医療介護連携、「言語の統一を」── 介護保険部会で橋本会長

介護保険制度の改正に向け、医療介護連携などを議論した厚生労働省の会合で、日本慢性期医療協会の橋本康子会長は「ADL評価で医療はFIM、介護はBarthel Index、急性期医療は看護必要度など、評価を『言語』と言うならば、その言語が違うので統一していく必要がある」と指摘した。
厚労省は6月2日、社会保障審議会(社保審)介護保険部会(部会長=菊池馨実・早稲田大学理事・法学学術院教授)の第121回会合を都内で開催し、当会から橋本会長が委員として出席した。
厚労省は同日の部会に「地域包括ケアとその体制確保のための医療介護連携、介護予防・健康づくり、認知症ケアについて」と題する資料を提示。その中で医療介護連携に関する論点を挙げ、「医療機関と介護事業者との間で情報共有や顔の見える体制を構築していく必要がある」とした。
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その上で、協力医療機関の設定について「都道府県が行う地域医療構想調整会議の場を活用して、高齢者施設等の協力医療機関としての役割を担う医療機関を調整するなど、適切な方策を検討すべきではないか」と提案し、大筋で了承を得た。
医療機関と介護事業者等との「情報共有」について、橋本会長は次のように述べた。
【橋本康子会長の発言要旨】
医療介護連携について、論点には「医療機関と介護事業者との間で情報共有や顔の見える体制を構築していく必要がある」と記載されている。プラットフォームの整備なども検討されているが、そもそも医療と介護の現場で用いている「言語」が違う点を指摘したい。
例えば、たとえば、ADL評価においては、医療現場ではFIMを用いることが多く、介護施設ではBarthel Indexが使用される。また、急性期医療では看護必要度が評価指標となるなど、同じ「評価」であっても基準が異なっている。現場では手間をかけて評価を記録し、カルテに記載していても、次の施設ではその情報が生かされず、共有されないといった事例が生じている。評価を「言語」と言うならば、その言語が異なるので、それを統一していく必要があるのではないか。
また、病院では電子カルテが導入されているが、介護現場では記録形式が異なっており、互換性がない場合が多い。医療現場では詳細な記録が必要であるとはいえ、連携先である介護施設側では、患者が以前どのような薬を服用していたかさえ分からないような状況も発生している。このような根本的な問題に対し、医療・介護の「言語の統一」や記録の互換性といった観点から、連携の在り方を再考する必要があると考える。時間はかかるかもしれないが、着実に取り組んでいくべき課題である。
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医療・介護間の共通言語を
東憲太郎委員(全国老人保健施設協会会長)は「先ほど橋本委員も言及されたが、この医療と介護の情報共有がなかなか難しい」と切り出し、令和3年度介護報酬改定で新設されたLIFEに言及。「そのLIFEの中にある様々な資料は医療機関で求められているものではないし、医療機関で使っているFIMなどの指標が介護事業者の間で普遍的に使われていない」との認識を示した。
その上で、東委員は「医療と介護の間での共通言語、共通の評価指標というものがない状況で情報共有するのは難しい」と指摘。「これから医療もDX化、介護もDX化を進め、しかも医療と介護のデジタル情報を交換するのであれば、共通指標、共通言語がないとうまくいかないことは誰でもわかると思うので、今後しっかりやっていく必要がある」と述べた。
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KPIやKGIを構築する上でも重要
粟田主一委員(社会福祉法人浴風会認知症介護研究・研修東京センター長)は「先ほど医療と介護の言語の違いの問題を指摘されていたが、これは介護保険部会で以前から言われてきた」と2008年の報告書を紹介。「認知症高齢者の日常生活自立度Ⅰが医学的な認知症の定義と全く矛盾しているので修正したほうがいい」と提案した。
報告書では、「今後は、①医学的に診断された認知症の有病率や医療・介護サービスの実態等の調査、②要介護認定において使用されている『認知症高齢者の日常生活自立度』の見直しを行う必要がある」としている。
野口晴子部会長代理(早稲田大学政治経済学術院教授)は「医療と介護の言語が違うところは本当に問題。医療介護連携では非常に重要なコンテクストがあるにもかかわらず、両分野をまたがるようなKPI、あるいはKGIを決める、指標を決めることが難しくなっている」との認識を示した。
その上で、野口部会長代理は「共通の言語をつくっていく、共通の定義をしていくことがKPIやKGIを構築する上でも非常に重要だと思うので、本日のご指摘は本当に重要」と述べた。
