病床区分等、「金科玉条のごとく守る方針か」 ── 武久名誉会長、医療・介護の総合会議で

今後の医療・介護体制をめぐる議論があった厚生労働省の会合で、日本慢性期医療協会の武久洋三名誉会長は「都市部と地方の格差が非常に大きくなっている」と指摘した上で、現行の病床区分や医療圏について「金科玉条のごとく絶対に守る方針なのか」と見解を求めた。厚労省の担当者は「構想区域の見直しを含め、新たな地域医療構想の策定に取り組んでいく」と述べた。
厚労省は3月3日、医療介護総合確保促進会議(座長=田中滋・埼玉県立大学理事長)の第21回会合を開き、当会から武久名誉会長が構成員として出席した。
厚労省は同日の会合に地域医療介護総合確保基金の執行状況や医療法等の一部を改正する法律案などを報告。委員からは基金の効果検証を求める意見のほか、都市部と地方の格差是正、人材確保に向けた施策の必要性などを指摘する声があった。
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地域の実情に合った弾力的な活用を
質疑の冒頭、井上隆構成員(日本経済団体連合会専務理事)は「都道府県ごとの執行状況はよく理解できた」と評価しながらも、「重要なのは、具体的な取組状況、あるいは事後評価」と指摘。「残念ながら、事後評価の中には十分な実績、アウトカムが見られていない例も散見される」と苦言を呈し、「今後は原因分析も含めて効果の検証を行っていただき、事業の改善につなげていただきたい」と求めた。
その上で、井上構成員は「EBPMアクションプラン2024」に盛り込まれた「効率的な医療・介護サービスの提供体制の構築(地域医療構想、医師の偏在是正等)」に言及。「基金の事業についても、アクションプランで提示されている具体的なアウトカム指標、検証事項、分析・検証方法などと整合性を取った形で検証を行っていただき、事業の改善や予算の有効活用につなげていただきたい」と要請した。
続いて大西秀人構成員(高松市長)も「基金の十分な活用ができていないところも散見される」と指摘。「要因分析等により、必要かつ十分な措置ができるようにお願いしたい。予算を確実に確保していただき、地域の実情に合ったような形で基金を弾力的に活用できるよう、ご配慮いただきたい」と求めた。
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都道府県によって、ばらつきがある
基金の執行状況について、医療分・全体(平成26~令和4年度)の交付総額は7,739億円で、執行総額5,909億円。執行率は76.4%だった。
山本則子構成員(日本看護協会副会長)は「過年度積立分も含めて有効に活用いただけるように」と求めた上で、「都道府県によるばらつきがある」と指摘。「都道府県と国との連携が必要」とし、人材確保に向けた活用の必要性を強調した。
山本構成員は「看護学生の修学資金の充実を図ったり返還免除の要件を拡大したりする県の取り組みもある。その他、自治体内の医療・介護施設をコーディネートすることで、地域において施設のニーズに即した看護職の確保が行われている自治体もある」と紹介。「都道府県によって、ばらつきが見られるので、より効果的な事業の推進を図れるよう、各自治体へのご支援をお願いしたい」と述べた。
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財源が弱い自治体で人材不足
介護分についても意見があった。七種秀樹構成員(日本介護支援専門員協会副会長)は「財源が弱い自治体では、やりたいこともやれない現状がある」と訴えた。
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七種構成員は、令和5年度の交付額について「財源が確保できている大きくて強い東京都などは十分、潤沢な基金の活用ができるが、他の地域では1億円にも満たない状況で、30倍以上の差が開いている」と指摘。「財源の弱い地域がしっかり人材確保できるようにならないと、強い都市部に人が流れていってしまって、周辺の県の人材不足が深刻化する」と対応を求めた。
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都道府県に任せず、国一括で
東憲太郎構成員(全国老人保健施設協会会長)は全老健事務局による調査結果(令和6年4月16日)などを提示。介護ロボット・ICT導入支援事業について、「5億円以上は8都道府県に過ぎない」と伝えた。
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また、令和6年度基金(介護分)の内示額について、「都道府県の格差が非常に大きい。特に東京都においては、介護分の全てを介護従事者分に充てているが、大阪府はゼロとなっている」と指摘した。
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東構成員は、「人材が極端に不足している今は施設の整備に金を使うのではなく、従事者に使っていただきたい。国で本格的に介護DXを進めるのであれば、基金における介護ロボット・ICTの導入支援に資金を配分すべき」とした上で、「都道府県に任せるのではなく、国一括で実施することも考えていただきたい」と述べた。
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柔軟な支援をお願いしたい
この日の会合では、新たな地域医療構想に関する意見もあった。厚労省は議題2で医療法等の一部を改正する法律案について報告。地域医療構想の見直しなど、同法案に盛り込む三本柱の概要を説明した。
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角田徹構成員(日本医師会副会長)は「新たな地域医療構想では在宅や外来も対象とし、地域包括ケアシステムとの関連性がさらに強まる。地域に寄り添って医療や介護を担う人材を育成・確保していくことが今後、極めて重要になる」と強調した。
