スタッフの流動化で質の担保を ── 介護保険部会で橋本会長

会長メッセージ 協会の活動等 審議会

20250519_介護保険部会

 介護保険制度の改正に向けて、2040年に向けたサービス提供体制等のあり方をめぐり議論した厚生労働省の会合で、日本慢性期医療協会の橋本康子会長は「医療と施設間、在宅系などでスタッフの行き来を流動的にする方向性を考えてもいい。職員がどの分野でも同等の待遇で働けるようになればサービスの質が担保できるのではないか」と提案した。

 厚生労働省は5月19日、社会保障審議会(社保審)介護保険部会(部会長=菊池馨実・早稲田大学理事・法学学術院教授)の第120回会合を都内で開催し、当会から橋本会長が委員として出席した。

 厚労省は同日の部会に「人口減少・サービス需要の変化に応じたサービス提供体制の構築や支援体制について」と題する資料を提示。その中で、中山間・人口減少地域における対応(配置基準等の弾力化、包括的な評価の仕組み)などの論点を挙げ、委員の意見を聴いた。

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中間とりまとめのテーマを議論

 会議の冒頭、菊池部会長が「前回は(2040年に向けたサービス提供体制等のあり方検討会の)中間とりまとめについて事務局から報告をいただき、各委員の皆さまから全体を通して一通り、ご意見をいただいた。今回は中間とりまとめの3つあるテーマについて、今回と次回の2回にわたって、より具体的にご議論いただきたい」と伝えた。
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01スライド_P1スケジュール

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 続いて、厚労省老健局総務課の江口満課長が「今後のスケジュール(案)等」を提示。「前回の本部会では、中間とりまとめについて総論的なご議論をいただいたが、今回は2つのテーマについて具体的にご議論いただきたい」と述べ、2つの資料について説明した。
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02スライド_P2本部会と検討会の関係

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 今回のテーマは、「人口減少・サービス需要の変化に応じたサービス提供体制の構築や支援体制について」(資料2)、「介護人材確保と職場環境改善・生産性向上、経営支援について」(資料3)──の2項目で、主な論点はP98~100(資料2)、P140~143(資料3)に記載されている。

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配置基準等の弾力化や柔軟化を

 「人口減少・サービス需要の変化に応じたサービス提供体制の構築や支援体制の方向性」の論点では、▼中山間・人口減少地域、▼大都市部、▼一般市等、▼3つの地域の区分、▼支援体制の構築など──の項目が挙げられている。

 このうち、「中山間・人口減少地域」については、「住民の理解のもと、一定のサービスの質の維持を前提として、柔軟な対応を講じていくことが必要」とした上で、「配置基準等の弾力化、包括的な評価の仕組み、訪問・通所などサービス間の連携・柔軟化、市町村事業によるサービス提供など、地域のニーズに応じた柔軟な対応の検討が示されているがどう考えるか」との論点を挙げた。
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03スライド_資料2P98

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 質疑で、鳥潟美夏子委員(全国健康保険協会理事)は「現役世代の保険料負担が限界を迎えている中、2040年を見据え、特に人口減少地域において、より効率的な提供体制を構築していくために、地域の実情に応じて配置基準等の弾力化やサービス間の連携、柔軟化に対応できるようにしていくことが必要」との考えを示した上で、「質を確保しつつ、今より、もう一歩進んで柔軟な取組ができる環境を早急に整えることが重要」と述べた。

 伊藤悦郎委員(健康保険組合連合会常務理事)も同様に「柔軟な対応により、サービス提供体制の維持・確保を図っていくことは大変重要」と賛同した上で、「配置基準等の弾力化は既存の取組の検証等も行いつつ、モデル事業の実施、あるいはサービスの質を担保するための仕組みの設定が必要」と述べた。

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サービスの質が低下するのでは

 これに対し、和田誠委員(認知症の人と家族の会理事) は「包括的な評価や配置基準の弾力化が進む中で、サービスの質が低下するのではないか。また、介護給付費の上昇が直接的に利用者負担の増加につながるのではないか」と懸念した。

 染川朗委員(UAゼンセン日本介護クラフトユニオン会長)は「適切な措置を講じないまま、単に配置基準等の弾力化を進めると、介護職員の負担増加を避けることはできない」と慎重な姿勢を示した。
  
 山本則子委員(日本看護協会副会長)は「医療や介護の複合的なニーズを持つ高齢者の増加が見込まれる中、人員配置基準の弾力化はケアの質や職員の労働負担の観点からも慎重に検討する必要があるのではないか」との考えを示した。

 その上で、山本委員は「業務効率化や職員の負担軽減を図るICT活用などは重要だが、利用者の安全とケアの質に関する十分な評価に基づいて、慎重な検証の上で検討が行われる必要がある」と述べた。

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アウトカムをどのように評価するか

 佐藤主光委員(一橋大学国際・公共政策大学院、大学院経済学研究科教授)は「配置基準の見直しなどについて、中山間・人口減少地域から始めるというのはありだと思う」と評価。「今回の中山間・人口減少地域における取組をモデルケースにして、高齢化の進む一般市、あるいは東京を含む大都市にどのように展開できるかを視野に入れ、今回の取組をパイロットプロジェクトとして位置づけてもいい」との考えを示した。

 その上で、佐藤委員は柔軟化や弾力化に対する懸念に言及。「たびたび指摘されるように、配置基準の見直し、あるいはICT化の導入などに伴ってサービスの質が低下すると言われるが、サービスの質はどのように測っているのか」と問題提起した。

