ポリファーマシー対策は重要なテーマ ── 井川副会長、令和7年度調査の議論で

入院・外来医療等の令和7年度調査について具体的な調査票の原案などが示された厚生労働省の会合で、日本慢性期医療協会の井川誠一郎副会長は前回の分科会で指摘したポリファーマシー対策に関する調査が入院医療の施設票に反映された点などに謝意を示し、「超高齢社会となった我が国において非常に重要なテーマなので解析が楽しみ」と期待を込めた。
厚労省は4月17日、中央社会保険医療協議会(中医協)の診療報酬調査専門組織である「入院・外来医療等の調査・評価分科会」(分科会長=尾形裕也・九州大学名誉教授)の令和7年度第1回会合を開き、当会から井川副会長が委員として出席した。
厚労省は同日の分科会に「入院・外来医療等における実態調査・施設票」など257ページにわたる調査票案を示し、委員の意見を聴いた。この日の議論を終え、尾形分科会長は「中医協総会に報告した後、議論を経て調査を進めていく」と伝えた。
【井川誠一郎副会長の発言要旨】
以前から把握の必要性を申し上げていたポリファーマシー対策をすべての施設票に入れていただいた。また、疾患別リハビリ以外のADLの維持・向上を目的とした活動や摂食機能訓練、患者の摂食時の環境などについての設問を病棟票に組み込んでいただいたことに感謝する。
超高齢社会となった我が国において非常に重要なテーマであると私どもは考えているので、解析が楽しみである。
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療養病棟の見直しはDPCデータで検証
令和7年度調査は8項目。令和6年度調査の7項目に加え、医療資源の少ない地域における保険医療機関の実態について調査する。
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調査票は、病院の機能などに応じてA~F票に分かれている。医療資源の少ない地域における保険医療機関の実態については、ヒアリング調査を実施する。
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調査項目のうち、(5)療養病棟入院基本料等の慢性期入院医療における評価の見直しの影響について、井川副会長は「調査票そのものには存在していない」と指摘し、「データ提出加算のデータを踏まえて検討するのか」と尋ねた。
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厚労省の担当者は「療養病棟の見直しの検討は、ご指摘のとおりDPCデータを活用して検証すべき課題」と答えた。
【井川誠一郎副会長】
令和6年度診療報酬改定における大きな変更点の1つが医療区分である。令和7年度調査の内容について、7ページの(5)療養病棟入院基本料等の慢性期入院医療における評価の見直しの影響について、入院患者の医療区分別患者割合の状況や、各入院料等における患者の状態、医療提供内容、平均在院日数、入退院支援、退院先、看取りの取組の状況などを調べることになっていた。
しかし、令和6年度の調査票にも、令和7年度の調査票にも、これらに関する設問が存在していない。
これは今後、データ提出加算のデータをもとに秋口ぐらいに出てきて、それに対する検討を加えていくという認識でいいのかどうか、お伺いしたい。
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【厚労省担当者】
療養病棟の見直しの検討は、ご指摘のとおり、DPCデータを活用して検証すべき課題と認識しているので、またデータを揃えて、お諮りしたいと思う。
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大きな分類でもよいのでは
今回示された調査票について井川副会長は「微に入り細に入り、設問が非常に多いことは重要」と評価しながらも、「細かくすればするほど、個々のn数が減ってしまう」と懸念。具体的には、介護保険施設等との協力体制に関する調査などを挙げた。
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問17では、「貴院の介護保険施設等との協力体制についてお伺いします」と質問した上で、協力医療機関となっている介護保険施設等の数を、満たす要件(①~③)ごとに分けて回答する。
井川副会長は「木を見て森を見ずという結果に注意が必要。細分化の必要のないところは大きな分類でもよいのではないか」と指摘した。
【井川誠一郎副会長の発言要旨】
今回の調査票は、微に入り細に入り、質問してくださっている設問が非常に多くて、作成にあたられた厚労省の方々も大変だったのだろうと推察する。だからこそ、問われる側が誤った印象を受けたり間違った捉え方をしたりするような設問は駄目だろうと思うので、いくつか指摘させていただきたい。微に入り細に入りというのは非常に重要であるが、細かくすればするほど個々のn数が減ってくる。そうすると、「木を見て森を見ず」という結果になってしまうので注意が必要だ。細分化の必要のないところは大きな分類でもよいのではないかと考える。
例えば、25ページの問17で、介護保険施設等との協力体制について協力医療機関となっている介護保険施設等の数を①~③に分けて細かく聞いている。
ただ、②の「診療の求めがあった場合において、診療を行う体制を常時確保している」については、診療の求めがあれば、診療を行う体制があるのに患者の急変時に医師または看護師が相談対応が行えないということはまずあり得ない。①②③と、“上流”に行くにつれて、その全てをやっていけると考えられるので、例えば、アからキまで7つに分ける必要はなく、ア・イ・オの3分割で十分だと考える。
