医師の宿直体制の見直しについて意見 ── 規制改革WGで橋本会長

「地域における病院機能の維持に資する医師の宿直体制の見直し」をテーマに議論した政府の会議で、日本慢性期医療協会の橋本康子会長は医師不足に悩む地域に配慮する必要性を認めながらも、「看取りを担う病院であれば医師がいなくても対応できるケースもあるという一面だけを見て制度設計をしてしまうと、重度化が進む現場の実態と乖離する恐れがある」と慎重な検討を求めた。
内閣府は3月31日、規制改革推進会議「健康・医療・介護ワーキング・グループ」(WG、座長=佐藤主光・一橋大学経済学研究科教授)の第3回会合を開き、医師の宿直体制の見直しについて関係者のヒアリングを踏まえて議論した。
ヒアリングでは、医療法人谷田会理事長・院長 谷田理一郎氏がICT等を活用した対応策を提案したほか、橋本会長らが意見を述べた。
議論を終え、佐藤座長がまとめの発言。「最後は現場の判断。慢性期病院にもいろいろな病院があるので、宿直医の置き方を選択をする病院もあってよい」と述べた。
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医師の宿直義務の例外について
この日の会合には、厚生労働省医政局から森真弘審議官が出席。「医師の宿直について」と題する資料を示し、これまでの経緯や平成29年改正後の例外規定などについて説明した。
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改正前の例外規定について森審議官は「宿直医師について同一敷地内に居住しているという要件のみが求められていて、実際に夜間・休日に速やかに診療を行える体制になっているかどうかが定かでなかった」と説明。医療法16条の「厚生労働省令で定める場合」に関する規則や、「隣接した場所に待機する場合」について具体化した通知の規定などを紹介した。
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参考資料の説明はなかったが、その中で医師偏在対策などを盛り込んだ「2040年頃に向けた医療提供体制の総合的な改革」が挙げられている。
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病院の特性に応じて選択できるように
質疑で、高山義浩専門委員(沖縄県立中部病院)は「私も慢性期病院で当直をしたことがあるが、地域ごとの違いだけではなく、1つの地域においても慢性期病院は多種多様」と指摘。「夜間の院外からの救急搬送を受け入れるような慢性期病院もあったが、一方で、人生の最終段階を穏やかに過ごしていただくことに力を入れている病院もあった」と伝えた。
高山専門委員は「急変しても搬送しないという合意、いわゆるDNARを前提として受け入れている病院も少なくない」とし、「慢性期病院よりも、その近くにある特別養護老人ホームのほうが急変と搬送件数が多いという地域もある。ところが、その慢性期病院には医師が常駐していなければいけない。これがバランスとしてどうなのかという議論が必要だ」との認識を示した。
その上で、高山専門委員は橋本会長の意見に言及。「オンラインや兼務を認めたとしても、なし崩しに多くの病院が選択するということはなく、半数程度が兼務について検討されうるという回答だったとすれば、さらに実際に選択されるのは1割にもならないのではないか。それぞれの病院の特性に応じて、その病院がプロフェッショナルとして判断するからだろう」と指摘。「平成30年通知で示されている例外規定をさらに明確にして、選択しやすいように進めてほしい」と述べた。
高山専門委員の発言を受け、佐藤座長が「今のところ兼務は認められていないという理解でいいか。ここがポイントだと思うが、いかがだろうか」と見解を求めた。森審議官は次のように述べた。
【森真弘審議官の発言要旨】
今のところ、先ほど説明した通知においては兼務を想定したものにはなっていない。ただ、先ほど谷田先生、橋本会長、それから高山先生がおっしゃったように、この点について、より合理的なオプションがあるのではないかという必要性については、基本的にそんなに大きな異論がない部分なのではないかと考えている。
これから人口も急激に減って患者数も限られてくる。それから、医師の働き方も改革しなければならない中で、医師の数も限られているというところで、より合理的な方法を模索するのは当然のオプションだと認識している。ただ、必要なことは、どこまでが許容範囲であるかという許容性についての合意を形成していかなければならないと考えている。