 佐藤委員は「医療も介護も、サービスの質と言いながら、実際には人員やストラクチャー、規模などで見てしまっているが、本来はアウトカムで見るのが質であり、アウトカムに基づいた評価、アウトカムに基づいた介護報酬という制度設計にしないと、現場の取組がきちんと生かされない」とし、「アウトカムをどのように評価するかについても真摯な議論が必要」と述べた。

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ケアの質は研究されていない

 質の評価については、他の委員からも発言があった。石田路子委員(NPO法人高齢社会をよくする女性の会副理事長)は「職場環境改善や生産性向上の本来の目的は実質的なケアの質の向上だ」と述べ、中間とりまとめの記載に異論を唱えた。
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04スライド_中間とりまとめの概要

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 石田委員は「(中間とりまとめの概要では)『生産性向上による業務効率化等で得た時間で職員への投資を図り、質の向上や介護人材定着を促す』と書いてあるが、『ケアの質の向上を目指し、生産性向上による業務効率化で得た時間で職員への投資を図る』という形にすべき」と指摘。「ケアの質が一番大事なことなので、ここをしっかり掘り下げていく必要がある。実際にケアを受けている側の評価、身体的な状況の変化などを精査して、アウトカムをカウントしなければいけない」と述べた。

 粟田主一委員(社会福祉法人浴風会認知症介護研究・研修東京センター長)は「これまでケアの質とは何か、ケアの質をどのようなアウトカムで評価するかについては、きちんと体系的に研究されてこなかったのではないか。要介護認定率を下げるかについては研究されているが、我が国ではケアの質という観点であまり研究されていない」との認識を示し、「そういうことをこれから本格的にやっていく必要がある」と述べた。

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地域全体の視点から、どこに人材が必要か

 橋本会長は「ストラクチャーの観点から人員の配置が質の担保につながっている側面がある」とした上で、「地域全体の視点から、どこに人材が必要とされているのかを見極め、人員を資源としてとらえたインフラ整備の在り方も検討すべき」との考えを示した。

この日の議論を終え、最後に菊池部会長が発言。橋本会長の提案も踏まえ、今国会に提出された医療法等改正法案も踏まえた検討を事務局に求めた。

【橋本康子会長の発言要旨】
 先ほどの佐藤委員のご発言と重なる部分もあるが、いくつかの点について述べたい。まず、配置基準の弾力化に関する論点であるが、質の低下をいかに防ぐかという問題がある。現在は、ストラクチャーの観点から、人員の配置が質の担保につながっている側面がある。
 しかし、さらに一歩踏み込み、弾力化をどのように実現するか、あるいは質をどのように確保・維持するかといった観点から考えると、やはり医療・介護の双方において、一定数の人員は不可欠であると考える。
 そのような状況を踏まえたうえで、医療と施設間と、さらに言えば在宅系との間で、スタッフの行き来を流動的にする方向性を考えてもいいのではないかと考える。
 いずれにしても、将来的に人材は減少していくことが見込まれるため、その点も考慮する必要がある。
 時間の都合上、詳細は割愛するが、諸外国では病院と在宅系との間で人員の行き来が比較的活発であるという例も見受けられる。例えば、リハビリスタッフ、介護スタッフ、看護職、医師、ケアマネジャーなどが該当する。
 現在は病院に人材が集まりがちであるが、そうした人材がより流動的に働ける仕組みを今後、考えていく必要もあるのではないか。
 地域全体の視点から、どこに人材が必要とされているのかを見極め、人員を「資源」としてとらえたインフラ整備の在り方も検討すべきである。
 また、現行制度では医療保険と介護保険の間で賃金に差があるが、同一職種に対しては同一賃金を実現する方向で検討いただきたい。そのような制度設計により、職員がどの分野でも同等の待遇で働けるようになれば、サービスの質が担保できるのではないか。

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【菊池馨実部会長の発言要旨】
 本日、さまざまな貴重なご意見を皆さまからいただいたので、これらも踏まえて引き続き議論をさせていただきたいと思う。議題の「その他」については、本日は特段予定しているものはない。今日の議論で、私もさまざま参考になった中で、橋本委員から、医療も含めた人材配置の弾力化という話があり、東委員からも、医療・介護・障害を通じた既存の社会資源の活用という話があった。 
 今日の議論に直接関係はないが、今、医療法等改正法案が国会に出ており、その中では、地域医療構想を大幅に見直すということで、今までの病床規制など、病床だけではなく、入院・外来、在宅医療、そして、介護の連携も含む将来の医療提供体制全体の構想にするんだという方向性が出されている。ただ、こちらのわれわれの部会で、それについて報告があったかもしれないが、意見交換のようなこともなかった。昨日、年金法案が出て、医療法の法案の帰趨もどうなるかというところだとは思う。できれば、どこかの段階で、この医療法の改正法案は大変重要なものだと思うし、遅かれ速かれ通さなければいけない法案だと思うので、介護との連携を含むということであれば、何らかの形で意見交換などの機会を設けてもいいのではないかという私の問題意識は事務局を通じて医政局に伝えていただくことにした。一応、ボールを投げさせていただいたので、また、すぐというわけにいかないかもしれないが、何らかの機会があればと思っている。これは私の個人からのご報告ということでさせていただいた。では、本日の審議はここまでとさせていただく。

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