介護職の処遇格差の是正を ── 5月22日の定例会見で橋本会長

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橋本康子会長_記者会見20250522

 日本慢性期医療協会は5月22日の定例記者会見で、「介護職の処遇格差の是正を ~医療・介護の壁を超えた同一労働同一賃金化~」と題して見解を示した。橋本康子会長は、就業場所による介護職の処遇の違いなどを説明した上で、制度ではなく職種に着目した評価の必要性を強調。「介護の力を公平に評価する仕組みを」と訴えた。

 会見で橋本会長は、「就業場所に依存しない公平な処遇改善」を目的に挙げ、医療・介護の制度の壁を取り払った横断的評価を通じて、要介護者の減少や寝たきり高齢者の防止につながるとの考え方を示した。

 橋本会長は、介護職の業務や就業場所、指示命令系統の違いなどを説明した上で、「同じ資格で同じ業務を担っているにもかかわらず、制度の違いにより処遇に差が生じている」と疑問を呈し、2021年に提出された四病院団体協議会の要望書にも言及。病院介護職への処遇改善が長年の課題であり、見直しに向けた検討の必要性を強調。「寝たきりをつくらないためにも病院介護職は必須のチームメンバー。制度や場所でなく、介護の力を公平に評価する仕組みが必要」と述べた。

 会見要旨は以下のとおり。なお、資料は日本慢性期医療協会のホームページをご覧いただきたい。

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本日の内容について

[矢野諭副会長]
 定刻となったので、日本慢性期医療協会5月の定例記者会見を開始する。橋本会長、よろしくお願い申し上げる。

[橋本康子会長]
 本日の記者会見では、「介護職の処遇格差の是正を」というテーマで、「医療・介護の壁を超えた同一労働同一賃金化」について提言したい。
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 目的は、就業場所に依存しない公平な処遇改善である。この点については、後ほど改めて詳述する。

 加えて、医療・介護の制度の壁を取り払った横断的な評価をしていただきたい(プロセス)。

 その結果、要介護者を減少させて寝たきりの防止につなげたい(アウトカム)。

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医療における介護職の重要性

 直接的な介護を担う「看護補助者」は、病院における「介護職」として重要な役割を果たしており、令和6年度診療報酬改定においてもその意義が適切に評価された。
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 具体的には、看護補助体制充実加算1の施設基準において、「3年以上の看護補助者としての勤務経験を有する看護補助者が5割以上配置されていること」、「主として直接患者に対し療養生活上の世話を行う看護補助者の数が、常時100対1以上であること」といった要件、さらに「当該看護補助者は、介護福祉士の資格を有する者、又は看護補助者として3年以上の勤務経験を有し、適切な研修を修了した看護補助者であること」と明記された。診療報酬の施設基準に「介護福祉士の資格を有する者」という文言が盛り込まれたことは画期的なことであり、私たちとしても大いに歓迎すべき改定であった。

 もっとも、「3年以上の看護補助者としての勤務経験を有する看護補助者」との表現にはやや違和感を覚える。せっかく「介護福祉士の資格」という文言が明記されたのであるから、当該要件の中にも「介護福祉士の資格を有する者」という表現を明示すべきであったのではないか。

 では、看護補助者はどのような業務を担っているか。主な業務は「直接介護」と「間接介護」に大別される。まず「直接介護」には、食事介助、口腔ケア、洗髪、洗面、整容、排泄介助、清拭、更衣、おむつ交換、体位交換などが含まれる。

 その中で特に重要なのが、シャワー入浴介助である。週に3回の入浴やシャワー浴、あるいは機械浴の対応においては、主に介護職員、すなわち介護福祉士や介護者がその役割を担っている。こうした業務をすべて看護師が行っていると一般には思われがちであるが、実際には看護師の業務負担は大きく、その多くの介護業務は介護職が担っている。「間接介護」としては、シーツ交換や病室の環境整備などが含まれ、これらも看護補助者の業務の一部である。