実は先ほど、お三方から説明いただいた点について、許容性の部分はちょっとずつずれているところがある。そういう点について、1つひとつ確認しながらやっていかなければならないと考えている。例えば、患者さんの状態像がどういうケースであればいいのか。当然、急性期で状態像が夜間に急変するような方が多くいる医療機関では、こうしたことはなかなか難しいわけだが、一方で、状態像がある程度落ち着いている方で、どこまでが可能なのか。高山先生がおっしゃったように、搬送しないという同意を要件としているような病院も当然ある。そういうところが1つの前提になるのかどうかも含めて、状態像とか、病院の機能をどういうふうに考えるか。
それから、距離感。急変時に駆けつけられるとして、どのぐらいのタイミングで駆けつけなければならないのか。急性期における挿管等の対応を考えると、一定の時間内で駆けつけられることが必要になってくる。
また、認めていくために、あまり細かく決めていかないとしても、自由度を高めれば高めるほど、今度は医療機関側の説明責任なり立証責任の範囲が大きくなってくる。このように、どこまでを求めていくのかを含めて考えていかなければいけない論点だと考えている。
もう1つは責任体制。例えば、A病院とB病院を兼ねて対応したときに、今日の担当医がB病院の医師であった場合、A病院との雇用関係はなくていいのかどうかという問題がある。そこについても、もう少し、よく整理をしなければならないと考えている。
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現場の実情を踏まえた検討を
桜井なおみ専門委員(全国がん患者団体連合会理事)は「東京では当たり前のことが地方では限界を超えている部分が多々あるのではないか。地域医療が崩壊しているのが現状」と指摘。「ぜひ地方の目線で前向きに考え、これからの取り組みを進めていただきたい」と述べた。
杉本純子委員(日本大学法学部教授)は「例外規定を認める判断は都道府県にあるので、都道府県ごとに判断が変わってくるローカルルールの可能性が出てきてしまう」と懸念。「今後、判断に関する条件を検討していただく際には、都道府県の判断に迷いが生じない程度の基準を明確に出していただきたい」と求めた。
佐藤座長は「細かすぎると現場の実態に合わないし、抽象的だとローカルルールがはびこる」と見解を求めた。森審議官は「基本的には、ある程度は都道府県が判断できる余地が必要で、例えば距離感など、医師の状況は地方によって異なる」と説明。「山間地域が多い県と平野部の県で全く同じ判断ができるかと言われれば、それを国に判断させるほうが難しいので、そういう余地は残させていただきたい」と述べた。
こうした議論を踏まえ、橋本会長が発言。高齢者救急に対応する慢性期病院の役割などを説明した上で、「現場の実情を十分に踏まえて検討していただきたい」と述べた。
【橋本康子会長の発言要旨】
先ほどからの議論にあるように、確かに地方では医師が不足している。ACPなどを通じた看取り体制が整っており、必ずしも常時医師が常駐していなくてもよい病院が存在することも事実であろう。
一方で、慢性期医療においては、患者の重度化が著しく進行している現状がある。病状が重い患者が慢性期の医療機関に数多く入院しているのが現実である。「看取りが中心だろう」との意見もあるが、実際には家族や本人の意向として、ただ看取られるのではなく、治療を望まれるケースが多い。実際、慢性期医療の病院においても、7〜8割、あるいはそれ以上の患者が治療目的で入院してきている状況である。したがって、こうした点も十分に踏まえて議論を進める必要がある。
また、地域包括ケア病棟を有する病院も含め、慢性期医療機関に対して「慢性期救急を担ってほしい」との要望がある。急性期病院の救急部門では、高齢者の救急搬送が急増しており、言い方は悪いが、本当に急を要する患者への対応が後手に回ってしまう事態が生じている。そのため、慢性期医療機関としては、肺炎や尿路感染症などの治療可能な疾患については積極的に受け入れるべきという方向性があり、私自身もその必要性を強く感じている。そうなると、「当直医がいない病院でもよいのか」という議論と、「慢性期救急を担うべきか」という議論が交錯することになる。つまり、「日本慢性期医療協会として、どちらの立場を取るのか」という問いに直面することになるが、病院である限り急変にも対応できる24時間医師常駐が求められると考える。その上で、一部地域や離島等、条件付きで例外規定の議論をすべきだと考える。
「看取りを担う病院であれば常時医師がいなくても対応できる」といった一面だけを見て制度設計をしてしまうと、高齢化および重度化が進む現場の実態と乖離する恐れがある。地方においても同様の課題が存在するため、制度設計にあたっては、こうした現場の実情を十分に踏まえて検討していただきたいと強く感じている。
2025年4月1日