配置基準の緩和には注意が必要 ── 介護保険部会で橋本会長

介護保険制度の改正に向けて「2040年に向けたサービス提供体制等のあり方」をテーマに議論した厚生労働省の会合で、日本慢性期医療協会の橋本康子会長は「配置基準を緩やかにすると、サービスの質が低下したり、スタッフの負担が大きくなったりすることもあるので、配置数を少なくする見直しには注意が必要」と指摘した。
厚労省は4月21日、社会保障審議会(社保審)介護保険部会(部会長=菊池馨実・早稲田大学理事・法学学術院教授)の第119回会合を開催し、当会から橋本会長が委員として出席した。
厚労省は同日の部会に「2040年に向けたサービス提供体制等のあり方」検討会の中間とりまとめを提示。30ページにわたる「中間とりまとめ」の本文を読み上げる形で紹介し、委員の意見を聴いた。
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「中山間・人口減少地域」など3地域に分類
資料説明の冒頭、厚労省の担当者は今後のスケジュールを示した上で、「本日は中間とりまとめ全体について総論的にご議論いただき、次回以降、検討会の3つのテーマ(方向性)に即して、さらに深掘りしたご議論をいただきたい」と述べた。
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委員の多くは、検討会のテーマ(方向性)の(1)~(3)について発言。この日の議論を終え、菊池部会長は「次回以降も引き続き個別に議論していきたい」とまとめた。
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この検討会は今年1月に設置。関係者のヒアリングなど5回の審議を経て4月10日に「中間とりまとめ」を公表した。今後の「方向性」として3項目を挙げ、このうち(1)では、全国を「中山間・人口減少地域」、「大都市部」、「一般市等」──と、主に3つの地域に分類する方針を示している。
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中山間地域は1つにまとめにくい
質疑で、幸本智彦委員(日本商工会議所社会保障専門委員会委員)は「中山間部と大都市部では需要も事業環境も異なるので、地域差に応じた整理は理にかなっている」と評価した。
一方、粟田主一委員(社会福祉法人浴風会認知症介護研究・研修東京センター長)は「(中間とりまとめでは)地域を3つに類型化して説明しており、中山間地域についても大変きめ細かい説明がなされている」としながらも、「中山間地域は1つにまとめにくいところがある。人口規模が数百人程度の離島の支援はまた特別な意味がある」と指摘した。
その上で、粟田委員は「利用者が少なくなったとしても介護サービスが持続できるような制度設計が必要。具体的には、総合事業等と一体的に事業できるような形を検討していく必要がある」と述べた。
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質の確保と人材確保という課題
中山間地域について中間とりまとめでは、「介護人材や専門職の確保が困難な中、常勤・専従要件や夜勤など、様々な配置基準について弾力化していくことが考えられる」としている。また、在宅サービスについて「訪問介護と通所介護等における配置基準等をより弾力化」との方向性も示されている。
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山田淳子委員(全国老人福祉施設協議会副会長)は「常勤専従要件を緩和して、オンラインやオンコールを中心とする会議を認めるなどの早急な議論が必要」と賛同した。
山際淳構成員(民間介護事業推進委員会代表委員)は「中山間地域では看護師などの有資格者の確保ができないこともあり、基準の弾力化等は必要」としながらも、「質の確保と人材確保という大きな課題の観点から見て、こうしたことが民間事業者の努力のみでは難しい」と懸念。「ぜひ国がバックアップして、大きな方向性を示す必要があるだろう」と支援を求めた。
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職員に過度な負担が生じないように
石田路子委員(NPO法人高齢社会をよくする女性の会副理事長)は「弾力化、柔軟化という文言がたくさん使われているのがちょっと気になる」と指摘。「これ以上の削減は難しいというところが絶対的にあると思うので、現場の声を反映した上で、そこはしっかり死守していただきたい」と求めた。
大西秀人委員(高松市長)は「配置基準を緩和した場合には、特に移動にかかる負担が大きい中山間地域における訪問介護において、職員1人ひとりの負担がますます過重になることが予測されており、人材確保が一層難しくなる」と懸念した。
その上で、大西委員は「弾力化を検討するに当たっては、介護報酬体系とあわせて議論し、サービスの質を確保した上で、職員に過度な負担が生じることのないように総合的な検討を行っていただきたい」と要望した。
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インセンティブの付与等を講じる