 医療現場において、看護師のみならず介護職の存在が不可欠であるという認識が改めて広がったのが、コロナ禍における経験である。コロナ禍では、ECMOの運用やICU・CCUを有する超急性期・高度急性期病院においても、高齢患者の入院が相次いだ。その際、コロナウイルス感染症への医学的治療だけでは不十分であり、同時に質の高いケアが強く求められた。こうした状況の中で、看護師の人員だけでは対応が困難であり、介護職の支援が極めて重要であるという認識が急性期病院の現場からも寄せられた。

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就業場所の偏り

 令和6年度の診療報酬改定において、介護職の重要性が初めて明確に評価されたとはいえ、介護職の大半は介護施設に就業しており、このことが病院における介護人材(看護補助者)の確保を困難にしている。
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 スライド左側に示した介護福祉士の就業場所を見ると、最も多いのは「入居・入所、生活施設」(50.5%)であり、特別養護老人ホームや介護老人保健施設、有料老人ホームなどが該当する。次いで多いのが「居宅・相談支援等の事業所」(28.1%)である。これらを合計すると、およそ8割の介護福祉士がこれらの施設・事業所に従事している。一方で、「医療施設」に就業する介護福祉士は全体のわずか7.4%にとどまり、1割にも満たない。

 スライド右側には、病院における100床当たりの看護補助者数の推移を平成14年から令和5年まで示している。このうち、薄い緑色の部分が看護業務補助者、いわゆるケアワーカーを示し、青色の部分が国家資格を有する介護福祉士である。このデータによれば、平成26年には病院の100床当たりの看護補助者数は15.2人であったが、令和5年には3人減少し、12.5人となっている。

 また、介護福祉士の人数については、約4万3千人から約3万8千人へと約5千人減少している。さらに、ケアワーカーについては、約19万7千人から約14万3千人へと5万4千人の減となっている。この結果、平成26年から令和5年までの期間で、病院で従事する介護職全体で約6万人の減少が見られ、病院における介護人材の減少が顕著となっている。

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就業場所による違い ── 位置付け

 同じ「介護福祉士」の資格を有する者であっても、医療機関と介護施設では指示命令系統や実施可能な行為が異なる。
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 日本看護協会が示したガイドラインでは、看護職と看護補助者・介護職との関係がこのように示されている。スライド左側に示した「医療機関」では、「看護チーム」という構成のもと、看護補助者は看護師や准看護師の指示・指導のもとで業務を遂行している。

 これに対して、右側の介護施設においては、介護職の人数が多く、介護福祉士やケアワーカーといった職員が看護職と連携を図りながら、より対等な関係で業務を担っている。

 その業務内容には、一定の条件下で介護福祉士が実施できる特定行為が含まれる。具体的には、口腔内・鼻腔内・気管カニューレ内部の喀痰吸引、胃ろうまたは腸ろうによる経管栄養、経鼻経管栄養などが該当する。

 介護施設では、入所者100人に対して看護職が2人ないし3人程度と限られており、看護師による吸引などの対応が困難な状況がある。このような場合、介護福祉士が資格研修を受けたうえで吸引を行い、同様に経管栄養についても介護職が対応している。当然ながら、介護施設には介護福祉士の人数が相対的に多く配置されている。

 医療機関と介護施設の最も大きな違いは、指示命令系統にある。医療機関においては、看護師が看護補助者に対して指導・指示を行うといった明確な上下関係が存在する。

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就業場所による違い ── 処遇改善

 介護職の処遇改善、すなわち給与水準については、就業場所によって大きく異なっている。介護施設で勤務する「介護職」に対する処遇改善は年々拡充されているのに対し、医療機関に勤務する「看護補助者」に対する取り組みは、ようやく始まった段階である。
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 平成20年から令和6年までの賃金の推移を確認すると、処遇改善により介護職の給与は着実に上昇しているものの、依然として全産業平均との間には顕著な開きが存在する。具体的には、全産業平均が38万6千円であるのに対し、介護職の給与は約8万円低く、その差は縮まっていない。現在、処遇改善の対象は介護保険関連の施設や事業所に限定されており、病院に勤務する介護職員には、介護施設におけるような処遇改善加算が適用されていない。

