに起因している面がある。

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地域包括ケア病棟の平均在院日数の分布について

 76ページ。前回の診療報酬改定で、地域包括ケア病棟における入院料に40日間の逓減制が導入されたので、40日前後で入院料が大きく変動すると予想したが、実際のグラフは非常に緩やかなカーブを描いており、その変化は想定よりもなだらかである。
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10_スライドP76

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 このグラフからは、逓減の影響を受ける期間の幅が広くなっていることが非常によくわかる。なぜ40日を境に急激な変化が見られないのか、非常に不思議である。

 何らかの要因が考えられるのかもしれないが、一つの可能性として、比較に用いられた期間が「令和5年8月~10月」と「令和6年8月~10月」であったことが影響しているとも考えられる。今後、さらに観察期間を延ばすことで、より顕著な変動が表れる可能性もある。

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地域包括ケア病棟入棟患者の入棟元割合について

 78ページは、地域包括ケア病棟における入棟元の割合を示したものである。グラフ右端におけるピンク色、すなわち自宅等からの入棟割合は5%にも満たず、全くデータが記載されていない空白の部分も散見される。
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11_スライドP78

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 これは、自院からの入棟も、他院からの転棟も実施されていないことを意味していると解釈される。このような状況に該当する病院あるいは病棟の属性について、もし把握されているようであれば、可能な範囲で教えていただきたい。すべてに線が引かれているが、その線が実態を正確に反映しているのか否かというデータの信頼性に関わる問題である。

【厚労省担当者の回答】
 回答の状況に応じて、こういう集計結果となっている場合があるということで、ご理解いただきたい。

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入院料ごとの運動器リハビリテーション料実施単位数について

 今回の調査で非常に気になったのは86ページ。運動器リハビリテーション料の実施単位数に関するデータである。
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12_スライドP86

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 運動器リハビリテーションについては、前回改定で6単位に制限されたため、少ないことは想定したが、回復期リハビリ病棟において、1日あたり2単位以下しか実施されていないケースが、入院料2では約20%、すなわち5人に1人は2単位以下しか実施していない。

 回復期リハビリ病棟に入院していながら、これは本当だろうか。回復期リハビリ病棟にいる意味があるのか。むしろ地域包括ケア病棟にいればいいという話になってしまうような値だと思う。

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療養病棟における経腸栄養管理加算の状況について

 療養病棟において経腸栄養管理加算が算定されていない理由については、資料右側に示されているが、最も多い理由として「栄養サポートチーム加算を届け出ていないため」が挙げられている。
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13_スライドP94

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 そもそも、療養病棟における栄養サポートチーム加算の算定率は、どの程度か。もし、その比率が極端に低いのであれば、この要件を経腸栄養管理加算の前提条件として設定することにより、療養病棟ではほとんど加算が算定できなくなるおそれがある。

 我々としては、療養病棟においても、しっかりと口腔・栄養管理を行ったうえで、患者が在宅復帰できるよう支援していきたいと考えている。にもかかわらず、そのような取り組みに対する加算が制度上認められなくなってしまうようでは、本来の目的を果たすことができない。

 したがって、経腸栄養管理加算を算定する前提となる栄養サポートチーム加算の届け出状況を正確に把握しておかないと、「これを付けました、でも絶対に取れないよね」という話になってしまうので、教えていただきたい。

【厚労省担当者の回答】
 今すぐにお答えできないので、また今後、そういった観点をもって、お示しできればと思っている。

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生活習慣病管理料を算定していない理由について

 132ページ。生活習慣病管理料を算定していない理由について、「n=97」と記載されている。
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14_スライドP132

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 これは外来票に基づくデータであると考えられるが、外来票において特に重要となるのは診療科の内訳である。例えば、産科や小児科など、生活習慣病の管理とは関係の薄い診療科が多数含まれている場合、それらの施設では当然ながら生活習慣病管理料を算定していない。

 したがって、当該データは生活習慣病管理料を「算定していない」理由の全体像を正確に反映しているとは言い難く、この点を前提とした解釈には注意が必要である。

 特に、外来においては、どのような診療科が多く含まれているかという分布の把握が極めて重要であり、その分析なしに全体傾向を論じることは適切ではないと考える。

【厚労省担当者の回答】
 ページ下部の「その他(自由記載欄)の主な記載例」にも示しているとおり、生活習慣病を診療対象としていない専門クリニックも含まれている。更なる解析にあたっては、そういう診療科にも着目する必要があるという指摘と受け止め、またそういった観点を持ってお示ししたい。

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