「期中改定も視野に入れて」── 池端副会長、中医協総会で

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2025年4月23日の総会

 令和8年度診療報酬改定に向けて「医療機関を取り巻く状況」をテーマに議論した厚生労働省の会合で、日本慢性期医療協会の池端幸副会長は「期中改定も視野に入れて、と言いたいぐらいのところに来ている」と厳しい経営状況を訴え、入院基本料の大幅なアップや施設基準の緩和などを求めた。

 厚労省は4月23日、中央社会保険医療協議会(中医協、会長=小塩隆士・一橋大学経済研究所特任教授)総会の第607回会合を都内で開催し、当会から池端副会長が診療側委員として出席した。

 前回9日の総会で合意した検討スケジュールを踏まえ、厚労省は同日の総会に「医療機関を取り巻く状況について」と題する資料を提示。医療機関の収支や費用の動向を分析したデータを紹介した上で3項目の「課題」を挙げ、委員の意見を聴いた。
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01スライド_課題

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純粋な形で診療報酬の引き上げを

 質疑で、診療側の長島公之委員(日本医師会常任理事)は、「診療報酬は公定価格であり、コストの上昇を価格に転嫁できないこと、そして物価・賃金の上昇を踏まえれば、これまでのような、さらにコストを費やすことを前提とした形ではなく、純粋な形で診療報酬を引き上げなければならない状況にある」と主張。経営を圧迫している要因として、人材紹介料や医療DXに関する導入費用の上昇などを挙げた。

 その上で、長島委員は「課題」の3点目について、「事務局として考えていることがあれば、まずは教えてほしい」と質問した。厚労省保険局保険医療企画調査室の米田隆史室長は「現時点で考えているものとしては、例えば医療機関の利益率について、今回は『全体』として示したが、それを機能別、規模別、診療科別などで分析をすることを考えているほか、委託費をはじめとした人件費以外で、医療機関の経営の影響が大きい費目の分析も考えたい」と答えた。

 池端副会長は「現場は極めて厳しい状況に置かれており、令和8年度改定まで待てるのかという不安が広がっている」と早急な対応の必要性を訴えた。

 この日の会合では、診療側・支払側の双方から多くの発言があった。議論を踏まえ、小塩会長は「複数の委員からご要望があったが、より精緻なデータの提供、それから今回、報告があった以外の分析についての要望があった。また、できるだけアップデートされた数字で議論すべきとの要望も重要なポイントではないか」とまとめた。

【池端幸彦副会長の発言要旨】
 病院団体の代表として、長島委員および太田委員のご発言に全く同意するものであるが、若干の追加意見を述べる。
 まず、今回の医療機関を取り巻く状況について、事務局が非常に詳細かつ精緻な資料を準備されたことに対し、深く感謝申し上げる。
 太田委員からも言及があったように、6病院団体で実施した調査結果とほぼ同様の傾向が確認できた。また、私自身、病院団体による令和6年度緊急調査に加え、県医師会の立場から県内全ての病院を対象に調査を行った結果、状況がさらに悪化していることを確認している。
 県内約60病院の医業利益率について、前年度後半期(令和5年度)と今年度(令和6年度)の同時期を比較したところ、経常利益率はマイナス5.5%からマイナス7.6%へ、また経常収支率もマイナス2.1%からマイナス5.0%へと悪化しており、ほぼ倍増に近い悪化傾向が見られる。加えて、公的・公立病院は1病院を除き、すべて大幅な赤字決算に陥っているとの報告を受けている。
 このような厳しい状況の背景には、事務局の分析にもあった通り、人件費の高騰が大きく影響している。特に地方においては、職員数の増加に加え、年齢上昇に伴う給与水準の上昇が経営を圧迫している。公的・公立病院は人事院勧告に基づき人件費を引き上げているが、民間病院はその引き上げが困難であり、それにもかかわらず赤字が続いている。さらに、2年連続で赤字決算を計上すると融資が受けられなくなるため、無理をしてなんとか黒字を維持している病院も多いのが現状である。
 昨日も、いくつかの病院から陳情を受けたが、ゼロゼロ融資がWAMで出た場合、それに頼らざるを得ず、次回の賞与が支払えない状況に直面している。これらは地域にとって極めて重要な病院なのだが、そのような状況にある。私自身、かつて経験したことのないほど深刻である。この肌感覚と今回のデータは概ね一致しており、何らかの手を早急に打たなければならないと強く感じている。
 もっとも、これは診療報酬の改定だけでは対応しきれない課題であり、適正化事業の補助金なども措置されているが、全国で約5万床が申請している状況では、その全てに対応するのは困難である。福井県でも、手を挙げたが実施できない病院が存在しており、つなぎ融資を検討しても病床を担保にできず、融資が実現しないという深刻な問題に直面している。これほど厳しい状況下にあり、期中改定も視野に入れて、と言いたいぐらいのところに来ている。
 では、具体的にどう対応すべきか。財政的な制約があることは十分承知している。今回0.88%の改定率だが、うち0.61%はベースアップ評価料として、人件費に対する配慮が一定程度なされたものの、追いついていない。加えて、この評価料は経営原資に充てられない費用であるため、今回はプラス改定といっても、病院の経営としては使えないお金ばかりになってしまった。
 したがって、これまでの小手先の対応では限界があり、病院団体が常に求めているように、入院基本料の大幅なベースアップが不可欠である。それが困難であれば、施設基準の緩和を検討すべきである。例えば、人員配置基準などの緩和により効率的な医療提供を図る一方で、アウトカム評価をしっかり行い、一定の水準を満たすことを条件に柔軟な運用を認めるといった施策が考えられる。
 また、ICTや医療DXの推進による効率化も期待されているが、これらのメンテナンス費用が十分に補助されておらず、自己資金で賄わざるを得ない状況が続いている。これが、じわじわとボディーブローのように効いて経営を圧迫する要因となっており、補助金があるものの不十分であるというデータも示されている。
 このように、現場は極めて厳しい状況に置かれており、令和8年度改定まで待てるのかという不安が広がっている。現場の声としては、一刻も早く何らかの対策が求められている。このような現状をお伝えし、今後の議論において、1号側・2号側・公益側を含めた関係者全員でしっかりと議論を重ね、具体的な解決策を模索していただきたい。以上、現場の実情をお伝えした。

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