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診療科名の分類がわかりにくい
井川副会長はまた、「職員確保のための取組」に関する設問について、「該当する診療科がない場合は空欄になってしまう」と指摘した。
また、眞庭謙昌委員(神戸大学医学部附属病院長)は「診療科名の分類でわかりにくいところがある。重複する部分に関して、わかりやすくしたほうが記入しやすいのではないか」と提案した。
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この設問では、「医師の確保に関する直近1年間の変化について、貴院の各診療科(01~43)について、該当するアルファベット(a~i)すべての欄に○を記載してください」としている。
【井川誠一郎副会長の発言要旨】
61ページの問39、職員確保のための取組について、「39-1」では医師の確保に関する直近1年間の変化についての設問がある。これは、(a~iの)9掛ける(診療科01~43の)43というクロス集計表となっている。
先ほど、眞庭委員からも意見があったが、「当院の標榜科では、どこに入れたらいいのだろうか」というような設問になっている。例えば、「気管食道外科」は医療施設の統計に基づくものだと思うが、わずか1.1%の病院でしか標榜していない。そのため、果たして何施設から回答があるのかを考えると、ほとんど意味のない科の標榜ということになってしまう。該当する診療科がない場合は空欄になるので、おそらく、これよりも多い肝臓外科などは全部消えてしまう。そういう標榜科は全部なくなってしまう。
もっと大きなくくりで、「外科」「内科」と、いくつかの臓器別の科なども入れて、43もある標榜科その他を含めて10程度ぐらいにできないものかと考える。
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給食の見直し、「中身が見えたほうがいい」
今回の調査では、入院時の食費の基準について「給食提供等に関して見直したこと」のほか、新たに「令和6年6月以降の給食事業者への委託業務に関する状況」について調査する。
給食提供等に関する見直しについては、「令和6年6月から令和7年3月」と「令和7年4月以降」の期間に分けて、「給食の質が上がった」「給食の内容を変えて経費の節減を行った」などの選択肢から回答する。
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質疑で、津留英智委員(全日本病院協会常任理事)は「特に米の価格が高騰している」と指摘。「米の質が下がったり、あるいは冷凍食品を使用したり、クックチル方式に変えたりなど、もう少し中身が見えたほうがいい」と提案した。
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バイアスがかかってしまう可能性
この設問に関連して、井川副会長は「増額による給食提供に関する見直しの有無に関する設問の前提条件として、委託から直営に変えたなどの条件が変わらないという前提が必要で、変わっていないという条件を付けておかないとバイアスがかかってしまう可能性がある」と指摘した。
本設問では、「11-2」で給食提供等に関する見直しについて尋ねた上で、続く「11-3」で委託業務に関する状況を問う構成となっている。
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【井川誠一郎副会長の発言要旨】
先ほど津留委員が述べたように、入院時の食事費の基準が合計で50円アップして、われわれも物価高騰の折、少しは助かっていると言えるかと思う。
14ページの問11、入院時の食事提供に関して、「11-2」では、増額による給食提供に関する見直しの有無に関する設問がある。この設問では、その前提条件として、その設問の期間に、例えば、お金がちょっと余っていたから委託から直営に変えたとか、直営から委託にしたとか、一部委託にしたという条件が変わらないという前提が必要である。そこが「変わっていない」という条件を付けておかないと、皆さんから全部の答えが返ってくると話がややこしくなるのではないか。そういうバイアスがかかってしまう可能性があると思う。
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実態に合わない恐れがある
今回の調査では、介護支援等連携指導料に関して「入院中に介護保険認定の区分変更を行った人数」なども調査する。
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井川副会長は、設問の構成に疑問を呈し、「別々に調査しないと、実態に合わない恐れがある」と指摘した。井川副会長はこのほか、職員の夜間の配置状況、透析医療の体制などの調査について意見を述べた。井川副会長の発言要旨は以下のとおり。
■ 介護支援等連携指導料について
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介護支援等連携指導料に関する設問が全ての施設票にある。退院患者のうち、入院中に介護保険認定の区分変更を行った人数についてについての設問で、A票では24ページの問16、B票では78ページの問9になる。この中で、「退院患者のうち、入院中に介護保険認定の区分変更を行った人数」として、その下に、「02」として、「01のうち」となっている。すなわち、「入院中に介護保険認定の区分変更を行った人数」のうち、「入院中に介護保険認定の区分変更が完了した人数」という形式になっている。