 令和6年の診療報酬改定においては、病院で勤務する看護補助者、いわゆるケアワーカーに対しても処遇改善が初めて導入された。その額は月額6,000円である。病院と介護施設との間で処遇に著しい差異が存在することへの批判の声が高まり、これを受けて令和6年2月から5月にかけて、看護補助者の処遇改善事業が実施された。これにより、1人当たり月額平均6,000円の賃金引上げに相当する額が支給され、令和6年6月から「ベースアップ評価料」が導入された。

 とはいえ、病院に勤務するケアワーカーへの取り組みは始まったばかりである。また、介護保険分野の介護職員の給与水準はすでに大幅に引き上げられてきたにもかかわらず、全産業平均には依然として到達しておらず、格差は依然として残っている。

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就業場所による違い ── 給与格差

 次に、就業場所による給与格差について述べる。令和6年における介護職員の平均給与は31万3,400円であるのに対し、病院に勤務するケアワーカー、すなわち看護助手の平均給与は約27万円である。
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 看護助手には処遇改善加算が適用されていないため、病院側が自助努力によって補填している。介護職員と看護助手の給与差が約4万円あるものの、これは病院側による最大限の補填の結果であると考えられる。病院が補填を行わざるを得ない理由として、特に慢性期医療を担う病院においては、同一のグループ法人内に病院と介護施設の双方を有するケースが多いためである。

 例えば、A病院に勤務している職員が、同一法人内のB施設に異動するような人事配置はこれまでにも存在した。しかしながら、給与水準が異なるために、配置転換が難しくなっているのが実情である。すなわち、介護施設の給与のほうが高く、病院勤務では給与が下がるという状況では、病院への異動を希望する者が現れにくい。

 確かに、介護施設における介護職への処遇改善加算は一定程度の効果が認められ、感謝すべき制度ではある。しかし、同時に病院との格差にも配慮が必要である。格差が拡大することにより、病院側が給与補填に要する負担が増大し、病院経営に影響を及ぼしている。当グループ法人では、病院と介護施設とで月額8万円程度の差が生じており、極めて厳しい状況にある。

 そのため、医療と介護の両施設を有する法人では、格差拡大を回避するため、あえて処遇改善加算を算定しないという選択を取る事例も見受けられる。せっかく制度として設けられた処遇改善加算が実際には運用されないという現象が発生している。

 厚労省の調査によれば、介護職員等処遇改善加算を算定しない理由として最も多いのが「職種・事業所間の賃金バランス」である。制度が設けられても活用しないという選択肢が現実として存在しており、これは大きな課題である。

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同一職種(労働)同一賃金を

 同一の業務内容や資格を有していても、所属する制度によって処遇に格差が生じている。今後は「制度」を超えて、「職種」に着目した制度設計が求められる。
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 これまで説明したように、介護職が担っている業務は、病院と介護施設の間で大きな差異はないと考えられる。食事介助、入浴介助、排泄介助などの直接介護や、清掃などの間接介護に至るまで、介護職は病院でも介護施設でも同様の業務を担っている。すなわち、両者は同一職種であり、業務内容も概ね一致している。

 今後、高齢者の増加に伴い、介護を必要とする者が増加することが見込まれる中で、ケアを担う職員の重要性はますます高まっている。特に夜勤業務の存在を踏まえると、その重要性はさらに増す。