その上で、角田構成員は「地域の准看護師・看護師の養成所は大学等とは違って卒業生が地元の医療機関に就職する率が非常に高くなっているので、養成所への手厚く、かつ柔軟な支援をお願いしたい」と要望。「本来であれば、3分の1を負担する都道府県や行政に対しても、そうした必要な地域に必要な負担をしっかりと求めていきたい」と述べた。
武久名誉会長は基金の活用について地域格差の問題を指摘したほか、地域医療構想の策定に向けて柔軟な対応を求めた。武久名誉会長の発言要旨は以下のとおり。
■ 議題1(地域医療介護総合確保基金等)について
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【武久洋三名誉会長】
2点、質問したい。まず、地域医療介護総合確保基金という名称のとおり、「確保」とは不足している部分を補充することを意味するのか。特別養護老人ホームや介護老人保健施設に関して、都市周辺ではいまだに新設が認められている。一方で、地方では空床が増加している現状がある。例えば、空床が多い場合、それらを統合して確保し直すことも「確保」に含まれるのか。単に補充するための基金ではないと考えるが、空床の問題と地方との関係について、どのようにお考えか、ご見解を伺いたい。
2点目。介護職員の不足が全国的に深刻化しており、特に地方において顕著である。この状況は非常に深刻な問題である。医療分野においても、介護職員の不足が大きな課題となっている。特に急性期医療の現場では、介護職員が不足しているために、看護師が間接的な介護業務を担うことが増え、その結果、短期間の入院であっても要介護者が多発する傾向にある。医療と介護を総合的に確保するという観点から考えると、急性期医療における介護職員の補充対策は極めて重要である。
2024年度の診療報酬改定において、介護職員の夜勤に対する加算が設けられた。医療と介護は密接に重なっており、一体的な対応が求められる。この事業の重要性は極めて高いと考える。以上の2点について、担当者の見解を伺いたい。
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【厚労省老健局高齢者支援課・峰村浩司課長】
1点目について。基金創設当初は、介護ニーズの増加に対応するため、新規施設の設立を支援することが主眼であったと考えられる。しかし、ご指摘のとおり、地域によっては施設に空きが生じ、ニーズが減少している実態もある。
こうした地域ニーズの変化を踏まえ、現在、基金による介護施設整備の事業メニューに新たな選択肢を追加する予定である。これは、国会で審議中の令和7年度予算案に盛り込まれている。具体的には、老朽化した施設の統廃合やダウンサイジングを支援し、地域のニーズに即した施設整備を基金の対象とする。この予算が成立すれば、国としても自治体を通じて周知を図り、こうした施策の支援を進めていく考えである。
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【厚労省医政局地域医療計画課・中田勝己課長】
2点目について。今後の医療と介護に関する重要な課題についての指摘であると認識している。医療と介護の連携を一層強化していくことは極めて重要な課題であると考える。
総論的な回答となるが、次の資料2にもあるとおり、今後の地域医療構想においては、単なる病床の機能分化にとどまらず、介護との連携や人材確保も含めた医療体制の整備を進める方針である。今後、これらの課題を的確に捉え、適切に受け止められるような体制を検討していく考えである。
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■ 議題2(医療法等の一部を改正する法律案)について
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【武久洋三名誉会長】
先ほども述べたとおり、都市部と地方の格差が非常に大きくなっている。過去に各都道府県で3から10程度の地域に分け、一般病床と療養病床の数を決定していたが、この区分がGrenzgebiet(境界領域)を生み、境界線があるために不足が生じている部分が多いと考えられる。
この区分を金科玉条のごとく、絶対に守る方針なのか。むしろ、もう少しフレキシブルに2つの医療圏を統合することで、円滑な運営が可能になるのではないか。現在の区分が都道府県にとって円滑な取り組みの妨げとなっているのではないかと懸念している。
この制度が導入されてから約40年が経過しており、1985年頃から実施されていると記憶している。それ以降、充足している医療圏では病床の新設が一切認められない一方、都市部では病床が不足している状況が続いている。
社会福祉施設も同様の問題を抱えており、人口分布の変化を踏まえると、より柔軟な対応が求められる。特に地方においては、全県下的な調整を可能にするなど、都道府県に選択の余地を与えたほうが、特別養護老人ホームの定員の適正化にも寄与すると考える。
また、医療分野においても過剰な医療機関があるようなので、厚労省としても1床あたり400万円の補助を行い、病床数を抑制する施策が取られている。このような状況を総合的に考慮し、より柔軟な制度運用が可能となる方策はないのか、ご見解を伺いたい。
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【厚労省大臣官房参事官・高宮裕介氏】
圏域の設定に関する質問について回答する。2040年に向けて、新たな地域医療構想の策定に取り組む方針である。2040年を見据えると、現在の構想区域や医療圏の中には、人口が大幅に減少する地域が出てくると予想される。そのため、こうした地域については、区域を広げていただく、一緒にしていただくというようなことも取り組んでいきたい。
一方で、人口が100万人以上の構想区域などにおいては、関係者間の協議が困難であるという指摘も受けている。こうした課題に対応するため、構想区域の見直しを含め、新たな地域医療構想の策定に取り組んでいこうと考えている。
2025年3月4日