例えば、急性期病院では、ほとんど申請だけで終わる。一方で、療養型の病院では、申請は急性期病院でしてくださっているので、受ける側だけだと思う。つまり、「01」の部分がなくなる。減ってしまう。そうすると、「02」に記入する患者数は極端に減ってくるので、これは別々に調査しないと実態に合わない恐れがある。
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■ 看護師の配置状況について
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30ページから看護師の救急外来、外来化学療法室、手術室における配置数の設問がある。一方、救急外来の受診者数と手術件数は問6・7に設問がある。
ただ、外来の化学療法室の数は、以前の票にはあったが、今回、示された票には、校正の段階で消えているので、これはぜひ戻したほうがいい。トータルのmassがないと、どの程度、意味があるのかわからなくなってしまうと思う。
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■ 職員の夜間の配置状況について
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B票の職員の配置状況で、80ページの問12以降に、看護師、救急救命士、薬剤師、臨床検査技師、事務職員の夜間の配置状況についての設問がある。
最近は、回復期リハビリ病棟を含めて、理学療法士などセラピストの夜勤配置をしているところが、若干、見られるようになってきている。リハビリ職員の夜間配置によってADLの向上に努めている病院もあるので、療法士の配置について、加えられる余裕があるのであれば、加えていただければいい。
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■ 身体的拘束、認知症ケア加算、せん妄ハイリスク患者ケア加算について
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身体的拘束、認知症ケア加算、せん妄ハイリスク患者ケア加算についての設問がB・C・D票にはあるが、A票だけ、この設問がない。何か意図があるのだろうか。なければ入れていただきたい。
せん妄ハイリスク患者ケア加算は、A票の急性期一般入院料や特定機能病院などは取れる。一方、B・C・D票にはほとんど存在しないと思う。この1文があるだけで、やや答えにくいというか、どう書けばいいのか、という感じになってしまう可能性がある。
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■ 診療報酬上求められる記録や書類作成等の業務について
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すべての施設票に、診療報酬を求められる記録や書類作成等の業務についての設問がある。A票では問29。
医師事務作業補助体制加算について、問うているA票では問題なく配置数などを把握できる。一方、B・C・D票では、その医師事務作業補助体制加算の問いがないために、どれだけの配置がなされているかなどの把握ができない。ここの部分は、やはり加える必要があるのではないかと思っている。
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■ 短期滞在手術等基本料3について
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眼内レンズなど、短期滞在手術等基本料3の手術に関する設問がA票にだけ入っているが、もともとは地域包括ケア病棟から削除という話で始まっていたところなので、すべて移しているところもあるし、地域包括医療病棟に移しているところもあるので、B票に入れなくていいのかなというような気はしている。
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■ 在宅医療を提供している場合について
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すべての施設票の最後の設問に、在宅医療を提供している施設について、入院した患者が高齢者施設等に退院するにあたって施設から金銭等を受け取ったことがあるかという設問がある。
この提供元の施設を問われているわけだが、在宅医療を提供しているかどうかはあまり関係がない。そういうことが社会問題化しているということなので、「在宅医療を提供している施設」という記載は外してもいいのではないか。
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■ 透析医療の提供体制について
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透析患者は、これから少しずつ増えていくと思う。生活習慣病に関しては、外来票などで、しっかりと調査していただいている。
透析患者の状態が悪化すると、その後、在宅ではどうしても済まなくなる。その後の行き先を考えなければならないのだが、そういう視点が少し欠けている。例えば、患者に対し、どういうふうに言っておられるか。現状の説明はあるのだが、これから先、どうなるかということについて、どのように説明しているのか。また、外来の医師がどういうところに行かせられるような説明をしているのか。そのまま療養病棟に入れるのか、それとも施設に入れるのか。「ちょっと諦めますか」という形でいくのか。そうすると、「それは寿命ですよ」という話もたぶん出てくるかと思うので、そういう設問は必要だと思っている。
2025年4月18日