 しかし、現状においては同一職種間における給与格差、さらには同一法人内における給与格差が存在する。また、指示命令系統にも相違がある。介護福祉士という国家資格を取得するために努力を重ねたにもかかわらず、病院においてはその資格を十分に活かすことができず、下働きのような作業に終始するような扱いを受ける場合もあり、これが介護職の病院での就業を妨げる要因となっている。

 こうした状況の中で、病院では介護職の確保が困難な状況となり、看護職が介護業務を代行している。例えば、60人の患者を抱える病棟では、6人に1人の割合で介護職員を配置する必要があるとされており、本来であれば10人の介護職員が必要である。しかし、実際には募集しても5人しか集まらないことがあり、その不足分を看護職によって補っている。現在、多くの病院では看護職の増員によって対応している。これは決して例外的なケースではなく、広く見られる傾向であろう。厳しい病院経営をさらに圧迫するため、重要な問題となっている。

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介護職の処遇格差の是正を

 寝たきりをつくらないためにも、病院におけるチームには介護職は必須である。制度の枠組みや勤務場所の違いに左右されることなく、介護職の力を公平に評価する仕組みが求められる。
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 介護職に対する処遇改善加算の創設は大いに感謝すべき施策であった。しかし、病院と介護施設の間、すなわち医療系と介護系との間に顕著な格差が生じてしまった。この格差を是正しなければ制度全体の円滑な運用は困難である。

 本日、私が述べた内容は、処遇改善加算が始まって以降、既に多くの病院団体が繰り返し提起してきた課題である。2021年11月に、日本病院会・全日本病院協会・日本医療法人協会・日本精神科病院協会の四病院団体協議会が厚生労働大臣宛に「病院に勤務する看護補助者(介護職)の処遇改善について」という要望書を提出している。

病院に勤務する看護補助者(介護職)の処遇改善について(要望)
 (前略)病院においては、看護職からの指示の下、食事、清拭、排せつ、入浴、移動等の療養生活上の世話などについて、看護補助者(介護職)がその役割の多くを担っております。これらは、介護保険施設において介護職員が行う業務と変わりのない業務でありながら、現状では、介護職への処遇改善は介護報酬により行われており、病院で働いている看護補助者(介護職)に対する処遇改善に係る仕組みはありません。 
 病院が地域医療を提供していく上で、看護補助者(介護職)は必要不可欠な職種です。しかしながら、現状では多くの病院が、看護補助者(介護職)の確保に大変苦慮しております。医療現場の看護補助者 (介護職)の給与が上がる仕組みを構築していくためにも、介護保険施設の介護職と同様の交付金、もしくは診療報酬により看護補助者の処遇を改善する対応が不可欠です。
 つきましては、公的価格の抜本的見直しにおいて、病院に勤務する看護補助者(介護職)の処遇改善についても対応されることを強く要望いたします。

 4年前、2022年度の診療報酬改定を控えた時期であった。この要望書においても、看護補助者、すなわち病院における介護職の処遇が不十分であるとの問題提起がなされていた。病院内で不公平感が生じていること、そして介護職が病院で安定的に働くためには処遇の是正が不可欠であるとの認識が共有されていた。

 同じ業務を担っていながら、給与水準が低い職場には人が集まらない。この状況は2021年当時からすでに明らかであり、現在も依然として病院には介護職が集まりにくい状況が続いている。今後の政策においては、病院における介護職の確保と処遇改善の両立に向けた具体的な対応が強く求められる。
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慢性期医療の質に影響を及ぼす課題

[矢野諭副会長]
矢野諭副会長_記者会見20250522 慢性期医療の現場においては、現在、極めて深刻な問題が顕在化している。同一の国家資格を有していても、就業場所によって処遇が異なるという不公平が存在し、これは制度上の問題にとどまらず、慢性期医療の質そのものにも影響を及ぼす根本的な課題である。

 介護職における処遇格差については、これまでも継続的に指摘されてきたが、今回、日本慢性期医療協会としてこの問題に対し積極的に取り組む方針を明確にしたものである。
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