橋本会長は、基準緩和により「サービスの質が低下したり、スタッフの負担が大きくなったりする」と懸念。「インセンティブの付与」の意味について質問した。
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中間とりまとめでは、「配置基準等の弾力化やこうした取組へのインセンティブの付与等を講じるなど、新たな柔軟化のための枠組みを検討する」との考えを示している。
厚労省の担当者は「インセンティブについて、どのようなことを考えるかは、これからの議論」と答えた。
【橋本康子会長】
3ページから始まっている「人口減少・サービス需要の変化に応じたサービス提供体制の構築や支援体制の方向性」について、地域における人口減少・サービス需要の変化に応じ、全国を「中山間・人口減少地域」、「大都市部」、「一般市等」と主に3つの地域に分類することはいいことだと思うが、問題は分類方法や基準である。特に、基準に注意して分けなければいけない。実態に沿ったものにする必要がある。例えば、「へき地」などと以前から言われているが、実態とそぐわないところがあるので、その点も注意していただきたい。
また、6ページに「配置基準等の弾力化やこうした取組へのインセンティブの付
与等を講じるなど、新たな柔軟化のための枠組みを検討する」との記載がある。これについて、どのようなイメージなのか分からない。具体的に、どういったことがインセンティブになるのかをお伺いしたい。
配置基準などの見直しはいいとしても、緩やかにすると、ただでさえ人が足りないところで、基準がもっと低くなってしまうと、ますますサービスの質が低下したり、スタッフの負担が大きくなったりすることもあるので、配置数を少なくする見直しに関しては注意が必要だと思う。
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【厚労省担当者】
ご質問は、中間とりまとめの本文の6ページの下から2つ目の丸の所の記載について。この中間とりまとめそのものについては、今回、介護保険部会にご報告を申し上げて、これから具体的な議論をしていただくということなので、まさに、このインセンティブについて、どのようなことを考えるかというのは、これからの議論だと思っている。ここで1つ、「配置基準の弾力化」というのを少し明示的にしているが、これ以外の具体的なインセンティブのあり方も含めて、今後、ご議論いただければと考えている。
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人材不足は喫緊の課題
この日の会合では、介護人材の確保をめぐる課題についても多くの意見があった。小林広美委員(日本介護支援専門員協会副会長)は「(中間とりまとめに)記載されているサービス提供体制等のあり方における介護人材は直接援助に関わる職種のことを示しており、ここには介護支援専門員は含まれていない」と指摘。「介護支援専門員の人材不足は喫緊の課題」と対応の必要性を訴えた。
山本則子委員(日本看護協会副会長)は「令和6年度介護報酬改定時に介護職員等処遇改善加算の見直しが行われ、一定の処遇改善効果があった」と評価しながらも、「全産業と比較すると伸び方は低調」と指摘した。
その上で、山本委員は「訪問看護事業所などは処遇改善に関する加算の対象外といった課題が残っている。すべての職種、事業所に効果が行き渡るような対応が必要」と述べた。
橋本会長は介護人材の確保について人材紹介や派遣をめぐる問題点を挙げたほか、訪問系サービスの報酬体系について意見を述べた。橋本会長の発言要旨は以下のとおり。
■ 介護人材の確保等について
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11ページ。介護人材の確保は当然に必要な対応であるが、この議論をする上で、やはり紹介会社や派遣会社を外せないと思う。人材紹介で助かっている面はあるが、一方では、診療報酬・介護報酬から紹介料等が拠出されている。そういう紹介会社に対する手数料が非常に莫大な金額になっている施設もある。
私どもで調べたところ、病院も含めて、年間で平均600万円から800万円ぐらい、多いところでは5,000万円ぐらい人材紹介料や派遣料を支払っている法人もあった。そういう問題も踏まえ、何らかの対策が必要ではないかと思う。
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■ 訪問系サービスの報酬体系について
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8ページ。現在の訪問系サービスの報酬体系について、「回数を単位として評価しているため、利用者の事情による突然のキャンセルや利用者宅間の移動に係る負担が大きい」とした上で、「介護報酬の中でこれに対応できる包括的な評価の仕組みを設けることの検討も一つの検討の方向性として考えられる」と書かれている。
しかし、「包括的な評価」にすると、質が落ちる可能性もある。そのため、包括的な評価にする場合には、アウトカム評価を加えることも検討すべきではないか。サービスを提供したことによって、患者・家族に何らかの効果を与えたとか、患者・家族のためになったかというアウトカムも同時に考える必要があると思う。
2025年4月22日