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全施設の連携体制、「実効性のある対策を」
この日の会合では、前回(5月19日)に続いて「2040年に向けたサービス提供体制等のあり方」検討会の中間とりまとめに示されたテーマについて議論した。
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厚労省老健局総務課の江口満課長は説明の冒頭で「前回は検討会の中間とりまとめの2つのテーマについてご議論いただいたが、今回は残り1つのテーマ、『地域包括ケアとその体制確保のための医療介護連携、介護予防・健康づくり、認知症ケア』を中心に、前回のテーマも含めてご議論いただきたい」と述べ、論点を挙げた。
質疑で、伊藤悦郎委員(健康保険組合連合会常務理事)は「医療介護連携における介護保険施設と協力医療機関の連携体制は非常に重要な取り組みと認識しており、その成果を期待している」とした上で、調査結果に言及。「全施設が早期に連携体制が構築されるように実効性のある対策をとっていただきたい。その結果として、経過措置が延長されるようなことにならないように、ご対応いただきたい」と要望した。
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まだ検討を行っていない理由は
令和6年度調査結果によると、要件を満たす協力医療機関を定めていない高齢者施設等の進捗状況について、「まだ検討を行っていない」が31.6%(介護老人福祉施設)、25.0%(介護老人保健施設)、25.0%(介護医療院)、44.1%(養護老人ホーム)だった。
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また、軽費老人ホームは42.3%、特定施設入居者生活介護は34.0%、認知症対応型共同生活介護は54.7%が「まだ検討を行っていない」としている。
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橋本会長は「医師が常駐していない特養や養護老人ホームで『まだ検討を行っていない』という施設が3割から4割というのは驚いた。検討を行えない理由は何か」と尋ねた。厚労省の担当者は「これ以上の深掘りはできていない」と答えた。
【橋本康子会長の発言要旨】
29ページ以降に記載されている高齢者施設等と医療機関の連携体制等に関する調査結果について。特に30ページでは、介護老人福祉施設や養護老人ホームなど、常勤の医師が配置されていない施設において、「まだ検討を行っていない」と回答した割合が3割から4割というのは驚いた。31ページに記載された居宅系サービスでも多い。グループホームでは、「まだ検討を行っていない」と回答した割合が約5割もある。検討を行えない理由は何か。今後、調査する機会があれば実施していただきたい。
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【厚労省担当者の発言要旨】
要件を満たす協力医療機関を定めていない理由ということで、今お示ししている資料の選択肢で聞いているので、これ以上の深掘りはできていない状況である。(追加の調査については)分科会マターではあるが、今年度の改定検証調査の中でも、協力医療機関については対象にすることにしているので、いただいたご意見も踏まえて調査を考えていきたい。
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専門職に期待する役割は大きい
調査によると、要件を満たす協力医療機関を定めていない理由については、「休日・夜間の対応は困難であると提携を断られた」等の提携を試みたが至らなかったケース、「どこに相談すればよいか分からない」といった情報収集段階のケースが課題になっている。
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小林司委員(連合総合政策推進局生活福祉局長)は「どこに相談すればよいか分からないなどの課題が見られる中で、協定の締結が進んでいない理由を1つひとつ取り除いていくことが必要」と指摘。「医療・介護で不安を感じたときに地域で相談できる専門職がいて、適切なサービスと医療・介護の連携につなげてくれる体制が身近にあることが不安解消につながる。地域包括支援センターや介護支援専門員をはじめとする専門職の皆さんに期待する役割は大きい」と述べた。
江澤和彦委員(日本医師会常任理事)は「医療機関において介護施設から協力要請があった場合には、ぜひ医療機関が協力していただきたい旨の情報提供を昨年7月に日本医師会から全国の医師会に発出している」と紹介。「医療機関との連携にお困りの介護施設等があれば、都道府県医師会あるいは地区医師会への相談もしていただきたい」と呼び掛けた。
2025年6月3日